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いつもおもしろいレコードはいっぱいあるんだね。ネヴァー・エンディング・ストーリーだ。音楽はベスト・レリジョンだね

――話は戻るけど、〈Japanese Only〉というフレーズは、よく日本語のウェブサイトとかで使われてるけど、これって実は和製英語で、直訳すると〈日本人以外お断り〉というあんまり良くない意味で、ちょっと前にもサッカーの試合の横断幕に使われて問題になったよね。

「そうそう、そういうジョークもあったけど(笑)。日本で歩いてると、たまにそういうサインがあって。〈ジャパニーズ・オンリー……何だこれ?〉って。誰か活動家の人(有道出人)がそういうタイトルの本も書いてたし。〈日本の人種差別〉みたいな。それは曲を書いてるうちは全然関係なかったけど。でもタイトルがおもしろいかな。そういうダブル・ミーニングっていうか、誰かが〈彼は韓国人だ! 日本人を嫌ってる!〉みたいになったりしたら、〈自分のイメージを利用できたぞ!〉って(笑)」

――日本にいて、そういう違和感を感じることってある?

「まあしょうがないよね。歴史についてもいろいろ読んだことあるけど、韓国と日本のそういう問題はすごい昔からあって、簡単には済まないんじゃない? いままですごい嫌いだったんだから。〈ウォー(戦争)、フォーエヴァー!〉って。韓国ではそういう反日教育があるのかもしれないけど、アメリカではあんまり。大学の時に韓国人と初めて会って、そういう話を聞かされたな。でも(〈Japanese Only〉は)そういうジョークで、ダブル・ミーニングというか、このアルバムでそういう最低な歌詞をたくさん書いたと思う、英語で。でも歌詞はやっぱり……例えばジム・オルークとか、そういう人もたくさんいるし、70年代にはストーリーテラーって言うの? ルパート・ホルムズもそうだよね。どの曲も全部スクリーンプレイみたいっていうか。彼はもうちょっとピュアだし、そこまで最低じゃないけど。ああいうポジションから曲を書くことで、伝えられることもあるよね。音楽は表現であって、演説ではないから」

ルパート・ホルムズの79年作『Partners In Crime』収録曲“Escape (The Pina Colada Song)”。いまの彼女に飽き飽きした男が、新聞の個人投書欄で知り合った女性に会おうとしたら、相手はなんと自分の恋人だった……という歌詞

――自分の歌詞についてはどう?

「歌詞はいつもおもしろくて、笑っちゃうから書いてるし、楽しんで作りたいね。ファースト・アルバムの時はもっとピュアな人間だったからシンガー・ソングライターみたいな歌詞だったけど、今回はいろんなキャラクターを出していて。“Alice”って曲はアリスというMな女の子のキャラクターが出てきて、Sの彼氏と付き合って、毎日〈Sがほしいー、エスケープしたくないー、Mだからー〉っていう話(笑)。そういうキャラクターをいっぱい作って楽しかったけど。いつかまたノンフィクションもいいね。まあ今回も結構そうだけど。フィールド・レコーディングとか、自分の周りの音を使ったり。(録音を担当した)PADOKや健さんとかもいるし、結構ドキュメンタリーだね。ベーシック・トラックは誰かがいるとやっぱり違うし、いろんな人と全部関係がある。でも最後にひとりになって、パニックになった時もあったけど、ひとりが一番いいかな。誰もいないし、それが一番楽しかった。自分を見つけるっていうか。ああいう感じだね、ひとりで部屋にいて、灯りのないなかで、いろいろなドアを探すっていう。ミステリーがないと楽しくないから」

PADOKの2014年作『Roadside House』収録曲“エビの兄弟”。ツチヤニボンドでベースを弾く渡部牧人のソロ・プロジェクト

――前に「東京のインディー・ミュージシャンはライフスタイルを気にしすぎているから、もっと音(ノーツ)に集中するべきだ」みたいなことを言ってたけど、それは『ノーツ』というタイトルとも関係してるの?

