左から、星原喜一郎(New Action!)、麻生潤(SYNCHRONICITY)

 

〈未来へつなぐ出会いと感動 – CREATION FOR THE FUTURE – 〉をテーマに、グリーン電力を使って、音楽のみならずライヴ・ペインティングや映像、ダンス、パフォーマンス、デザインなどさまざまなアートをクロスオーヴァーさせているフェスティヴァル〈SYNCHRONICITY〉。2005年にスタートし、以降は規模と音楽的な多様性を拡張している同フェスが、今年は4月24日(日)に東京・渋谷のTSUTAYA O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nestの4会場にて行われる。

今回の〈SYNCHRONICITY'16 - After Hours -〉は、先日ヴォーカリスト・深川哲也が脱退するという衝撃的なニュースが発表されたenvyMONOdownyの3組が新しく立ち上げるフェスティヴァル〈After Hours〉のキックオフも兼ねたコラボレーション開催。さらに、東京のライヴハウス・新宿MARZの店長にしてDJとしても精力的に活動する星原喜一郎主催のロック・パーティー〈New Action!〉がO-nestのディレクション/進行を担う。アンダーグラウンドのカリスマたちによる新生フェスとポップなインディー・パーティーという対照的な2つの要素が加わったことで、サウンド的にも楽しみ方の面でも、さらに拡がりが出ることは間違いない。

それにしても、これらカラーの異なるイヴェントを取り込んでもなお、同フェスらしさを目減りさせることなく、むしろコスモポリタンな魅力を増していく〈SYNCHRONICITY〉自体の強固な個性はどこに起因しているのか。Mikikiではその謎に迫るべく、〈SYNCHRONICITY〉の立ち上げ時から主催を務める麻生潤と〈New Action!〉の星原の対談を設けた。コラボレーションに至った経緯や、自分より若い世代の〈New Action!〉に感じた魅力を語る麻生の発言からは、溢れんばかりの音楽愛、新鮮なサウンドを求め続ける飽くなき好奇心がストレートに伝わってくる。10年以上に渡り、多くのオーディエンスを魅了し続ける〈SYNCHRONICITY〉の真髄を、その口ぶりに見た。

 

――まずは〈SYNCHRONICITY'16 - After Hours -〉の全体像から。星原さんは今年のラインナップを見てどんな感想を持たれました?

星原喜一郎(New Action!)「僕は一度も〈SYNCHRONICITY〉に遊びに行けてないんですよ。以前はポスト・ロックのイメージが強かったんですが、少しずつラインナップは変化していってる印象ですね。今回も〈New Action!〉のステージだけでなく、ほかのステージも幅広いアーティストが揃っている。核となるものがしっかりありつつ、年々拡がってきているように思います」

麻生潤(SYNCHRONICITY)「実は〈SYNCHRONICITY〉にはもともとはポスト・ロック的な要素はそんなにないんです。僕自身はダンス・ミュージックが好きだから、立ち上げ当初はブラック・ミュージックやジャムの要素が強かった。今回は出演しませんが、もともとはcro-magnon犬式SOIL & "PIMP "SESSIONSのようなバンドが中心になっています。また、渋さ知らズオーケストラにはいつも出演していただいていて、彼らは〈SYNCHRONICITY〉の核とも言えるくらいの存在。今回に関して言えば、〈After Hours〉とのコラボレーションが早い段階で決まり、それを最初に発表したから、envy、MONO、downyというポスト・ロック的なイメージが強かったんじゃないかな。今回はその要素を大切にしつつも、攻めたり試したりしながらバランスを考えてブッキングを組んでいきました。最終的にとんでもないラインナップになったなと思います(笑)。このフェスはクロスオーヴァーをとても大切にしていて、ジャンルや世代を超えていろんな音楽や人が混ざり合い、新しい発見やワクワクが常に生まれる空間にしたいと思っている。ワクワクと感動は僕自身の人生のテーマでもあるんですけどね」

――渋さ知らズオーケストラが〈SYNCHRONICITY〉の核だという理由を教えてください。

麻生「僕にとって渋さは〈ザッツSYNCHRONICITY〉みたいなアーティストで、彼らの音楽は日本のソウル・ミュージックだと思うんです。いろんなジャンルの音楽や表現、喜怒哀楽のすべてが渋さのなかにあって、めっちゃエグかったり混沌としていたりもするんだけど、最後は日本のお祭り的な要素と共に歓喜へと昇華する。それは音楽、人、表現などのクロスオーヴァーや希望を大切にしている〈SYNCHRONICITY〉を体現していると言っても過言ではないです」

渋さ知らズオーケストラの2014年のライヴ映像
 

――2005年に代官山UNITにて初開催された〈SYNCHRONICITY〉が今年11年目を迎えました。フェスティヴァルとして、もっとも変化した点は?

