インタビュー

上原ひろみがピアノ&作曲に込めた秘密とは?―トリオ・プロジェクト新作『SPARK』が物語る世界的アーティストの方法論

Page 2 / 2 1ページ目から読む

 

曲を聴いて解析するのが昔から好きで
こそこそギミックを入れるのが楽しいんです

――ピアノの鳴らし方以外に、あのベースとドラムの音に合わせるために工夫していることはありますか?

「例えば、早いパッセージをこのトリオで聴かせたいと思ったら、できるだけブレイクを入れて、きちんとその音が聴こえるようにしています。人間って1回聴こえたものは次も聴こえるんですね。例えば、最初に4小節のメロディーがあって、そこにドラムとベースがメロディーとぶつからないようにリズムのブレイクがあって、ピアノは4小節の1節目の頭でしかメロディーを弾いていないとします。でも、その後に2回目を弾いたときには、ドラムやベースの音が被ってきていても、1回目に弾いたときのパッセージが耳に届いていたら、2回目は(ピアノが)そこまで聴こえなくても脳内で再生されるんですね。だから1回目というのは重要で、メロディーを届けるためにはきちんと聴かせないと何をやっているのかわからなくなってしまう。だから、最初はシンセだけでメロディーを弾いたりしますね」

――え、つまり作曲面の話ですよね? もう少し説明してもらってもいいですか?

「“SPARK”も、〈タッタッタララララタッタッタララララ~〉ってメロディーを、最初はピアノだけで弾いています。2回目にメロディーが入ってくるときは、ドラムとベースも〈せーの〉で入るんですけど、そのときにベースやドラムの音量がピアノを上回っていたとしても、最初の8小節で一度メロディーを聴いているから、〈もうそれを弾いているに違いない〉という脳内の認識で(ピアノが)聴こえるんですよ。だから、最初にメロディーをイントロデュースするのが凄く大事なんです。特に、“SPARK”や“In A Trance”“Dilemma”みたいに複雑な曲は、必ず最初にきちんとメロディーが届くようなきっかけがあってからグルーヴが入ってくるようになっています。そうするとみんな〈聴こえる〉んですよ」

――過去の曲でもそういう仕掛けがあったりするんですか?

「バランスがどうかにも因りますね。ドラムとベースにガンガンやってもらう必要のない曲であれば、複雑な作りであろうと最初から一緒に行ってもいいんですけど。“SPARK”は特にサブリミナル効果みたいな要素が大きい曲ですね、ピアノのメロディーが何度も繰り返されるので。それを最初にきちんと聴いてもらって、そこからシンセが入って、ベースとドラムも入ってきて、冒頭のメロディーがリスナーの頭の中でリプレイされている状態を作ってからフル・ヴォリュームに向かうんです。その曲の一番最後に、またそのメロディーがピアノ・ソロで出てきて、次にドラム・ソロがあって、その後にちょっとランディング(着地)してメロディーに行くところがありますよね(“SPARK”の7分過ぎ~)。それは最初のリフレインしているメロディーとは違うんですけど、そのメロディーも絶対にどこかで聴いたことがある感じに聴こえるはずなんですね。なぜかというと、イントロのメロディーを使っているんです。最初に頭に入れているんですね」

――すげぇ……。

「イントロではピアニッシモで演奏しているんですけど、ピアニッシモのピアノを聴くということは、その音に全集中力が働くわけですよ。そうすると必ず強い記憶として残る。だから、その後にどれだけドラムとベースがガンガン行ってても、2つの要素が(リスナーに)起こるんです。まずは〈聴こえる〉ということ、もうひとつは懐かしい気持ちになるんです。実はまったく違う形で先に聴かされているんですけど、グルーヴもリズムも全然違うから、〈なんだろう、この懐かしい気持ち〉って感情が湧いてくるんです。でもその理由は、7分前(のイントロ)にそのメロディーを聴いているから。そういう作り方をしています」

