単なるハワイのムード音楽だったら僕が作る必要ないから、できるだけ距離は遠ざけたいなと
――新作はこの4年のうちに高橋さんを魅了したハワイが大きなインスピレーションとなっているそうですね。高橋さんがVIDEOTAPEMUSICやbeipanaの音楽に感じたフレッシュさと、ハワイに感じたフレッシュさは通じているのでしょうか?
「そうだね、近いと思う。人気No.1の観光地としても最高だけど、色黒のタレントが好きな賑やかなところより、本国アメリカへのノスタルジーとオールド・ハワイアンが溶け合ってるところにいちばんグッときた。レンタカー借りていろいろ回ってたんだけど、ラジオのチャンネルからはジャック・ジョンソンとかいまのハワイアンやアコースティックな音楽とオールドタイミーなカントリーやフォークが一緒に流れてて、そういうのを聴きながら中古盤のレコード屋に行ったりアンティーク・ショップを回ったり。そうしたハワイでレイドバックしてる感覚とビデオくん(VIDEOTAPEMUSIC)やDorian、beipanaくんに感じているもの。その3つがハイ・ラマズの『Hawaii』で繋がった、みたいな」
――ハワイのバブリーな面じゃなくて、洗練されすぎてないローファイなところに魅かれたというのは、高橋さんのインディー・ポップ感にも通じる気がします。歴史に残らずとも、高橋さんのレコード棚には残るインディーの7インチって絶対あるし。
「ハハハ(笑)。音楽やおもちゃとか全部が同軸だね。アメリカの大学でやってるフリーマーケットとかで手に入る古着やガラクタも。すべて同じ感覚」
――それはHAMSTER TOYS(HALFBYが以前運営していたレコードやおもちゃのウェブショップ)を見ててもわかりました。
「ハワイの中に小振りのアメリカを感じたのが大きいと思う。アメリカ本土に行ったことはないんだけど(笑)、ハワイには自分のなかにある淡いアメリカへの憧れが詰まってた。タイトル考えてた時に、ジム・ジミニーの『Welcome To Hawaii』が最初に思い浮かんだから、そもそもインディー・ポップ感もあったんだと思う」
――高橋さんの理想のアメリカがハワイに凝縮されてた?
「そうそう」
――そもそもどうしてハワイに行こうと思ったんですか?
「海外行きたいなと思って偶然選んだだけ。それが、両親の写真が先なのかJxJx(YOUR SONG IS GOOD)が先なのか(HALFBYブログ参照)、なんとなくハワイに気持ちが入った瞬間があった。でもノスタルジックさやエキゾチックなものを求めて行ったわけじゃなく、むしろドバイに行くみたいな感覚で(笑)。開けた観光地で気分を解放されたいって気持ちもだいぶあった」
――分かれ目ではあったんでしょうね。ドバイに行ってたらまた違うアルバムになってたんだろうなと。
「ハハハ(笑)。たぶんドバイだと500%EDMみたいなアルバムになってたはず。ハワイにもリゾートを求めて行ったけど、結局自分の趣味思考で楽しんだし。いわゆるハワイ好きの日本人ってハワイに来てわざわざ美味い和食ダイナーとか行くでしょ? ああいう感覚はほんとなくて、ローカルであればローカルであるほど良いと思ってたから〈曙みたいなロコがやってるハンバーガー・ショップ最高!〉とかそういう感覚。結果的にはそれが良かったんだと思う」
――やっぱり高橋さんっぽいですね。どこの馬の骨ともわからないインディー・バンドの7インチに惹かれて買う感覚だと思います。
「レコードもめっちゃ買ったよ。ハワイじゃ有名なカントリー・バンドとか、おばあちゃんがハワイ語で歌ってるやつとか。高価なレコードより現地感の強いアイテムをアンティーク・ショップなんかで買って喜んでた」
――ハワイで買ったレコードの温度感みたいなものが『innn HAWAII』にも落とし込まれてるんですか?
