そもそも月イチ更新の連載でしたが、回を追うごとに更新間隔がユルくなっている同連載……ついに、やっと、2016年2度目の公開でございます。今後はもうちょっと巻いていくぞ! ということで、今回はMikikiで〈2nd Season〉をスタートして初のゲストをお招きしました。かねてよりこの連載に彼を呼んで対談企画がやりたいな~と思っていた、いま飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中のSuchmosSANABAGUN.の両バンド(いずれも7月6日に新作をリリース!)でベースを担当するHsu小杉隼太)氏! ハマ・オカモト氏のほうがデビューは早いですが、年齢的には1つ違いの同世代で、いずれもベーシストとして高い資質を備えたミュージシャンで……ということを取っ掛かりに、さまざまな面において2人の共通点と相違点がおもしろいヴァイブスを生むのではないかと思ったわけです。そんな予想通りにワイワイと進んだこの取材、互いの印象から各々の憧れのベーシストの話まで、いろいろ訊いてきましたよ!


 

カッコイイ人は、好き嫌いは置いておいても独特の音を出す(ハマ)

――やっと隼太くんを招いての対談が実現しましたね!

ハマ・オカモト「前々からやろうと話していましたもんね。隼太くんと2人で会った時も〈(対談)やりたいね〉と話していて。なのでようやくですね」

Hsu「〈あれって、いつやるんだろう?〉〈知らない〉みたいな(笑)」

――アハハハ(笑)、失礼しました。では始めましょうか。まずは2人の出会いについてから訊いていきたいなと。

ハマ「この連載取材の時に、SANABAGUN.を勧めていただいて」

――最近何か良いものはあるか、みたいな話をした時に、私がSANABAGUN.のファースト・アルバム(2014年作『Son of a Gun』)にハマっていたので、オススメしたんでしたね。

ハマ「その後に、サナバのライヴを観に新代田FEVERへ行ったんです。そこで終演後に喋ったのが最初ですね」

SANABAGUN.、2015年の東京・渋谷WWWでのライヴ映像
 

――隼太くんは、それまでハマくんに対してどういう印象を持っていましたか?

Hsu「やっぱり最初は素人考えで〈特別〉な感じがしていたんですよね。でも彼はミュージシャンとして良い意味でちょっと違うというのはわかってた」

ハマ「それは、演奏を聴いてそう思ってくれていたの?」

Hsu「そうそう」

ハマ「それは物凄く嬉しい」

Hsu「同世代にはあんまり刺激を与えてくれるような人はいないけど、そんななかで唯一刺激を与えてくれるベーシストだなと思っています」

OKAMOTO’Sの2016年の最新シングル“BROTHER”
 

――ほほ~。ここ1~2年、インディー界隈でハマくんと同世代のバンドがすごく活躍していますが、そういう状況をハマくんはどう見ていますか?

ハマOKAMOTO’Sは、黒猫チェルシーねごとといった同い年のバンドと、2010年に揃ってデビューしていて。みんなやっぱり音楽が好きなんですよね。ねごとだったら90年代のオルタナ、黒猫は僕らよりハード・ロック寄りのものが好きで、しかも日本のロックにも造詣が深い。当時はそういうのが嬉しかったんです。〈音楽好き〉という言葉には音楽それ自体だけではなくて、楽器やファッションも含めて好きと言っている。そういう点でも共鳴できる同年デビュー組なんです。でもその〈音楽好き〉なところをリスナーや音楽業界の人、ライターも含めてことごとく理解してもらえなかったんです。そのことに去年、一昨年くらいに結構ショックを受けて絶望していました。そんな頃に、同じ世代のYogee New Wavesnever young beachあたりの名前が出てくるようになって――(ネバヤンの)安部勇磨なんて18くらいの頃に知り合っていて、当時から〈お前捨て犬みてーだな〉と冗談で言っていたり、ヨギーの(角舘)健悟なんてポケモンに出てくるキャラみたいだったし(笑)」

never young beachの2016年作『fam fam』収録曲“明るい未来”
 

――好き勝手言ってますね(笑)。

ハマ「ずっと友達だったんです。だから〈遅いよ、みんな!〉と。単純に僕らが早かっただけかもしれないですが。でもみんな音楽が好きで、すごく熱量もあることを知っていたので嬉しかった。やっぱりフェスやイヴェントで、何千人何万人の人が楽しそうに盛り上がっているけど、(そこに出ているバンド以外にも)もっと本質的に音楽をやってる奴はたくさんいるからな、と思って4~5年やってきたんです。ここだけがすべてじゃない、ライヴハウスを知っているからこそ見える景色もある。だからみんな早くしてよ、と思っていました。やっぱり同世代がいないというのは、人間として苦しかったんですよね。音楽をやることとは関係ないように聞こえるかもしれませんが、意外と苦しくて」

――隼太くんは、いわゆるハマくんとは逆の立場になるわけですが、OKAMOTO’Sのように同世代でいち早く音楽シーンで活躍していた面々に対して何か思うところはありましたか?