麻生「〈SYNCHRONICITY〉は当初はクラブ・カルチャーとライヴ・カルチャーの融合をコンセプトにスタートしたんです。2005年頃はまさにそういうクロスオーヴァーが起きようとしているときで、その動きがすごくおもしろくてね。クラブの会場でSOIL & "PIMP" SESSIONSがライヴやったり、ライヴハウスにもようやくDJの機材が整ってきて、DJが出演したりという時期だった。僕はそのどちらの音楽も好きで、それぞれのお客さんに違うシーンの魅力を伝えたいと思って〈SYNCHRONICITY〉を立ち上げた。ただ、途中からクラブ・カルチャーそのものが衰退していったんです。いま星原くんがいるのは、クラブというよりライヴのシーンに近いと思うんだけど、ダンス・ミュージックを中心としたいわゆるクラブ・カルチャーの衰退&音楽シーンの二極化が進み、うちのお客さんもそこを求めなくなっていった。それはある種ショックな出来事だったんだけど、考えた末に結局DJフロアをなくしちゃって、よりライヴ感の強いものにしたんです。ラインナップからDJがなくなったのが、フェスとしては最大の変化だと個人的には思います。MOODMANDJ HIKARUくん、KENTARO IWAKIくんとかSHIRO THE GOODMANとか、いろんなDJに出てもらっていましたから。彼らの音楽の素晴らしさには変わりがないですけどね」

――麻生さんから見て、テクノやハウスのクラブ・カルチャーが衰退していった理由はなんだと思いますか?

麻生「日本は風営法の問題もあってなかなか拡げにくかったとよく言われているけれど、それは本質ではないと思うんです。以前は、そのとっておきの場所へエッジの立った若者や、ぶっ飛んだセンスを持ったクリエイターが自発的にたくさん集まって新しい価値観というものを発信していた。そんなお洒落さがありましたよね。だけど、いまはそうじゃなくて、均質化され大衆化されたものになってしまった。で、理由は本当に難しいんだけど、1つ大きなことは、作り手側がその場所に安住してしまって、刺激的な場所作りにトライしてこなかったというのはあると思います。さっき〈ワクワクと感動〉と言ったけれど、それは新しいチャレンジにこそあるものなんです。時代はどんどん変化していくし、僕らは歳を取っていく。だから、その〈ワクワクと感動〉を呼び覚ます挑戦が大切なんです」

――なるほど。そのなかで麻生さんはNew Action!のどういったところにおもしろさや刺激を感じているんですか?

麻生「そもそものきっかけは友人のAnchorsongから〈New Action!というイヴェントに出演するから遊びに来てよ〉と言われたことでしたね。そこで、どういうイヴェントかをチェックしてみたら、いま僕がすごくおもしろいと思っているラインナップが並んでいた。〈これはヤバイぞ〉と思って遊びに行ったんです。LUCKY TAPESHAPPYSuchmosYogee New Wavesなど、いま現場感があるアーティストと言うのかな。時代の先っぽにある音楽というものをしっかりキャッチしていて。すごくクールなイヴェントだと思いました。1年半くらい前になるのかな」

星原「2014年の年末にヨギーと共催した〈New Action!〉ですね」

Yogee New Wavesが〈New Action!〉と共催した〈UTOPIA SHANGRI-LA TOGENKYO〉でのライヴ映像
 

麻生「それが僕の頭の中にずっと残っていて、今回のO-nestに繋がっていきました。アイデアはいくつかあったんだけど〈いまいちばんやりたいこと、伝えたいことはなんだ?〉と考えた末に辿り着いたのが〈New Action!〉でした。ただ、そのときは星原くんと面識がなかったので、知人を辿って紹介してもらいましたね」

星原「声をかけられたときは単純に嬉しかったですね。僕もフットワーク軽くおもしろいと思えるものにはなんでも参加したい人間なので、即やりたいなと」

麻生「いつも思っていることなんですけど、人にはそれぞれのカラーがあって僕がやると必ず僕のカラーになるんです。〈SYNCHRONICITY〉ももちろんそう。でもそういうのはおもしろくなくて。だから、新しいエッセンスや刺激、異質さを常に採り入れたいと思う。星原くんとは10歳違うから、当然考えていることや感覚も違う。それが自分には刺激になりますね」

星原「〈New Action!〉は始めて7年目くらいなんですけど、クラブとバンドをいかに共存させるかということを考えて続けてきたんです。なので〈SYNCHRONISITY〉とはシーンは違っていても方向性は一緒なのかなと思います」

