追悼レナード・コーエン ~いま振り返るべき軌跡

 レナード・コーエンが旅だったという日の深夜、ずっと聴きつづけたのは、やはり、『ユー・ウォント・イット・ダーカー』だった。体調を壊しながらも息子アダム・コーエンの尽力で完成させ、結局、遺作となったアルバムだ。もちろん、初めて手にした時は、まさかその直後に悲報が待ち受けているとは思いもよらなかった。

 歌声が、いつもより以上に重く、荒く感じられたとは言え、それでも、紳士然と、悠然としつつ、深い暗闇への神秘の旅に導いてくれる歌声に溜息をつきながら、気づくといつも夜が明けようとしていた。表題作の最後は、「もう覚悟はできている」と閉められていて、そこのところでしばらく時間が止まったかのような、奇妙な空間に置き去りにされたことが、なるほどこういうことだったのかと感慨深げに思い出される。

 『ユー・ウォント・イット・ダーカー』を聴きながら、そのジャケットの横に、『ひとり、部屋に歌う』のジャケットを並べてみた。45年以上も前の1969年に発表されたアルバムで、いずれも、モノトーンで統一されているのと言い、真ん中の枠にコーエンが収まっているデザインと言い、良く似ていて、ただ、黒と白とのバランスが対照的に使われている。ちなみに、ジャケットの裏に映っている女性がいるが、その女性こそが、彼が彼女の後を追うように旅立った女性で、その昔、ギリシャのイドラ島で一緒に暮らしていたマリアンヌ・イーレンだ。

 《スザンヌ》と並び、彼の存在を広める上で貢献した《電線の鳥》が収められていることでも知られるこのアルバムだが、その『ひとり、部屋に歌う』以外にも、デビュー作となる『レナード・コーエンの唄』から、『フューチャー』まで初期の合計10枚のアルバムが、先頃、発売された。《スザンヌ》に《電線の鳥》はもちろんのこと、ジャニス・ジョプリンのことを歌ったとされる《チェルシー・ホテル#2》(『愛の哀しみ』)、ジェフ・バックリィからジョン・ケイルまで多くの人に取り上げられた《ハレルヤ》(『哀しみのダンス』)、《テイク・ディス・ワルツ》(『アイム・ユア・マン』)等々。まだしばらくは冬は続きそうだ。暖かい部屋でコーエンの世界に酔いながら、春を待つことにしようかと思う。

67年作『Songs Of Leonard Cohen』収録曲“Suzanne”

 

 1934年9月21日、カナダのモントリオール生まれで、詩人にして作家。そして、自作自演歌手。ボブ・ディランからスティング、ボノU2)、エルトン・ジョンジョニ・ミッチェル、ジョン・ケイル、REMまで、世代や性別を問わずに慕われつつも、何処にも所属しないで孤高の存在感を放ち続けた。哲学的で思索的、それでいて俗っぽくて、艶っぽく、82年の生涯は、唯一無二誰にも真似できないものだった。2016年11月7日、深夜倒れた後、寝ている間に亡くなったらしい。遺体は、息子アダムが、故郷モントリオールで埋葬したという。

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