活動10周年目のファースト・アルバム『あなたのあな』をリリースした〈下ネタのナポレオン〉ことクリトリック・リスに、プロインタヴュアーの吉田豪氏が直撃! このロング・インタヴューの後編では、成り行きで始まったクリトリック・リスの活動に対する葛藤や、独自のサイケデリック観、カツラについてなどを語ってもらった。

★前編はこちら

クリトリック・リス あなたのあな TOWER RECORDS(2015)

 

自分をスカム・バンドだと思ってはいない

――ライヴ・デビューの後は、もっとちゃんとしようみたいな感じになっていくんですか?

「いや、ちゃんとしようとはいまだに思ってないんやけど」

――ちゃんとしようと思ったら、まずは名前を変えるはずですからね(笑)。

「そうそう(笑)。しばらくは二足のわらじで会社員しながら、趣味で活動していて」

――もう仕事は辞めたんですよね?

「3年前に辞めてますね。僕が仕事を辞めるきっかけにもなったんですけども、活動を続けるうちにクリトリック・リスの名前がどんどん知れ渡って、ホンマにプロをめざしてる人とか、セミプロみたいな人たちと対バンするようになったんですよ。それで、僕がお客さんを煽ったり、チ●ポ出して走り回ったりしてるのが、ちょっと失礼かなと思うようになってきて」

――そのへんは社会人としての常識があるんですね(笑)。

「これね、タワレコのレーべルからCDを出したのに言いにくい話なんですけど(笑)。タワレコの梅田NU茶屋町店でミドリのインストア・ライヴがあって、僕が前座で出させてもらったんです。ミドリも過激なパフォーマンスを売りにしとったし、そのオープニング・アクトっていうんで、あの……全裸になって、エスカレーターを降りてエレヴェーターで上がってくるパフォーマンスをしたんですよ」

――うわー! そういうの絶対問題になりますよね(笑)。

「まだSNSが発達してない時代だったんで助かったんですけども、そのときの店長さんが始末書を書かされたんですよ」

――うわ~……。

「僕も社会人やってたんで、そのことがかなりショックで。それで謝りに行ったら、〈いやスギムくん、いいきっかけを与えてくれた〉と言われて、ホンマにタワレコを辞めはったんですよ!」

――ダハハハハ! 店長を辞めさせちゃったんですか!

「その人はこの間もライヴを観に来てくれはったんで、悪い印象を持たれてなかったと安心しました(笑)。そういう真剣に働いている人に迷惑をかけたくないですよね。僕もサラリーマンだったし、何回もお客さんに謝りに行きましたし。僕もこう見えて最後は部長まで行ったんで、やっぱり部下の不始末とかで謝りに行くこともあって」

――普段はそういうちゃんとした側の人のはずなのに。

「それがプライヴェートというか、そういうところにミュージシャンとして出演したら、ちゃんとした社会人の方に迷惑をかけてしまっているわけですよ。これから音楽で食おうとか、すでに音楽で食ってる人、観に来てくれているお客さんに不快な思いをさせていると気付いたときに、お金を出す価値のあるレヴェルまで持っていこうと思うようになって」

――フルチンは良くない、やっぱりパンツは履かなきゃいけない、みたいな?

「そう、絶対にチ●コは出さんって決めたんですよ! いまでも酔っぱらったお客さんが僕のパンツをずらそうとするけど、絶対に」

――そこは死守(笑)。

「僕、毎回ライヴのときにパンツを3枚履いているんですよ。」

――ダハハハハ! 何かアクシデントがあっても大丈夫なように(笑)。

「そうそうそう!」

――チ●コも出さないし、音楽的にも恥ずかしくないものにしていこうと。

「そうですね。だからいまだに後ろめたいというか、音楽的には全然そこまで及んでいないのも自覚してますけど、せめてライヴはお金を払ってもらえるようなレヴェルまで持っていきたいなって意識が常にありますね」

2008年のライヴ映像。パンツがピカピカ光っている

 

〈COMIN' KOBE '15〉出演時の映像。衣装はビッグバン・ベイダー

 

――ちなみに、音楽的には何の影響を受けてるんですか?

