(左から)川田晋也、加藤修平、伊藤祐樹

 

北海道・苫小牧を拠点にソリッドなメロディック・パンクを鳴らし、さまざまな世代のリスナー/アーティストから熱い支持を受けるNOT WONK、高校生の頃から栃木・足利のパンク・シーンで存在感を示し、現在はリヴァーブを駆使したインディー・ロックで人気を博すCAR10、そして、京都で自主レーベル・生き埋めレコーズを主宰し、清涼感溢れるギター・ポップ・サウンドに注目が集まるTHE FULL TEENZ――各々が離れた土地で活動しながら、数々のライヴ共演や同じコンピへの参加などを通して親交を深めている3組が、揃って5月に新音源をリリースする。

まず、NOT WONKは5月11日にタワーレコード限定でシングルCD+ライヴDVD『Going Back To Our Ordinary』を、CAR10は5月25日に5曲入りEP『Best Space. EP』を、それぞれKiliKiliVillaから発表。また、THE FULL TEENZはファースト・アルバム『ハローとグッバイのマーチ』をSECOND ROYALより5月25日にリリースする。いずれも、バンドが新しいページを開いたことが伝わる仕上がりになっており、これまで以上に多くのリスナーに届くであろう作品だ。

今回Mikikiでは、各バンドのフロントマンにして同世代の3人――NOT WONKの加藤修平(94年生まれ)、CAR10の川田晋也(91年生まれ)、THE FULL TEENZの伊藤祐樹(93年生まれ)による鼎談を実施した(伊藤はSkypeでの参加)。お互いの新作への所感からスタートし、自身が暮らす街へのアンビバレントな想い、さらに2016年ならではなローカル・バンドのあり方までをたっぷり語ってもらった。活動拠点になっている土地のムードや状況が、いかに彼らの音楽へと反映されているかを伝える、興味深いテキストになったのではないだろうか。

 

加藤くんのことをヒーローのように崇めている子たちがいた(川田)

NOT WONK Going Back To Our Ordinary KiliKiliVilla(2016)

――まず、どうしてNOT WONKは、このタイミングでシングルとライヴDVDをカップリングした作品をリリースしたのでしょう?

加藤修平(NOT WONK)「去年ファースト・アルバム『Laughing Nerds & A Wallflower』を出したんですけど、そのあとにリリースしたTHE FULL TEENZとのスプリット7インチ『SPLIT』あたりから、自分の曲がガラッと変わったんです。今回の“This Ordinary”みたいにギターがストレートにガーッと鳴っている曲はやったことがないから、ちょっと恥ずかしさもある(笑)。そういう曲が出来てきたし、ファーストのときよりも絶対上手くできる自信もあった。ライヴDVDに関しては、去年のKiliKiliVillaのコンピ『WHILE WE'RE DEAD. : THE FIRST YEAR』のリリース・ライヴの札幌編から、佐藤(祐紀)くんが、東京や札幌を中心に、僕らが全国各地で行ったライヴを1年を通して撮ってくれていたんです。それらをまとめて観たときに、自分でもバンドが変わっていっていることが若干わかった。いま並べて作品にしても、おもろいんじゃないかと思ったんです」

――川田さんと伊藤さんはNOT WONKのシングルには、どんな感想を持たれました?

伊藤祐樹(THE FULL TEENZ)「去年はライヴをよく一緒にやっていたし、ライヴで聴いた覚えもあったんですけど、CDを聴いた瞬間からヤバイ新曲を作ったなという印象でした。アップテンポな路線とメロウな路線の両方が収録されているけど、いずれも前作より奥行きがあってレンジが拡がっている」

川田晋也(CAR10)「俺も伊藤くんと同じで、ライヴでずっと新曲を聴いてたんですよ。初めて聴いたときに、セカンド・アルバムは凄まじいことになりそうだねと加藤くんに伝えました」

――“This Ordinary”は、これまでよりもハードでノイジーな楽曲になっていますね。バンドが新しいモードになった背景は?

