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日本はカラオケがあるおかげで、
クラブに行く人口がすごく少ない(starRo)

――では、SeihoさんはstarRoさんの活動をどのように見ていらっしゃいますか?

Seiho「どうなんですか、向こう(アメリカ)って? ハハハ(笑)。でも単純にそれがいちばん気になる! めちゃめちゃ訊かれていることだと思いますけど」

starRo「逆に、アメリカでツアーしてみてどう思いました?」

Seiho「音楽的な話をすると、やっぱりシアトル……でもイヴェントに依るんだよな……インターネット・カルチャーが入ってきているイヴェントは、それこそ韓国のCakeshopもそうだし、日本のイヴェントもそうなんですけど、全部一緒になったなと。かける曲も、やってることも一緒。それがいいのか悪いのかわからないんですけどね。シアトルでのイヴェントでは特にそう思いました」

※韓国・ソウルにあるクラブ。DJ KENTAROやSeiho、PARKGOLFTREKKIE TRAXの面々など日本人も含め、海外からのアクトが数多くプレイするほか、地元アンダーグラウンド・シーンのナウなDJ陣が夜ごとパーティーを繰り広げている、ソウルで遊ぶならここへ行け!くらいの場所。いつも混んでる

starRo「ああ、たぶんオーガナイザーに依るんですよね。シアトルのオーガナイザーはアレンですよね? 彼は日本の(インターネット・)シーン、Maltineあたりとかに詳しい奴なので、だから、というのはあると思います」

Seiho「果たして(やっていることが世界的に)一緒になることがいいんかどうか、というのは感じましたね。あとアメリカで感じたのは、スモーキーでビートダウンしたものがウケる。日本にはあんまりなかった感覚でした。僕のライヴのセットは遅い曲から速い曲になっていって、速い曲から一周して遅くなるんですよ。BPMも160まで行って、また80に戻る、みたいなイメージなんですけど、これだとアメリカではウケないですよね。もっと(BPMが)ストンと落ちる時とか、音が減ってきた時のほうが盛り上がる。だから、これまでやりたかったけど日本ではできなかったセットを試せたのは良かったですね」

starRo「日本でライヴをやると、リズムの取り方や音楽の感じ方の面で80%くらいの人が付いていけてないと思う時があるんですよ。トラップもそうなんですけど、〈裏〉で取れないというか、どうやって踊ったらいいのかわからない、みたいな。聴いて育ってきている音楽がアメリカと日本では違うので、そこのギャップはありますよね。さっきのBPMをストンと落とすというのも、落とした時にそこにグルーヴを感じられるかどうかだと思うんですよ。例えばBPM160から80にストンと落ちた時に、その間に隙間があるじゃないですか。そこにめちゃめちゃグルーヴが生まれるので、そうなると人はより動物的になる。でも日本人はその感覚があまりないから、アレ?ってなる時がありますね」

――ノリ方がわからないというのはあるかもしれませんね。

Seiho「トラップの話だとそれが顕著で。4~5年前に〈Low End Theory〉が日本に来た時、その頃はまだトラップがそんなに日本で普及してなくて、むしろジュークのほうが先に来てるくらいだったんですよ。それで確かダディ・ケヴがDJで、マシーンドラムのジュークをかけて、その後に“Amili”(リル・ウェイン)をかけた。つまりBPMが160から80になるんですけど、そう繋いだ時に僕はわかったんです、〈向こうの人って、(BPMを)倍で取ってるんや!〉と」

ダディ・ケヴの2012年の〈Boiler Room〉でのDJセット

 

starRo「あー、そうそうそう」

Seiho「それがトラップの最初の衝撃でした」

starRo「トラップをずっと聴いてきている人はそんなに違和感はないと思うんですけど、いま日本はEDMが全盛期じゃないですか。そういう現場でトラップがかかるとアレ?ってなっちゃうのかも。でもこれからな気もしますね」

Seiho「トラップがこれからって……(笑)、でもみんな結構そう言いますよね」

starRo「単純に3年くらい(アメリカと)ズレてる感じがするから。いまアメリカのEDMの現場ではみんなトラップをかけていて、いまやもうお腹いっぱい気味なんですけど、その波が日本はこれから来るのかなと。でも、(日本人は)トラップがずっと踊れないかもしれないから、そうなると来ないまま終わる可能性もある」

