他のどの場所でもない、多様な文化が入り混じる東京だから生まれ得たアフロ・キューバン・サウンド! 日本人好みな旋律を熟知したキューバ人トランぺッターの指揮のもと、いま熱狂の輪が広がる!!

 キューバ出身のトランペッター、ルイス・バジェ――日本のラテン音楽シーンに精通している人なら馴染みの存在だろう。そうでなくても、GANGA ZUMBAの一員としてその名を記憶している人は多いか。矢沢永吉からRIP SLYME、坂本冬美に西野カナまで数多くのアーティストのバックを務め、J-Popも熟知している彼はCM音楽の世界でも引っ張りだこで、その演奏をお茶の間で耳にしない日はないほど。そんな男のリーダー・バンドがLuis Valle & AfroQbamigos!である。このたびリリースされた〈熱狂〉を意味する表題の『FRENETICO』は、初作『YEMAYA Afro Suite』(2012年)と2作目『Afro Caravana』(2014年)からの人気曲に、新曲5つを加えた編集盤だ。

 「私たちがどんなサウンドを作ってきたか、どんな旅を続けてきたか、よくわかるような作品にしようと思って、ジャケットに初めてメンバーの写真を使ったんです。ラテン音楽のバンドっぽくもあり、ジャズっぽさもあるけど、それだけじゃなさそう――きっとそういう印象を持ってもらえるんじゃないかと思います」(ルイス・バジェ:以下同)。

Luis Valle & AfroQbamigos! FRENETICO さぶろっそ(2017)

 トランペット、サックス、マリンバ&ヴィブラフォンがフロントに立つ珍しいスタイルのアフロ・キューバン・サウンドは、多様な文化が入り混じった日本の大都市の空気とよく馴染む。実際に『FRENETICO』を聴いてもらえばわかる通り、ルイスは己の興味の広がりに対して忠実であり、自由でフレキシブルな音楽を追求してきた人物だ。そういう志向はキューバにいた頃からあったようで、サルサで溢れ返る周囲を眺めつつ、〈それだけじゃないんじゃない?〉という気持ちを抱いていたとか。ちなみに、イラケレのフルート奏者=マラカ・バジェをはじめ、彼の兄弟は全員が音楽家である。ルイスも自然な流れで楽器を手に取ると、やがて三男のユムリを核としたユムリ・イ・スス・エルマーノスでデビューし、98年からは拠点を日本に移して再出発。来日当時のことを「東京の音楽シーンには衝撃を受けました。いろんなタイプのサウンドをやりたい自分の方向性と重なっていて、楽しみが尽きなかったです」と振り返る。そして翌99年にAfroQbamigos!を結成。以降、試行錯誤を繰り返しながら独自の音世界を構築してきた。それにしても、アフリカ由来の大らかなビート上でトランペットがメロディアスに躍る“YEMAYA Afro Suite”とか、世界中を見渡してもなかなかお目にかかれるものじゃない。

 「あまり聴いたことがないタイプの曲でしょ? アフロのビートはハチロクだけじゃなくてファンクっぽいものもあるし、パーカッションの叩き方を変えながらいろんな形に変化させられる。でも、こういう曲も最初から簡単に出来たわけじゃないんです。メンバーとコミュニケーションを取りながら、時間をかけて理想に近付けていきました」。

 もちろん新曲の出来だって素晴らしい。チャチャチャのリズムにモダンなハーモニーを重ねたクラブ映え必至のラテン・ジャズ“Guajira en Waco”、ソンをベースにした優雅でロマンティックな“Nostalgia para mi Granpha”など、クール系から郷愁系まで表情はさまざま。どの曲にも共通して感じられるのは、メロディーへの強いこだわりだ。心の中の固いしこりを柔らかく溶かしてくれるような美しい旋律が、静かな余韻を残してくれる。

 「演奏する時は常に歌うように吹くことを心掛けているんです。アドリブを聴かせる時もハイトーンを連発したり、早いパッセージを披露するより、歌いたい感じになってしまう。他のメンバーも歌心のある演奏家ばかりですしね」。

 旅を続けるように音楽を続け、表現を磨くことに余念のないルイスと仲間たち。インタヴューの終わりに今後の夢を尋ねたところ、「このバンドで歌のアルバムを作ってみたい。いままで共演したシンガーをゲストに迎えたら、凄く楽しいものになるはずです」との答えが。それはぜひとも実現してほしい。そう、AfroQbamigos!の旅はまだまだ終わらない。

 

Luis Valle & AfroQbamigos!のアルバムを紹介。