麻生「星原くんはロック系のDJで、僕がさっき言っていたダンス・ミュージックのクラブ・カルチャーとはまた違うんですけど、そういう方向性は一緒ですよね。僕もロック寄りのDJで知っている人間も何人かいて、例えば西村道男は親しいんですけど、彼とは年齢も感覚も近いから何かを一緒にやろうとしても〈新しくて異質なもの〉は生まれづらいんですよね。〈あれ?〉という異質さが僕は大切だと思っていて、それがさらに若い世代の星原くんだとそういうものを感じることができる。道男と同じジャンルのDJなのに、違う世代の星原くんとは新鮮に邂逅できるというのはおもしろい流れだなと思います」

※東京を中心に全国各地のイヴェントに出演している人気ロックDJ

――〈After Hours〉の話も訊かせてください。今回の〈SYNCHRONICITY〉で〈After Hours〉のキックオフも兼ねることになった経緯は?

麻生「〈SYNCHRONICITY'16〉を4月24日にやるということは決まっていたんですけど、それと並行して、envy、MONO、downyで新しいフェス〈After Hours〉を始めたいという相談を受けたんです。今年の秋口に開催しようという話だったんだけど、そんなに先でもみんなのスケジュールが合わないという(笑)。で、なぜか日程の近い4月24日はスケジュールが合って、〈SYNCHRONICITY〉のなかでキックオフを兼ねてやろうとなりました。3組とも素晴らしいミュージシャンだし、人間としてカッコイイ。そんな方たちと熱いミーティングを重ねてきているので本当に楽しいですね。また、今回は〈After Hours〉が座組みに加わったことで、ちょっと異質なところからスタートしたのもおもしろかった」

envyの2015年のライヴ映像
 

――3バンドが新しいフェスティヴァルを始めようとした動機は何だと思いますか?

麻生「その3バンドはそれぞれ異なった思いもあるんですけど、いちばんはやっぱりカウンター・カルチャーの姿勢なんだろうなと思います。ただ、日本はダメだからひっくり返してやろうというものでは決してなくて、インディペンデント(自主制作的)なマインドで才能のあるミュージシャンにとって有機的な場所を作りたいという一歩踏み込んだものなんです。僕はそれぞれのバンドが大好きだけど、それ以上にそういう想いや愛情に共感しました。この出会いには本当に感謝していますね。ただ、偏ったものにはしたくないので、同時代性も大切にして、このフェスならではのカラーを持たせていきたい」

星原「〈After Hours〉の3組は、僕自身はそこまで熱心に聴いてきたラインじゃないんですよ。だからこそ一緒にできるのが楽しみです」

downyの2013年作『無題』収録曲“春と修羅”
 

――昨年の〈SYNCHRONICITY〉では、O-nestをless than TVとのコラボで運営していましたが、今年は〈New Action!〉と、2年続けてのコラボという形を執っての開催になったのは、やはり昨年の手応えがあったからなのでしょうか?

麻生「手応えというかやってしまった感(笑)。去年のO-nestも〈SYNCHRONICITY〉ではまず出会えないだろうなというバンドがいっぱい出ていて、本当におもしろかったです。〈SYNCHRONICITY〉の常連のお客さんもみんな汗びっしょりになって、〈凄すぎた〉と言っていましたよ(笑)。NATURE DANGER GANGHave a Nice Day!とかちょっと〈SYNCHRONICITY〉っぽさもあるサブカルなバンドもいたんですけど、彼らも自分の軸とは少しだけズレてはいるんですよ。でも、だからこそおもしろい。そういうアーティストも見事にクロスオーヴァーしていましたね。less than TVならではのチョイスで素晴らしかった」

※〈SYNCHRONICIY'15〉の出演者はこちら

――では、今年の〈New Action!〉ステージのなかで、麻生さん自身のラインとは違うおもしろい存在と言えば?

麻生「どこらへんだろうな……すごく多いですよ。regaは〈SYNCHRONICITY〉常連だし、DOTAMADALLJAB STEP CLUBPAELLASあたりは僕も好きでイメージはあったんですけど、それ以外は想像だにしなかった面々です(笑)。ヨギー、never young beachD.A.N.は〈New Action!〉と一緒にやる前から決まっていたけど、〈New Action!〉には、もっとフレッシュで現場感のあるものをお願いしました。星原くんはMARZの店長でもあるし、そういうリアルな現場に毎日いる人だからこその目利きで、異質感を出してほしかった」

星原「ほかのステージとは違う感じにしようとは思いましたね。〈New Action!〉自体はジャンル的に幅広く、良いなと思えるものを節操なく呼んでやっているので、縛りなく幅広いけど良い意味でバランスもとれているものにしたいなと。CAR10パブリック娘。は〈SYNCHRONICITY〉の色とはだいぶ異なると思うんですが、そこらへんの新しいところは見せたいなと。あとO-nestはバンドとラッパーと転換のDJで上手くタイムテーブルを組んで、最初から最後まで音を止めないようにします。で、最後に僕らのDJでしっかり盛り上げたいなと」

CAR10の2014年のライヴ映像
 
パブリック娘。の2015年の楽曲“Summer City”。〈New Action!〉が監修した2015年のコンピ『New Action! ~Compilation Vol.2~』に収録
 

――〈New Action!〉というイヴェント自体はどんなものをクロスオーヴァーさせているのでしょうか?