――上原さんの曲はとにかく耳に残るし、それはリフがキャッチーだとか、そういう理由なのかと思っていました。まさかサブリミナルだったとは……。

「懐かしいような気持ちになるのにも理由があるんです。ベースとピアノのソロを基本F#mのワンコードでずっと続けているので、ワンコードでバネを引っ張っているみたいな感じで、そこにコードが初めてつくとバネが〈スコーン!〉って戻るときの瞬間みたいに、安堵感と開放感が生まれるんです。〈安心〉と〈開放〉って真逆の感情なんですけど、一緒に来ると凄く気持ちがいいわけですね。それはずーっとワンコードで引っ張ったからこそで、そこに何かわからないけど、ノスタルジックな感情も生まれるんです。曲構成のなかでいろんな理由を経て、その感覚が爆発するんですね」

――話を伺っていると、9分とかじゃなくて、(1曲で)40分くらいある組曲を作っているような感じですね。

「ただ、そんなことは私が勝手に頭の中で考えている構成というか仕掛けであって、アルバムを聴いている人は〈なんだか気持ちいいな〉とか、そういう気持ちになるでしょうし、私が欲しいのもそういうもの(リアクション)であって。別に、〈最初にこういうふうにメロディーを弾いているから、あそこで懐かしい気持ちになったのか!〉みたいに思ってほしいわけじゃないですから(笑)」

――そういう技術は独学で身に付けたんですか?

「独学もあるし、自分の好きな曲を聴いて学びましたね。それはロックでもジャズでもクラシックでも、いろんな人の曲をジャンル問わず聴くと、いろんな仕掛けが施されているので、それを解析するのが好きだったんです。例えばクラシックの曲で、自分が初めて弾いた曲なのに、4分くらいのところで初めて弾いたような気がしないフレーズが出てくると、それは最初のメイン・テーマが反転していたものだったりする。そういうのはバッハの曲によくありますけど、別にバッハだけじゃなくて、あらゆる作曲家がいろんなやり方で使っているんです。昔からそういう曲の楽譜を分析しながら聴いてたから、いつの間にか身に付いていたというのはあるのかもしれません。“Wake Up And Dream”のようにサーッと作った曲もあるんですけど、“SPARK”みたいな曲はこそこそギミックを入れていくのが楽しいんです」

アンソニー・ジャクソン

 

――ちなみに、曲ってどういうふうに書いているんですか。

「書きたい気持ちは常にずーっとあるので、ピアノを練習するときの休憩中に、ポロポロと遊ぶように弾きながら、格好良いリズムとかリフを探したりしていますね」

――何か浮かんだらメモったりします?

「はい、いいものから駄作まで。駄作もたくさんありますし。あとは、何かのきっかけや取っ掛かりになりそうだと思ったら録音して、それを持ち帰って楽譜に書いたりもしていますね。小ネタみたいなのは常にいっぱい持ってますよ」

――アイデアを貯めているんですね。

「貯めようと思って、というよりは本当に曲を書くのが好きなので。自分で〈おもしろいリズムだな〉と思ったら書き留めたりする癖があって、昔からずっとそうなんです。もちろん(意識的に)曲を書こうってときもあるんですけど、普段からそうやって書いてしまうのは、衝動的な部分が大きいですね。書きたいって衝動」

――リズムについてもそうなんですか? 上原さんって独特のリズムを書かれるじゃないですか。

「そうですね、どこかでいろんな影響を受けているとは思うんですけど。自分で弾いているときに〈このリズムおもしろい〉と思ったら書き留めたり、あとはそういうのをサウンドチェックのときに弾いてみるんですよ。リズムとしておもしろかったりすると、アンソニーやサイモンが〈なになに?〉って反応して、〈そこ、どこを誰が弾くの?〉って訊かれたりしますね(笑)」

――ハハハハハ(笑)。

「例えば、“In A Trance”のイントロはずっと4拍子なんですけど、4拍子の中に小さい5拍子の塊がたくさんあるから、5拍子に感じる人が多いんです。でも基本はずっと4拍子。そのリズムを見つけたばかりの頃に、グルーヴが出せるように一人で練習していたら、サイモンが〈おいおいおい!〉ってやってきて。〈それはいったい、誰がどこのパートを弾くんだ?〉みたいに言われました。あの曲では、まさかアンソニーがお休みで、サイモンがキメを全部叩くことになっているとは思っていなかったみたいで(笑)。アンソニーは前作でそういう(大変な)ことをやらされていたので、〈ウェルカム!〉みたいな感じで喜んでましたけど(笑)」

サイモン・フィリップス

 

――リズムについては、サイモンの特殊なドラムのセッティングを前提にしたアイデアが浮かぶことも多いんですか?

