さまざまな縁と巡り合わせの迷宮を通り抜け、実に14年ぶりに目覚めた大きな世界。時間は、生命は、音楽は、MONDO GROSSOは、何度でも新しく生まれる……

 

自分の想像を裏切る

 「〈いまの時代にMONDO GROSSOをやるならこうでしょ〉的なものを俯瞰している僕もいて、例えばこの10年間で培ったスキルとかを使いこなして、サラッと……って言い方は良くないですけど(笑)、何となくオーガナイズされたもので構築していくイメージもあったんですよ、最初は。ただ、実際にやりはじめたら、それだと違和感があった。で、そう思った時に、MONDO GROSSOには、やっぱり皆さんが共通して持っているイメージと、それとは全然かけ離れたものが混在していて、それが進化したり変化したり裏切ったりっていうのが、少なからずMONDO GROSSOの歴史の中にあって。だったら僕が想像してたことっていうのは、たぶん安パイだったんですよね。なんで、まず自分を裏切ることをやんないと始まんないんじゃない?っていうところに戻って。で、1曲とにかくやってみようってことで出来たのが、最初に出した“ラビリンス”なんです」。

 なぜ、いまMONDO GROSSOなのか。「別に封印していたわけでもなく、タイミングを逃していただけなんですよ」という大沢伸一の答え以上に、最初の一撃は雄弁だった。MONDO GROSSO名義で実に14年ぶりの新曲となった先行カットの“ラビリンス”は、アシッド・ジャズ的なバンド・グルーヴでも洒脱なUKソウルでも2ステップでもアッパーなエレクトロでもない、女優の満島ひかりが幻惑的な歌声を漂わせたアトモスフェリックなハウス・チューン(作詞は東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦)。14年の間にソロ名義作のリリースや意欲的なDJ活動、プロデュースやリミックス、さらにはOFF THE ROCKERやAMPSなどのプロジェクトを推進し、いつしかMONDO GROSSOの名前を追い越したような印象もある大沢だけに、今回の方向性をどう受け止めるかは受け手によってさまざまだろう。ただ、間違いないのはニュー・アルバム『何度でも新しく生まれる』に広がる彩りがMONDO GROSSOの名の下に実ったものだということだ。今回は初めて全曲が日本語詞のヴォーカル・ナンバーで占められ、曲ごとに多様なシンガーと作詞家を配している。

MONDO GROSSO 何度でも新しく生まれる cutting edge(2017)

 「僕はもうとにかく、90年代頭のループ世代なので、変化しつつもひとつの世界をずっとこう繰り返すことで浸透させていく、トランスさせていくみたいなことが好きなんで、今回もその手法だったんですけど。“ラビリンス”を作ってみて、〈やっぱこれ日本語だね〉っていうところから、〈全曲日本語の作品ってやったことないし、おもしろいかもね〉って。それは最初の想像からいちばん遠いところだったんですけど、周りのスタッフも〈それはおもしろい〉って反応してくれて。僕らが使ってきた言葉に向き合うってことは、生半可なトライアルではちょっと許されないであろうってことも想像してたんで、正直しんどいな~って思いつつ、自分のクリエイティヴ・マインドにはマゾヒスティックな部分もあって(笑)、しんどいことこそ向き合う価値もあるな、と。結果的に僕らにとっては物凄い楽しめる、格好の枠組だったんですよ。MONDO GROSSOが日本語で全曲やる、しかも全部が歌入り、みたいな」。

 

かっこつけすぎない時代

 言わずもがなのbirdやUAはもちろん、moumoonのYUKA、AMPSで活動を共にした二神アンヌといった縁のある名前から、INO hidefumiや大和田慧、新進のKick a Showに下重かおり、さらには乃木坂46の齋藤飛鳥、やくしまるえつこに至るまで、意外性も含めてヴォーカリストは色とりどり。多くの声を活かした構成は前作『NEXT WAVE』(2003年)にも通じるが、「今回はもっと自然で、オープンマインドだった」と明かす。

