INTERVIEW

バターリング・トリオの摩訶不思議なサウンドはどこからきた? LAビートとイスラエル・テルアビブ繋ぐ異形の音楽性に迫る

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  • 2017.11.08
バターリング・トリオの摩訶不思議なサウンドはどこからきた? LAビートとイスラエル・テルアビブ繋ぐ異形の音楽性に迫る

〈今度、『イスラエルのハイエイタス・カイヨーテ』をリリースするんですよ〉と、レーベル担当氏に薦められたのは今年の春。バターリング・トリオの『Threesome』は、斜め上を行くサプライズに満ちていた。現代ジャズを通過したネオ・ソウルや、フューチャー・ソウルと呼ばれる音楽が飽和気味のなかで、ここまで異彩を放つサウンドも珍しいだろう。

そんなバターリング・トリオの初来日公演が、去る10月に東京・渋谷WWWで開催されたのだが、これがまた素晴らしいステージだった。シンガー兼サックス奏者のケレン・ダン、ビートメイカーのリジョイサーことユヴァル・ハヴキン、ベーシストのベノ・ヘンドラーの3人は、スカスカの空間に一筆書きを交わらせながら、摩訶不思議なアンサンブルを奏でていく。ハウシーで緩やかなビートや、歌心に富んだベースラインのうえで、エキゾティックなヴォーカルが舞い踊り、ときどきサックスも鳴り響く。たったそれだけなのに、気付いたら緩やかなグルーヴに呑み込まれてしまった。それこそ、ハイエイタス・カイヨーテとは似ているようでまったく違う。あの心地良い湯加減は、どこからやってきたのだろう?

プロデューサーとしても活躍するリジョイサーは、イスラエル第2の都市・テルアビブを代表するインディー・レーベル、ロウ・テープス(Raw Tapes)の設立者でもある。その動向を辿っていくと、ジャズやワールド・ミュージックの印象が強いイスラエルで、別の可能性が芽吹きつつあることに気が付くだろう。そこで今回は、バターリング・トリオのケレンとリジョイサーにインタヴューを実施。さらに、ここ日本で彼らの作品をリリースしているringsの主宰で、音楽ジャーナリストの原雅明氏にも参加していただき、テルアビブの新しい夜明けに迫った。

(左から)リジョイサー、ケレン・ダン、原雅明

 

中東系のスケールとサイケデリックな空気、都会的なサウンドの融合

――ライヴの最後に披露された“Little Goat”という曲が、とてもユニークで印象的でした。ケレンが山羊の鳴き声を真似ていたのも可愛かったです。あの曲はどういうイメージで作られたのでしょう?

リジョイサー「いい質問だね。あれは6年前に、初めてベノ(・ヘンドラー)と一緒に作った曲なんだ」

ケレン・ダン「もともとは『Ali Baba And The Forty Thieves』という無声映画のライヴ・サウンドトラックとして作った曲なの」

『Threesome』収録曲“Refugee Song”
 

リジョイサー「そう。20世紀初頭の古い作品で(1902年)、監督のフェルディナンド・ゼッカは、当時のフランスでは『月世界旅行』のジョルジュ・メリエスと並ぶ存在だった。それで、ケレンの姉はマヤ・ダンイエッツ(MAYA DUNIETZ)という有名なピアニスト/コンポーザーなんだけど、彼女が映画のために曲作りすることを薦めてくれたんだ」

ケレン「あとは、パキスタンの古い民俗音楽をいろいろとサンプリングしたりね。最初はインストにする予定だった」

リジョイサー「イントロのビートでは、ファルフィッサという古いイタリア製のキーボードを使っている。あとからベノが書いた歌詞も、随分ファニーな感じでね(笑)。作るのが楽しかったよ」

“Little Goat”、2016年に7インチ・シングルでリリース
 

――あの曲もそうですけど、バターリング・トリオの音楽は、中東系のスケールとサイケデリックな空気、都会的なサウンドの3つが上手く融合している感じがしますよね。

ケレン「そうね。今の説明は、私たちの音楽にぴったり当てはまると思う」

リジョイサー「特にサイケは大きいんじゃないかな」

原雅明「今回のライヴも、最初はネオ・ソウル的なノリが強かったのが、だんだん中近東のリズムが前に出てきましたよね。そういうルーツを垣間見ることができたのもおもしろかったです。レコードだけではわからない部分だったし」

リジョイサー「ありがとう。ライヴだとソロのパートも自然と長くなったりするし、僕らのステージはCDとは結構違うと思うよ」

2016年のライヴ映像
 

――バターリング・トリオはベルリンで結成されたそうですが、2人はどんなふうにして出会ったのでしょう?

