玉置浩二

billboard classics festival 2017 in TOKYO - Bright Lights, Spring-
豪華アーティストとオーケストラとの極上のマリアージュ

 国内最大級のポップス・ロック&オーケストラの音楽祭、billboard classics festival2017が早春の2月18、19日に東京国際フォーラムAで行われた。大友直人指揮・東京フィルハーモニー交響楽団が日本のトップスターと次世代を担う若いアーティストとの極上のマリアージュを生み出した。

 今回コンサートの冒頭で、序曲として演奏されたのは、玉置浩二が世界平和を祈念して作曲した管弦楽作品《歓喜の歌》。彼の歌が聴こえてきそうな序曲に続いて、ベートーヴェンの《田園》が演奏されるが、中盤で管楽器が奏でるメロディがどこかで聴いたことがあるような、そう「これでいいんだ~♪」と歌う玉置浩二の《田園》ではないか。これがプロローグとなり、玉置浩二が登場する。こういう遊び心のある洒脱な演出は、さすがだし、玉置さんと大友さんのアイコンタクトから確かな信頼関係がうかがえる。

 アドリブを交えながら、パワフルに歌っていく姿に彼がインタヴューで語った「運命的な出会いから宿命的な出会いに変わったというか、独学のシンガー・ソングライターである自分と、クラシック音楽を正式に学んできたオーケストラのみなさんとの共演が僕にとって宿命としか思えないようになってきた」という言葉が蘇ってくる。それにしても観るたびに歌がどんどん進化している。《田園》、《Mr.LONELY~メロディー》(メドレー)と続き、《清く正しく美しく》では横浜少年少女合唱団と初共演。常に新たなことに挑戦し続けている彼の音楽に対する、貪欲かつ真摯なアティチュードを見る思いがした。それは同時に今後、どんな展開が私達を待ち受けているのか、という期待感を煽るものでもあった。

 今回のフェスでは出演者が5組、スペシャル・ゲストが4組登場した。

小野リサ

 玉置浩二に続いてステージに現れたのはエレガントなドレスがよく似合う小野リサ。囁くように歌うヴォーカルで、ギターの弾き語りを交えながら、《Canta,Canta Mais》、《夏のサンバ》、《いのちの歌》、《イパネマの娘》の4曲を披露する。彼女がネイティブなポルトガル語で歌うボサノヴァは、これまでに何度も聴いているけれど、オーケストラと共演することで、ボサノヴァが本来持つクラシックの印象派の音楽のような淡い色彩感が放たれて、空間がやわらかく染められていく。

 1部の最後は、billboard classicsで単独公演も行っている福原美穂が80人を超える編成のゴスペル・グループ、ソウルバードクワイアとの共演で、ソウルフルかつパワフルなヴォーカルで観客を圧倒するが、その前に2曲を披露したスペシャル・ゲストが意外な出演者だった。野性味あふれるヴォーカルで、歌にまるで生命を注ぎ込むようにパワフルに熱唱するシンガー・ソングライターの石崎ひゅーい。レパートリーのなかから心の震えを、数を重ねていく歌詞で独白するように歌う《花瓶の花》と、実らぬ愛を絶唱する《傷心》をパフォーマンスするが、その彼とオーケストラの共演は、一見対極にあるように思えて、ミスマッチに映るけれど、彼の歌に触発されたかのようにオーケストラが内に潜む生々しい感情を力強く奏でていき、独自の一体感が生まれている。こういう意外な顔合わせが起こす予想外の化学反応がこのフェスティヴァルの楽しみのひとつだ。

 2部の幕開けは、18日と19日で異なった。18日は、槇原敬之が登場し、1991年発表の2ndシングル《Answer》をパフォーマンス。数多くのヒット曲を持つ彼のレパートリーから選ばれた1曲としては意外に思えたが、槇原敬之にとっては初めての恋愛体験を綴った大切な楽曲で、オーケストラと共演するならば、この曲で、と願ったものだとか。10代の初々しい恋愛風景が浮かぶラヴソングに会場全体にしんみりとした空気が流れる。ぜひとも彼の歌をもっといっぱい聴いてみたい。

 翌19日は、フラメンコ・ギターの沖仁がカホンとジャンベを自在に操るパーカッション奏者のホセ・コロンと登場する。彼の人選もまた新鮮に感じられたが、さらに選んだ曲が《禁じられた遊び》と《スペイン》の2曲。誰もが知っているような超有名で、一瞬ありふれた選曲に思えたが、超絶技巧を駆使した美しい演奏で、その印象を大きく変えてくれた。名曲の魅力再発見となった2曲の演奏だった。

