『the shader』と共通のムードはここにも
ポスト・クラシカル~音響界隈で日ごと存在感を強めるニルス・フラームが、長年温めてきたダブ・バンド・プロジェクトの初作。ドアーズやキング・クリムゾン、そしてECM~ジャズランドからの諸作をミニマル化のうえ反復させたような覚醒感は、agraphの血肉にも流れるベーシック・チャンネルの遺伝子をアップデートしたもの。
ジョン・ケージを見事なまでにダンス・ミュージック化したファースト・アルバム。生ピアノの旋律やバロックな様式を電子音響の耳で翻訳し、メロディーとグルーヴを立たせた本作は、リュック・フェラーリやヴェイパーウェイヴからの気付きがなければagraphが辿り着いたかもしれない世界……とか妄想してみたり。
中島ノブユキやharuka nakamura……ポスト・クラシカルの顔役たちをコラボレーターに迎え、ポスト・プロダクションとインプロヴィゼーションの可能性を探った3枚組の大作。ピアノを取り巻くさまざまな楽器とフィールド・レコーディングが描写する静寂は、曖昧だからこそ確かにそこに横たわる何かをシェイダー=投射する。
本作に立ち込めるアンビエンスは、それまでの牧歌的なサイケデリアを8年の潜伏期間のぶんだけ煮詰めたような……。ここにあるのは、agraphのディスコグラフィーとも重なる過去作とは似て非なる畏怖の世界。聴覚が麻痺するような得体の知れない音像が隅々まで配された様は、『the shader』が向かった先と遠くはないはずだ。
ドープなダブ・ポエットと耽美なエレクトロニカ、それぞれのスペシャリストたちが交わるとこうなるのか。杉本博司〈海景〉へのオマージュでもある本作が提示したハードコアかつエモーショナルなミュージック・コンクレートが鳴らす陰影とそのうねりは、『the shader』と同様、牧歌性と閉塞感が表裏一体となった快楽への没入を誘う。
GIANT CLAW Dark Web Orange Milk/Noumenal Loom/Virgin Babylon(2014)
ソースとなる音源をオブジェ化し、メロディーやリズムを本来の意味から逸脱させるヴェイパーウェイヴに大きな気付きを得たというagraph。本作はフュージョンやR&B、ジュークまでを陳列しながらその機能を剥奪し、聴き手にとある感情と雰囲気を閲覧させる。その構造は、『the shader』と共通するものだ。