「ハハハ(笑)! わかんないけど、東京インディーってなんかそういうイメージがあるね。〈トップ・オブ・ザ・ポップス!〉っていうか。まあそういう話は全部他の人から聞いてる(笑)。僕は全然(自分から)チェックしない」

――じゃあダニエルの周りの人たちが全部悪いってことで(笑)。

「みんなジェラスだから(笑)。でもそういう(方向に)破壊したいんだったら、好きなアルバムを聴いてびっくりして、もっとがんばろうと思う、そのほうがヘルシーだと思う。やっぱりミュージシャンはエゴイズムがすごい強いし。昔はNASAみたいな感じで、スタジオとかを使って〈もっとサウンドを実験的に!〉みたいなブームがあったよね。70年代はハイテクノロジーっていうか、(当時のエピソードも)本当に映画みたいだし、〈俺がプロデューサーだ、黙れ!〉みたいな人もいた。いまはアーティストが好きでも、誰がプロデュースしたとか、エンジニアのことなんてみんな興味ないよね。はっぴいえんども細野だけじゃないし、同じ彼の(書いた)曲でも、細野が自分で録音すると別のアルバムになるでしょ? チームワークっていうか、それがおもしろいけど、いまは誰でもひとりでできるわけだし、ちゃんと自分でトライしないと勉強にならないから。パーティーじゃなくて、そっちのほうがおもしろいんじゃないの? でもミュージシャンはしょうがないね。ショウビジネスだし、セックス・シンボルとか。まあそういう人も好きだけど(笑)」

――クイーンやスパークスもそういう要素もあるよね。

「でも〈クイーン〉じゃなかったら違うでしょ? 〈キング〉だったらさ(笑)。ハーフネルソンもね。名前も関係あるけど、全部を含めてそういうものだからおもしろい」

※スパークスの活動初期の名義。72年の2作目『Sparks』の時に改名した

――そういう諸々を含めて『ノーツ』だと。

「まあ『ノーツ』は〈こういう音楽が好き〉っていう作品だね。誰かがこのアルバムを聴いて〈懐かしいメロディー〉みたいに書いてたけど、昔とか(ノスタルジー)は関係ないんじゃない? ジョン・ケージじゃないけど、〈エヴリシング・イズ・ミュージック〉っていうか、そういう雰囲気がないと音楽を作りたくないかな」

――ちなみに最近はどういう音楽が好きなの?

「それはいつも探してるし、好きなアーティストがインタヴューで挙げてたらチェックしたりしてるね。フランク・ザッパもそういうアーティストだし、『Freak Out!』のジャケットにもすごくいっぱい名前が書いてあるよね。レコード・ショップで興味があったら聴いてみるし、いつも偶然だね。でも誰かに紹介されると、ほとんど聴きたくないかな(笑)。自分で見つけるのが一番ナチュラルだから。でもどっちでもいい。たまに紹介されて〈わー、すごい!〉ってこともあるし。最近オフィサー!(Officer!)っていうバンドを見つけて、すごく良かった。確かディス・ヒートのスタジオでレコーディングしてて、それで興味があって。それから日本のバンドで、キリング・タイムって知ってる? ちょっとプログレっぽい雰囲気がおもしろくて買った」

オフィサー!の84年作『Ossification』収録曲“Anagrams”。アルバムは2014年にリイシューされた

キリング・タイムの87年作『Skip』収録曲“Skip”

――『ノーツ』の最後の曲(“Yours Truly,”)では岡田くんがペダル・スティールを弾いてるね。

「それは何分ぐらいかかったかわからないけど、彼がすぐに録音してくれて。まあ全部で30分ぐらいかな。2テイク録音してくれたんだけど、それがすごく長くて、10分ぐらいあったなかから、少しだけ取って(笑)。でもそれが最後に来るのが一番いいかなと思って」

――個人的にはサント&ジョニーの“Sleep Walk”って曲を思い出したんだけど。歌詞のせいもあって、お葬式っぽいっていうか、この人死んじゃったんじゃないかなって(笑)。