加藤「ファースト・アルバムは予想以上に優しい音で録れたという印象があったんです。でも、ライヴではもっとタフな音だと思っていて。ライヴっぽさというと月並みな言葉ですけど、本当にこうしたいという音にしてみたいと思った。THE FULL TEENZとのスプリットに収録した楽曲“On This Avenue”以降は、ハードコアやグランジに寄った曲を作っていて、サウンドの軸にはいまもそこからズレてないですね」

――“This Ordinary”を録音するうえで、参照点にしたような作品はありましたか?

加藤シューゲイザーっぽくなったら良いなとは思っていました。メロディー自体はスタジオでいつの間にか出来ていたんですけど、その頃フレーミング・リップスにハマっていて。“Race For The Prize”あたりをすごく良いなと思っていたので、ああいったメロディー一発みたいな曲を作れたら良いなとは思っていましたね」

フレーミング・リップスの99年作『The Soft Bulletin』収録曲“Race For The Prize”
 

――7インチ・シングルのみに収録される“This Ordinary”のダブ・ヴァージョン“Disordinary”は特にリップスらしさを感じます。

加藤「あれはもう寄せていきましたね。リップスを聴いて、どう録ったらいいか、どういうミキシングしたらいいのかを研究したんですよ。ドラムのテイクを2回録って、左右のチャンネルで違うテイクを貼ったり、変に音が薄かったりといった点はリップスみたいにしようと狙って、実際にやっちゃった。出来心みたいな感じです(笑)」

――そして、DVDは10会場でのライヴから22曲が収録された80分を超える大ヴォリュームになっています。

川田「俺、(収録された)ほとんどのライヴを観てますね」

伊藤「僕も半分以上は観てるな。でもやっぱりNOT WONKのアルバム・ツアーで回ったときのライヴ(7月18日~20日)が印象に残っていますね。NOT WONKとCAR10と僕らとLINKで東名阪を回って」

川田「加藤くんのことをヒーローのように崇めている子たちがいたのは印象的でしたね。名古屋のときとか、俺とは普通に話しても、加藤くんとは憧れすぎて話せない、みたいな子もいて。これはなんなんだって(笑)。すごい現象だなと」

――おふたりから見て、NOT WONKのライヴにはどんな魅力を感じますか?

伊藤「とにかく男らしくてカッコイイですよね。加藤くんがギターをガシガシ弾く感じはビリー・ジョーグリーン・デイ)みたいだし。最初に加藤くんと会ったときは、髪も下ろしてたし、いかにも自分より年下の子って感じだったんですよ。それがいまや髪も上げ、男らしくなり、僕もますます好きになっていって(笑)」

川田「なにより音がデカイのが良いですよね。加えて音作りが上手くて、綺麗にまとまっているから聴きやすい。僕は(ベースの)フジくんのパフォーマンスがすごく好きなんですよ。アグレッシヴだし、自分に似ていると言ったらフジくんのファンに怒られるかもしれないけど、そう思える瞬間があるんです。アゴが出てるところを含め(笑)、シンパシーを感じている」

 

“Best Space”はまさにフィドラーの“West Coast”だなと(加藤)

CAR10 Best Space. EP KiliKiliVilla(2016)

――じゃあ、次にCAR10の新EP『Best Space. EP』については、どんな感想を持たれましたか?

加藤「タイトル曲はまさにフィドラーだなと(笑)。フィドラーの“West Coast”ですよね」

川田「完全にそうだよね」

フィドラーの2015年作『Too』収録曲“West Coast”
 

加藤「そのスピード感がすごいと思います。フィドラーの曲が出たのは去年で、そこで〈あ!〉と思い、すぐに曲を作って……というタイム感が羨ましい。しかも日本語詞というCAR10の新しい面も出てる。僕は川田くんが日本語で歌っているのがめっちゃ好きなんです」

