破格の音質改善、しかも安価。コロムビアの画期的なUHQCD
ちょっとチープな例えかもしれないが、印象はざっと、こんな感じ。若い頃に激しく愛し合い、なぜか別れてしまった恋人に何十年ぶりかで再会したら、当時の印象以上に魅力的で、素晴らしい大人に変身していて、さらに深い感情を抱くに至った。同時に、それだけ深いものを相手の中に発見できるようになった自分の成長にも、手応えを覚える。
日本コロムビアがメモリーテックと組み、高価なクリスタル(ガラス)CDに使われてきた製盤技術を通常のCDに応用、SACDやブルーレイ・オーディオに匹敵する音質を廉価で提供するUHQCD(アルティメート・ハイ・クオリティー・コンパクト・ディスク)の量産を開始した。従来のCDは音声信号(ピット)が刻まれたプレス金型(スタンパー)に高温で溶かしたポリカーボネート樹脂を高圧で注入する射出成型(インジェクション)の方式を採用し、ディスクの基盤(板)と信号を同時、一体につくることで成型時間を縮めて生産性を上げ、コストダウンを図ってきた。
これに対しUHQCDは、2P(二層)と呼ばれる成型法を採用した。スタンパーの上に紫外線硬化樹脂(フォトポリマー)を塗り、露光で樹脂を固め、信号ピットを隅々まできちんと転写成型し、上部のポリカーボネート樹脂の基盤と一体化する。クリスタルCDはガラス基盤自体が高価だった上、製造工程が多く、1枚あたり数万~数10万円の高額商品として、一部の先端マニアの嗜好品にとどまっていた。UHQCDは基盤自体が一般CDと同じポリカーボネートで、2P成型による工程の効率化も実現したため、従来盤と変わらない価格を設定できる。ただ価格は同じでも、音の鮮度、容積感、演奏者の息遣いまで伝わる解像度、きりっと広がる中高音域、ぐっと重みを増した低音域など、ハイレゾ音源すら連想する音質の改善は際立っており、センセーションを巻き起こしそうだ。
コロムビアは先ず1967~94年に制作した自社音源、アナログ最成熟期の「マスターソニック」から世界初のデジタル商業録音を「PCM(パルス・コード・モジュレーション)」として実用化した時期の名盤20点のUHQCDを「DENONクラシック・ベスト」の名称で1、2月に10点ずつ発売する。いずれも、発売当時から絶賛されてきた名盤ぞろい。価格は1枚1,500円(税別)と、全くの廉価盤だ。さらに20点の「さわり」を2~3分に編集し、同一音源を従来のCDとUHQCDの2枚に納めた聴き比べ用サンプラー盤「UHQCDの世界! DENONクラシック・ベスト」を967円(税別)で先行販売している。
最初にサンプラー盤、続けて第1期10点の試作盤を再生した。冒頭を飾るラファエル・クーベリック指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団のスメタナ作曲、交響詩「わが祖国」の第2曲「モルダウ」(1990年録音)の始まり、ハープやフルートのソロを聴いた瞬間に「すごい技術が登場した!」と、驚いてしまった。スメタナホールの空気感、弦がマスではなく個々の奏者の独奏の重なりとして意識される解像度、低弦のうなり、何より「ビロード革命」を受けて引退を撤回、待望の祖国復帰を果たした巨匠クーベリックの「思い」までもが、大きなうねりとともに再現される。
筆者個人が最も感動したのは、20点中最古の1967年録音ながら、劣化を感じさせず、巨匠ロヴロ・フォン・マタチッチがチェコ・フィルと達成した破格のブルックナー「交響曲第7番」だった。単にスケールが大きい、中欧音楽の伝統をあますところなく再現しているといった次元を超え、人間存在の根幹から溢れ出るような芸格の巨大さに心底、打ちのめされたといってよい。もう何度も聴いたはずの名盤にまだ、これだけの財宝が隠されていたとは、思いもしなかった。室内楽も含め、管楽器の「吹いている」感の改善は目覚ましい。とりわけ若杉弘指揮東京都交響楽団による武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」(91年録音)で世界初演者、今は亡き横山勝也が吹く尺八の音が、ほとばしるような空気感とともに再現されるのは聴きものだ。
新製法の微細ピット転写技術と反射膜に特殊合金を採用することで、HQCDよりさらにUHQCDの方が反射率が高くなり、ディスクのピット情報の読取精度が飛躍的に向上しています。 CDのピット情報を読み取った「HF波形」を観察してみてもUHQCDの方がより振幅が大きくなり、短ピットから最長ピットまでを示す「波形の網目」をより鮮明に観ることができます。これは、カッティングスタンパーに対して、より忠実に複製され、且つ読取精度が向上していることを意味しており、マスタークオリティに極めて近いサウンドを再現しているものと考えています。
※音質の比較の差は再生環境に影響されます。