リジョイサー「僕らはベルリンにいたとき、同じ高校に通っていたんだ。初めて出会ったとき、僕は16歳で、ケレンは15歳だった。廊下ですれ違ったときに、〈なんて美しいんだ……〉とびっくりしたよ(笑)。赤毛もビューティフルでさ。あれからもう16年も経つんだね」

ケレン「学校を卒業してからしばらくして、(テルアビブで)たまたまユヴァルを見かけたら〈やー、久しぶり〉と声をかけてくれて。そこで彼の作った音楽を渡されて、聴いてみたら凄く良かった。ちょうど私もビートを作ろうと考えていた時期で、同じようなことに取り組んでいる彼に興味を持つようになったの。その頃にはロウ・テープスも立ち上がっていたから、私も参加したかったし」

リジョイサー「そして今では、僕らの両親まですっかり仲良くなって、コスタリカやグァテマラで一緒にボートを漕いだりして遊んでいるみたい(笑)」

2011年のEP『Party Bear EP』
 

――2人のルーツとなった音楽を挙げてみてもらえますか?

リジョイサー「前に2人でレコーディングしたとき、ケレンが自分のヴァースを〈ニーナ・シモンとクリスティーナ・アギレラの融合〉と表現していたことがあったよね」

ケレン「そうそう(笑)。私はポップもブルースっぽい感じも両方好きだから。小さい頃はサラ・ヴォーンみたいなジャズ・シンガーを聴いていたし、一方でマライア・キャリーにも魅了されていた。ジョージア・アン・アルマドロウも好きだったし、たくさんの女性シンガーに影響を受けているけど、一番大きかったのはキューバのセリア・クルースだと思う」

リジョイサー「僕はもともとパンクを聴いて育ってきた。マイナー・スレッド、ゴリラ・ビスケッツ、バッド・ブレインズとか。そのあと、エイフェックス・ツインやスクエアプッシャーも聴くようになって。そこからア・トライブ・コールド・クエストやマッドリブ、初期のストーンズ・スロウの作品に出会い、少し変わったヒップホップも聴くようになったんだ」

ケレン「ちなみにベノは、ダブやレゲエが好きなの」

リジョイサー「キング・タビーやマッド・プロフェッサー、それにクール&ザ・ギャングやブーツィー・コリンズのようなファンクもね」

――中近東の音楽ではどうですか?

ケレン「アラビア系のおとぎ話にも影響されているし」

リジョイサー「ファリド・エル・アトラシュ(Farid al-Atrash)のような昔のシンガーも好きだよ。それにギリシャの音楽も。イスラエルではそういう音楽も街中で流れているんだよ」

 

LAのビート・シーンはテルアビブで物凄く影響力がある

――原さんがロウ・テープスに興味を持つようになった経緯を教えてもらえますか?

「最初は5年前かな。イスラエルと日本の外交関係樹立60周年を記念した、〈TEDER TEL AVIV TOKYO〉という文化交流イヴェントが開催されたんですよ。その一環で、TEDER.FMというテルアビブのネット・ラジオが東京に滞在して、3週間くらい出張放送をやっていたんです。それで、僕も呼ばれて番組に出演したんですよね。そのときに、TEDER.FMのスタッフがいろいろと音源を渡してくれて、そこからロウ・テープスの存在を知りました」

リジョイサー「僕もそのとき、DJをするために来日していたんだ。TEDER.FMのスタッフとも仲良しだよ。滞在中は、ジャイルズ・ピーターソンや松浦俊夫に会ったりもした」

※ほかにイスラエル勢ではバルカン・ビート・ボックスや、小島麻由美との共作でも知られるサーフ・ロック・バンドのブーム・パム、ロウ・テープスに在籍するビートメイカーで、今年に入ってデビュー作『Daily Affirmations』をストーンズ・スロウから発表したコーエン・ビーツも来日していた

リジョイサーの2013年作『Recollection』。原氏が初めて耳にしたロウ・テープスの音源
 
コーエン・ビーツの2017年作『Daily Affirmation』、クエール・クリスをフィーチャーしたタイトル・トラック
 

――原さんはLAのdublabとも関係が深いわけですが、同じネット・ラジオのTEDER.FMにはどんな印象を抱いたのでしょう?

