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今もっとも影響力のある作曲家、ヘルムート・ラッヘンマンが来日! 欧州の内側から現代音楽を脱皮させてきた鬼才を聴く

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  • 2017.04.20
(C)Giovanni Dainotti

内側から裂け目を開いた作曲家、ラッヘンマンを聴く

 戦後「現代音楽」の出発点、ダルムシュタットの国際夏期音楽講座。一連のトップランナーたちが、ここを拠点に強烈な個性を発展させていった。そうしたトップランナーの両極(両翼?)ともいえるシュトックハウゼンとノーノの双方に師事したのが、ほかならぬラッヘンマンであった。現在81歳だが、「今もっとも影響力のある作曲家」というランキングがあったら、1位になるのは間違いなく彼だろう。

 リトープスという変わった多肉植物をご存知だろうか。切り株のような先端に生じた裂け目の中心から、新たな芽がまるで脱皮するようにして成長する。いわば「脱皮するサボテン」だが、ラッヘンマンは、ちょうどこのリトープスを思わせる。シュトックハウゼンを除くと、他の多くの前衛作曲家たちがヨーロッパの外縁からやってきたのに対し、ラッヘンマンはまさにヨーロッパ作曲界の中心をなすドイツに生まれ育った。「西洋の伝統に根差した作曲家が、ヨーロッパの外に由来する表現手段をずる賢く横領している」状況を痛烈に批判しつつ、彼は自身の内側にある裂け目から脱皮を図る。あるいは、彼の作品を特徴づける様々な特殊奏法によって、この裂け目を切り開いたといえるかもしれない。

 今回の公演で演奏される弦楽四重奏曲《Gran Torso》(1973)では冒頭から特殊な発音が連続するが、聴いているうちに不思議なほど違和感がなくなってゆく。「このあたりでちょっと奇異な響きが欲しい」というような、現代音楽にありがちな特殊奏法のスパイス的用法では決してない。楽器が内包する音響の可能性の深みに耳をそばだてる行為、その行為そのものを結晶化・音響化したような作品である。演奏されるもうひとつの弦楽四重奏曲《Grido》(2001)では、去来するグリッサンド、デュナーミク、音色の連続的変化の運動性による4次元的空間が展開する。いまや特殊奏法は、弦楽四重奏という空間の内部奏法とでも云うべきものへと深化をみせる。演奏は、泣く子も黙るアルディッティ弦楽四重奏団。こうした現代の難曲は彼らの好物というより、もはや主食である。

 ほかに演奏されるのは、ソプラノとピアノによる《Got Lost》(2008)と、昨年完成したばかりのピアノ・ソロ作品《Marche Fatale》 の日本初演。ソプラノは、ドイツ在住で現地でのオペラ公演中にもかかわらず招来される角田祐子。ピアノは、ラッヘンマン夫人でもある菅原幸子という念の入れようだ。さらに、コンサートに先立っては、ラッヘンマン自身によるプレトークもあり、JR特急「ひたち」に感謝する一日になるにちがいない。

 


LIVE INFORMATION

ラッヘンマンの肖像 監修=ヘルムート・ラッヘンマン
○6/17(土) 15:10開場/15:20プレ・トーク/16:00開演
会場:水戸芸術館コンサートホールATM

【プレ・トーク】
「これまでの創作を振り返って」
出演:ヘルムート・ラッヘンマン(トーク)
【演奏会】
ラッヘンマン:
弦楽四重奏のための音楽 〈グラン・トルソ〉
高音域のソプラノとピアノための音楽〈ゴット・ロスト〉
ピアノのための〈マルシュ・ファタール〉(日本初演)
弦楽四重奏曲 第3番 〈グリド〉

出演:
角田祐子(ソプラノ)
菅原幸子(ピアノ)
アルディッティ弦楽四重奏団
アーヴィン・アルディッティ(第1ヴァイオリン)
アショット・サルキシャン(第2ヴァイオリン)
ラルフ・エーラース(ヴィオラ)
ルーカス・フェルス(チェロ)
ヘルムート・ラッヘンマン(トーク)

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