Seiho「でもダブステップと合わせていたりもしますよね。上手くBPM130と合わせている感じのDJも最近増えてる」

starRo「スロウダウン化していますね、確かに」

Seiho「もうひとつアメリカ・ツアーへ行って思ったのは、向こうのほうがイージーな部分が多いんですよね。お客さんの反応も直接的でわかりやすいし。音楽活動をする基盤もある程度出来上がってるから、アメリカのほうがイージーはイージーかなと思いました。ただ音楽の評価に関しては、向こうは人数がおるから相対化されて、良い評価を得られればしっかりした位置には行く。良くも悪くもそれは絶対というのは大きいかな。日本でやってると、やり方は難しいのにこの音楽がこんなに人気が出るのか、とか、こんなに盛り上がってるのにまだそんな売れへんのや、みたいなことが発生する。アメリカはそこがイージーだからこそ絶対的な評価になっているんですよ。評価軸がきっちりしてる」

starRo「確かにそうですね」

――あと、これもパーティーによって違うかもしれないんですが、アメリカは土地によってもノリが良いところとそうでないところがあったりするんですか?

starRo「市民性みたいなものはすごいありますよね」

――東海岸と西海岸とで違う、みたいな?

starRo「そうですね」

Seiho「NYだと〈明日仕事だから〉みたいな感じで普通に帰りますよね」

starRo「NYは厳しいですね。良い時は物凄いですけど、難しいですね。東海岸は全体的にそうかな。音楽にも依ると思いますけど、西のほうがオープンな感じはある」

――市民性が関係しているのか、現在の音楽のムーヴメントはLAから始まるということを聞いたんですが、やっぱり新しいものでも受け入れられやすい土壌があるのでしょうか?

starRo「いまは完全にそうですね、みんなこぞってLAに引っ越してきていますから。NYからも。だから〈(ムーヴメントは)LA発〉という感覚はあります。でも僕はLAに住んでいるから客観的に見られなくなっているところもあるんですけど、LAやその延長上にあるサンフランシスコ以外の所、例えばナッシュヴィルとか、そういうところでやると完全に〈アレ?〉って感じになりますね(笑)。全然通用しないや、みたいな。やっぱり、ある程度〈情報〉は重要なんですよね。ムーヴメントとして起こっていることをあまり知らない状態だと、トレンドの音楽が流れたとしても乗れないというのは世界共通で。いくらアメリカ人はノリがいいと思っていたとしても、実はそうでもなかったりするんですよ」

――なるほど~。ちなみにSeihoさんがアメリカ・ツアーでいちばんおもしろかった場所はどこですか?

Seiho「ボルティモアですね」

starRo「あー、言ってましたね。それはどういうショウだったんですか?」

Seihoコ・ラ(CO LA)というボルティモアのアーティストと、日本から来た僕らが一緒にやったんですけど、オーガナイズしてくれたシフォンっていうバンドもおもしろくて、ボルチモアに着いたらまずその日に泊まるところへ連れて行かれたんです。そこは僕らが出るショウの出演者のほとんどがルームシェアして住んでいるようなところなんですよ。楽器とかも置いてあるので、そこでみんなで作業して、その後にショウに行って。ショウではセンチネル(SENTINL)っていうナイト・スラッグス関連と仲の良い奴がユリの花を持ってずっと踊っていたり(笑)」

――去年、Red Bull Music Academyのカラオケ館でやっていたイヴェントで、Seihoさんもユリの花を片手にDJしてましたよね!?

〈RBMA PRESENTS LOST IN KARAOKE 2015〉。昨年10月に東京・上野にあるカラオケ館上野本店の7つのカラオケ・ルームでさまざまなDJ陣が同時パフォーマンス。その模様をライヴ・ストリーミング配信したセンスが良すぎるイヴェント

Seiho「そうです、そうです。僕も日本でそういうことをやっていたので、アメリカへ行ったら〈おんなじことしてる奴おんねや(笑)、すげえな〉と思いましたよ」

――ハハハハハハ(笑)。

Seiho「あと照明なんかも自分たちで持ち込んで、〈俺らは赤と青のライトが好きや〉とか言って点けたり……そういうのがいいなと思って。コラも卓上の電気スタンドひとつだけでそれ以外の照明は全部消してもらっていて、その唯一の電気スタンドもショウの真ん中あたりで消して、真っ暗のなかでやったりしていたんです。あと、ライヴのラストにティッシュペーパーをみんなに配るんですよ、よくわからないんですけど(笑)。そういった手の届く範囲の演出というか、僕はもともとそういうことが好きなので、いいなと思いましたね。これはアメリカの話と関係ないんですけど、2000年あたりからオーディオ・ヴィジュアル・ブームみたいなものがあって、日本だと過剰にオーディオ・ヴィジュアルが注目されて、逆に音はどんどん単純化していくという傾向がありましたよね。僕はそういうことにあんまりしっくりきていなかったので、音楽をより複雑にするために演出をなるべく身近にしていく方向で考えていたから、ボルチモアへ行ってティッシュペーパーを配っているのを見た時に、〈こういうことか……〉と思いましたね、ハハハ(笑)」

一同「ハハハハハハ(笑)」

コ・ラの2013年のライヴ映像。やはりラストにはティッシュを……

 

――そのティッシュペーパーは配られるだけで何も起こらないんですか?

