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英語と日本語の両方を使わないと50%の表現しかできない

――先ほど日本人のアーティストの名前を出してくれましたが、その日本の音楽はどういうところから情報を得ているですか?

ガス「インターネットで知ることが多いかな。おもしろいのは、日本のポップ・ミュージックは、きゃりーぱみゅぱみゅPerfumeBABYMETALなどのごく少数のアーティストしか海外ではよく知られていないけど、そういうアーティストのほうが実はニッチでサブカルなアーティストなんだよね。だから、松任谷由美山下達郎のような素晴らしいソングライターは海外ではあまり知られていない。でも、いったんブレイクスルーをして、いまではずっと簡単になった言葉の壁を越えることさえできれば、日本のポップ・ミュージック界はまさにパラレル・ユニヴァースとなり得る。素晴らしい音楽を作っているのに、まだ越えられていない日本のアーティストは多いと思うよ」

――知られていないだけで……というのは日本に限らずさまざまな国の音楽にも言えることかもしれませんね。ちなみに、KKBの楽曲を聴いた時に、すごくHALCALIが頭をよぎったんですけど、もしかしてHALCALIは聴いてました?

セーラ「はい、好きです。意識してました(笑)。『ハルカリベーコン』(2003年)はすごく聴いていたし。嬉しい、気付いてもらって」

HALCALIの2003年作『ハルカリベーコン』収録曲“タンデム”

 

――『ハルカリベーコン』がリリースされたのは、サラさんがまだ日本にいる頃ですかね。

セーラ「でも私、その頃は全然日本の音楽聴いていなかったんです。お父さんがレッド・ツェッペリンT・レックスのような70年代のパンク・ミュージックを車でずっと流していたんですよ。だからクラスメイトたちとは全然話が合いませんでしたね。パンク・ミュージックを聴きながら育ったからか、パフォーマンスの仕方もパンクから影響を受けていると思います」

――へぇ~。そんなところにもルーツがあったんですね。

ガス「『Intro Bonito』のレコーディングをしている時によく聴いていたもののひとつが『ハルカリベーコン』で、ア・トライブ・コールド・クエスト『The Low End Theory』(91年)などの不朽のラップ・アルバムと並ぶ作品だと思ってるよ。言語的な観点から言っても、日本語ラップはすごく聴こえが良いから見逃せないし、インターナショナルな観点でも彼女たちはパイオニア的な存在。もちろん過去にはEAST END×YURIやHALCALIをバックアップしたRIP SLYMEもいるけど、なぜか日本語ラップを斬新な形でやっていたのがHALCALIだと思う。それこそさっきも言った、海外で見落とされてしまっている日本の音楽のひとつだよね」

――本当に日本の音楽事情に詳しいですね……。

ガス「あと、〈Rough Guide〉シリーズをチェックしている時に、琉球アンダーグラウンドという沖縄を拠点にしているイギリス人とアメリカ人のデュオのアルバムを、12歳か13歳の頃に買ったんだ。おもしろそうだなと思って。まだ沖縄(という名前)も聞いたことなかったけどね。そして彼らについて調べて、アルバムを聴いているうちにどんどん深くハマっていって、そのうち日本のレコード屋に行き着いたりしたんだよ」

※世界のさまざまな音楽のジャンルごとに楽曲をまとめたコンピ・シリーズ

――やっぱり! 『Intro Bonito』に収録されている“Let’s Go To The Forest”が思いっきり沖縄音階の曲だったので、これはいったいどこから仕入れたんだろうと考えを巡らせて、辿り着いたのが、さては琉球アンダーグラウンドではなかろうかと。

ガス「そうなんだ。伝統的な沖縄音楽というのは、世界でも有数のダンス・スタイルだよ。アメイジングだよね。身体を動かしたくなる」

琉球アンダーグラウンドの2009年作『ウムイ』収録曲“Umaku Kamade”

 

――そこから、本当の沖縄民謡を聴いてみましたか?