「少しはね。でも、ハワイ、ハワイしてないというか、単なるハワイのムード音楽だったら僕が作る必要ないから、できるだけ距離は遠ざけたいなと。だからこそ『innn HAWAII』みたいな直球的なタイトルがいいかなとも思った。砂原(良徳)さんの『THE SOUND OF 70's』というアルバムが大好きなんだけど、パンナム※のノヴェルティ・アルバムというコンセプトながら、ただのラウンジ的な機内音楽では収まらず、サウンドの核となるところは『CROSSOVER』(95年)やリミックス・ワークから時系列で繋がっているという〈砂原節〉みたいな部分に強く影響された」
※20世紀を代表するアメリカの航空会社。91年に消滅するも、優れたデザインが今なお人気を博している
――ふむ。
「だから〈アルバム1枚すべてハワイにするぞ〉みたいな確信もなかった」
――自分も今回の作品を聴いて砂原さんの『TAKE OFF & LANDING』と『THE SOUND OF 70's』を思い浮かべました。最近だとエマーソン北村さんの『遠近に』にすごく近い気がしましたね。それらの系譜に並ぶ、上品で気が利いている、語弊があるかもしれないけど日本人ならではのラウンジ・ビーツ・アルバムだと思いました。
「それは嬉しいけど僕のは偽物だから恐縮するなー(笑)」
――そのうえで僕が感じた高橋さんらしいなという大きな要素として、やっぱりイギリスの音楽らしさもあるんですよね。バレアリックなムードというか。
「ああー」
――例えば3曲目の“Birdsong”はプライマル・スクリームのシングルに収録されてた“Screamadelica”に近いと思ったんです。
「なるほど。90年代のヒップホップの12インチの裏面に入ってそうなハウス・リミックスや、あの頃のマンチェ〜インディー・ダンス〜レイヴ前夜の雰囲気はいつも好みとしてある。バレアリックだったりエクスペリメンタルだったりというあの温度感……絶妙に盛り上がらないところが好きで、DJではオリジナルよりも使うことが多かった。意識はしてなかったけど“Birdsong”は似た雰囲気を狙ったのかも。曲順的にはリードっぽい3曲目だけど、期待感は膨らみつつ存在感は薄い、みたいな曲にしたかった」
――うんうん。
「リアルタイムで聴いてきた90年代のイギリス感は、『The Island of Curiosity』(2010年)でやりたくもやり切ってなかったところがあって。メジャー・アルバム(『Side Farmers』)の後でとにかく忙しかったから(笑)。今回そこを丁寧にフィードバックしたようなところもあるかな」
――高橋さんがプールサイドをDJでよくかけてたのはその頃でしたっけ?
「そうそう。『The Island of Curiosity』の頃にタンラインズっていたでしょ? あのアルバムは、その頃彼らをリリースしていたヤング・タークスというレーベルにすごく影響を受けてた。ああいうインディーとダンス・ミュージックがクロスオーヴァーする90年代に似た感じは後にチルウェイヴとしても発展したと思うけど、あの頃はそういうのをしっかり聴くこともできずに、うろ覚えで影響を受けてた(笑)」
――ただタンラインズやプールサイドはディスコ~ハウスだと思うんですけど、今回はやっぱりブレイクビーツならではのいなたさがありますよね。“Pearl Harbor”あたりもテリー・ファーリーのリミックスのなにかみたいなだと思いました。
「ハハハ(笑)。そうかなー? ハワイでは実際にアリゾナ記念館にも行った。日本人は僕たちだけだったけどね。そこで沈没した戦艦アリゾナも見たんだけど、暗く濁った海の記憶がいつの間にか初期ラフ・トレードからリリースしてそうなニューウェイヴ〜ネオアコの冷んやりしたイメージになって(笑)。“Pearl Harbor”はそれを元にトラックを作って、後からエレピを足すとあんな感じになった」
―――なるほど。そのあたりの音楽の低い温度感だったんですね。
「そう言えば“Birdsong”は作ってて〈森野(義貴/Handsomeboy Technique)っぽいかな?〉と一瞬思った」
――へえ! その森野さんっぽさとは?
「あの人、60年代のブリティッシュ・プログレみたいなのをいっぱいサンプリングしてるでしょ? なんか〈貴族制とゴージャスな雰囲気とブレイクビーツ?〉という感じ。本人は真逆だけど」
――セカンド・サマー・オブ・ラヴの頃のインディー・バンドのリミックス以外に、ナイトメアズ・オン・ワックスやプライマル・スクリームの『Echo Dek』あたりのUKダブと並べても気持ち良く聴けると感じました。
「それは嬉しいな。でもその感じはメジャーのファースト・シングル“Screw The Plan”(2006年)のセルフ・リミックスを作った時から狙いとしてあったな。リミックス名をシャーラタンズをリリースしてたレーベル(デッド・デッド・グッド)から取ってdEAD deAD HALF gOOD REMIXにしてたし」