川田「 “Best Space”はサビしか日本語で歌ってないし、2曲目以降のほうが日本語で歌う面はより出ていますね」

伊藤「川田さんはTheピーズが好きじゃないですか? EP全体を通じてTheピーズっぽさが出てるような気がしました。日本語詞で自分の生活の内情をアウトプットすることがいっそう推し進められたなと」

Theピーズのライヴ映像
 

――あとスカっぽい“ミルクティー”も新機軸ですよね。

川田odd eyesというバンドをやっている京都の狂犬、(カベヤ)シュウトくんからいきなり〈“ミルクティー”が好きでした〉とDMが来ました。彼はああいうのダメかなと思っていたので、ちょっと嬉しかったですね。あの曲がいちばんTheピーズっぽいと言われそうなのに、ヴァインズみたいと言ってくれた」

ヴァインズの2002年作『Highly Evolved』収録曲“Factory” 
odd eyesの2013年のライヴ映像。赤いポロシャツのヴォーカリストがカベヤシュウト

 

伊藤くんの曲はたぶん英語のほうが合わないし、そこがすごい(川田)

THE FULL TEENZ ハローとグッバイのマーチ SECOND ROYAL(2016)

――そして、CAR10の『Best Space. EP』と同日にTHE FULL TEENZのファースト・アルバム『ハローとグッバイのマーチ』もリリースされます。

川田「新作を聴いて、CAR10とTHE FULL TEENZのルーツは共通しているところがあるんだろうなと思いました。俺はTHE FULL TEENZのこれまでの音源を持っているんですけど、実はあんまり聴いたことがなかったんですよ(笑)。2バンドが似ていると言う人もいるし、だからこそちゃんと聴かないほうが良いなと思ってたんです。でも今回のアルバムを聴くと、最後のほうにSCHOOL YOUTHの影響を感じられる曲が入っていて、やっぱり伊藤くんもSCHOOL YOUTHなんだなと。自分もSCHOOL YOUTHがすごく好きで、コピーもしてたんで」

SCHOOL YOUTHの2007年作『Crude Pop Showtime』
 

伊藤「僕らは日本語で歌っていて、CAR10も日本語で歌う曲があるじゃないですか。川田さんの歌詞は生活に基づいているというか、みじめな気持を歌っていると思うんです。その歌詞の世界観は似ていると思う。“Best Space”の歌詞で、〈俺は何者でもないんだけど〉という歌詞があるけど、それとまんま同じことを僕も今回のアルバムの最終曲“ビートハプニング”で歌っているから〈あ!〉と思った。歌詞の面では共通……と言うより共感するところが山ほどあります」

――加藤さんから見てCAR10とTHE FULL TEENZは似ていますか?

加藤「CAR10のほうが海外の音楽からの影響が強い気がしますね」

川田「俺らは雑なんだよね。だから裏漉(ご)ししているか/していないかの違いじゃない(笑)?」

一同「ハハハ!(笑)」

川田「それは結構思っていて、俺らは漉し器を持ってないんですよ。自分たちならではのフィルターを通したいんですけど、残りのメンバー2人が漉し方を知らないんです(笑)。伊藤くんは、こういうのをやりたいという考えをちゃんとメンバーに伝えて落とし込んでるんだと思う。だって、普通こういう音楽をやると英語のほうが絶対しっくりくるはずなんですよ。でも、伊藤くんの曲は日本語のほうが合っている。自分は日本語で書くと〈これはサムイなー〉みたいになる瞬間があるから、そこがすごいと思います」


地方にも新しくて格好良いバンドがいっぱいいることを伝えられた(伊藤)

――あと、THE FULL TEENZは、自分たちで生き埋めレコーズというレーベルも運営していますね。生き埋めで2014年に出したコンピ『生き埋めVA』には、NOT WONKも川田さんのソロ・ユニットのPRESSURE GROUPも参加していて。

