サニーデイ・サービスの新作『DANCE TO YOU』は、その名の通り〈あなた〉を踊ることへ誘うアルバムだ。BPM100〜110前後にかけてのスロウなディスコ・ビートとファンキーなベース・ライン、魅惑的なサイケデリアを作り出すギター・カッティング。それらに導かれるように、リスナーはダンスフロアへと足を踏み入れる。そして、ひたすらにステップを踏みながら、暗闇のなかでふと思うだろう。〈いったい、ここはどこなんだろう?〉と。そして、聴き手と同様に、今作で描かれるキャラクターの多くも、居場所や行き先を見失い、なにかを希求して踊り続けている。それゆえに『DANCE TO YOU』というアルバムは、不安と混乱の時代に生きる〈あなたたち〉の映し鏡のようでもあるのだ。

サニーデイ・サービスが2008年の再結成以降に見せてきた、ロック・バンドとしての成熟を踏まえると、今作で見せたダンス・ミュージックへの傾倒は少々意外な方向転換と言えるだろう。また、体調不良で活動休止をしているドラマー・丸山晴茂の参加は2曲のみで、大半を曽我部恵一みずからがドラムや打ち込みでビートを作っている今作を、サニーデイ・サービスの純然たる新作としては受け止め難いファンもいるかもしれない。

では、なぜサニーデイ・サービスはダンスに向かったのか? そして丸山不在のいま、彼らはこのバンドをどう捉えているのかを、曽我部恵一に尋ねた。

サニーデイ・サービス 『DANCE TO YOU』 ROSE(2016)

 

やっぱりダンス・ミュージックをやらないとダメだなと思った

――今回は、1月にリリースされ、新作『DANCE TO YOU』にも収録されたシングル“苺畑でつかまえて”から話を始めさせてください。というのは、あの曲の歌詞〈見たこともないこんな街で 知らないだれかを探してる〉というフレーズが、『DANCE TO YOU』でも主題になっている印象を受けたんです。

「うんうん」

――曽我部さんが〈苺畑〉を制作している段階で、アルバムの全体像は見えていたんですか?

「えーとね、最初の最初はまったく別の物をめざしていたんです。去年の5、6月にかけて10曲くらい作ったんだよね。ある程度アルバムの形になっていたんだけど、それがあんまりしっくりこなくて。なので、作り続けていくなかで“苺畑でつかまえて”が出来たのかな。アルバムの全体像や構想は見えていなくて、〈苺畑〉が出来てから、ちょっとずつ〈こういう方向性なのかな〉と作っていった感じですね」

――しっくりこなかったという制作初期の作品は、どんなアルバムだったんですか?

「もっと普通にバンドっぽかったし、実際に3人でセッションして作ったり、せーので演奏して録ったりするような音楽でしたね。歌われていることも、なんとなく自分たちの生活や人生に根差したようなことで……。音楽性としてはオーソドックスなものでしたね」

――いま聞いたイメージですけど、なんとなく前作『Sunny』(2014年)の延長線上みたいな。

「そう。まさにそうで、たぶん前作の頃は、3人でバンドをやっていることに〈良いな、素晴らしいな〉と感じながらライヴをしていて。久しぶりにサニーデイを観るお客さんもいたし、サニーデイ・サービスが、またファンを含めた他の人たちの人生とリンクしながら動いていくのは良いな、と思っていたんです。それが、前作から今作を作りはじめる時期にかけての気分でしたね。バンドとしてのすごく良いヴァイブレーションもあったし、この感じで新しいアルバムも作れるでしょと、あまり時間をかけずに一気に録ろうと始めたんですけど」

――その気分で作ったものに対して、曽我部さんが違和感を持ったのはどんなポイントだったんですか?

「うーん……理由はあんまりわからないんだけど、驚きがなかったんだろうね。刺激がもっと欲しかったというか。サニーデイをやってきたなかで、いまこれが出てくるのはあたりまえだし、果たしてそれでいいのだろうかと、1回バラしたんです。自分がそれまでやってこなかったものを出せたらいいなと思った。それから試行錯誤しはじめましたね」

――そうしたなかで、“苺畑でつかまえて”が出来たことはブレイクスルーになった?

「結構大きかったね。自分にとってはすごく大きくて、ついにこういう曲が出来たと思った。こういう感じのものを求めていたんだろうなって。ただ、〈苺畑〉とそれまでに出来ていた曲を並べてみたんですけど、どうにも上手くハマらなかった。そこで〈苺畑〉を出発点として、また新たに作りはじめたんです」

――曽我部さんはすごく多くの作品を世に送り出してきましたけど、そのうえで〈苺畑〉のどんな面にフレッシュさを感じたんですか?

「あの曲は、自分としてはダンス・ミュージックなんですよ。曲作りで悶々としていたときに、シックの曲を聴いて、やっぱりディスコというかダンス・ミュージックをやんないとダメだなと思ったのね。シックの音楽は、特に思想や人生が入っているものじゃないけど、エレキ・ギターのカッティングとステディーな16ビートがすごく真実性を持って自分に響いたわけ。僕がこれまで作ってきた、どんな人生の苦悩を反映した曲よりもね。自分はどんなダンス・ミュージックを作りたいのかなと考えたときに、あらかじめ持っていたサイケデリックというテーマを踏まえて、自分の求めているサイケデリックとはなんだろう、と考えながら作っていった。それで、さっき言ってくれた〈見たこともないこんな街で 知らないだれかを探してる〉の歌詞――見たことのない、でもかつて来たことがあるような風景や、訪れるべき場所だと思えるような空想の街とか、そうした情景が出てきたんだよね」

――曽我部さんのなかで改めてダンス・ミュージックに光が当たった背景には、もしかしたら音楽シーンの潮流に対してのレスポンスという面もあるのかなと思ったんですけど。

「あるある。絶対あるし、そことも上手くリンクしたんだろうね。いまのロック・バンドが持つダンス・ミュージックのフレイヴァーはダフト・パンクの『Random Access Memories』(2013年)が発端になっていると思う。そしてシックは、ダフト・パンクがあそこで提案したダンス・ミュージックのベースを作った存在。だから、いまシックを聴いたのはたぶん間違いじゃなかったというか、時代が求めるダンス・ミュージックとリンクしたんだと思う」

ダフト・パンクの2013年作『Random Access Memories』収録曲“Lose Yourself To Dance”

――曽我部さんが〈苺畑〉をダンス・ミュージックと捉えているのはしっくりきました。最初に聴いたときは、すごくサニーデイらしい曲なのに、こんなにもフレッシュさを感じる理由がわからなかったんです。ただアルバムのなかで聴くと、あの曲のダンス・フィールがわかりやすく伝わってきて。自分の周りでは〈超良い曲だ!〉と騒がれていたんですが、周囲からの反応が曽我部さんの背中を押した面はありますか?

「僕らの周りに関しては、実際はそこまで反応がなかったんだよね。だから〈苺畑〉が出来て、自分は〈めっちゃ良い曲出来た!〉となっても、周囲は〈わかるけど、でももうちょいないの?〉といった感触だった。どうしてかと言うと、みんな、サニーデイにはもっと深淵なもの――(曽我部恵一BAND)の“満員電車は走る”とか、そういうすごく人生の意味を考えられるような、そこに問題解決の糸口や答えを見出せるような音楽を期待していて。ただ、僕は逆にもうちょっと軽薄で、透明感がある世界観を求めていたし、自分的にはこの方向性で正しい気がしていて、このまま突き進もうとは思っていました」

曽我部恵一BANDの2012年作『曽我部恵一BAND』収録曲“満員電車は走る”