INTERVIEW

高橋悠治『めぐる季節と散らし書き 子どもの音楽』 平安時代の「寸松庵色紙」をもとにして作られた新曲からケージまで

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  • 2017.06.30
え:柳生 弦一郎

平安時代の「寸松庵色紙」をもとにして作られた新曲《散らし書き》からケージまで~水面に輝く光のようなピアノの響き

 高橋悠治の『めぐる季節と散らし書き 子どもの音楽』は2017年2月に東京の浜離宮朝日ホールで行なわれたピアノ・リサイタルのリハーサルとライヴのテイクを使用したアルバムだ。コンサート会場でも感じたことだが、水面に輝く光のようなピアノの響きがたとえようもなく美しい。音のひとつひとつに強い意志がこめられている。簡潔な響きの中に官能がひそんでいる。こんなふうに ピアノが弾ける人を他に知らない。

高橋悠治 めぐる季節と散らし書き子どもの音楽 マイスター・ミュージック(2017)

 リサイタルの曲目は多岐にわたり、新曲《散らし書き》の他、パーセル、クープラン、ジョン・ケージ、ブゾーニ、サティ、ストラヴィンスキー、ヴェーベルンが演奏された。アルバムのタイトルと曲目はリサイタルと同じで、前半が「めぐる季節と散らし書き」、後半が「子どもの音楽」。リサイタルでは曲ごとに高橋悠治の短い解説が入ったが、CDには文章化されたものが掲載されている。

 注目の新曲《散らし書き》は平安時代の「寸松庵色紙」をもとにして作られた。これは10世紀初頭の『古今和歌集』の和歌を書写した色紙で、11世紀後半に書かれたらしい。

 「平仮名で小さな色紙に書いてある。五七五七七からずれた区切りで書かれているので、もとの和歌とちがう言葉が浮かんで、いろんなイメージが重なってくる。その色紙を横にして、文字の太さや曲線を音で拾っていった。右手でやったり、左手でやったり、書かれた線に沿ってどっちかの手が動いて行く。図形楽譜と似たようなものだけど、勾配をなぞっていくのにすごく時間がかかった」

 ここで聴けるのはきわめて自由度の高い演奏だ。メロディが浮かぶところもあれば、思いがけない間や音の連なりに聞こえるところもある。それは和歌と書写された散らし書きの関係にも似ている。

 「コードがあるとか、中心の音をめぐるとか、重心があって、その上に何かがのっかっているとかじゃなくて、重みがなく漂っているのをどうするかみたいな話だよね。ひとつの線がある。それにもう一つの線を手であしらうことも、同じ線がちょっとずれて重なっていくことも、それぞれの音が勝手に鳴っているのをつなげるとメロディになっていたみたいなことも、いろいろできるわけ。最初からプランを立てて、はまるように、というフレームは考えないで」

 《散らし書き》に続くジョン・ケージの《四季》を聴けば、方法論のちがいがよくわかる。ジョン・ケージの音楽はやはり西洋古典音楽の伝統の枠組みの中にいると感想を告げたら、《四季》は1940年代の作品で、伝統を打ち壊しはじめたのはその後だよ、という返事だった。

 「彼はリズミック・ストラクチャーと呼んでいるけど、時間の枠があって、それを組み替えながらやっている。たとえば2+3+1みたいな列があって、その中に何が入ってきてもいいわけ。カレンダーの曜日は日曜日、月曜日……と決まっているけど、それぞれの日曜日は別のことをしているようなものだね」

 サティの「コ・クオが子どもの頃(母のしつけ)」についてのコメントはおもしろすぎる。

 「1913年はサティが子どものための曲を集中的に書いた年。これは一番最初に書いたけど、いろんな音が入ってくるから、子どもには無理だと思って、没にしていた。それが1999年に発見された。曲ごとに、ココアに指を入れないで……というような言葉がついている。うたうためでも、読み上げるためでもない。読んで弾くために書いてある。サティは詩のようなものがついている曲をいっぱい書いているんだ。言葉を考えてから音楽を書いたのか、その逆なのかはわからないが、有名なのは〈歯の痛いウグイスのように〉という指定(笑)。いくら考えても、こう弾けということにはならないけど、読んで弾いてみると、なんかちがう感じがするのかもしれない(笑)」

 民謡に東洋的な要素が感じられるバルトークの《10の易しい曲》やストラヴィンスキーの《五本指》など《子どもの音楽》の部分は名曲のオンパレード だ。ストラヴィンスキーがこんなに美しい曲を書いていたなんて! 年代順なので時代と手法をたどる楽しみもある。すでに数え切れないほど聴いているが、少しも聴き飽きないアルバムだ。

 


LIVE INFORMATION

「エピクロスの空き地」展・関連講義
自然について

○7/1(土)14:00~
会場:東京都美術館(上野)2Fスタジオ
出演:三松幸雄(哲学/現代芸術)x高橋悠治
事前予約制:定員40名
予約・問い合わせ:picurusnoakichi@gmail.com

北川フラムの対話シリーズ「知をひらく人たち」第3回
前衛音楽から「シアターピース」へ 柴田南雄のしごとと思想
○7/7(金)19:00 -20:30
会場:クラブヒルサイドサロン(ヒルサイドテラスアネックスB棟2F/東急東横線代官山駅より徒歩3分)
クラブヒルサイド事務局 :info@clubhill

高橋悠治ピアノ・リサイタル
○7/21(金)19:00
会場:長崎大学創楽堂 
曲目:ガルッピ 「ソナタ イ短調」/モーツァルト「ロンドイ短調」/バッハ「前奏曲とフーガ ニ短調」/平均律1巻/サティ「グノシエンヌ7番」/高橋悠治「花筐2」(2007)/ブゾーニ 子守唄

栃尾克樹「冬の旅」
真夏の『冬の旅』バリトン・サックスとピアノで
○8/23(水)19:15
会場:代々木上原 ムジカーザ
出演:栃尾克樹(Br)/高橋悠治(p)
www.suigyu.com

 


TOWER RECORDS INFORMAITION

『めぐる季節と散らし書き 子どもの音楽』発売記念ミニLIVE & サイン会
○7/9(日)タワーレコード渋谷店 7F 15:00開演

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