Hsu「俺はもともとバンドマンじゃなくてセッション・ミュージシャンだったから、あんまり聴いてなかったんですよね。だから、日本のバンドがどうこうというのはその頃はあんまり考えてなくて。高校の時はバンドをやっていたんだけど、大学に入ってからジャズを勉強するようになって、その頃にやっていた音楽自体は充実していたんです。だけどライヴになると、ステージには5人いるのにお客さんが3人しかいなかったりとか、〈これは違うんだよな……〉と思ってた。だからハマくんとは別のヴェクトルで〈違うんだよな〉、と感じていたんじゃないかな」

ハマ「やっぱり、いわゆる音楽をきちんと知っている人はそれだけ(メジャーなシーン)にならないでしょう。隼太くんとは学生の時に会っていないけど、でも感覚的には同じだったはず」

Hsu「そうだね、その部分では」

ハマ「僕らも日本語で歌うバンドをやっているし、世間知らずなところもあることを含めて言うと、極端な話……4つくらいのコードで太陽だの光だの希望がどう、ということだけを歌っているのは……なんなの?と思っちゃうわけですよ」

一同「ハハハハハハ(笑)」

Hsu「お前がまず元気出せよって(笑)」

ハマ「極端な話ですよ、これは(笑)。極端な話ですけど、本当にカッコイイ音楽をいろいろ聴いてしまうと、良くも悪くもそういう人たちに嫌悪感を抱いてしまう時期がある」

Hsu「俺はOKAMOTO’Sではレイジと仲が良くて、一緒に遊ぶこともあるんだけど、アイツはDJをすると本当にいろんな曲をかけているから、どれだけたくさん音楽を聴いているか、という部分で共鳴するところが多い。だから一緒にYouTubeで(好きなアーティストの)動画を観たりできるけど、そういうことができないバンドマンはいっぱいいると思う」

ハマ「〈音楽をやるということは、こうなんだ〉という部分で、僕らのハードルが高いのか、単純に道が違うのかわからないけど、そういったところで何かが違うなと思ってしまう」

――古今東西のいろんな音楽を聴いているミュージシャンと、そうじゃないミュージシャンとで、音楽をやるうえでの感覚や求めているものがまるで違うと。

ハマ「そうですね、その部分での温度感は隼太くんと似ていると思う」

Hsu「俺らはそういうコアな音楽リスナーとしての感覚と、ジャパニーズ・ポップ・バンドをやっている人間としての狭間で、これからも一緒に戦い続けられるのかなと思う。自分たちがインプットしてきたものを、曲としてアウトプットする際にちょっと日本人らしいフィルターを通して出したいというか」

7月6日にリリースされるSuchmosの新EP『MINT CONDITION』収録曲“MINT”
 

――そういえば、前にハマくんと初めてサナバの話をした時に、きっとOKAMOTO’Sのことは好きじゃないんだろうな、という感じのことを言っていたのを思い出したんですけど(笑)、あれはどういう意味だったんですか?

ハマヤードバーズで盛り上がっていた僕らとはまったく違う畑の音楽で、意識的にもものすごく好き嫌いがあるだろうし、ロック紀元前みたいなことをやっている僕らに対して、さっき言っていた凡百のロック・バンドたちと同じような印象を持つんじゃないか、やっぱりどこか引っ掛かるところがあるだろうなという気がしていました。Suchmosやサナバは意識がスマートだけど、OKAMOTO’Sはもう少し野蛮かなと思いますし。僕らは逆に〈(音楽)理論がどうとか言ってんじゃねーよ〉という想いがもともとあったので、そう言ったのかもしれません。いまでもそう思うところはあって――前に下北沢のGARAGEで、たまたまサナバの面々と一緒になったことがあって、サナバのメンバーの誰かに〈ジャズなんて聴かないでしょ〉ということを言われたんです。なので〈ジャズは全然詳しくないけど、最近チェット・ベイカーを知って、聴くようになったんだ。カッコイイよね〉と言ったら(ややイヤらしい感じで)〈出た、チェット・ベイカー〉といったようなことを言われて(笑)」

※1950年代から活躍したジャズ・トランぺッター/シンガー。アルバム『Sings』を発表した1950年代半ばより圧倒的な支持を得るも、その後ドラッグにハマり、数多くのトラブルを起こすように。70年代に復活を遂げてヨーロッパを拠点に活動するが、88年にホテルの部屋から転落して死去

チェット・ベイカーの1956年作『Sings』収録曲“My Funny Valentine”
 

