INTERVIEW

歌も演奏もすべて自分、ジェイコブ・コリアーとは何者か? 来日迫るニュー・タイプの音楽家がYouTube発のサクセスを語る

歌も演奏もすべて自分、ジェイコブ・コリアーとは何者か? 来日迫るニュー・タイプの音楽家がYouTube発のサクセスを語る

欧米で注目を集める若きマルチ・ミュージシャン、ジェイコブ・コリアーの初来日公演が3月7日(月)、8日(火)にブルーノート東京で開催される。ロンドンの音楽一家に生まれ育ち、アカペラ&楽器演奏の多重録音パフォーマンスをYouTubeで配信して一躍話題に。大物ミュージシャンも彼を絶賛し、まずはジャズ畑から台頭を果たしつつあるが、ヒップホップやビート・ミュージックなど同時代の最先端をフラットに吸収したセンスも卓越しており、独自のパフォーマンスをステージ上で再現するためにマサチューセッツ工科大学とタッグを組むなど、新世代らしいサクセス・ストーリーは加速する一方だ。今回は音楽ジャーナリスト/ライターの原雅明が、来日直前の奇才に迫った。 *Mikiki編集部

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ジェイコブ・コリアーとは何者か? 才能溢れるミュージシャンを流動的に組み合わせて、ジャズやR&Bからワールド・ミュージックまで音楽シーンを自在に横断していく音楽コレクティヴとして多方面から注目を集めているスナーキー・パピーが、ニュー・アルバム『Family Dinner Vol.2』でフィーチャーした新鋭アーティスト、とひとまず紹介しておこうか。しかし、彼は単なる新鋭と呼ぶには、すでにあまりにも有名な存在になっているのだ。

それは、ネットを中心にこの1、2年の内に起こったことで、自身がアップした演奏動画がその引き金となった。スティーヴィー・ワンダーの“Don't You Worry 'Bout A Thing”を一人でアカペラと多数の楽器を演奏して多重録音でカヴァーしてみせた映像は特に有名で、2013年に公開されてから現在までに130万回近く再生されている。他にも、映画「夢のチョコレート工場」で主演のジーン・ワイルダーが歌った“Pure Imagination”や、バート・バカラックの“Close To You”のカヴァーなども同様に一人で多重録音をし、そのプロセスも動画に撮って編集してYouTubeに公開している。

ネットに自分の演奏を公開することは何ら珍しいことではないが、ジェイコブ・コリアーは、あらゆる楽器を自分一人で操り、その演奏スキルも圧倒的に高く、出来上がった音楽も多くの人を惹き付けるだけの魅力があって、さらに驚くほどに若いのである(94年生まれ!)。すべてが映像としても示されるから、説得力は十分だ。それに、若いというよりもまだあどけなさが残る顔で、冷静沈着かつ実にあっけらかんと凄い演奏を見せ、そのうえ、ハービー・ハンコックパット・メセニーなど第一線級のミュージシャンからの絶賛の声も伝え聞く。突如ネット上に登場した才能ある若者という、そのあまりに出来すぎな登場の仕方は、もしかしたら壮大なフィクションなのかと思わせたほどだ。

とはいえ、ジェイコブ・コリアーの存在はジワジワとネットから現実世界へと浸透し始めている。クインシー・ジョーンズの後押しで〈モントルー・ジャズ・フェスティヴァル〉に出演したり、前述のスナーキー・パピーに曲を提供して録音に参加するなど、次第に、生身のジェイコブ・コリアーの姿が見えてきた。特に、スナーキー・パピーの曲では、同時代の音楽への鋭い感覚も感じられ、単なる早熟な才能というに留まらないポテンシャルを示している。

まだ一枚もアルバムをリリースしていない(現在制作中だというが)新人アーティストとしては、異例なほどの注目度の高さだが、間もなく日本にもやってきてライヴを披露することも決まっている。それも一人だけの単独公演だ。いったいどんなライヴ・パフォーマンスを見せるのか、そのことも含めて、この注目すべき才能にインタビューを試みた。

