INTERVIEW

上原ひろみが求めるのはサプライズ! 矢野顕子とのライヴ盤で実践した、限界を超えるためのアレンジ術と相乗効果を明かす

矢野顕子×上原ひろみ『ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-』

上原ひろみが求めるのはサプライズ! 矢野顕子とのライヴ盤で実践した、限界を超えるためのアレンジ術と相乗効果を明かす

矢野顕子×上原ひろみによる2枚目のライヴ盤『ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO-』が3月8日にリリースされる。この両者の共演は、お互いのキャリアのなかでも特異な位置付けになりそうだが、明らかに2人とも活き活きしていて、自由で開放的な雰囲気に満ちていることは今回の作品からも伝わるだろう。矢野と上原のこれまでにないパフォーマンスを聴くことができるし、持ち前の魅力も存分に発揮されている。

そんな2人が出会ったきっかけは、2004年に放送されたNHKの番組「夢・音楽館」での企画。そこから、矢野が2006年に発表したピアノ弾き語りのセルフ・カヴァー集『はじめてのやのあきこ』に収録された“そこのアイロンに告ぐ”で上原がゲストとして参加し、上原も2009年作『プレイス・トゥ・ビー』の日本盤ボーナス・トラックに収録された“グリーン・ティー・ファーム”で矢野をゲスト・ヴォーカルに迎えるなど親交を深めてきた。

このデュオでのライヴはフェス出演も含めて多数行われており、今回が5年ぶりの再会となったが、今後もパーマネントなプロジェクトとして発展していきそうだ。とはいえ、この2人がどういう意図でパフォーマンスを行っているのか、音源だけを聴いてもわからないことは多い。その秘密を紐解くため、上原に語ってもらった。

矢野顕子,上原ひろみ ラーメンな女たち -LIVE IN TOKYO- ユニバーサルミュージック(2017)

 

矢野さんはオープンなので、好きなようにやらせてもらった

――(昨年9月に東京・Bunkamuraオーチャードホール行われた)今回のアルバムのレコーディング・ライヴは、どういうプロセスを経て臨まれたんですか?

「まずは2人で演奏する曲を決めて、私が2台のピアノのために編曲をして、その楽譜が出来たところで矢野さんに送って、各自練習をしてリハをやって……という流れですね」

――きっちりアレンジして、譜面に書いたものなんですね。

「そうですね。曲のなかでインタールード、アウトロ、アンサンブルのパートも多いので、その間にある歌とか、ソロ・セクションとかはコードで(自由に)という感じがほとんどですけど、そうじゃないところはピアノが2台あることの意味が出るような、2台が活きるような編曲をしっかりと楽譜に起こしました」

――上原さんは、ピアノのデュオでライヴをされることが多いですよね。チック・コリアミシェル・カミロとも共演されてましたし。ピアノ・デュオというフォーマット自体がお好きなんですか?

「相手によって全然違いが出るし、すごくおもしろいですね」

――ピアノが2台あることで生まれるおもしろさって、どういうところですか?

「同じ構造の楽器同士なので、どっちがベースを弾いて、どっちがリードを取るかとか、どっちがコードを弾くか、どこの音域を弾くか、いろいろなことを考えながらやるところですね。今回のデュオに関しては、(譜面に)書いてあるところはオーケストレーションというか、ビッグバンドを作るみたいな感じにしているんです。逆に(譜面に)書いてない、いわゆるフリーなソロのセクションでは、お互いの音を聴き合って、瞬時にベストなレスポンスをしていくことが求められるので、一緒にやっていておもしろいです」

――そこに矢野さんの歌も加わるじゃないですか。ピアノ2台と歌というのは、どういう関係性ですか?

「2つの楽器でオーケストラのようになっていて、その上に歌が乗るというイメージですね」

――上原さんは演奏する人に合わせて曲を書くとよくおっしゃっているじゃないですか。このデュオの場合も、矢野さんのピアノの特徴に合わせてアレンジや作曲をしているんですか?

「演者を踏まえてアレンジしているので、矢野さんのピアノが活きるようなアレンジを心掛けました。彼女自身、リズミックなベース・ラインを得意としているので、低音域を活かすようにしたりとか。でも、得意なことばっかり(用意する)というよりは、2台で演奏したらおもしろそうなアイデアを出して、たとえそれが矢野さんの弾いたことがないようなフレーズであっても、彼女はそういうことに対してはオープンな人なので、それをアンサンブルとして聴いたときにカッコイイという結論であれば、カッコイイところまで(突き詰めて)やるという感じでしたね。本当に好きなように作らせてもらいましたよ」

――じゃあ、矢野さんもかなり練習してこないと弾けないようなものもあったと。

「そうですね。かなり練習されたと思います」

――上原さんはいつも、(上原のトリオ・プロジェクトのメンバーである)アンソニー・ジャクソンサイモン・フィリップスに無茶振りするとおっしゃっていますよね。今回も無茶振りっぽいアレンジをした曲はありますか?

「“飛ばしていくよ”はチャレンジングだったんじゃないかな。あと、矢野さんは“ドリーマー”が難しかったと言ってました。後者は彼女が選んだ曲なんですけど、アレンジというよりはリズムの取り方がとても難しかったみたいですね」

――このアルバムでの矢野さんは、普段のイメージとは違う気がしたんです。上原さんと一緒にやっているときにしか見れない矢野さんがいるというか。

「矢野さんのオリジナル曲は私がアレンジしていて、矢野さんがもともと付けていたコードとはまったく違うものにリハーモナイズしているので、それで彼女も(自分の)曲を別アングルから見ることができたり、また曲が生まれ変わる感じがするとは言ってましたね」

――例えば、どの曲ですか?

