INTERVIEW

〈点〉から〈線〉や〈面〉の表現へ―常に発明的なサウンドを発信してきたCornelius、11年ぶりの新作『Mellow Waves』を語る

Cornelius『Mellow Waves』

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  • 2017.07.03
〈点〉から〈線〉や〈面〉の表現へ―常に発明的なサウンドを発信してきたCornelius、11年ぶりの新作『Mellow Waves』を語る

〈点〉から〈線〉や〈面〉の表現へ──常に発明的なサウンドを発信してきた音楽家が、11年をかけて熟成させたメロウなムード。そこには腐食による美にも通じる深い情感が宿っていて……

 

残ったものはメロウネス

 エディットした音を一音ずつ配置した規則的なパターンを複数組み合わせ、その一致とズレがメロディーと一体になったポリリズミックなグルーヴやトリップ感を生み出してきたCorneliusこと小山田圭吾。サウンドデザインとコンポジションが一体となって紡ぎ出される、世界に二つとないシグネイチャー・サウンドは世紀の大発明と呼ばれるべきものだ。しかし、そのサウンドがあまりに画期的だったがゆえに、さらなる進化を果たしたニュー・アルバム『Mellow Waves』の完成までには、前作『SENSUOUS』(2006年)から11年に及ぶ途方もない歳月が必要だったのだろう。

Cornelius Mellow Waves ワーナー(2017)

「今回のアルバムのファイルを確認したら、一番古いものは2012年に作った“Mellow Yellow Feel”ですね。それ以前に作った曲は、いつの間にかどこかへ消えてました(笑)。いや、ずっと曲は作っていましたよ。ただ、その間に他のプロジェクトが入るたびに中断したり、作ってた曲を提供したりして、残った曲をまとめたのが今回のアルバムなんですよ」。

 冗談交じりに〈残りものの寄せ集め〉と語られる本作は、むしろ、極上のモルトウィスキーのように蒸留と熟成を重ねたものだ。

「何も考えず、ずっと曲を作っているうち、溜まった曲に共通するムードを感じ取ったり、その間にぼんやり考えていたことがなんとなく見えてくるんですけど、多岐に渡る仕事をしながら唯一やってなかったのが〈自分で歌う〉ということだったんです。作っていた曲のなかには、テンポが速かったり、圧が強めだったり、いろんなタイプがあったんですけど、自分のテンションもあって、そうした曲をアルバムから外して他に回していたら、ふるいにかけられたメロウな感じの曲がアルバムのムードに繋がっていったんです」。

 そして、歌に寄り添ったメロウなタッチの本作は、〈点〉の表現であった『POINT』(2001年)や『SENSUOUS』に対し、〈線〉や〈面〉の表現が採り入れられている点にも大きな特徴がある。

「そう。すべての音を点で捉えることで、音が鳴ってない瞬間、音と音の間を意識させていた以前の作風に、不確定要素の波やうねり、曲線的な要素が含まれているのが今回のアルバムなんですよ。あるタイミングでそれまでに作ってきた曲を並べた時、多くの曲で無意識的に使っていたトレモロの波のようなエフェクトは、そのわかりやすい例ですね」。

 

匂いと体温、死の気配

 作品全編で音の間をエーテルのように漂うエレクトリック・ピアノやギターのトレモロ、その震えるような残響音や、「攻殻機動隊 ARISE」のサウンドトラック収録曲の続編“Surfing on Mind Waves pt 2”のソフト・シンセサイザーによるドローン。それらのサウンドは単に間を埋めるだけでなく、これまで彼が距離を置いてきた情感やエモーショナルな表現を際立たせている。

「過去2作はミニマルで、匂いやクセがなく、水とか空気のように誰でも抵抗なく接することができる、そんな作品だったと思うんですけど、もうちょっと匂いや体温があるほうが中毒性が生まれて、何度も聴きたくなるかもしれないなって。例えば、子供の頃はクセがあって嫌いだったブルーチーズが、大人になったらそのクセにハマって好きになる、みたいな。そんな感じかな」。

