98年12月9日にリリースされたシングル『Automatic / time will tell』でデビューして以来、常に親しみやすさと革新性を兼ね備えた数々の楽曲を生み出し続けてきた宇多田ヒカル。15歳にしてトップ・アーティストの仲間入りを果たし、『First Love』(99年)では日本一のCDセールスを記録するなど、その活動を語るうえでは多くの数字が否応なくついてくるものだが、宇多田の音楽がそれ以上の意味合いをもって受け手それぞれの記憶に深く作用してきたことは――例えばドラマ「First Love 初恋」(2022年)によって“First Love”がリヴァイヴァルした現象を挙げるまでもなく――褪せることなく愛されている名曲の数々が証明済みだろう。
そんなふうに積み上げられてきた25周年を祝してこのたびリリースされるのが、アーティスト自身が収録曲をセレクトしたCD2枚組による初のオールタイム・ベスト『SCIENCE FICTION』だ。全26曲の収録曲のうち“Addicted To You”と“光”“traveling”の3曲はこのアルバムのために新たにレコーディングされたもので、さらに10曲は新たなミックスで収録。また、TVドラマ「君が心をくれたから」主題歌となった最新シングル“何色でもない花”に加え、書き下ろしの新曲1曲も収録されている。
25年間のキャリアを支えてきたファンへの感謝と、常に自身の創造性をアップデートし続ける宇多田ヒカルのアーティスト性を浮かび上がらせた、まさに25年を経なければ創り得なかったアルバムになっていると言えるだろう。もちろん単純にとんでもなくいい曲ばかりが揃っているという意味で、いまから宇多田ヒカルの音楽に深く入り込んでいくという新しいリスナーにとっては、素晴らしい今作がまたとない入門編になるであろうことは言うまでもない。