メンバー全員が曲を書き、歌い、プロデュースもできる。そんな個性豊かな6人が集まったバンド、ムーンライダーズは30年以上に渡って時代の音をリアルタイムで昇華しながら変化し続けた。そんな奇跡のようなバンドが突然、活動休止宣言をしたのは2011年のこと。しかし、バンド結成40周年を迎えた2016年には期間限定で〈活動休止の休止〉を宣言してツアーを敢行した。そんな彼らにリスペクトを捧げたトリビュート・アルバム『BRIGHT YOUNG MOONLIT KNIGHTS』が2016年12月にリリース。同作に、ゴンドウトモヒコ featuring 高橋幸宏3776ayU tokiOらと並んで参加しているのが、曽我部恵一澤部渡スカート)だ。

ムーンライダーズの中心人物である鈴木慶一のソロ・アルバム、〈ヘイト船長〉三部作に共同プロデュースで参加した曽我部、そしてムーンライダーズのメンバー・岡田徹のソロ最新作『Tの肖像』(2016年)に参加するなど、バンドと親交が厚い澤部。世代も違えば、ムーンライダーズに対する距離感も違う二人が、『BRIGHT YOUNG MOONLIT KNIGHTS』と同時期にリリースされた鈴木慶一とムーンライダース『火の玉ボーイ 40周年記念デラックス・エディション』とムーンライダーズの初期アルバムを集めたボックス『MOON RIDERS in CROWN YEARS 40th ANNIVERSARY BOX』について触れながら、彼らの魅力を語ってくれた。

VARIOUS ARTISTS BRIGHT YOUNG MOONLIT KNIGHTS -We Can't Live Without a Rose- MOONRIDERS TRIBUTE ALBUM Pヴァイン(2016)

卑屈な恋愛を歌っている感じがした

——曽我部さんはいつ頃ムーンライダーズと出会ったんですか。

曽我部恵一「僕は80年代末ぐらいですね。ちょうど渋谷系が始まった頃。ピチカート(・ファイヴ)とかが好きで、もう一回フレンチ・ポップネオアコなんかを辿り直していた頃に、ムーンライダーズを聴きました。ピチカートや渋谷系に通じる流れの原点なんじゃないかと思って」

——最初に聴いたアルバムは?

曽我部「『カメラ=万年筆』(80年)です」

——なぜ、『カメラ=万年筆』を?

曽我部「ジャケットがカッコ良かったから(笑)。ちょっとヨーロッパっぽいじゃないですか。エル(・レーベル)のレコードみたいな雰囲気があって。曲名も全部映画のタイトルだし、〈これ、絶対好きだ!〉と思って買ったんですけど、なんか当時は取っ付きにくくて一度封印しました(笑)」

『カメラ=万年筆』のジャケット画像
『カメラ=万年筆』収録曲“欲望”
 

——第一印象ではハマらなかったんですね。

曽我部「実は出会いは良くなかった。先にアズテック・カメラオレンジ・ジュースを聴いていたんで、中途半端な感じがしたんだと思う。でも、いま思うとその中途半端さを聴かなきゃダメなんですよね。そこがムーンライダーズっぽいところで、いまはその中途半端さがおもしろくて、好きなんですよ」

澤部渡(スカート)「ああ、わかります」

曽我部「で、その後に(ムーンライダーズの前身バンドにあたる)はちみつぱいを聴いて〈これ、大好き!〉って思ったんです」

はちみつぱいの73年作『センチメンタル通り』収録曲“塀の上で”のライヴ音源
 

——はちみつぱいはサニーデイ・サービスに通じる世界観がありますよね。その後ムーンライダーズを聴き直したのはいつ頃だったんですか?

曽我部「鈴木慶一(ヴォーカル/ギター)さんと一緒にアルバム『ヘイト船長とラヴ航海士』(2008年)を作ったとき、慶一さんのルーツとしてムーンライダーズにまた触れたんです」

——じゃあ、結構最近なんですね。

曽我部「最近です。だから、いますごく楽しいんですよ、ムーンライダーズを聴くのが」

——でも、98年作の『月面讃歌』では歌詞を提供してますよね。“恋人が眠ったあとに唄う歌”。

曽我部「あのときはムーンライダーズというより、はちみつぱいを意識してましたね。慶一さんも、サニーデイを最初に見たときに〈あれ、若い頃の俺たちじゃないの?〉って思ったみたいだし。だから、声をかけてくれたんだと思うんですよね」

——曲はどんなイメージで書いたんですか?

曽我部「ちょっとねじれた感じのラヴソングにしようというのはありましたね」

——それが当時、曽我部さんがムーンライダーズの音楽に抱いていたイメージだった?

曽我部「はい。卑屈な恋愛を歌っている感じがして、その眼差しが好きだったし、それはいまもですね。ネガティヴなものを良しとする感じというか」

——確かにそれはありますね。ネガティヴなものをロマンティックに見せることができるマジック。

澤部「卑屈なものとロマンティックなものって、どちらかになってしまうじゃないですか。どっちも持っているバンドはなかなかいませんよね。それは初期の彼らが作品に込めていたヨーロッパ的な退廃と関係しているんじゃないかと思うんです。ファースト・アルバム『ムーンライダーズ』の1曲目“紅いの翼”でいきなり飛行機事故を起こしてますから(笑)」

——澤部さんはどんなふうにムーンライダーズと出会ったんですか?