「今回のアルバムに関してはそうですね。でも普段、パッと浮かんだりするのはそういうこととは関係ないものも多いですよ。意味を成すものから成さないものまで」

――ドラムの叩き方についても、上原さんから細かく指定したりしていますか?

「基本的にはリズムの方が大きいですね。〈ここは8分の7拍子を刻んでいる上で4分の7拍子を刻んでほしい〉みたいな。あとは、もちろんフィールですよね、ここはバックビートを入れたスウィングにしてほしいとか、そういうのは伝えています。私が提案したことに対して、サイモンが〈いや、自分はこうしたほうがいいと思う〉と言われたら、そこはどちらのアイデアがいいのか天秤にかけたりして。そういえば、サイモンが“Wonderland”はかなりチャレンジングだと言っていました。オクタバンっていう(サイモンのトレードマークにもなっている、凄く高い音が出る)タムタムでメロディーを書いたら〈メロディーが自分っていうことは、リズムは誰がやるの?〉と言ってたから、〈いや、両方!〉と答えたら、〈ふーん……〉って返されたりして(笑)」

――『SPARK』は曲ごとに違うドラムの音色が印象的だったりするので、サイモンの特徴を曲ごとにプレゼンテーションしているようにも聴けますよね。ちなみに、“Indulgence”はこれまでの上原さんにはなかった雰囲気の曲ですね。

「ブルージーな曲ですけど、ライヴでやると全然違うんですよ。アルバムの流れではメロウというか、静と動でいうと静のイメージだったんですけど、ライヴでやると静のなかの動が出るのか、凄く盛り上がるんですよね。」

――テンポは速くないけど乗れるっていうか、ヒップホップっぽさもあるユニークな曲ですよね。ライヴでやってみたら印象が変わるというのもおもしろいですね。

「曲はライヴごとに変わっていくので、〈最近はこの曲が調子がいいな〉となるとその曲のポテンシャルが広がっていって、どんどん多面体になっていくんです。ひとつの角度でしか見ることのできなかった曲が、徐々に別の方向から見ることができるようになっていく。レコーディングした曲というのは言ってみればプロトタイプというか、そこから(ライヴで)形を変えていきますし。それがまたおもしろいですね」

――へ~、アルバムは〈プロトタイプを録音する〉っていう感覚なんですか。

「その曲に対する、私たちの一番最初のフレッシュな解釈というか、初めてその曲と出会ったときにまず行った解釈なんです。初号機みたいなイメージですね。そこからどんどん方向を変えていくし、私たちがやっている音楽はそういうことが受け入れられるジャンルですよね。〈プロトタイプのままじゃないと嫌〉という考えじゃないお客さんがライヴにいっぱい来てくれるので、どんどん姿かたちが変わっていく光景も楽しんでもらっています」

――〈完成した〉と思えることはあるんですか?

「その日のそのヴァージョンとしては、毎日が完成ですよね。でも毎日違うので、大きく変わることもあります。この『SPARK』というアルバムが〈ヴァージョン1〉だとしたら、〈1.01〉、〈1.02〉……とだんだん変わっていって、あるときに〈1〉から〈2〉になるんですよね。まったく別のものに変わっていく瞬間がある。私たちもやっぱり、どんどん変えていくのが楽しくてやっているし、そういうふうに違うものになると完成したものも完成形ではなくなるので、常にいたちごっこ的なところはあります」

