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日本のジャズ史が動いた気がした―石若駿×カート・ローゼンウィンケル、国境や世代を越えたスペシャル・セッションをレポ

photo by Fumiaki Fujimoto

 

石若駿カート・ローゼンウィンケルによるスペシャル・セッション〈The EXP Series #06 石若駿クリーンナップ・トリオ meets カート・ローゼンウィンケル〉が、去る6月27日にブルーノート東京で開催された。世代を越えた実力者同士による共演は大きな注目を集め、フロアも終始大盛況。今回は2ndショウのライヴ・レポートをお届けする。 *Mikiki編集部

 


昨年末にリリースした初のリーダー作『Cleanup』で数々の新人賞を総なめにした、ジャズ・ドラマーの石若駿。92年生まれの弱冠23歳で、10代の頃から日野皓正をはじめとする数々の大物とプレイする一方で、クラシックのメッカである東京藝術大学を主席で卒業。その影響力はもはやジャズ・シーンのみに留まらず、ビートメイカーであるテイラー・マクファーリンとの共演や、さかいゆうなどポップス・ミュージシャンのアルバムへの参加、昨年結成されたCRCK/LCKSでの活動など、ジャンルを越えて幅広く注目を集めている。

そんな彼が、『CLEANUP』リリース記念ライヴの集大成にゲストとして招いたのが、現代ジャズ・ギターの〈皇帝〉ことカート・ローゼンウィンケルだ。90年代からシーンのトップに君臨するカートやジョシュア・レッドマンブラッド・メルドーなどの世代が更新したコンテンポラリー・ジャズのハーモニーやリズム、新しいコード解釈によるフレージングが若い世代に与えた影響は、ある意味で古いジャズの巨人たちよりも大きいはず。それは石若にとっても例外ではなく、ASIAN KUNG-FU GENERATIONにとってのオアシスウィーザーと同じように、カートはもっともリアルなアイドルの一人なのだ。

photo by Tsuneo Koga

photo by Tsuneo Koga

もちろん、それは今回のステージを共にした井上銘(ギター)と須川崇志(ベース)にとっても同じことが言える。石若との付き合いも古く、『Cleanup』にも参加した盟友2人を迎えたギター・トリオに、カートが加わったツイン・ギター編成にも注目すべきだろう。ピアノではなく、あえてギターをもう一人チョイスしたこの布陣にも、皇帝に真っ向勝負で立ち向かおうとする石若の姿勢が表れているように感じた。

そしてライヴは、アルバムのタイトル・チューン“Cleanup”からスタート。オールド・マナーのジャズ・チューンを意識して書かれたこの曲のテーマで、井上とカートのギターが複雑に絡み合っていく。流れるようなフレージングや、繊細で美しいコード・ワークなど、出だしから遠慮なくぶっ飛ばしていたカートのギターはまさしく彼ならではのもの。片や井上も、怯むことなく快活なプレイで応戦する。そして石若がソロに回ると、本番前の緊張が嘘のように全開のドラミングを見せ、会場は〈待ってました!〉とばかりに割れんばかりの声援を送った。

photo by Fumiaki Fujimoto

photo by Fumiaki Fujimoto

続いてプレイされたのは、井上が作曲した“胎児Song”。ここでも、カートのお家芸とも言える独特のリヴァーブに包まれたトーンと、バキッとストレートに振り切った井上のギターが、対照的なキャラクターにもかかわらず気持ち良く混ざり合う。〈カートは、一緒に演奏する人をどんどんオープンにさせてくれるプレイヤー〉と井上もMCで語っていたが、カートと井上が交互にソロを執る後ろで、須川のベースと石若のドラムスが次々に場面を展開し、4者が互いに反応し合いながらバンドはどんどんヒートアップしていく。

今回のセット・リストはメンバー各自の楽曲とスタンダードから構成されていたが、ステージ上には〈トリオ+ゲスト〉という畏まった雰囲気はなく、一つのバンドとして完成度の高いサウンドを奏でていたことも強調しておきたい。それに、日本のジャズ黎明期から活躍し、2007年の死後も国内外問わずリスペクトを集めるドラマーの富樫雅彦による名曲“Waltz Step”をここで取り上げ、それを演奏するカートの姿を観た時には、日本のジャズ史が一歩動いたようにも感じられた。

さらに、フリーな構成の“The Boomers”からトリオでのバラード“When Sunny Gets Blue”と今回のために用意された新曲“Untitled No.1”を挿んで、ステージはラストの“Big Sac”へ。カートのコード・ワークの上で井上がテーマを執るイントロをはじめ、複雑な展開をバシバシと決めていくバンドには、もはや遠慮は微塵も感じられなかった。

photo by Tsuneo Koga

そんなバンドをリードしていたのは、メンバーの細かなサインを見逃さずに適切なキューを出し、ソロ以外でも観客を釘付けにした石若のドラムスだ。決まった枠や型に囚われない自由なフレージングで、一瞬でアンサンブルの前景にも背景にも形を変えるドラミングは、もはや誰にも似つかないオリジナルなサウンドだと言えるだろう。

〈今回のライヴが決まった時からとても緊張していました。でも、もう慣れました!〉――末恐ろしくなるほど堂々とした石若の雄姿が、その場に居合わせたジャズを志す若者たちに、どれだけ多くの勇気を与えたのだろう。これからも日本のジャズ界をリードしていくであろう石若駿と、新作リリースの噂もあるカート・ローゼンウィンケル。進化を続ける両者の貴重な共演は、ひょっとしたら数年後に伝説となっているかもしれない。

photo by Tsuneo Koga

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ポール・マッカートニー