「あ~、ホント言うと、60~70年代のサイケデリックなのが好きですね。社会人になって、オルタナに行った後はそういったものを集めてた時期があって。まぁ日本で言うサイケって、オシリペンペンペンズシャッグスみたいなのも入る、訳のわからんジャンルじゃないですか。そういうアウトローな人らが作る、自分の聴いたことがないような音楽に刺激を受けたり感動したりしますね」

――その結果、自分のやっている音楽は必ずしもサイケデリックと呼ばれるジャンルではないけれど。

「僕もそういうのを出したいねんけど、いまだにテクニックや知識がついてきてなくて。GarageBandとLogicを使いながらトラックを作ってるんですけど、基本的に僕が作った曲は全部4分の4拍子で、BPM120なんです。だから変拍子も作れないし、初めの設定のまま作っとって。だから、やろうと思ったらできるんかもしれんけども、それをやることによってどうなるかの自信もないし、そもそもできるレヴェルではないっていう」

――能力があれば、もっとサイケデリックになる可能性が?

「う~ん……そうですねぇ~。やってみたいというのはありますよ。長ーいギター・ソロを入れたり、ファズを使ってガーッと歪ませたりとか。でも、お客さんもそれを求めてないし」

――まあ、そうですよね(笑)。

「自分ではそういうのを求めながらできてないってところが、結果的にまぁまぁおもしろいものになっているのかなと思ったりもしますね。だから、僕はよく〈スカム〉って言葉を使うんですけど、自分のことをスカム・バンドやって思ってはいないんですよ。〈スカムを狙ってやるのが一番恥ずかしいことだ〉みたいなことを山本精一さんも言ってましたし、僕もその通りだと思うんで、ちゃんとしたもんは作りたいねんけど」

――どうしてもスカムと呼ばれるものになってしまう。

「そう。でも、結果オーライかなと思ってるんですよ。今回CDを出して、いろんな人から〈トラック、スカスカやな〉って言われて、僕としては心外なんですけども(笑)。僕はこういう音楽を作りたくて作っているし、自分としてはわりと一生懸命に作った結果がスカスカなわけで」

――能力の限界である、と(笑)。でも、本業を辞めて生活はできてる感じなんですか?

「一応やっぱり、サラリーマンを辞める前に数年ちょっとは遊んで暮らせるくらいのお金は貯めたんですよ」

――それは本気で音楽に取り組もうとしていたから?

「そうですね。ただホントは、1年くらいクリトリック・リスを真剣にやってから、もう1回会社員に戻ろうとも思っていたんですよ。辞めた会社のお客さんとかも周りの人たちからも、〈いずれは戻ってきて〉みたいに言ってもらえとったんで。それがもう3年も経っちゃって、加茂さんと会うてこんなことになっちゃったりとかで、もう戻れないですよね。辞めた最初の年は、仕事関係の年賀状が100枚くらい来てましたけど、今年は3枚でしたからね(笑)」

――もう、こいつは戻ってこないと確信されて(笑)。

「しかも、〈あいつパンイチでやってるらしいぞ〉みたいになってるみたいですね(笑)。〈がんばってるやないか〉みたいなメールが過去の会社の人から来たりもしますね」

――それは腹括らざるを得ない状況じゃないですか。

「いや~でもね、僕は結婚もしてるんですけど、嫁のとこも自分の両親にも、クリトリック・リスをやってることは言ってないんですよ」

――ええっ!? じゃあ、なんて言ってるんですか?

「前の会社のツテで独立して、自分で勝手にやってると。向こうの両親も僕の親も、〈全国を毎日回っとって大変やね〉みたいに思ってますね」

――音楽活動じゃなくて営業で飛び回ってることになってるんですね。どうするんですか、もしパンイチで歌ってる姿を見つけられたら。

「もうホンマに、それはごまかすしかないですね」

――まさかCD(『あなたのあな』)のジャケがイラストなのもそういう理由ですか?

「いや、これは加茂さんに言われたんです。最初の案は、キング・クリムゾンの〈宮殿〉みたいな僕の顔のどアップやったんですよ。インパクトあるなと思ったし、レーベルの担当さんはOKしてくれたんですけど、加茂さんからは〈こんなオッサンのどアップ、誰が買うねんや〉と(笑)」