「“東京は夜の7時”に、“ラーメンたべたい”もそうですね。原曲とは全然違うアレンジになっています」

――それは何かリクエストがあったのではなくて、上原さんのほうから勝手に変えたんですか?

「完全に私の好きなようにやらせていただきました、いつもそうです(笑)。矢野さんも〈え、こんなふうにしちゃうの?〉とは絶対に言わない。好きなように大幅な変更を加えても、〈カッコイイね〉と喜んでくださるので、本当に自由にやらせてもらってます」

――矢野さんとのコラボだと“ホームタウンブギウギ”“おちゃらかプリンツ”“真赤なサンシャイン”みたいなマッシュアップもおもしろいですけど、これって曲は2人で決めたんですか?

「“おちゃらかプリンツ”については、前回2人でライヴした時に“あんたがたどこさ”と“Afro Blue”を組み合わせて“あんたがたアフロ”というのをやったんです。マイナー・キーのわらべ歌ってすごくモーダルというか、モード進行になるのでモードのジャズ・ナンバーと合うなぁということで、(ウェイン・ショーターの)“Footprints”と組み合わせたらいいかなと。もともと“Footprints”やりたいねってところから出発して、それにわらべ歌をくっ付けようといろいろ試していたんです。そこで、〈締まるリフ〉みたいなものがあるほうが、毎回そのリフが戻ってくると気持ちいいので、そういうわらべ歌を探していて。〈せっせっせのよいよいよい〉のところがいいリフになるねってことで“おちゃらかほい”が選ばれたという経緯ですね」

※矢野顕子×上原ひろみの2011年作『Get Together ~LIVE IN TOKYO~』に収録されたライヴのこと

――“真赤なサンシャイン”の場合はどうでしょう?

「“真赤な太陽”が好きで、8分の6拍子でアレンジしていたんです。それである時に(ビル・ウィザーズの)“Ain't No Sunshine”を聴いていたら、〈I Know, I Know, I Know~〉ってところのポリリズムが4拍子の上でずっと3連だなと思って。そこから8分の6拍子に行けるから、〈あ、これは繋げられるな。しかも、どちらもサンシャインだし!〉と。だから、一休さんみたいな感じですね。とんちが生まれる感じというか、〈チーン〉ときて(笑)。それでくっ付けたら、すごく良かったのでこうなりました」

――アイデアとしては、リズムから生まれたものだったんですね。

「そこから8分の6拍子にも行けるし、またそこから4拍子にも戻れるので、これは繋がると。〈すごいアイデア思い付いた!〉って。いつか矢野さんと一緒にやるときに演奏しようと思って、温めていたネタですね」

――“ホームタウン・ブギウギ”はどうでしょう?

「私がもともと“東京ブギウギ”をやりたいと矢野さんに話をしていて、コンサートにおけるフィナーレ的な位置付けで考えていたので、メドレーにしたらどうだろうと。そうしたら矢野さんが〈ニューヨーク・ニューヨーク〉がいいんじゃないかって。(東京とNYという)2人のホームタウンという意味で。そこからアレンジとして成り立つか試してみたら、すごく流れが良かったので、そのまま採用になりました」

――いかにもフランク・シナトラっぽい、あのアレンジは印象的ですよね。

「らせん階段から2人が降りてきて、ミラーボールが回っているような感じをイメージしましたね」

フランク・シナトラ〈ニューヨーク・ニューヨーク〉(“Theme From New York New York”)のパフォーマンス映像
 

――ああいう曲を歌う矢野さんも珍しいし、アレンジもおもしろいですし。

「そうですね。“東京ブギウギ”のほうはサックスの5ホーンのソリ・セクションを書くような感じで、私の右手で2管、左手で1管、矢野さんが両方で1管ずつで、一緒に弾くとビッグバンドのソリ・セクションみたいになるアレンジになっていて。一人一人がメロディーを弾くと、弾いているときには想像も付かないような音の連なりが出来て、一緒に弾いていて気持ちがいいねと言ってくれました」

――そもそも“東京ブギウギ”は、なぜやろうと思ったんですか。

「もともと美空ひばりさんがすごく好きなんです。もちろん笠置シヅ子さんがオリジナルなんですけど、それより先にひばりさんのヴァージョンを聴いていて、ずっと好きな曲だったんですよ。それで、矢野さんが歌っているところを聴いてみたいなと思って、そう伝えたら〈あら、そう? じゃあやる?〉みたいな感じですね」

――もともと上原さんはブギウギがお好きですよね。昨年、〈サマソニ〉で上原さんのライヴを観たんですけど、その時のステージでもブギウギっぽい感じが出ていましたよ。

「ソロで弾くときは、左手とか、結構そういう感じがあるかもしれないですね」

――確かに、ソロの時にそういう瞬間が出る印象があります。自由に弾ける場面だと、そういう好きなものが滲み出るのかなと思ったり。

「そうですね。ソロとかでベーシストがいない状況だと、左手を自由に使えて、自分がベーシストになることもできるので、そういうブギウギみたいになることも多いかもしれないですね。分量は増えるかもしれないです」

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