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過去を未来に変えるクリスの現在

 前作『X』ではトレイ・ソングズと“Songs On 12 Play”に興じ、別曲ではR・ケリー本人を招聘していたクリス。さらに遡ればSWVを経由したマイケルへのオマージュ“She Ain't You”なども思い出されるが、『Royalty』では特に90年代のクラシックを活かした局面が目立っている。本文でも触れた“Who's Gonna(NOBODY)”はキース・スウェットのスロウ・ジャム“Nobody”(96年)とジョニー・ギルの名スロウ“My My My”(90年)を歌に織り込み、“Proof”ではジョデシィの“My Heart Belongs To U”(93年)を融解サンプリング。さらに曲名からして2パックな“Picture Me Rollin'”では、ウォーレンG&ネイト・ドッグの“Regulate”(94年)とシークエンス“Funk It Up”(というかドクター・ドレー“Keep Their Heads Ringin'”ということだろう)を引用している。フリースタイルのようにメロディーを出し入れする様はまさにクリスならではだが、もちろんロイヤリティは支払っているのがポイント(?)。新進のフックアップに余念がない一方、このように過去の遺産も巧みに採り入れるバランスがクリスの魅力のひとつなのだ。 *轟ひろみ