ガス「ちょっとはね。あとTHE BOOM宮沢(和史)も知っているし、沖縄系のコンサートも観てる。ロンドンでそういうイヴェントが開催されればチェックするようにはしているんだ。実際に沖縄の那覇にも行ったよ。すごくおもしろい街だった。国際通りには三線屋さんがあったり、通りを歩いているだけでまるで音楽が手に取れるようでさ、音楽のなかに身を置いているみたいだったよ。音楽的に活力があるのをすごく感じて、すごくいい経験だった」

――それから、KKBの特徴のひとつとして、セーラさんの日本語と英語を共存させたリリックがあると思うんですけど、このアイデアは……?

セーラ「私のお父さんがあんまり日本語を喋れなかったので、生まれた時から英語と日本語のどちらも喋れなきゃいけなかったんです。だから私の頭の中では日本語と英語でひとつの言語。だからラップを書くことになった時に英語と日本語どっちも使いたかった。そうじゃないと50%の表現しかできないと感じているんです。だから、3人で話し合ったりもしたんですけど、自然にそうなりました。日本とイギリスの両方で育っているから、私はイギリス人じゃないし、日本人だけでもないし、どっちの国の人でもあると思っていて。やっぱり日本に住んでいる時は、お父さんがイギリス人だったので周りの人から日本人と見てもらえなかったし、イギリスに住んでいても見た目がちょっと違うから完璧にイギリス人だとは見てもらえなかったから、私はどっちの国の人でもあるよ、ということを二か国語を使うことによって世界に知らせたいという思いもありました」

――つまり英語と日本語を分けて考えていないんですね。口から出た言葉が英語になるか日本語になるかは出してみないとわからない、みたいな。

セーラ「そうですね。英語と日本語を話せる人と話している時がいちばんしっくりきますし、私にはその2つの言語を分けて考えられないんです」

――ガスさんとジェイミーさんは、セーラさんの二か国語のリリックについてどう思っていますか?

ガス「すごくいいことだね。セーラみたいな人が、〈(世界中の)人々は共有していないことより共有している要素のほうが多いんだ〉ってことを知らせていくべきだと思う。言語はもちろんすごくおもしろいものではあるけど、多くのことに比べると表面的なことでしかないけどね」

セーラ「日本のポップスから英語が聴こえてくるのは普通なんですけど、イギリスは英語だけ。ラジオをかけたら英語しか聴こえてこない。でも、いまはインターネットもあるし、国と国の行き来も盛んだし、もう1か国語だけの表現ではなくて、いろんな言葉を混ぜてもいいと思います。インターナショナルなのでイギリスでも違う国の言葉で曲を作りたいですね」

――日本語のリリックの意味は、セーラさんにシェアしてもらうんですか?

ガス「そうだね。でもわからないよ、実際は(笑)」

セーラ「ハハハ(笑)。そんなに〈この歌詞の意味を教えて〉と訊かれたりしないんですよ。〈聴いた(音の)感じがいいからこれでいこう〉みたいな」

ガス「そうだね。でもそれはどんな言語にもあてはまる。イギリスのポップ・ミュージックにもね。音(聴いた感じ)がいちばん大事なことだよ、間違いなく」

――サラさんの歌詞には、実は赤裸々な、社会における問題定義的なものもあって、そこも興味深いなと思います。

セーラ「そうですね、もう本当にそのまんま、思っていることをラップにした感じです。特に“Babies (Are So Strange)”とか。やっぱり歳を取るにつれて、結婚をして子供を生むことにプレッシャーを感じるようになるんです。でも私はまだそこまで考えられないから、そういう気持ちを曲にしようと思って」

――まだお若いのに、そういうプレッシャーを感じることがあるんですか。

セーラ「クリエイティヴなことをしていると周りからの反対も多かったりするし。自分が生きたいように生きているのに、なんでそういう偏見があるのかなと思って。そういう全体的なモヤモヤを、〈ベイビー〉をテーマに書いたんです」

――またKKBの音楽は、日本語が聴こえてくるという意味でより親近感を持っているリスナーが日本には多いのかなと思うのですが、地元のイギリスではどのように受け入れられていると思いますか?