 この後は若いシンガー・ソングライター2組が続く。まずは儚いヴォーカルが空間に溶け込んでいくように響くAimer。オーケストラとの初共演で、代表曲である《蝶々結び》、《悲しみはオーロラに》、《六等星の夜》をパフォーマンスする。

尾崎裕哉

 2人目は、billboard classicsで単独公演も行っている尾崎裕哉だ。父親である尾崎豊が遺した永遠の名曲《I LOVE YOU》と、自身のオリジナル楽曲《始まりの街》を披露する。前者は、数えきれないほど多くのカヴァーを生んでいるけれど、目を閉じて、歌声に耳を傾けると、そっくりな声質に尾崎豊自身が歌っているかのように思えてくるし、息子の彼もまた歌う運命だったのだと胸が高鳴る。鳴り止まぬ拍手に、ステージに再登場して観客に応える場面もあった。

 今回は、もうひとりギタリストが登場する。クラシック・ギターの村治佳織だが、演奏するのはクラシックの名曲ではなく、彼女の最新アルバムから旅先の印象を綴ったオリジナル楽曲が選ばれた。五島列島の思い出を曲にした《島の記憶》と、タンザニアを訪れた際に心情を描いた《バガモヨ》、叙情溢れる2曲を披露する。

藤井フミヤ

 そして、2日間トリを務めたのはスターの存在感を誇る藤井フミヤ。最後に静かに登場して、《TRUE LOVE》、《Another Orion》、《トワイライト》、《夜明けのブレス》という代表曲で、オーケストラと共演したが、あらためて彼のなめらかなヴォーカルの魅力をかみしめる4曲になった。彼もbillboard classicsで単独公演を続けているひとりだ。

 世代もジャンルも異なる9組がそれぞれのレパートリーで、オーケストラと共演するフェスティバル。成功を支える要因のひとつに意外性を含む人選、さらに秀逸なオーケストラのアレンジがあるだろう。ポップス、ロック系シンガーにとって、オーケストラとの共演はいつもと勝手が違う。壮大なスケールのサウンドに感情が煽られることがあっても、アドリブでひとり独走するわけにはいかない。制限のあるなかで、わずか数曲で独自の世界観を空間に作り上げて、観客を魅了していく。そのなかで問われるのがアーティストの力量であり、それぞれのレパートリーの普遍性だ。オーケストラとの共演で、各曲に内在されている隠れた一面が引き出されることで、新たな生命が加わる。それが長く愛され続ける普遍性を強化するのではないかと思う。

 さて、最後に今回2日間東京で行われたフェスティヴァルが秋にも予定されている。まず、9月24日、兵庫県立芸術文化センター大ホール。続いて11月4日、東京文化会館大ホール。八神純子、渡辺美里、杏里、NOKKO、川井郁子、小柳ゆき(9月24日のみ)、福原美穂の豪華女性アーティストが集結。きっと百花繚乱の華やかなコンサートになるだろう。

 


LIVE REPORT

billboard classics festival 2017 in TOKYO- Bright Lights, Spring-
出演:玉置浩二、小野リサ、福原美穂、Aimer、藤井フミヤ
スペシャルゲスト:2017年2/18(土)槇原敬之、2/19(日)沖 仁、村治佳織、石崎ひゅーい、尾崎裕哉
指揮:大友直人
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:横浜少年少女合唱団(共演・玉置浩二)
会場:東京国際フォーラム ホールA
billboard-cc.com/classics/billboard-classics-festival-2017-in-tokyo/

 


LIVE INFORMATION

Daiwa House Presents billboard classics festival 2017
□2017年9月24日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター大ホール(西宮)
出演:八神純子、渡辺美里、杏里、NOKKO、川井郁子、小柳ゆき、福原美穂
指揮:栁澤寿男
管弦楽:大阪交響楽団
合唱:ソウルバードクワイア

□2017年11月4日(土)
会場:東京文化会館大ホール(東京)
出演:八神純子、渡辺美里、杏里、NOKKO、川井郁子、福原美穂
指揮:栗田博文
管弦楽:東京フィル・ビルボードクラシックスオーケストラ
合唱:ソウルバードクワイア
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