Seiho「でもそれが……なんか綺麗なんですよ」

starRo「シュールな感じですよね」

Seiho「そのシュールさが過剰じゃないところもいいな~と」

――でもSeihoさんは衣装もそうですし、ユリを持ってDJしたりといった独特の世界観を持っているから、海外でも注目されやすいですよね。

Seiho「ハハハハハ(笑)」

starRo「そうそうそう、絶対そう。やっぱりキャラは大事ですよ、いろんな意味で」

――海外での活動も増えているようですし。

Seiho「いやいや全然そんなことないです。もっと行きたいですね、2016年は」

――全然話は変わるのですが、日本でSoundCloudを利用しているリスナーはよっぽどの音楽好きくらいしかいないのでは……という状況で、本当にもったいないと思うんですよね。

starRo「SoundCloudはほとんど使われていないですよね。インターネットの力は日本のほうが弱い感じがします。SoundCloudのユーザーの比率を教えてもらったんですけど、日本は全体の1%にも満たないそうです。日本って、世界でも5本の指に入る音楽市場じゃないですか。それを考えるとかなり低いですよね。アメリカとヨーロッパがほとんどを占めていて、日本はその他のなかに入る」

――そうなんですか……。音楽に興味がない国ではないのに、なぜでしょう。

starRo「単純に、SoundCloudにあがっている音楽へのニーズがないってことですよ」

Seiho「だと思います」

――つまりそういうことですよね(泣)。

starRo「日本にはカラオケ文化があるので、それが日本の音楽を牽引していると思います。売れる曲も、カラオケで自分が歌えると思った曲を買うわけじゃないですか。SoundCloudにはそういう曲はあがっていないわけで、やっぱり作り手もカラオケで歌えるような曲を作っているだろうし。カラオケがあるおかげで、クラブに行く人口がすごく少ない」

Seiho「アメリカだと逆にクラブがカラオケですもんね」

starRo「そうなんですよ。友達と飯食って、これからどこ行く?ってなると、クラブへ行きますからね。そこの違いです。さっき言っていたカラオケ館でのRBMAのイヴェントがそれを象徴してると思いますよ」

――わ、確かに……! でもあれは悔しくなるほどおもしろかったですね。ということで、そろそろ締めに入ろうかと思いますが、お2人の今後の予定などを伺えますか?

Seiho「3月にUSツアーを予定しているのと、5月にはソロで3作目のアルバムをリリースする予定です

※詳細は今後発表されるとのこと

――Seihoさんのソロ作については、次いつ出るんだろー?と思っていたので楽しみです!

starRo「(前作『ABSTRKTSEX』から)しばらく経ってますもんね」

Seiho「しばらく経った、ほんまに」

starRo「ところでDay Tripperはどうしてるんですか?」

※Seihoが2011年に立ち上げたレーベル。これまでに自身の作品のほか、MadeggやRyuei Kotoge、マジカル・ミステイクスなどのCDやカセット作品をリリースしている
https://soundcloud.com/day-tripper-records

Seiho「Day TripperはPARKGOLFの『Par』を去年の4月に出してから止まっていて、今年のリリースは考えているんですけど、レーベル運営より他にやりたいことも増えてきてるので」

PARKGOLFの2015年作『Par』収録曲“Glass City Billiards”

 

starRo「アーティストがレーベルをやるって難しいですよね。やっぱり自分(のアーティスト活動)を優先すべきじゃないですか」

Seiho「それこそ2010年に共感して出会った面々とイヴェントをやったり、僕がレーベルをやったりして一緒に動いていたんですけど、2015年になるとそういう人たちとちょっとずつ会う機会が少なくなって、また違う人たちと出会うようになった。これを寂しいと捉えるのか、新しい出会いと捉えるのか、それは人それぞれやと思うんですけど、そういう時期やったなーと」

starRo「僕はいまちょうど2つ(の作品を)やっていて、ボスコという女の子とのユニットと、自分個人のEPのリリースを予定しています。自分の作品はどうしても後回しになっちゃうんですよね。僕的にはいろんなものを混ぜた作品を作りたいので、Soulectionとは別のレーベルから出すことになると思いますよ」

starRoの最新楽曲“Relapse”