セーラ「『Intro Bonito』をリリースする前は、(イギリスのリスナーから)抵抗があるかなとは思ったんですけど、思ったよりそんなことはなくて、普通に受け入れてもらえました。ラジオでもかけてくれるし。ステラ・マッカートニーのキャンペーンでも使ってもらえたので」

ガス「イギリスではポップ・ミュージックのなかで、国で音楽を区別していないからね。日本でおもしろいなと思うのは、例えばタワーレコードに行くと、〈J-Pop〉というジャンルとは別に、その他の国のロック/ポップスのセクションが設けてある。ひょっとしたら〈K-Pop〉というのも、ワールドのセクションに独立してコーナーがあるかもしれないよね。要は日本とそれ以外の国に棚が分かれているんだけど、UKやUSではそういうことはしていなくて、きゃりーぱみゅぱみゅがビートルズと同じセクションに並べられているんだ。つまり同列で考えられている。だから(UKでは)僕らもそれと同じように受け入れられているよ」

――なるほど。確かにそうですよね……全然意識してなかったけど。そういえば、タワーレコードには〈タワレコメン〉という、全国のタワレコのスタッフがマンスリーでその月のプッシュ・アイテムをピックアップする企画をやっているのですが、昨年の9月に『Intro Bonito』が〈タワレコメン〉に選ばれたんですよ

セーラ「選ばれたと聞いた時は、もう本当にびっくりでした! 今日タワーレコードに行って、(KKBの)CDが並んでいるのを初めて見たんです。CDを置いているのは日本のタワーレコードだけなので、感動的でした」

ガス「いやぁ、僕は知らなかったよ。こんなことが実現するなんて、タワーレコードのファンのみんなには本当に感謝したい。それに渋谷のタワーレコードは世界一のCDストアだからね。自信を持って言えるよ」

tomad「ロンドンのクラブ・シーンやイヴェントなどから影響を受けている部分はある? 例えばbo enやPCミュージックのようなところとか」

PCミュージックからリリースされたハンナ・ダイアモンドの2015年のシングル“Hi”

 

ガス「みんな友達だからね、互いに影響を与え合っているよ」

tomad「KKBとして、個々の楽曲では伝えたいメッセージがあると思うけど、グループとして打ち出したいメッセージはあるのかな?」

セーラ「インターナショナル、かな」

ガス「誰もが楽しめるものであろうとすることかな。そもそもの僕らのモチヴェーションが、〈ただ楽しみたい〉ってことだから」

tomad「KKBとして、今後こういうことができたらいいな、みたいな目標はある?

ガス「オリコン1位だね」

――ビルボードじゃないんですね(笑)。

ガス「僕らはみんなにKKBの音楽でノッてほしい。実際には僕らが支持されている国のトップ2はUSと日本なんだ。さまざまな異なる理由で各国でウケているとは思うけど、一方では同じ理由で好んでくれていると思う。それはとてもエキサイティングなことだよ、どの国でもやっていけるってことだから」

――逆にtomadさんに訊いてみたいことはありますか?

ガス「今日のインタヴューについてはさっき知らされたから、もし前もって知っていたらそれこそたくさん質問を用意したのに……。でも、いま訊いていいなら、これは僕が個人的に知りたいだけなんだけど、僕らがチェックしておいたほうがいいオススメの新しいアーティスト/プロデューサーはいる?」

tomad「いま結構おもしろいのは、韓国のトラックメイカーがMaltineを好いてくれていて。この間、韓国でDJをしたんだけど、そこでもMaltineのファンが多かったんだよね。だから今後、韓国のトラックメイカーのリリースがあるかもしれないから、お楽しみに」

ガス「それこそ僕の次の質問はソウルのシーンについてだったんだ。その必要もなくなったけどね(笑)」

――ソウルのシーンが気になってたんですか?

ガス「おもしろいシーンだよね。というのも、K-Popは世界的にも最高レヴェルのエンジニアリングが施されている音楽だからね。僕らのようなアーティストの感覚とも調和する部分が多いんだけど、まだまだ垣根を越えたような交流が十分にできていないと思う。MaltineやPCミュージックといったレーベルともね。まだまだ未開の部分があるけど、才能のあるミュージシャンはめちゃくちゃいると思う。今後の展開が楽しみだね」

――では、最後に何かお知らせがあれば!

セーラ「Maltineレーベルは大好きです! すでに私がChroma-keiとコラボしたトラック“Everyday (feat. Sarah Bonito)”がMaltineからリリースされているので、ぜひ聴いてみてください!」