伊藤「レーベルの元を辿ると、たぶんきっかけは〈感染ライヴ〉という京都の丸太町METROで開催されているイヴェントなんです。パンクを中心に京都にあんまり来たことのない地方のバンドを積極的に呼んでいて、すごくおもしろいノリが発生していた。そこから影響されつつ、〈感染〉とはまた違うことを、自分たちの企画でやりたいと思い、ベースの菅沼(祐太)くんと〈MIDSUMMER SPECIAL!〉というイヴェントを始めて、地方から好きなバンドを呼んでいた。その延長線上でレーベルを作って〈MIDSUMMER SPECIAL!〉に出てもらったバンドを集めたコンピレーションを出したいと思ったんです」

曽我部恵一とHi, how are you?の〈感染ライヴ〉での演奏
 

――『生き埋めVA』に収録された13組はすべて地方のバンドで、東京のバンドは1組も入っていませんでしたね。

伊藤「意識的に外したわけではなくて、結果的にそうなったんですけど、それが逆におもしろい感じにはなった気がします。東京のバンドが入ってないことで、コンピを聴いてくれた人が、地方にも新しくて格好良いバンドがいっぱいいることに気付いてくれたんじゃないかな」

――そうですね。自分もNOT WONKとの出会いは『生き埋めVA』でした。それぞれ東京でライヴする機会も多いと思いますが、地元と東京のシーンとの違いを感じることは多いですか?

川田「違いしかないですね」

加藤「むしろ、なにも被るところがない」

川田「というか、地元はシーンもクソもないんです。自分たちがライヴするにしても、ツアーでバンドが来て、ライヴハウスからイヴェントを組んでくれと言われて、自分たちが企画するしかない。だから足利のバンドだけで集まってライヴすることはないんですよね。そもそもバンド自体が少ないし。たぶん京都だと、地方とはいえ、都会だから地元のバンドだけでも成り立つと思うんですけど、足利だと無理。苫小牧もそうだよね?」

加藤「もっと最低ですよ(笑)」

川田「いまではツアーで来たバンドにナメられることは少なくなったけど、前はそういう経験ばっかりでしたよ。なんでこの人たちのためにノルマ払ってるんだろうと思うことが多かった」

――そういう経験は加藤さんにもありますか?

加藤「まだ続いてますね(笑)。冗談じゃなくて、いまでも平気でノルマとか言われるし」

川田「いまも東京のライヴハウスから〈この日にノルマ2万で出てくれますか?〉とか普通に来ますよ」

加藤「ナメられてるんですよね」

 

リテラチャーの足利公演が成功して、いちばんびっくりしたのは自分たち(川田)

――今年の2月に開催されたリテラチャーの来日ツアーの足利公演では、CAR10はもちろんTHE FULL TEENZも出演してたし、加藤さんはこの日のCAR10のライヴでギターを弾いていましたね。足利の印象はいかがでしたか?

伊藤「足利は空が広かったですね(笑)。でも、あの日はすごく気合いの入った企画だったからだと思うんですけど、お客さんもいっぱい入っていて、すごいなと思いました。3rd & Homieというレコード屋兼溜まり場みたいなところも魅力的だったし、まずリテラチャーが足利に来ていること自体がヤバイですよね(笑)。それをできるのが、川田さんや周りの人たちの良いところで、まさに〈Best Space〉だと思いました(笑)」

川田「良いマッチングだったんだと思いますね。足利の人も来たし、都内や近県からも来てくれたから、それが上手く組み合わさるとこんなに人が集まるんだなと。いちばんびっくりしたのはたぶん自分たちですよ。こんなことが起きるんだなと思った」

――今回の“Best Space”も含め“海物語”や“RUSH TO THE FUNSPOT”のMVなど、CAR10は足利のコミュニティーを発信している印象です。

川田「でも、そういう意識は全然ないんですよね。俺らからすると、“Best Space”のMVはただ単にめっちゃウケる映像なんですよ。あんなにちょっと禿げかかった鼻のデカイ奴がずっとジャンプして、それを何百枚も写真撮ったと考えるだけでおもしろいじゃないですか。それを真剣に捉えてくれる人がいるのもまたおもしろいなと思う」

CAR10の2014年作『Everything Starts From This Town』収録曲“海物語”
 
CAR10の2015年作『RUSH TO THE FUNSPOT』収録曲“RUSH TO THE FUNSPOT”
 

――なるほど。川田さんの歌詞は、自分に起きたことや周りのことばっかりを歌っているように思うんです。

川田「実際に起きたことしか書けないんです。それだけだと思います。自分の世界が、1人でボウリングするか、みんなと遊ぶかしかないので、そういう歌詞になっているんだと思います」

――おふたりから見てCAR10の音楽に〈足利性〉みたいなものは感じますか?

