『Four Doves』の奥にあるもの
――今回の『Four Doves』はCURTISSにとって初の全国流通盤ですよね。それがNiw!から出ることになった経緯を教えてください。
DAIKI「もともとはCURTISSに来た話ではなかったんですが、レーベルオーナーの山口さんからTwitterのDMにご連絡をいただいたんです」
――それまでNiw!に対してはどんなイメージを持っていましたか?
DAIKI「正直に話すと、日本のレーベルやシーンのことはあまり知らなくて、そのときに初めてNiw!の名前を聞いたんです。でも所属しているバンドを見たら、FRONTIER BACKYARDやQUATTROがいるレーベルなんだっていうのを知って。個人的には、メジャーのレーベルに対する欲求はなくて、それよりも自分たちがどこまでできるのかってチャレンジの部分を徹底して追求していくバンドがCURTISSだと思うので。そういう意味では、Niw!と出会ってからの期間は長くはないんですが、Niw!だったら自分たちのやりたいことができそうかなと感じています」
――レーベルと出会ったのはいつ頃の話ですか?
DAIKI「まだ1年経ってないですね。それで『Four Doves』を今年の2月頃から作りはじめました」
――制作にはどれくらいかかったんですか?
DAIKI「レコーディング自体は4日間ほどでしたね」
――アルバムは全体的に細かいアレンジが施されていて、録りやミックスは少し大変なのかと思ったんですが。
DAIKI「ミックスは、以前から個人的に知ってたイバラキさんというエンジニアの方にお願いして。ミックスに関しても案外時間はかからなかったですね」
――アルバム・タイトルの『Four Doves』、これにはどんな意味が?
DAIKI「実は〈Doves〉ってドラッグの名前なんですけど、なぜそんな物騒な名前にしたかと言うと、自分のルーツにあるマッドチェスターと呼ばれるシーンの影響が大きいんです。ハッピー・マンデーズ然りストーン・ローゼズ然り。あの時代、ほかの音楽はすごく暗かったけどそれを明るくしたのがマッドチェスターの音楽で。見た目は暗いけど根は明るいぞって意味もあります。それと〈Dove〉は鳩だから、4人の音を鳩に見立てて〈Four Doves〉でいろんな所に飛んで行くイメージも込めました」
――それでちょっと謎が解けたというか、アルバムの1曲目の“With White Thing”を聴く前に、最初に歌詞だけを読んだんです。そしたら孤独感だったり、〈ここではないどこかへ飛んでいきたい〉というような逃避的なフィーリングを感じたんですけど、実際に曲を聴いたらそこまで閉じた印象はなくて、むしろ力強くてポジティヴなエネルギーに溢れていた。それっていまの話に通じるものがあるなって。
DAIKI「そうですね、まさにそういうことです」
――アレンジ面でも“With White Thing”はヴァースごとに緻密なアレンジが施されつつ、でもどっしりした〈歌〉が中心にあるからスケール感が大きくて。実際アレンジは時間がかかったんじゃないですか?
DAIKI「でもこのアレンジは最初のデモ段階からあまり手を加えてないかも」
YO-HEY「初期段階からほぼああいうアレンジで、作業が進むにつれてちょっとふわっとした質感にはなったのかな」
DAIKI「もともとは歌を入れずにオケだけを作っていって、その上に歌を乗せました。作業時間的には丸1日ぐらいでしたね」
――そんなに早かったんですね! 試行錯誤や紆余曲折を経て、たっぷり時間をかけて完成させたものとばかり思っていたので驚きました。続く2曲目の“You Told Me About These Days”はネオアコ感が強い楽曲ですよね。
DAIKI「確かにこの曲はネオアコから影響を受けていますね。いまの音楽を聴いてる若い人たちにとって、ネオアコって一番トップには来ないジャンルだと思うんです。J-PopやJ-Rockを聴いてる人たちには〈ネオアコって何?〉って状況だと思うけど、少しでも〈こういう音楽もあるんだよ〉ということを伝えられたら。“You Told Me About These Days”に関しては本当に自分の趣味で作ったような曲です」
――なんとなくワイルド・ナッシングスっぽい雰囲気も感じました。
DAIKI「確かに、ワイルド・ナッシングスはけっこう好きで、影響を受けているかもしれないですね」
――ドラムのリヴァーブがすごく80年代っぽい音で。
DAIKI「あれはミックスの際に、80sの音楽でよく使われるゲート・リヴァーブっていうエフェクトを使いました。イメージ通りで大正解でしたね」
――ちょっとスミス時代のジョニー・マーっぽいイントロのギターフレーズも素敵で。これもデモを作った段階である程度固まっていたんですか?