澤部「僕ははちみつぱいからなんですよ。はっぴいえんどを好きになって、キング(・レコーズ)の再発をちょっとずつ集めていくなかで、はちみつぱいにぶち当たったんです。ムーンライダーズという名前は知っていたんで、近所の図書館で『ムーンライダーズ』(77年)を借りて、“スパークリングジェントルメン”なんかを変な曲だな、と思いながら聴いてましたね。そのあと『DON'T TRUST OVER THIRTY』(86年/以下、ドントラ)あたりをレンタルして、いつでも聴けるようにはしてあったんです」

77年作『ムーンライダーズ』収録曲“スパークリングジェントルメン”
 

——来るべき日に向けてスタンバイしていた。

澤部「そうです(笑)。それで大学1年のときに、ふと〈ドントラ〉を聴いたら、これでもか!っていうくらいに沁みて……。そうなっちゃうとあとは早くて、カタログを漁って聴いていきました」

 

ニューウェイヴなんだけど、なんか良い意味で半端なんです

ムーンライダーズ MOON RIDERS in CROWN YEARS 40th ANNIVERSARY BOX クラウン(2016)

——今回、初期のクラウン時代の6作品をまとめたボックス『MOON RIDERS in CROWN YEARS 40th Anniversary BOX』がリリースされたが、ここに収録されたアルバムのなかで澤部さんが特に思い入れがある作品はどれですか?

澤部「『カメラ=万年筆』ですかね。〈ドントラ〉の次に買ったレコードがこれだったんですよ。やっぱりジャケが強烈なんですよね。その頃、ニューウェイヴが好きでよく聴いてたんですけど、さっき曽我部さんが言ってたみたいに、ニューウェイヴなんだけど、なんか半端なんですよ。良い意味で(笑)」

曽我部「実際はニューウェイヴの人たちではないんですよね。ましてパンクの人たちでもないのが若者にははっきり伝わっちゃうというか(笑)」

澤部「みんな(演奏が)巧いんですよ」

曽我部「そうそう。最初聴いたとき、〈えー、大人じゃん!!〉って」

澤部「音も良いですしね。そういう意味で、凄く不思議なアルバムだと思うんです。音質にこだわらないアプローチが多かったニューウェイヴのなかで、音質を保持したままでさまざまな実験をしている。それが僕にとっては衝撃だったんですよね。チープでローファイなのがニューウェイヴのカッコ良さだったと思っていたので」

曽我部「確かにそうだね。そこを楽しむアルバムだと思う」

——パンク/ニューウェイヴに辿り着くまでにもムーンライダーズはさまざまなサウンドを吸収してますよね。ブリティッシュ・ロックAORプログレ、ソウル……。

澤部「アルバムごとに全然違いますね。でも、ちゃんとムーンライダーズの独自性を打ち出している」

ムーンライダーズ 火の玉ボーイ 40周年記念デラックス・エディション [2CD+40周年メモリアル・ブックレット] WARNER MUSIC JAPAN(2016)

——その2つのバンドの間に〈鈴木慶一とムーンライダース〉名義で『火の玉ボーイ』が76年にリリースされています。今回はライヴ音源を加えて2枚組で同作がリイシューされましたが、そこでライナーを書かれているのが澤部さん。改めて聴き直してみていかがでした?

澤部「その後のムーンライダーズに至る萌芽がいくつもあるってことにようやく気付きましたね」

——これまではどんな印象を持っていたんですか?

澤部「初めて聴いたときはムーンライダーズよりわからなかったんです。でも、ゲストで参加している徳武(弘文)さんのギターに興味が出てきて“髭と口紅とバルコニー”を聴き直してみたり。最初から〈良いアルバムだ!!〉と思っていたわけではなく、だんだんわかってくるアルバムでした。〈ドントラ〉より大人なアルバムだな、と思いましたね」

※1951年生まれのギタリスト。大学時代にブレッド&バターのサポートでキャリアをスタートし、その後は長渕剛大瀧詠一高橋幸宏など数多くのアーティストのライヴ/作品に参加している

鈴木慶一とムーンライダースの76年作『火の玉ボーイ』収録曲“髭と口紅とバルコニー”
 

曽我部「僕は細野(晴臣)さんのトロピカルな作品群に対する慶一さんからの回答という印象が強いな。慶一さんの過度期というか」

澤部「でも、“スカンピン”が入っているのはデカイですよね」

曽我部「“スカンピン”、良いよね。はちみつぱいの先という感じがする。でもアルバムとしては、日本のロックが70年代に入っていろいろと模索しているなかでのひとつの案という感じかな」

曽我部恵一が“スカンピン”をカヴァーしたライヴ映像
 

——そこで模索した結果、出した回答がムーンライダーズだった。

曽我部「ムーンライダーズの『ムーンライダーズ』で、過去をすべて振り払った感じがする」