加藤「あるんですけど、それがいやらしくないのがすごいなと思います。地方のバンドにはありがちなんですけど」

川田「〈どこどこから来ました!〉みたいなね」

加藤「圧倒的レぺゼン感みたいな(笑)。CAR10は、ここに住んでここで音楽をやっているから、結果としてこうなるのはあたりまえ、みたいな感じがする」

川田「そもそも俺ら全員足利の人間じゃないし、俺も足利で遊んでるだけですからね」

加藤「場所が関係しているようで関係していないというか。生まれ育った街だからそこでやっているだけで、街を良くしたいとかシーンをどうしたいとかは一切ないんだろうな。気負ってなくて良いし、気負う必要もないという態度に魅力を感じます」

川田「俺らが街をどうこうしたいとかは思わないんですよね。だって理由つけて友達と遊ぶのは嫌じゃないですか。イヴェントにこんだけ人が来ないと困る、みたいなのも違和感あるし、企画をやって10人しか来ないときのほうが楽しいことも絶対ある。だから、俺らに共感してくれる人がもし100人いれば、お客さんが100人になればいいだけで」

伊藤「わかります。僕も京都で音楽をやっていますけど、レペゼン感は持ってないし、地元を活性化しようぜみたいな気持ちはまったくない。自分たちが楽しいと思えることをこの街でしたいと思ってやっている。まあ、僕も暮らしのことを歌っているので、結局は京都の暮らしということにはなっちゃうのかもしれないけど、どこに住んでいても歌う姿勢は一緒だと思う」

 

住んでいるから苫小牧でやってるだけ(加藤)

加藤「こないだ足利に行って思ったんですけど、たぶんCAR10の場合は音楽の友達と遊ぶ友達が一緒なんですよね。だから、遊ぶ人と音楽の話もできるし、それがすごく羨ましいと思った。苫小牧だとパンクが好きな奴なんかヘタしたら俺しかいない(笑)。フジもアキムもよくわかってなくて、フワフワしてますからね。フィドラーの新作が出ても苫小牧のタワレコには置いてないし、そんな話をしている人は誰もいない。俺が一人で盛り上がっているだけで。なんか苫小牧の話をするとだんだん暗くなっちゃうんですけど(笑)」

一同「ハハハ(笑)」

加藤「東京だといろんなバンドとライヴができるし、こういう話を聞いてくれる人もいるんですけど、北海道に帰ると僕の話には1mmも価値がないというかね(笑)。そういう感覚はずっとあるんです。だから。ぶっちゃけ苫小牧でやる意味は限りなく皆無に近いと思ってる。でも、だからやらないという理由にもならないというのは、川田くんと一緒で。俺は苫小牧で生まれ育って、札幌に行ったところで大して環境も変わらないし、東京に出る理由もない。理由がないから苫小牧でやっているという感覚が強いです。住んでいるからここでやってるだけ」

川田「加藤くんの言っている通りですね。足利でやっている理由はなにもない」

加藤「東京の人は僕らの音楽についていろいろ言ってくれるけど、苫小牧だとその価値なんてまったく伝わらない。でも、わかってくれる人にだけわかってもらえばいいというのもちょっと寂しいじゃないですか。やっぱりいろんな人にわかってもらいたいんです」

NOT WONKの2015年作『Laughing Nerds And A Wallflower』収録曲“Laughing Nerds And A Wallflower”
 

――加藤さんのいま言ってくれた感覚は、NOT WONKの音楽に強く反映されていますよね。ここにいる3人のようなアティテュードがある一方で、メジャー志向の強いバンドだと、東京に出てきてなんぼ、みたいな考えもいまだに根強いじゃないですか?

