(左から)高橋健介、mabanua、高橋海、類家心平、田口恵人

LUCKY TAPESの通算2枚目となるニュー・アルバムは、『Cigarette & Alcohol』というタイトル通り、〈大人になる〉ことをテーマにしている。ファンクやソウルを志向する近年の若手のなかにあって、ゆったりとした横ノリのグルーヴや高橋海のシルキーな歌声から、洗練された音楽性のイメージが強いバンドだったが、新作ではロック色の強い序盤からして、前作『The SHOW』にはなかった逞しさが感じられる。またその一方で、ストリングスやホーン・セクションのアレンジはより優美に、上品に楽曲を彩っていることも大きな特徴だと言えよう。

そんなLUCKY TAPESの〈アダルト化〉に大きく貢献したキーパーソンが3人存在する。1人はバンドの念願叶ってエンジニアを担当したtoeの美濃隆章。残る2人は、4月に脱退した濱田翼に代わってドラマーを務めたmabanuaと、ジャズ・トランぺット奏者の類家心平だ。2000年代前半のネオ・ソウル・ブームの頃に知り合い、現在でも数々のレコーディングを共にしている旧知の2人が、大人のエッセンスを楽曲に注入したからこそ、『Cigarette & Alcohol』がテーマ通りの作品となったことは間違いない。

そこで、今回はLUCKY TAPESのメンバー3人と、mabanua、類家による座談会を実施。2000年代初頭と現在のブラック・ミュージックのブームを比較しながら、時代を経ても変わることのないミュージシャンの芯の部分について、じっくりと語り合ってもらった。

※撮影協力:big turtle STUDIOS(origami PRODUCTIONS)

LUCKY TAPES 『Cigarette & Alcohol』 RALLYE(2016)

 

美濃さんから来る仕事はおもしろい(類家)

――まずはLUCKY TAPESが新作にmabanuaさんと類家さんを招いた経緯を教えてください。

高橋海(ヴォーカル/キーボード)「メンバー全員が、Ovallの頃からmabanuaさんの音楽に憧れを抱いていて、前作に収録した“Gun”なんかはもともと〈mabanuaグルーヴ〉をめざして作った曲だったりもしたし、個人的にはウィスパー的なヴォーカルのアプローチもmabanuaさんから影響を受けている部分が大きかったんです。それで、今作では美濃さんにエンジニアをしていただけることが決まってから、美濃さんからオファーしてもらいました」

2015年作『The SHOW』収録曲“Gun”

Ovallの2011年のライヴ映像

――mabanuaさんと美濃さんはいつ頃からのお知り合いなんですか?

mabanua「最初に会ったのは3年くらい前で、toeの山嵜(廣和)さんがとあるCMの音楽を作るというときに、そのドラムを叩いてくれって頼まれて、そこでエンジニアをやってたのが美濃さんだったんです。それからtoeと対バンしたり、最近だとCharaさんのアルバム(2015年作『Secret Garden』)で一緒に作業をしたりとか、ちょこちょこ会ってる感じで」

「まさか自分たちの曲をmabanuaさんに叩いてもらえるとは夢にも思っていなかったので、レコーディングに入る前からびっくりなこと続きでした」

高橋健介(ギター/シンセサイザー)「前のドラマーが抜けたタイミングでは、まだ後任を誰にするのか決めてなかったんですけど、〈この期間でレコーディングをする〉ということだけ決まっていたんです」

mabanua「だって、連絡をもらったのがレコーディングの2週間前だもんね(笑)。美濃さんから〈叩いてほしいバンドがいる〉って連絡が来て、話を聞いたらLUCKY TAPESだったので〈知ってる知ってる〉と引き受けたんですけど、〈2日で8曲(録音)なんだけど〉と言われて〈マジか〉って(笑)。事前に一緒にスタジオに入る時間もなかったから、レコーディングの当日に初めて合わせて」

「すごく新鮮でした。普段はスタジオで固めてからレコーディングに入るので、両方の意味で〈どうなるんだろう?〉と期待や不安があったんですけど、もう一発目の音合わせで最高な作品になると確信を持てました」

健介「最初に〈一回やってみようか〉とやってみたら、〈あ、もうこれは大丈夫だ〉っていう。出音からして違いました」

――類家さんも美濃さんからの紹介ですか?

「はい。mabanuaさんは何度かライヴハウスなどでお会いしたことがあったんですけど、類家さんと直接的な繋がりはなかったので」

類家心平「美濃さんから来る仕事はおもしろいことが多いんですよ。さっき名前が出てたCharaさんのアルバムには俺も参加してるし、あとは名古屋のdry river stringってバンドのレコーディング(2010年作『Quiet』)を小淵沢にあるクラムボンのスタジオでやったり。なので、今回も〈やります〉と返事したんですけど、当日スタジオに行ったら譜面がいっぱい置いてあったので、〈大丈夫かな?〉って(笑)」

類家率いるRS5pbの2016年作『UNDA』収録曲“DANU”。インタヴューはこちら

類家が参加した菊地成孔ダブ・セクステットの2008年のライヴ映像

――サックス(村上大輔)とトロンボーン(NAPPI)の方はこれまでもLUCKY TAPESの作品に参加している方で、(ホーン・セクションでは)類家さんだけ初参加だったんですよね。

類家「そう、俺以外の2人は譜面がなくてもできるくらいバッチリな感じで、俺だけ必死に譜面を読むという状態で、結構難しいというか……しんどかった(笑)。レコーディングは1曲ずつだからいいけど、これライヴだと辛いだろうなって」

「曲を作るときに、ホーン・パートは基本MIDIで打ち込むんですけど、自分がトランペットを吹けるわけではないので、〈この音域は出すのが難しい〉といったことがわからずに作ってしまっている部分があって。そこらへんはもうちょっと勉強しないとなって思うんですけど」

類家「フレーズがずっと続いてて、〈どこで息を吸うの?〉とかね。よくあることです(笑)」