“Close To You”のカヴァー映像。ヒップホップ的なビートや、聖歌を思わす多重コーラスを用いたアレンジも見事

 

――ロンドンで生まれ育ったそうですが、まずは幼少期のことから訊かせてください。

「僕は音楽一家のなかで育ったんだ。だから音楽というものが常に身近にあって、思い付く限りのたくさんの音楽のスタイルを聴いたり、探求したり試してみることを勧められたよ。音楽は僕にとって表現するための言葉の一つになったんだ。核にあるものが正しければ、音楽を通してもっと表現することができると思うよ」

――YouTubeで公開したような多重録音はいつから、どんな理由で始めたんですか?

「きっかけは学校のプロジェクトのためにいくつかミュージック・ビデオを作った時に、僕の友達がYouTubeでシェアすることを勧めてくれたからだよ」

――多重録音をする際にはどんなプロセスでやっているんですか? 作曲や演奏はもちろん、最終的なミックスまで一人でやっているようですが、何かコツみたいなものはあるんでしょうか?

「曲を作る時は僕の部屋で一人で行うんだけれど、僕の家族も一緒に住んでいるからたくさんの楽器で溢れているし、その部屋の中で僕の人生の大部分を想像力と共に費やしてきたよ。その部屋が僕のすべて。そこですべての演奏、録音、プロデュースをしたり、友達とジャムしたりするんだ」

“Pure Imagination” のカヴァー映像。〈一人テイク6〉と形容したくなるアカペラ・パフォーマンスが圧倒的

 

――ベッドルーム・ミュージシャンという感じですね。バンドでの活動歴はありますか? セッションをすることと、一人で多重録音をすることでは、どちらかにプライオリティーを置いているのでしょうか?

「僕は他の人たちと演奏するのが大好きだよ。いつも僕一人だけでは作り出せないものをもらえる気がするんだ。一方で、一人で音楽を作る時は何か不思議な力が働くんだ。でも、周りの支えがなければ一人というのは成り立たないからね」

――あなたの音楽にはさまざまな音楽からの影響が窺えますが、特に自分に影響を与えた音楽、ミュージシャンは?

「できる限りすべてのジャンルの音楽を聴こうとしているんだ。でも特に西アフリカの音楽やキューバ音楽は僕の音楽のリズムやグルーヴに影響していると思うな、例えばスライ&ザ・ファミリー・ストーンアース・ウィンド&ファイアとかね。さらに言えばアカペラ・グループ、特にテイク6の大ファンなんだ。でもクラシック奏者のストラヴィンスキーベンジャミン・ブリテンも好きで聴くよ」

――自分と同時代で共感を覚える、あるいは興味を持っているアーティスト、ミュージシャンは誰ですか?

ディアンジェロの大ファンなんだ! 彼の新しいアルバムは最高だよ。あとこちらも最近アルバムを出したばかりの、クリス・シーリがリーダーのパンチ・ブラザーズも大好きだな。ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』は新しい音楽を打ち出したパイオニア的な存在だと思うし、フライング・ロータスも同じく誰も思いつかない、とんでもないアイデアの持ち主だよ!」

ジェイコブのマイケル・ジャクソン“P.Y.T.”のカヴァー映像。本人の発言通り、キューバ音楽からフライング・ロータスまで多様なエッセンスを感じさせる

 

――YouTubeをはじめ、インターネットはあなたの音楽を広めるうえで重要なメディアとなりましたね。それは音楽活動をする際にどのような価値を持っていますか?

「インターネットは素晴らしい場所だと思う。クリエイティヴな人たちにとっては無限の可能性があるよ。その一方で、入り込みすぎると危険な場所でもあるけれどね」

――スナーキー・パピーの録音に参加した経緯を教えてください。参加した“Don't You Know”という曲で、あなたが行ったことは?