川田「まあ、でもモテたいですけどね」

一同「ハハハ(笑)!」

川田「自分がカッコイイと思っていることがやっぱりカッコイイし、いなたい奴のほうがカッコイイ瞬間もあるじゃないですか。たぶん俺らができるいちばん格好良いスタイルはそれだと思うんです。例えば都内のバンドでもnever young beachにはいなたさがあるから、俺らも仲良くできている気がする。海外の好きなバンドも、彼らが出てきた街の名前はカッコ良くても、実はただの田舎だったりするし、一緒なんだなと思います。クリエイションのバンドとかでも普通に働きながらバンドをやっていたというのを聞くと、俺らとそんなに違いはないんだなと」

――東京から離れた場所で活動しているデメリットは特にないですか?

加藤「ほとんど影響はないというか。俺らは音楽をやっているわけだから、みたいな気持ちはずっとあります。どこで暮らしているかというのは良い音楽をやっていればあんまり関係ないと思う」

川田「日本だと、どこへでもだいたい1日で行けますからね」

伊藤「いまは距離とか関係ないくらいネットが進んでいるじゃないですか。だから表現を発信していくのは山奥でもできると思うんです。だから東京に行くことにメリットがあると思う人は行けばいいし、いま住んでいる環境にマッチしている人たちは行かなくていいと思う。どちらが良いとかではなくて」

川田GEZANが本当にそうですからね。彼らはどこにいてもおもしろいことができるし、どこにいようがカッコイイ」

 

輪っか自体は変わらずとも、波紋が少しずつ大きくなっていけば良い(伊藤)

――じゃあ最後に、いまから1年後にどういう活動をしていたいと思いますか?

川田「いや、マジでモテたいなと思うんです(笑)。でもCAR10に限った話をすれば、いまようやく日本の良い音楽を聴いているので、それを落とし込めたらなと思いますね」

――へえ! どんな音楽を聴かれているんですか?

川田YMO鈴木茂サニーデイ・サービスとかですね。きっかけは、たまたま中古店で見つけて、買って聴いてみたら、やっぱりすごいんだなと思っただけなんですが」

――次のCAR10がいっそう楽しみです。では、伊藤さんと加藤さんはいかがでしょう?

伊藤「自分が楽しくてカッコイイと思うことを、いまはやっているんですけど、今回初めてアルバムを出すことによって、小さかった輪っかがもうちょっと広くなったり、輪っか自体はなにも変わらずとも、波紋みたいに周辺の輪が大きくなっていったりして、もっといろんな人に浸透していけば良いなと思います。1年後にそうなっていたら成功かな」

加藤「そういう話を伊藤くんとはよくしていますね。前に早稲田のZONE-Bで生き埋め企画の〈お~い〉というイヴェントがあって、出演バンドはほとんど地方のバンドだったんです。それがすごくおもしろかったんですよ。それ自体はすごく小さな輪なんですけど、そのなかの1バンドがデカくなるとかじゃなくて、その輪を良いなと思う人が増えて、結果的に大阪のBIG CATで同じことができたらおもしろいねという話を伊藤くんともした。僕も伊藤くんも川田くんも考えは堅いから、僕らがやることは別に変らないと思う。だからやることは変わらずとも、良いと思ってくれる人が増えたら良いな」

伊藤「現にこの3バンドは4~5年前から知り合いですけど、別にその当時から僕らが変わったわけではないんですよ。好きなことを好きな人たちとやっているという感覚だけが同じように続いていて、それがこうやってMikikiとかメディアに取り上げられるようになったわけで」

川田「そうだよね。以前だと絶対こういうことは起きなかったわけで」

伊藤「だから、いまは波及していっている過程なのかなと思います」

NOT WONKの2014年のライヴ映像。1分49秒あたりを注目