ディスクガイド:現行R&Bのスタイリッシュなスタンダード(3)
10代でメジャー契約するも飼い殺しだった過去を持つ男が裏方として培ってきた才能を爆発させた、大作感漂うデビュー作。ハッピー・ペレスやサラーム・レミの関与にミゲルを連想するが、Bスレイドとのタッグなどでエキセントリックな面を見せながらもヒットメイカーらしいポップネスを発揮し、ダンサブルなアップも聴かせてくれる。ジェネイ・アイコの作品同様、総監督を務めるノーIDの策士ぶりも光る一枚。 *林
メジャー所属時にアルバム・デビューまで漕ぎ着けていれば、ディアンジェロやジョン・レジェンドと比較されつつソウル好きの支持を得たであろう逸材。だが夢叶わずインディーからリリースした本作も充実の内容だ。先行曲“Stand In The Way(Of My Love)”はブルージーな曲調と泥臭い歌い込みが胸に響くし、プリンス風味も漂うスロウ“Rivers Run Deep”での甘やかなファルセットも素晴らしい。 *池谷
メイバックとの接触やミックステープで復活の体制を整えていた歌姫による11年ぶりのアルバムは、持ち前の伸びやかで麗しい美声が活かされた、ブランクを感じさせない内容。ダイナスティ曲使いでリック・ロスを迎えた“All I Ever Wanted”など、前作に感じられたどこか儚げなムードも全編に横溢し、ファンの期待に応えた。南部人同士の共演となるアンソニー・ハミルトンとの“That One”でのアンニュイな表情もいい。 *林
〈ネオ・ソウル〉というコピーはヒドゥン・ビーチ時代まで。アトランティック配給で自主レーベルから出す2作目は、ブルージーに歌い込むカール・ホールの67年曲のカヴァー“You Don't Know”に代表されるように、ナッシュヴィルでも録音を行ったディープなソウル・アルバムだ。レトロな曲も違和感なく収まり、BJ・ザ・シカゴ・キッドと相まみえたラストのラヴソングまで、彼女の飾り気のない歌声にはまったく嘘がない。 *林
カナダ出身シンガーのデビュー作。エリック・ロバーソンやミュージック、ディアンジェロに影響を受けたと公言している通り、初期ディアンジェロを思わせるネオ・ソウル風味がまずは芳しい。そこにUKっぽいキャッチーさやポジティヴなムードが加わるのが独特で、先行曲“Life Goes On”然り、どの曲にも温かみが溢れる。スティーヴィーやマーヴィンといったレジェンドへの憧憬も素直に表れている好盤。 *池谷
〈サム・クックを歌うビギー〉といったイメージを貫くサグなシンガーは、アルジェブラやデメトリア・マッキニーとのデュエットを含む最新作でもやさぐれたビター・ヴォイスを全編で聴かせてくれた。肌に張り付くようなアコースティックな音色も歌をリアルに響かせるが、マーヴィン・ゲイを現世に引っ張り出してきたような“People”を含め、レトロ・ソウルとは似て非なるエッジがこの人を現シーンで輝かせる。 *林
旧友ロバート・グラスパーとのコラボなどで、ここにきて俄かに注目を集めているビラル。最新作はエイドリアン・ヤングの全面プロデュースで、彼のマッドなソウル趣味によってビラルのシュールな持ち味が過去最高に引き出されることに。ケンドリック・ラマーやキンブラらとの共演も、その奇怪ぶりを後押しする。プリンスが錯乱状態に陥ったような“Lunatic”など、R&Bの常識を超えて異次元に飛び込んだ意欲作だ。 *林