「確かに、このアルバムで何回死んでるんだろう(笑)。ずっと昏睡状態なんじゃない? たぶんメロディーは……エミット・ローズの“Lullaby”って曲覚えてる? ソロ・ギターにフェイザーが掛かってて、あの曲もフェイドアウトするけど、昔聴いて〈この人死ぬの? 幽霊?〉と思って、それがインスピレーションになってるかも。歌詞は結構ホラーな雰囲気が作りたかったけど。なんか普通に〈ヘーイ、ガール〉っていう50年代みたいなクリシェで、〈ハート・フォー・ユー〉って歌ってるんだけど、本当に心臓を差し出してるっていう(笑)。本当は1曲前の“Holy Smokes!”でフィニッシュだけど、最後の曲はエンド・クレジットかな……そんな感じしない? でもあの曲(“Holy Smokes!”)は本当にパニックな感じで終わって、すごく良かった。子供の声が偶然マッチして、〈マジカル・ビョーキ・ツアー〉になって良かった(笑)」

エミット・ローズの70年作『Emitt Rhodes』収録曲“Lullaby”

――子供の声って、可愛らしさを出すために使われることが多いけど、ダニエルのアルバムで聴くとちょっと怖いんだよね。それって意識してる?

「コントラストっていうか、そういう関係があるかな。でも今回はもうちょっとユーモラスに作ったつもりだけど。子供の声っていうか、雰囲気はおもしろくて好きだし。それは僕にはできないから、〈ユー・アー・マイ・プレイヤー!〉って感じで。やっぱり映画みたいな感じだね、ナンパ・キャスティング(笑)。全部の曲でいろいろなキャラクターを作って。アクターになったつもりで歌詞を書いた。何がリアルで何がドリームかわからないから、そういうバランスがおもしろい。毎日、起きると思うんじゃない? 〈これは現実? 僕は病気?〉って(笑)」

――じゃあ別に子供を邪悪なものとして見ているわけじゃないんだ。

「子供はすごいピュアだから、そういうコントラストだね。写真っていうか、ヴィジュアルでいつも音楽を作るから、それが関係あるかな。みんなに〈子供の声が聴こえる! ダニエルってロリコン?〉とか思われたら危ないけど(笑)。子供はすごい好きだから」

――そこはすごく力説してるよね(笑)。

「このアルバムはいろいろ初めてのシチュエーションだったし、そういうプレッシャーもあったかな。もうちょっとやりたかったけど、誰かがいるから、そのバランスっていうか。スタジオがあったら、ひとりでヒトラーみたいな感じで作りたいけど(笑)。今回はこういうふうになったけど、それでいいんじゃない?」

――日本に来て、Pヴァインからアルバムを出したこともひとつの達成だったと思うけど、次の目標は?

「ネクスト・ステージは……死ぬんじゃない(笑)? 今回もストリングスが入ってるけど、今度はストリングス・クァルテットとか、ああいうのに興味があるかな。ベートーヴェンの〈大フーガ〉とか、あれヤバイよ。興味があったらYouTubeで観てほしいけど、ブルジョワな人たちが病気っぽいクァルテット聴いてて……リアル・ビョーキ(笑)。すごい良かった」

アルバン・ベルク弦楽四重奏団によるベートーヴェン〈大フーガ〉の演奏

「クラシックもたまに聴くし、興味があれば何でもOK。結構オープンかな。まあラップはダメだけど(笑)。トゥー・マッチ・パーティーな感じで。ソーシャル・イヴェントの匂いがあるとちょっと(笑)。ポリティクスとかソーシャルな匂いがあると……あとはジャズもそうだね。フランク・ザッパも言ってたでしょ、〈ジャズは死んでいない。ただおかしな匂いがするだけだ〉って。80年代のザッパはダサイな……音が変だね。あ、でもスティーヴ・ヴァイのファースト・アルバム(84年作『Flex-Able』)聴いたことある? 自分の家で録音したやつ。あれ最高だね(笑)。〈これ68年のマザーズじゃん!〉って」

――それ、自分も最近聴いてビックリした(笑)。

「いつもおもしろいレコードはいっぱいあるんだね。ネヴァー・エンディング・ストーリーだ。音楽はベスト・レリジョンだね。本当の宗教じゃなくて、レコードが毎日通う教会でさ。ちょっとカルトっぽくない? 昔はそう思ってなかったけど、こういう……(レコード・プレイヤーの針を落とす真似をして)。座って、目を閉じてさ(笑)」