一同「ハハハハハハ(笑)」

Hsu「それたぶんヒロカズだなー(笑)」

髙橋絋一:SANABAGUN.のトランペット担当

ハマ「〈わかったよ、チェット・ベイカーは!〉みたいな、その人にとってはベタすぎるが故に思ってしまうこともあるじゃないですか。例えば、ロックをよく知らない人が〈ストーンズってカッコイイよね〉と言っていたら、僕は〈そんなのわかってるよ!〉と思ってしまうだろうし。そういったニュアンスの気持ちがすごく伝わってきて……でもそういう感じはすごく理解できるのでまったく嫌な気持ちもしなくて、むしろおもしろかった」

Hsu「なるほど。でも、ヒロカズは日本のバンドをよく知らないからそう言えたけど、普通はハマ・オカモトに対して〈出た、チェット・ベイカー〉とは言えないよね(笑)。そう言えたことで、ある意味俺たちとOKAMOTO’Sの間にあった垣根を外してくれたのかもしれない」

ハマ「同じ土俵で意見をしてもらえたということだしね」

Hsu「あと俺とハマくんとの関係性で言ったら、フェンダーに気になるアンプがあったので弾かせてもらいに行ったら、その時にハマくんがたまたまいて。アンプは自分より人が弾いてる音を聴いたほうが良さがわかるから、2人で弾き合ったりしていて……フフ」

ハマ「〈ベーシストって言っても、弦にピック当ててる奴ばっかりだよな〉なんて話をね、フフフ」

Hsu「〈ちゃんと弾けてる奴いねえよな〉とお互いに毒を吐き合ったことで、(ハマくんのことは)信頼できるなと思った」

ハマ「つまり、さっき言ったようなことですよ(笑)。確かにその意思疎通ができたのは大きいかもしれない」

Hsu「〈こいつになら言って大丈夫なんだ!〉とハマくんに対しては思った。どうでもいい奴とは話したくもないけど、かといって無駄に嫌われたくないし……どこか恋の駆け引きに似てるかもしれない(笑)」

ハマ「ハハハ(笑)!」

――どこまで踏み込んで大丈夫なのかな……みたいな探り合いというか(笑)。そこで一緒に音を出し合うことで気付いたことはありましたか?

ハマ「もちろんプレイヤーとして彼が優れているということは、それより前から知っていたので、そこに不安はありませんでしたが、実際に聴いてみたら〈あぁ〉と。言葉にするのは難しいですけど」

Hsu「俺も〈あぁ〉って。やっぱりイイ音出すなと」

――あぁ(笑)。その感嘆詞に凝縮されている感じはありますが、より具体的にどういう面でお互いがベーシストとして優れていると思いますか?

Hsu「俺がハマくんに対して思うのは、やっぱり〈音〉じゃないかな。しっかり音が出てる。〈しっかり音を出す〉というのは実は難しくて、それができているベーシストは、例えばペトロールズのジャンボさん(三浦淳悟)とか、先輩の世代なら日本人でも木みたいな良い音、グルーヴを出すなと思う人はいるんですけど、俺たちくらいの世代にはなかなかいない。そんななかでハマくんは良い音をしていると思う。まだまだぶっとい木になるだろうけど、そのための根っこはしっかりしているという印象ですね。軸があるというか。速く弾けたり、難しいフレーズが弾ける人は俺が大学の頃にもいっぱいいたけど、それだけだとどこかしょぼいんですよね」

ペトロールズの2015年のライヴ映像
 

ハマ「文字にすると相当伝わりづらい感覚かもしれないですが(笑)、僕がベーシストを見る時のポイントは、〈どこで音が鳴っているか〉なんです。ベースを弾いていて、その音が身体から出ているのか、左手が鳴っているのか、ただアンプから出ているだけなのか。しょぼい奴はシールドから出てるんじゃないの?という印象を受けますし(笑)。スゴイ人は鳴っているポイントが見えるんです。要はそれが〈自分の音〉で」

――それは弾いている姿でわかると。

ハマ「そうです。もちろん、誰でも弦を弾けば音は出るんですよ。でもそういうことではなくて。隼太くんが言った〈ちゃんと音が出ている〉というのと同じで……これも本当に伝わりづらいんですが(笑)、初めて隼太くんを観た時に、自分がどういう音を出したいかがわかっているなと思いました。あとは立ち居振る舞いがカッコイイ。カッコ悪い人はカッコ悪い音を出すので。一方でカッコイイ人は、好き嫌いは置いておいても独特の音を出すんです」

Hsu「なんか照れるな(笑)」

ハマ「本当に〈こんな人いるんだ!〉と思いましたね。初めてステージを観た時は、隼太くんはもちろん、ステージ全体が外人みたいでしたし(笑)」

――テクニック的な面を言うのかと思っていたんですけど、そういうことじゃなくてもっとベーシックなところなんですね。

ハマ「そうなんです。あと、隼太くんはきちんと楽譜を読めるし、そういう点でも僕とは全然違います。自分にないものを持っている人を見るとカッコ良く感じたりしますが、もっと根本的なところですね。3弦7フレットでEを鳴らすのか、4弦開放弦でEを鳴らすのか、という極端な2択があって、それ一発の説得力。そこがカッコイイ」