マイケル・リーグ(スナーキー・パピーのリーダー/ベース)とはずっと交流があって、お互いに何かできたら良いねと言い合ってたんだ。で、ついにその機会ができたのさ! “Don't You Know”は僕が作曲したんだ。ちなみに、僕のソロ・ヴァージョンはこの夏リリースされるアルバムに収録される予定だよ」

ジェイコブとスナーキー・パピーの共演ライヴ映像

 

――UKのピアニストで、あなたとは親子ほども歳の離れたジェイソン・レベロの“In The Thick Of It”という曲にも参加していますが、これについては?

「同じくジェイソン・レベロとも交流があって、何か一緒に作ろうってことになったんだ。彼は僕の大事な友人だし、たくさんのことを教えてくれたよ」

ジェイソン・レベロの2013年作『Anything But Look』収録曲“In The Thick Of It”

 

――あなたの音楽については、さまざまな世界のミュージシャンが絶賛の声を寄せていますね。まだソロ・アルバムを一枚も出していないのに、これだけの注目を集めている状況をどう感じてますか?

「本当に嬉しいし、想像もしていなかったことだね! でもそれが僕の音楽への気持ちを変えるわけではないな。僕の人生の一部として捉えている。この夏に僕の曲を世界中のファンとシェアできることが本当に楽しみだしゾクゾクするよ! それこそ僕の長く望んでいたことなんだ」

――いま一番、共演してみたいアーティストは?

「スティーヴィー・ワンダーかな!」

 

Stevie.

Jacob Collierさん(@jcolliermusic)が投稿した写真 -

左から、ジェイコブ、ハービー・ハンコック、クインシー・ジョーンズ、チック・コリア

 

――マサチューセッツ工科大学で半年間に渡って行ったというプロジェクトについて、詳しく教えてください。

「僕はワンマン・ショウのなかで使えるような調和、リズム、ループのテクノロジーに時間を費やしていたんだ。2つの3Dカメラを使って、ステージの後ろにある巨大なスクリーンに映像を写したりする技術を開発したり。実際に聴いて、観ることができるんだ。例えばループの手法を使って、スクリーンを通してたくさんの僕をステージに登場させたりね」

――これから、どのような方向へと自分の音楽を発展させたいと思っていますか?

「しばらくは僕のデビュー・アルバムとショウに集中するよ。その後は、風に身を任せて行けるところまで行く。アルバムはこの夏にリリースされる。言葉では説明できないくらい自分でも楽しみなんだ」

――来日公演はどのようなステージになるのでしょうか? いまはあなた一人のクレジットしか発表されていませんが、ソロ・パフォーマンスですか?

「そう、僕のソロ・パフォーマンスになるよ。たくさんの楽器に囲まれながら、後ろに3Dスクリーンを映し出しながらの演奏になる。間違いなくグルーヴとハーモニーを体感できるショーになるはずだ。最高のパーティーになるはずさ、是非来て感じてほしい!」

photo by Lionel Flusin

 

話を訊いていて、ニュー・タイプのミュージシャンが現れたことを実感した。録音にせよ、ライヴ演奏にせよ、テクノロジーを駆使する人はたくさんいても、すべてを一人でやってしまおうという野心家は稀有な存在だろう。マサチューセッツ工科大学でのプロジェクトの成果も反映した、3Dスクリーンと複数の楽器を駆使したソロ・ステージは、一人ですべてをコントロールした〈生多重録音〉とでも言うべきものになるのか――実のところ、観てみないと想像もできないでいる。一人で複数のハーモニーを作りつつ、まるでジェイムズ・ブレイクのように“Tennessee Waltz”をソロで歌う映像があるが、ソロではあるがソロとは言えないような、ライヴと録音の中間にもあるような、そんなステージになるのかとも思う。いずれにせよ、このフレッシュな才能をいま観ることができる貴重な機会となるはずだ。

 

 

The EXP Series #05
ジェイコブ・コリアー
presented by Quincy Jones Productions

日時/会場:2016年3月7日(月)、8日(火) ブルーノート東京
開場/開演:
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:20/21:00
料金:自由席/6,800円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
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