星原「いちばんわかりやすく言えば、DJとバンドとのクロスオーヴァーですよね。毎回来てくれる人もいるし、そういう人はやっぱり新しいものと出会いたいと思っているんです。なので、まずは彼らにおもしろいバンドをどんどん紹介していきつつ、次はバンド目当てで来た人に、DJというカルチャーがあることも伝えたい。毎回会場の装飾にも力を入れているし、その意味では日常と非日常のクロスオーヴァーをめざしているような面もあります」

――昨年の〈SYNCHRONICITY〉での、このフェス常連のお客さんがless than TVと衝撃的な出会いをしてくれてというのが成功例ですよね。

星原「今回もそうですけど、自分では思い浮かばないようなラインナップのなかで、普段はクロスオーヴァーしないであろうものがぶつかり合った瞬間が良いですよね」

――すべての出演アーティストがオススメなのは前提として、そのなかでもおふたりが〈いまのタイミングでこのアーティストは観たほうが良い〉とプッシュしたいアクトは?

麻生「それは非常に難しいですね(笑)。うーん。ヨギーやネバヤンといった世間的にもいま勢いのあるバンドをあえて外して言わせてもらうと、新人ではないけれど僕はMONOを観てほしい。その理由は、彼らの評価と言うか認知度が日本と海外で開きすぎているから。それはあまりにもったいないので、今回を機にMONOをしっかり知ってほしいと思っています。〈New Action!〉のステージは置いて話しましたけどね(笑)」

MONOの2015年のライヴ映像
 

星原「というと、僕は〈New Action!〉ステージから挙げたほうが良いですよね(笑)」

麻生「僕が〈New Acion!〉で1つだけ挙げるならPAELLASかな」

★PAELLASのインタヴューはこちら

PAELLASの2016年のライヴ映像
 

星原「わかります。僕も麻生さんと同じで認知度が低いバンドを観てほしいなと思っています。あ、最後の僕らのDJを観にきてほしいですね。しっかりパーティー感を出して終わりたいと思っています」

麻生「ロック系のDJと言うと〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL〉のイメージが強いかもしれないけれど、星原くんはもうちょっと幅広くてまた違う。すごくフレッシュに感じられるんですよ。この柔軟さがいまっぽい」

――最後に、世代も風貌も異なる2人ですが、一緒に準備を進めていくうえで共通していると思えた点は?

星原「なによりも新しいことをどんどんやっていこうという姿勢ですね。自分もよく思うんですけど、やっぱり若い子のほうがいろいろと詳しいんですよ。彼らの感性のほうが大事だし、自分では発案できないような彼らの感覚をわかるようになりたい。麻生さんが僕らに新鮮さを感じて、誘ってもらえたのが嬉しかったです」

麻生「新鮮さももちろんあるけれど、おもしろいものを求めるパッション、その熱の色が通じ合えているところだと思う。さっき異質さが大切だと言ったけれど、もちろんそれだけでは駄目で、深いところで共感できる部分が必要なんです。熱にも色があってそこが違うとなかなか一緒にできなかったりする。星原くんとは初めて会ったときから、同じようなカラーを感じられたんです」

 


 

〈SYNCHRONICITY'16 - After Hours -〉
日時:会場/ 4月24日(日)東京都 渋谷TSUTAYA O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、TSUTAYA O-WEST、TSUTAYA O-nest
ライヴ:envy、MONO、downy、THE NOVEMBERSBRAHMANクラムボン、渋さ知らズオーケストラ、world's end girlfriendMOROHA、D.A.N.、fox capture planjizuetoconomaJABBERLOOP、Yogee New Waves、never young beach、在日ファンクgroup_inouthe band apart、CICADA、DALLJUB STEP CLUB、DOTAMA、PAELLAS、JABBA DA HUTT FOOTBALL CLUB、パブリック娘。、SHERBETS、rega、思い出野郎Aチーム、CAR10
DJ:New Action!、Ko Umehara(-kikyu-)
VJ:矢吹和彦(-kikyu-)
ライヴ・ペインティング:Gravityfree
開場/開演:15:00
料金:5,500円(前売/1D別)
※詳細はこちら