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歌へのプレッシャーとコピバン活動の楽しみ

吉田「ちなみに川本さん、ほかの人に自分の曲をカバーされるのって、どう感じてますか? いろんな人が川本さんの曲を歌ってるじゃないですか。最近は中島愛さんが“1/2”をカバーしてて、それもよかったですけど」

中島愛の2022年のシングル“1/2 – from CrosSing”

川本「嬉しい限りです。どれもちゃんと聴いてます! 最近すごい可愛らしい“1/2”のカバーがあって。これ、知ってます? ミンティアさん」

ミンティアの“1/2”のカバー

吉田「いえ、まったく知らないですね。歌ってみた系の動画なんですね」

川本「これ、可愛んですよ〜! ボカロとかYOASOBIみたいな感じのサウンドで、可愛いな〜と思って。しっかりした企画力を感じて、ホントにいいなと思いました。このカバー、売れてほしいな(笑)」

吉田「カバーが売れたり動画の再生回数を稼いだりすれば、ちゃんと印税が入ってくるわけですからね(笑)。

今回はソニー時代の話もしましょうと言われていて、どれぐらい話せるんだろうってさっき控室でも言ってたんですけど、ご自身として当時の作品は好きなわけですよね? いろいろしんどいことが多かったから、こうやってインタビューで話そうとすると、そんなに話が転がらないようにも見えて」

川本「そうですね。ただソニー時代の曲は歌いにくいんですよ」

吉田「歌詞の言葉数が多いし」

川本「そう。自分で歌うのが大変なので人に歌ってほしい(笑)。みなさんが歌ってくれたら、それが一番いいんです」

吉田「若くて元気なときだったら全然歌えたけど、いまはもうちょっと落ち着いた音楽をやりたいってことですかね」

川本「そうですね。ボーカルってギターとかベースより体力を使うと最近思ったんですよ。私、実はコピバンを始めまして。私はギターなんです」

吉田「何のコピーをやってるんですか?」

川本「ユニコーンです」

吉田「おおっ! 昔好きだったのは知ってますけど、ホントに好きなんですね」

川本「はい。めっちゃ楽しいんですけど、ギターを弾くだけってこんなに楽なんだ!って思いました(笑)。

私は、体調が悪くてもギターは弾けるんです。でも歌って、体調が悪いだけで全然歌えなくて大変なんですよね。だから、“1/2”を歌うときはちょっとプレッシャーがあるんです。明日“1/2”を歌わなきゃいけないってときは体調を整えとかなきゃって。

『川本真琴 Vinyl Single Collection』収録曲“1/2”