 「良い意味でも悪い意味でも、前はクリエイターとしてのエゴのほうが強かったんですよ、〈いや、これは誰が何と言おうがこうするんだ〉みたいな(笑)。今回は、レーベルのディレクターやマネージャーが〈この作家でやりたい〉〈この人とやるべき〉って、僕一人だったらまず生まれてこないアイデアを出してくれて。彼らもMONDO GROSSOに凄く思い入れがありつつクリエイティヴ・マインドから生まれたマーケティングの目も兼ね備えていて、〈MONDO GROSSOが2017年にやる意味〉っていうのをたぶん死ぬほど考えたうえで出してきてくれたので、まずは基本的に全部受け入れたんです。そこは信頼関係っていうのと、やっぱり餅は餅屋というか、僕が考えるべきことは音楽そのもののことだし、そういう棲み分けがきちんとできて。チームでモチヴェーションを高めていくうえで、もらったアイデアに僕が反応するっていうやり方で正解だったと思います。今回は、それが凄く気持ち良かった」。

 結果、“ラビリンス”から連なる迷宮のムードにINOの歌唱する“迷子のアストゥルナウタ”(作詞は宮沢和史)が絡まり、その宇宙空間のイメージを、やくしまるの“応答せよ”が受信するなど、楽曲それぞれの風情はアルバム全体で不思議な統一感を織り成している。「曲が出来た時に僕の中でトレイシー・ソーンの声が鳴っていて、そういう声を探してたら紹介してもらって。まあ正直、似てなかったんですけど、〈何かおもしろい。好きな声だな〉と思って」という下重かおりが生命力に溢れた歌を響かせるピアノ・ハウスの“GOLD”も、二神アンヌの鋭角的な勇ましさが映えるアップリフティングな“ERASER”や、「想像つくような誰かじゃなくて、自分の知らない、若い人とやりたい」というリクエストから抜擢されたKick a Showの男っぽさが快い“SEE YOU AGAIN”といった80年代ニューウェイヴ感覚の楽曲も、シンプルながらにリッチな感触を伴った全体の上質なトーンに溶け込むものだ。そして、何より胸を打たれるのは冒頭に置かれた“TIME”だろう。巣立ったbirdと久々に組んだこの曲は、ベースの効いたグルーヴィーなパートからフックに至ってテンポを落とすという野心的な構造も相まって、何とも言えない不思議な感動と共にアルバムの素晴らしさを約束してくれるはずだ。

 「不思議な曲ですよね。こうやってテンポが落ちていくみたいな曲ってあんまりないと思うし、僕も聴くたびに何かジーンとくるというか、考えさせられるような曲で」。

 キャッチコピーのようで意表を突く『何度でも新しく生まれる』というアルバムの表題もこの“TIME”の歌詞から取られたもの。

 「これもね、僕にとってはチャレンジ……じゃないな、裏切りですよね。コンセプチュアルに〈何度でも新しく生まれるんですよ〉ってことが言いたいわけじゃなく、でもbirdがこの曲にこのタイミングでこの言葉を見い出して、こういう歌詞を返してきて……僕は飛んできたトスを、ポンッと打たせてもらったみたいな感じですよね。その意味に物凄く乗っかったわけでもないのに、そういう符号が全体でうまく出来ていて、それが皆さんの期待や予想を裏切っているからおもしろいね、ってだけで」。

 意図することなく出てきたフレーズが結果的に縁の巡りやMONDO GROSSOの状況を示唆していなくもないあたりは、イレギュラー性をも楽しんだ今回のアルバムを象徴しているようにも思える。そんな風通しの良さが全体の伸びやかな雰囲気に繋がっているのだろう。

 「物凄くコンセプチュアルに考えて突き詰めていく世界もあるんですけど、カッコつけないほうがカッコいい時代も当然あると思うし、そのカッコつけすぎない時代っていうのがたぶんいまなんだと思うんですよね、僕の中で。ちょっと皮肉なんですけど、うん、いまの自分に正直な姿だと思いますね」。

 なぜ、いまMONDO GROSSOなのか。いずれにせよ、その名がクリエイティヴの触媒であり、クリエイションそのものなのは言うまでもない。そこには関わった各々のイメージやアイデア、思い入れが重なり合った、名前の由来そのままの〈大きな世界〉が広がっている。

大沢伸一のソロ作。

 

MONDO GROSSOのフル・アルバム。