 匂いや体温が醸し出す今作の熟成感や官能性は、〈エロス〉と〈タナトス〉という言葉があるように、新たな名曲“あなたがいるなら”から“未来の人へ”にかけての冒頭の3曲において漂う〈死の気配〉と表裏一体の関係にある。

「去年は自分が子供の頃から見ていたスターや身の回りの人が何人か亡くなったということもあるし、自分も身体がダルいとか、目が悪くなったりとか(笑)、老化が避けようもなく進んでいて、死を意識するようになったのも自然なことかな、と。“あならがいるなら”は今回2曲の作詞をお願いした坂本(慎太郎)君と話してて、〈ブルース・ロックをやったらいいんじゃない?〉って話からエモーショナルな要素やギターのチョーキングをヒントに作ったものなんですけど、彼に歌詞を書いてもらっていた頃にプリンスが亡くなり、その前にもデヴィッド・ボウイが亡くなっていたことがあって、歌詞も〈なんとなく亡くなったスターたちのことを考えて書いた〉と言ってましたね」。

 

腐食によって宿る美

 また、“The Spell Of Vanishing Loveliness”には、昨年再結成を果たしたシューゲイザー・バンド、ラッシュのミキ・ベレーニが作詞と歌で参加。10年ほど前、2人がはとこの関係であることがわかって以来親交を深め、今回のコラボレーションに繋がったということだが、この作品ではもう一人の親類──叔父であり、日本を代表する版画家の中林忠良もアルバムのアートワークに作品を提供している。

「中林さんは腐食銅版画の第一人者なんですけど、10年前にそれまでの作品を集めた展覧会で昔の作品を観て、それ以来、アートワークで使わせてもらいたいと思っていたんです。腐食銅版画というのは、銅を腐食させる特殊な液体をかけて、その時間が長ければ長いほど黒くなって、短ければ短いほど薄くなるんですけど、中林さんの作品はモノクロなのに異常にディテールが細かく、濃淡の階層が深いんですね。今回は数ある作品のなかで僕が好きな60年代後半から70年代にかけての作品を選ばせてもらったんですけど、展覧会で観て以来、中林さんの作品が頭のなかにずっとあったので、アルバムが中林さんの作品に自然と寄っていったところもあります」。

〈熟した〉、もしくは〈豊潤な〉という意味でもある〈メロウ〉な音の波と腐食に美が宿る銅版画のアートワークは、経験や気の遠くなるような試行錯誤を重ねることでのみ到達し得る表現の深みを示唆しているようでもある。

「歳を取って、肉体の衰えを感じたりもしつつ、それでも大人になって楽しめることだったり、わかってくることもあったりして。(先行7インチの)“いつか / どこか”のカップリングに坂本君が歌詞を書いてくれた“悪くない。この感じ”っていう曲が入っているんですけど、まさにそんな感じですね。わからないことはまだまだたくさんあって、それが作品制作の原動力でもある。とはいえ、制作が今回のように11年もかかったら次は(自身の年齢が)60代ですから、さすがにそれはマズい……ですよね」。

 

関連盤を紹介。

 

【〈MELLOW WAVES TOUR 2017〉開催決定!】
日時/会場:10月9日(月・祝)新潟 LOTS、10月11日(水)仙台 Rensa、10月13日(金)・14日(土)札幌 PENNY LANE 24、10月19日(木)高松 festhalle、10月21日(土)なんば Hatch、10月22日(日)名古屋 DIAMOND HALL、10月25日(水)・26日(木)新木場 STUDIO COAST、10月28日(土)横浜 Bay Hall、11月3日(金・祝)広島 CLUB QUATTRO、11月4日(土)福岡 DRUM LOGOS
*詳細はオフィシャルサイト〈www.cornelius-sound.com/〉へ!

 

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