誰もが迎える晩年。楽器奏者なら音色の変化や、インスピレーションの持続にも影響が現れるだろう。それを衰えと受け止めてしまえば、自らの活動にピリオドを打つことになるだろうが、少なくとも変化として向き合えば、晩年にしか味わことができない格別な、創造の流れに合流することができるだろう。このトマス・スタンコのニューヨークのカルテットは、トマスの今という時間に降りてきた、短歌のように簡潔な美しさに溢れたジャズを奏でる。短い曲の、空間を埋めるミュージシャンそれぞれのイマージュは、溜息が滞留する時を静かに突き動かすように、カルテットの音楽を優しく揺らす。窓外に揺れる花を見ているかのようだ。