YO-HEY「これって2人で作ったんちゃう?」
DAIKI「途中で変わって、後から俺が作り直したフレーズをみんなに送ったんだ」
Tomoya「最初はもっと静かな感じだったよね」
――ちなみにTomoyaさんからアイデアを提案することもあるんですか?
Tomoya「ちょこちょこ考える部分はあるけど……やっぱりデモの段階ですごく完成度が高いので、それを超えるような自信があるとき以外はしないですね」
――“With White Thing”然り、デモ段階での完成度が高いんですね。次の“Sugarcane”は、ソングライティングの骨格がしっかりしているというか、弾き語りでもハマりそうな雰囲気で。また歌詞の話なのですが、“With White Thing”や“Sugarcane”を含めて、アルバム全体で歌詞のテーマに通底するものを感じました。
DAIKI「そうなんです。歌詞は英詞なんですが、僕はそれほど英語をしゃべれないので帰国子女のTomoyaと一緒に何時間も考えて。テーマとしては、矛盾を含んでいる表現だけど〈垢抜けない明るさ〉というか。明るく生きようとしてるけど、突き抜けきれないものだったり、切なさがテーマにありますね」
――おふたりは詞を作る際にストーリーテラー的な視点で作るのか、もしくは自分の感情や思想のようなものを込めて作るのか、簡単に二分するのは難しいですが、大まかに分けるとしたらどちらのタイプですか?
Tomoya「曲に拠るよね。“Sugarcane”に関しては曲に対するDAIKIのイメージが固まっていて、〈Sugarcane〉ってサトウキビなんですけど、サトウキビ畑で……みたいなイメージがあって、僕もそれを想像しながら作っていくんです。そうじゃなくて〈好きに書いてみなよ〉っていうケースもあるので、その場合は僕が書いて。それに関してはストーリーテラー的な作り方ではないですね」
――作詞のクレジットは、Tomoyaさん単独の場合とDAIKIさんとの連名のクレジットで使い分けられていますが、その使い分けってどういう基準なんですか?
DAIKI「単純にTomoyaに〈この曲の歌詞全部書いてみて〉って頼む場合と……」
Tomoya「翻訳としてやるかイチから作詞するかって違いですね」
――イチから作詞する場合はDAIKIさんからイメージをヒアリングして作るんですか?
Tomoya「そうですね。でもイメージを聞かずに自分の感覚で書くケースもあります」
――細かい話なんですが、コミュニケーションの部分で具体的にどんなやりとりをしているのかに興味があって。
Tomoya「わりと自由度高いよね」
DAIKI「ざっくりですね。例えば“You Told Me About These Days”は、僕がまず日本語で書いて、そこに当てはめるように書いてみてってお願いしたり」
Tomoya「そのあたりも含めて実験段階なんですよね」
――Tomoyaさんに質問なんですが、ドイツ文学がお好きということで。作家で言うとどのあたりですか?
Tomoya「確かにドイツ文学は好きですね。ヘルマン・ヘッセから入って、トーマス・マンを読んで…というふうに。まぁ、人並みに」
――それは作詞に反映されていたり……。
Tomoya「まったく活かせてないですね(笑)。そこがこれからの課題かもしれない」
――でもバンド内で作詞のチームを組んでいるのはユニークですよね。今後もいろんな可能性がありそうで楽しみです。次の“Burning Desire”は、打ち込みから生音にシフトしてきたCURTISSにとっては一番シンセ・ポップっぽいという部分で、作った時期は古かったりするのでしょうか?
DAIKI「実はアルバムのなかでは一番新しい曲なんです」
YO-HEY「レコーディングしながら作ってたぐらい新しい曲です」
DAIKI「“Burning Desire”はすぐに完成したんです。頭の中にテーマがあって、1975だったり少し前に流行ってたような軽快なギターリフを採り入れつつ、北欧っぽさをシンセで加えて。これが一番最近の曲ですね」
――具体的なイメージがあったからこそ早かったと。そしてラスト・ナンバーが“Lonely Number”。歌詞の話ばかりで申し訳ないんですが、この曲だけ歌詞のトーンが少し違ったのでどうしてもその理由を訊きたくて。これまでの歌詞がわりと逃避的なスタンスを取っていたのに対して、“Lonely Number”では現実に立ち向かおうとしている姿が垣間見えました。
Tomoya「“Lonely Number”はレコーディングのときに途中で歌詞を変えたんです。それまで普通に就職してたんですけど、その頃ちょうど僕が仕事を辞めたタイミングで、すごくフラストレーションが溜まっていた時期で」
DAIKI「それってあの2行のことでしょ?」
Tomoya「そうそう。あの2行にすべて込めた(笑)」
――どこのラインですか?