私、練習も嫌いなんですけど、“1/2”を歌うってマラソンを毎日するとか、そういうのに近いんですよね」

吉田「基礎体力を作っておかなきゃいけないと」

川本「そうそう。最近のアルバムの曲は普通の日常生活をしてれば歌えるんです」

吉田「わざわざマラソンする必要はないと(笑)」

川本「ジムに通わなくていい、みたいな(笑)」

『ひかり』収録曲“universe”のライブ動画

吉田「確かに川本さんの最近のアルバムはどれも自然体ですよね。そんなに練習が嫌いなんですか?」

川本「練習もプレッシャーがあるから嫌なんです」

吉田「コピバンの練習は楽しいんですよね?」

川本「コピーバンドの練習はできるんです」

吉田「コピバンのボーカルは誰がやってるんですか?」

川本「私は大学時代にロック研究会に入ってて、当時もユニコーンのコピーバンドをやってたんですけど、そのときのボーカルの子です」

吉田「川本さんは基本的にバンドが好きなんですよね」

川本「そうです。バンドを組むのがずっと夢でした」

吉田「そういうモチベーションの方がソロでデビューする時点で、いろいろ思うことはあっただろうなって」

川本「私、最初は〈バンドがいいな〜、バンドをやりたい!〉って言ってたんですよ。だけど〈川本はソロのほうがいいと思う〉と当時のディレクターさんが言って」

吉田「そういう大人の意見もわかるんですよね。ソロでもじゅうぶん戦える人だろうというのは」

川本「でも、やっぱバンドやってる人たちが羨ましいですよ」

吉田「それこそユニコーンは結構な揉め方をして解散して、二度と再結成しないぐらいのことを言ってたのが、いまは仲良くやってたりするじゃないですか」

川本「仕事でバンドをやるって大変かもしれませんね。いまはプライベートでバンドを楽しくやって、本業はソロだけどそれはそれでいいかなと」

吉田「ホントにストレスなく活動されてるのが伝わってきますね」

川本「でもプレッシャーはあるんですよ」

吉田「ちゃんと売らなければ、みたいな?」

川本「じゃなくて、歌に対してのプレッシャーがすごいあって、結構悩んでます。ボーカル教室に通えばいいのかな?って思ってるんですけど」

吉田「えっ、いまから!?」

川本「歌に対しては思いがあるというか、真剣さがあるのでプレッシャーが大きいんです。カラオケに行くのも嫌なぐらいなんですよね。いま私の中でそれが大きな問題なんです」

吉田「いま川本さんがボーカル教室に来たら驚きますよ(笑)」

川本「一般の方が行くボーカル教室には行かないですよ(笑)」

吉田「前より歌えなくなってきたとか、そういうのを感じてるんですか?」

川本「やっぱ体力的な問題は大きいですね。私、タバコを吸うので声が出にくいときがあって。タバコのせいじゃないかもしれないんですけど。ボーカルの先生は〈自分で歌が苦手って思っちゃってるから声が出にくいんじゃないか〉と言ってましたね」

吉田「精神的なものだと。ボク、『BAND LIFE』ってベテランのバンドマンのインタビュー集を前に出したんです。未だに元気だなって感じた人の特徴が、日常的にランニングとかをやってることだったんですよね。やっぱ体力作りってデカいんだなって」

※「BAND LIFE―バンドマン20人の音楽人生劇場独白インタビュー集」(2008年)。ダイアモンド☆ユカイ(RED WARRIORS)、サンプラザ中野くん(爆風スランプ)、NAOKI(LAUGHIN’ NOSE)、KERA(有頂天)、大槻ケンヂ(筋肉少女帯)らへのインタビュー集

川本「自信もあるんでしょうね。毎日やってるぞっていう。やっぱ声って自信や気持ちがいちばん反映されやすいと思うんです。でも昨日サニーデイ・サービスのドキュメンタリー映画(『ドキュメント サニーデイ・サービス』)を見て、曽我部(恵一)さんが〈技術とかじゃなくて熱い気持ちがあればそれだけでいいんだ〉と言ってたんです。それで〈そうだな!〉と思って、やる気が戻りました。昨日戻ったんです(笑)」

吉田「川本さん、意外と自信ないんですね」

川本「レコーディングを通して、なかなか思うようにいかなかったときもあったんですよ」

吉田「今回のアルバムのレコーディングで?」

川本「そうです。歌ってみてキーが高すぎて歌えなかったり、何時間も歌ってると声が出なくなっちゃったり。それで〈あ〜!〉って思うことが多くて。それでもどうにかスケジュールの中で終わらせなきゃいけないので、のど飴を舐めて頑張るとか工夫して焦りながらやりました。そういうことが続いたのでアルバム制作が終わったとき〈あ〜、歌って大変だな〜……〉って」

吉田「ソニー時代は、めちゃくちゃ忙しくても歌は大丈夫だったんですか?」

川本「全然大丈夫だったんです。むしろ曲と詞を書くのがもう辛すぎて、大変すぎて。期日を守らなきゃいけなかったので、急いで書かなきゃいけなくて大変なんです。事務的な作業だったら寝ずにやれば済むと思うんですけど、アイデアを何時まで出せっていうのは難しいですよね」

吉田「しかも〈これぐらい売れるものを〉というハードルもあったわけですよね」

川本「そうそう。それが大変すぎて、歌うときは天国みたいな感じでした。やっと歌える〜!みたいな。こんな楽しい仕事なんてない、ぐらいの感じでしたね。曲と詞を作ることより歌うことが簡単すぎて、こんな楽しいことだったらやり続けたいなって」