凄腕クリエイターとミュージシャンによる熱血青春バンドが初フル・アルバムを完成。負けたときの経験をバネに、自由奔放なスタイルで繰り広げられる敗者復活戦は聴き手の心を力強く奮い立たせる――このままじゃ終われない!

 

好き勝手に作りたいものを

 LiSAベイビーレイズJAPANなどへの楽曲提供のほか、アニメ/ゲーム関連の音楽も数多く手掛ける堀江晶太(ベース)を中心に、声優としても知られる生田鷹司(ヴォーカル)、スタジオ・ミュージシャンとして幅広く活動している神田ジョン(ギター)、新保恵大(ドラムス)、柴崎洋輔(キーボード)によって2015年から活動を開始したPENGUIN RESEARCH。TVアニメ「デュラララ!!×2結」のエンディング・テーマとなったメジャー・デビュー曲“ジョーカーに宜しく”に始まり、“スポットライト”“ボタン”とアニメとのタイアップ・ソングを重ねてきた彼らが、ファースト・アルバム『敗者復活戦自由形』を完成させた。「もともと飽きっぽい人間で、激しいロックも歌を聴かせるポップスも、ハウスみたいなダンス・ミュージックも好き。自分でやるバンドでも音楽的な制限を作りたくない」(堀江)というスタンスは、本作にも強く反映されている。

「このバンドはインディーズでの活動歴もないし、メジャー・デビュー後も〈どういうバンドになりたいのか〉ということを考えながら活動してきて。今回のアルバムもコンセプトは決めず、言ってみれば行き当たりばったりで制作したんですよ。作ってるときは迷いもありましたが、出来上がったものを聴いて〈カッコ良い〉と思えたので良かったです」(神田)。

「アルバムの制作に入った時点では1曲もストックがなかったんですけど(笑)、結果的にいろんなタイプの曲が出来て。幅もさらに広がったと思います」(新保)。

「僕と晶太のふたりでインストア・イヴェントをやったときに、プロデューサーから〈おまえらはポップな方向にいきたいのか、それとも激しい曲を中心にしたいのか〉と訊かれたんですけど、〈激しい曲〉って即答したんですよ。イヴェントのお客さんも激しい曲を求めていた人が多かったし、それ以降、晶太からは攻撃的な曲がどんどん出てきた印象もありますね」(生田)。

「確かに激しい曲が多くなりましたけど、それは、〈PENGUIN RESEARCHは激しい方向性でいきます〉ということではなくて。いま作りたいものを好き勝手に作ってみたら、結果的にこうなったというところですね」(堀江)。

PENGUIN RESEARCH 敗者復活戦自由形 ソニー(2017)

 ゴリゴリにヘヴィーなロック・サウンドとファンキーなダンス・ビートが交互に飛び出す“嘘まみれの街で”、4人の楽器隊が繰り出すキャッチーなフレーズを疾走感のあるギター・ロックへ編み込んだ“スーパースター”、生のドラムと打ち込みのリズムを融合し、異形のドラムンベースと言えそうなビートを構築した“冀望”――ジェットコースターのように駆動するメロディーラインと自由奔放なアレンジメントが共存する音楽性は、本作においてさらに緻密さを増している。それを支えているのはもちろん、メンバー全員の際立った演奏テクニックだ。

「メンバーそれぞれの音がしっかり感じられるアルバムにしたかったんです。デモを渡したら、まず好きなように演奏してもらうんですよ。そのフレーズをそのまま使うこともあるし、〈ここは自分のアイデアでやりたい〉という部分もあるんですが、バンドならではの作り方と自分がイチから作り上げるアレンジのハイブリッドでやれたらいいな、と。ライヴで弾いていて〈なんでこんなに難しくしちゃったんだろう〉と思うことはありますが(笑)」(堀江)。

「他のメンバーもそうみたいですけど、特に大変だったのは“シニバショダンス”。2番のサビの後に高速でユニゾンするパートがあるんですけど、めちゃくちゃ苦戦して。僕はフュージョンをやってきた人間なんですが、ここまで難しいフレーズは経験したことがなかったですね。刺激的でした」(柴崎)。

 

負けたときにどうするか?

 そんなアルバムのなかで異彩を放っているのは、バンドにとって初のバラード・ナンバーである“ひとこと”。豊かなドラマ性を感じさせる旋律には、メロディーメイカーとしての堀江のセンスが滲んでいる。

「楽曲提供などの活動を始めたばかりの頃、よく〈おまえの作る曲はメロディーが弱い〉と言われていて。自分でも〈アレンジがいちばんの武器〉と思っていたし、メロディーだけで勝負することを躊躇していたところもあったから、バラードはほとんど書いてなかったんです。でも〈このままじゃダメだ〉という気持ちもあったし、今回はバラードにも挑戦してみようと。〈良いメロディーで、かつ、良い歌詞である〉というのは、ここ1~2年向き合ってきたことでもあるので」(堀江)。

「“ひとこと”は今作のなかでも最後に出来た曲なんですが、この1曲で全体のバランスもさらに良くなったと思います。晶太のメロディーは、このアルバムの曲作りの過程ですごく変わりましたね。言葉とメロディーがしっかりひとつになっていて」(神田)。

 圧倒的な情報量を誇るサウンドメイク、高度なフレーズを駆使しながら走り抜けていくバンド・サウンドにまず耳を奪われるが、PENGUIN RESEARCHの本質は、実は歌詞のなかにはっきりと示されている。それを象徴しているのがタイトル曲の“敗者復活戦自由形”。挫折を経験した人間だけが持ち得る強さを描いたこの歌は、堀江自身のモチベーションのみならず、このバンドの精神性とダイレクトに結び付いていると言っていい。

「制作の終盤になって曲を聴き直してみたとき、〈負けたときにどうするか? そこで何を考えて、どう行動するか〉というテーマの曲が多いなと思って。自分自身、何度も失敗して躓いてきたし、そこから〈諦めないで生きよう〉という火が点いたタイプなんですよ。その経験があったからこそ音楽を続けているし、そこで見つけたものを曲にしておきたいという気持ちもありましたね。作曲/編曲はずっとやってきましたけど、作詞を始めたのはこのバンドを結成してからなので、良くも悪くもアマチュアだと思っていて。だからこそヘンにカッコつけず、ウソのない歌詞を書くことが大事だと思うんですよね」(堀江)。

「“敗者復活戦自由形”のレコーディングのときは喉の調子が悪くて、思うようなテイクが録れなかったんです。でも、〈どうなったって謳え そんなんで終わんなよ〉という歌詞を歌ってるときにバーッと鳥肌が立って、心から〈このままじゃ終われない〉と思ったんですよね。その後、いきなり声の調子が戻って、いいテイクが出るようになって。この曲のメッセージが自分自身にも突き刺さったんだと思いますね」(生田)。

〈凄腕のクリエイターとミュージシャンによる音楽プロジェクト〉という側面と、〈泥臭く、汗をかきながら突き進むロック・バンド〉という側面を併せ持つPENGUIN RESEARCH。「このバンドを知ってもらえる入り口はたくさんあるはず。最初はイロモノと思われても、曲を聴いて、ライヴに来てもらって〈カッコ良いバンドだな〉とわかってもらえればいい」(堀江)という彼らの多面的な魅力は、この『敗者復活戦自由形』をもってより広い層のリスナーへ突き刺さることになるだろう。

PENGUIN RESEARCHの作品を紹介。