Tomoya「〈When I talk about my dream/I tread on everything〉ってとこです。もともと〈Lonely〉っていう言葉の響きがすごく好きだったんですが、DAIKIから〈“Lonely Number”って曲名だよ〉って聴いたときに〈書けるな〉って思って、勢いで書き上げました」
――なるほど。“Lonely Number”をアルバムの最後に持ってきた意図はありますか?
DAIKI「CURTISSの音楽にはいろんなジャンルの要素が入ってるから、聴いた人は口の中でいろんな味がしてワケがわからなくなると思うんです。そんななかで最後に“Lonely Number”を持ってきた意図というのは、収録曲のなかで一番バンド・サウンドをメインにした曲でもあるので、自分たちが次にやろうとしてることの伏線っていう意味もある……っていうのは実はいま作りました(笑)」
――(笑)。僕の個人的な感想なんですが、自分がいまいる場所から逃げ出したいという想いが詰まった“With White Thing”に始まり、同じようなエモーションや世界観を貫きながらアルバムは進んで行くけど、最後に希望のようなものが垣間見えて、ミニ・アルバムではあるけどストーリー性をすごく感じたんです。
DAIKI「ありがとうございます。それ使わせてもらいます(笑)」
Tomoya「そういうふうに、聴いた人が自由に解釈してくれるのはすごく嬉しいですね」
――自分たちとして今回の『Four Doves』の手応えはどんな感じですか?
YO-HEY「いい意味で次に繋がりそうな仕上がりになってるし、最高じゃないですか?」
一同:(うなずく)
――バンドのなかでは次のモードやテーマは具体的に見えているんですか?
DAIKI「『Four Doves』が色とりどりの世界だとしたら、次は一色だけの世界になりそうかな。自分のなかにはそんなイメージがありますね」
――リリース・パーティーが10月5日(月)に渋谷のMilkywayで開催されることが決まっていますね。音源での細やかなアレンジがライヴではどう再現されるのか楽しみです。
DAIKI「同期を入れてやるものもあれば、あえて削って生でやる部分もあるので、ライヴならではのアプローチを楽しんでもらえると思います」
――〈CURTISSは東京のバンド〉って言われたら違和感はありますか?
DAIKI「いやいや、そんなことないです。ずっと東京なんで」
――では〈東京のインディー・シーン〉っていう言い方したときにどんなイメージがありますか?
DAIKI「不満はないし素晴らしいと思うけど、別に興味はないかな」
――シンパシーを感じるアーティストもいない?
DAIKI「あまり影響を受けるような存在はいないですね」
――じゃあいまの東京のインディー・シーンと距離を感じてますか?
DAIKI「そうですね。ちなみにNiw!でレーベルメイトのYOUR ROMANCEとは同じ発売日でミニ・アルバム(『BUSINESS』)がリリースされるんですが、レーベルの人たちからは〈仲良くしてね!〉って(笑)」
――そこはぜひ仲良くしていただいて(笑)。いままで自主企画のライヴなんかでつるんでたようなバンドもいないんですか?
DAIKI「今度のリリパにも出てくれるDATSかな。彼らが動き出した頃から一緒にライヴやったりしてましたね。あとハグレヤギか」
SHOZO「友達がいないですからね(笑)」
DAIKI「友達募集中です(笑)!」
〈CURTISS 『Four Doves』 RELEASE PARTY〉
日時/会場:10月5日(月) 東京・渋谷Milkyway
開場/開演:18:30/19:00
出演:
【LIVE】CURTISS、She Her Her Hers、DATS、Black Shower(オープニング・アクト)
【DJ】TOMMY(BOY)
チケット代:前売 2,000円/当日 2,500円(ドリンク代別)
チケット
■プレイガイド
0570-084-003 (Lコード: 73512)
イープラス http://eplus.jp
■Web / メール予約
jpn.curtiss@gmail.com / Milkyway web予約
INFO: Milkyway http://www.shibuyamilkyway.com/