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どれだけ伝わるかが大事

 プロダクツの完成度ではない部分に〈応援し甲斐〉を感じるのが現代のアイドル・ファンの傾向とされているが、そういった点でいくと武藤彩未は、往年の〈アイドル〉がそうであったように時間と手間をかけ、ある程度の水準を身に付けたうえで送り出されたことになる。さらに言えば、彼女はそれだけの価値とポテンシャルを持ったソロ・アイドルなのだ。そして昨年の夏以降、精力的なライヴ活動をこなしてきた彼女が、いよいよファースト・アルバム『永遠と瞬間』を届けてくれた。 

武藤彩未 『永遠と瞬間』 SHINKAI(2014)

 「去年のライヴごとに披露させていただいた曲がほとんどなんですけど、反応を見てアレンジを変えたり、そういう意味ではファンの皆さんといっしょに作り上げてきた楽曲でもありますね。大好きな80年代のアイドルの曲をレコーディングやライヴでたくさん歌ったことで、自分らしさを出すためにはどうしたら良いのかとか、大事なことにもたくさん気付くことができましたし、その経験は自分の曲にも活かせたと思います」。

こちらは武藤彩未『永遠と瞬間』のDVD付き〈セブンティーン盤〉で、江崎グリコ〈セブンティーンアイス〉タイアップソング“Seventeen”を収録!

 収められた8曲には、かの時代のアイドル・ポップにも通じる煌びやかさとモダンさを織り交ぜたサウンド観と、時に朗らか、時にセンティメンタルに揺れるメロディーと染み込みやすい言葉を宿している。作家陣には、ポルノグラフィティなどで知られる本間昭光や、80年代アイドルも数多く手掛けてきた稀代の作詞家である三浦徳子、森雪之丞といった名が並び、アレンジにおいては、nishi-kenら新進気鋭のクリエイターを起用。それらの新しさと懐かしさが混在した世界は、このプロジェクトにおいては〈NEWTRO-POP〉と謳われている。もちろん、その中心にあるのは、志の高い彼女のパフォーマンスだ。

こちらは武藤彩未『永遠と瞬間』の〈永遠盤〉と〈瞬間盤〉のジャケ。数量限定の後者はカード付き!

 「苦戦した曲もありました。“とうめいしょうじょ”という曲は初めてのバラードだったんですけど、バラードってごまかしが利かないじゃないですか。歌唱力や表現力が試されるので、レコーディングのときはブースを暗くしてみたり、気持ち作りから入って。ひとりで歌うということは、曲にどれだけ感情を込めることができるかっていうことが大事になってくるので、そういう意味で〈間〉もすごく意識しましたね。さらっと歌ってしまうと流れてしまうんですけど、間を作ることでそこがグッとくるポイントになったりしますから。上手さを求めるよりも、どれだけ伝わるかが大事だなって」。

 いかに抜きん出て、いかにして受け手とコミットするか――現場だけでなく作品を通じてその正解を導こうとするアイドルの作法は、王道ではあるものの決してイマドキとは言えないだろう。ただ、その〈王道〉が主流でないのは、周囲の尽力とそれに見合った逸材の醸成を要する、そのわずらわしさにあえて挑む送り手が少なくなっただけで、王道はいつだってエイジレス。

 「大きな夢としては、私が時代を作って、その時代を私自身で終わらせちゃいたいなって。私に敵うものはいないって、それぐらいの負けん気は必要だなって思います!」。

 

▼武藤彩未在籍時のさくら学院のアルバム

左から、2011年作『さくら学院 2010年度〜message〜』(トイズファクトリー)、2012年作『さくら学院 2011年度〜FRIENDS〜』(ユニバーサル)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