ROBERT GLASPER meets MILES DAVIS
新世代の旗手が生誕90年の帝王とコラボレート!!

 生誕90年にして没後25年というメモリアル・イヤーを迎えているマイルス・デイヴィス。そんな節目だけあって、ドン・チードルの主演・脚本・監督による映画「マイルス・アヘッド」が本国で封切りされるなど、帝王の周辺がまた賑やかになっているが、そこにプロデューサーの一人として携わったのがロバート・グラスパーである。いまや現代ミュージック・シーンにおいて必要不可欠なキーマンとなった彼は、そのサントラ『Miles Ahead』でも4曲を書き下ろし、(本編でマイルスの演奏パートを演じた)キーヨン・ハロルド(トランペット)やマーカス・ストリクランド(サックス)、ケンドリック・スコット(ドラムス)らを伴って敬意を表明していたものだが、さらなるトリビュートの機会は控えていた。米コロムビアのテープ保管庫にてグラスパーが選んだマイルスの録音をベースにして多くのアーティストが集う、豪華なリミックス・アルバム『Everything's Beautiful』がいよいよ届けられたのだ。

MILES DAVIS Miles Ahead Columbia/Legacy/ソニー(2016)

 これまでにもキング・ブリットDJ KrushDJカムらの参加した『Panthalassa: The Remixes』(99年)のような試みはあったし、ナズをフィーチャーした『Evolution Of The Groove』(2007年)といった企画コラボもあった。が、グラスパーいわく「単なるリミックス・アルバムにはしたくなかった。マイルスがどれだけ人々に影響を与え、新しいアートを生み出す源になったのかを伝えたかったんだ」とのことで、今回は単なるカヴァーや疑似共演に止まるのではなく、それぞれに巨人の遺伝子を受け継ぐ顔ぶれが個々のインスピレーションを携えて参加している。しかも、グラスパーの旗振りだけあって、旬のムード満点のメンツ揃いなのがテーマとは関係なく(失礼!)嬉しい。

MILES DAVIS,ROBERT GLASPER Everything’s Beautiful Sony Music Japan International(SMJI)(2016)

 大半はデリック・ホッジ(ベース)を伴う形でグラスパーがプロデュースを手掛け、90年代に活躍したヒップホップ畑のラシャド・スミスも多くの曲で共同制作にクレジットされている。グラスパーの盟友ビラルがハマりすぎの“Ghetto Walkin'”をはじめ、イラ・Jによるジャジー&メロウ、フリークエンシーの再会曲にもなるエリカ・バドゥとのボッサローラ・マヴーラを迎えた深遠な“Silence Is The Way”、帝王とは縁深いジョン・スコフィールドのギターに守られたレディシのソウル・ボムなど、全体的なトーンはイメージ通りの上質なグッド・ヴァイブ系。90年代のドゥー・バップな東海岸ヒップホップの薫りがそこここに漂うのも芳しいポイントだろう。

 また、グラスパー以外の制作曲もそれぞれ最高で、9thワンダーのビートでブラザリーな平常運転を見せるフォンテ、我流のチャーチ作法で挑んだハイエイタス・カイヨーテ、ハーモニー主体で迫るキング、いつもの天才モードで一丁上がりなジョージア・アン・マルドロウ、さらにはスティーヴィー・ワンダーがハーモニカで参加した終曲“Right On Brotha”はDJスピナによるハウス・トラック……と、グラスパーのアイデアと各々の自由な発想がサンプリングを介在して豊潤な心地良さを紡ぎ出した傑作。ネオ・ソウル好きはもちろん、ソウルフルな瞬間の美とグルーヴは誰にでも届くはずだ。グラスパー、いい仕事してますね!