――前に書いた曲が、いまは形を変えて別物みたいになっていることもあるんでしょうね。

「たくさんありますね。トリオでやっている曲だと、長くやっている“Flashback”(『VOICE』収録)や“MOVE”(『MOVE』収録)は最初のものとは全然違うかもしれない。でも、最初のものがダメなのかというと、そういうことではなくて、それはそのときにしかない私たちの解釈なので。最初のフレッシュな解釈は、そのときにしかないスペシャルなもので、曲が生まれた瞬間ということで記録しておきたいんです。そこから何ヴァージョンも出来ていくので、細胞分裂みたいな感じですね」

『MOVE』収録曲“MOVE”のライヴ映像

 

――ライブDVDなどもリリースされているじゃないですか。あれも途中経過?

「そうですね、何ヴァージョン目かはわからないですけど」

――レコーディング作品がプロトタイプだと捉えているのはおもしろいですね。その考え方を3人で共有できているのも凄いと思うし。

「サイモンは〈ブループリント〉と言ってたけど、私は〈一番最初の解釈〉だと思ってます。〈この曲で聴きたいグルーヴはこれで〉、〈ここはこういうバッキングで〉とか、やればやるほど違うヴァージョンが出てくるんですよね」

――『SPARK』もこれから新しいヴァージョンがどんどん生まれていきそうですね。最後に、最近気になった音楽家を教えてもらえますか?

ジョン・スコフィールド! カッコ良かった~。昨年、『Past Present』が出た後に、NYのブルーノートでラリー(・グレナディア)ビル(・スチュワート)ジョー(・ロヴァーノ)が参加したライヴを観たんです。ジョンスコは昔から凄く好きで、音の選び方がいい意味で気持ち悪いというか。音の積み上げ方も〈この人しかやらないな〉って感じで、全部のフレーズがカッコイイし、キャーキャー叫びながら観てました(笑)。最後の1音までカッコ良くて、どの曲も最後に何のコードを弾くのか楽しみで」

――ギターにインスパイアされて、その演奏をピアノに置き換えて弾くこともあるんですか?

「はい、ギター好きなんですよ。ギターのアルバムはピアノと同じくらい聴いているんじゃないかな。私は音楽をとにかく聴くんですよ。(ツアー中に)移動が4時間あったら、〈よし、アルバム4枚聴けるぞ!〉みたいに思ってしまうので(笑)」

ジョン・スコフィールドの2015年作『Past Present』のトレイラ―映像

 


 

『SPARK』発売記念スペシャル・イヴェント 1組2名さまご招待

2016年2月18日(木)19時より都内某所で開催される、上原ひろみザ・トリオ・プロジェクト『SPARK』発売記念スペシャル・イヴェント(トーク&ミニ・ライヴを予定)に、Mikiki読者1組2名さまをご招待します。応募締め切りは2月11日(木・祝)。どうぞふるってご応募ください。応募方法は以下をチェック!

★メールでの応募方法
件名に「Mikiki上原ひろみイヴェント招待希望」、本文に(1)お名前(ふりがな含む)(2)お電話番号(3)ご住所(4)メールアドレスをご記入の上、下記のアドレスまでお送りください。

mikiki@tower.co.jp

当選者には、ご記入いただいたメールアドレスへ当選通知メールを送信いたします。
※応募情報が未記入の場合は無効とさせて頂きます。

 

★Twitterでの応募方法
(1)Twitterにて「@mikiki_tokyo_jp」をフォロー
(2)該当のツイートをRTしてください。

当選者にはDMにてご連絡させて頂き、上記必要事項の確認をさせて頂きます。
※フォローされていない方の応募は無効とさせて頂きます。

※応募に際してご記入いただいたお名前・ご住所・ご連絡先等の個人情報は、弊社からの各種ご案内(イヴェント、アーティスト情報など)、アンケートの統計 資料の作成に利用させていただくことがございます。ご記入いただきました情報はタワーレコード株式会社にて保管し、ユニバーサルミュージックへお伝えする場合を除き、第三者へ提供することはございません。タワーレコード株式会社のプライバシー・ポリシーに関しましては、次のサイトをご参照ください。
http://tower.jp/information/privacy