「TEDER.FMは、LAのdublabとやっている内容も近かったんですよ。5年前といえば、僕もちょうどdublab.jpという日本ブランチを立ち上げる直前の時期だったので、〈イスラエルにもこういう動きがあるんだ〉と興味深くて。それで辿っていくと、僕がよく知っているLAの連中と彼らが繋がっていたみたいで。それでさらに興味を持つようになりました」

リジョイサー「LAのビート・シーンは、テルアビブで物凄く影響力があるんだよね。フライング・ロータスやブレインフィーダーはもちろんだし、僕が高校生の頃にはストーンズ・スロウの音楽がテルアビブで大流行していた。LAのジャズやヒップホップも人気だよ。あとはそもそも、LAにはイスラエル出身の人たちがたくさん住んでいるんだ。それこそ、ハリウッドにはユダヤ人やイスラエル人が大勢住んでいるからね」

――そういえば以前、原さんとお話したとき、LAとテルアビブ、そしてオーストラリアのメルボルンには通じるものがあるんじゃないかと聞いて、それからテルアビブが気になっていたんですよね。

「サラーム海上さんの話によると、LAとテルアビブは気候が似ているそうなんです。それに、最近のメルボルンではハイエイタス・カイヨーテが人気ですけど、あそこもビート・シーンが活発な土地で。現地に住んでいる日本人のトラックメイカーによると、やっぱり気候も温かいし、優れた音楽家がたくさん集まってきていると。そういう意味で、この3都市には共通するものがありそうだと思ったんですよね」

リジョイサー「ハイエイタス・カイヨーテは僕らも好きだよ。それに、LAとテルアビブの間では、10年くらい前からアーティスト同士の交流はあったんだよね。オーディエンスがそれを認知するようになったのは、わりと最近の話だと思うけど。特に近年は、コーエン・ビーツがストーンズ・スロウと契約したり、ニタイ・ハーシュコビッツがマインドデザインとコラボしたりと、繋がりがますます太くなってきていると思う」

ニタイ・ハーシュコビッツの2016年作『I Asked You A Question』収録曲“Leaded Sanity”のライヴ映像。リジョイサーがプロデュースした同作には、カート・ローゼンウィンケルやジョージア・アン・マルドロウも参加
 

――テルアビブにはどんな音楽シーンがあるんですか?

ケレン「素晴らしいミュージシャンがたくさんいる。クティマンのオーケストラに、イエメン・ブルースも凄くおもしろい。テルアビブは小さな街だから、みんなお互いのことを知っている感じね。スタイルはそれぞれ違うんだけど、一緒に何かをすることも多いし」

――そのなかで、ロウ・テープスを立ち上げようと思ったのはどういった動機があったのでしょう?

リジョイサー「そもそもテルアビブには、インディー・レーベルというものがなかったんだ。2008年頃にレーベルを立ち上げたときも一番早かったし、今でも国外へのアピールについては、ロウ・テープスがオンリーワンだと思う。そもそも立ち上げようと思ったのは、自分の音楽をSoundCloudやMyspaceを通じて紹介したかったから。あとは、友達の作品を集めて、一つのカタログとして提示してみたかった。バラバラに動くんじゃなくて、同じ屋根の下でまとまるような感じが良さそうだと思ってね」

――そして2017年現在までに、70作以上ものタイトルをリリースしてきたそうですね。

リジョイサー「うん、本当にラッキーなことだと思うよ」

「ひとつ訊きたいことがあって。例えば日本でも、イスラエルのジャズは積極的に紹介されているし、ワールド・ミュージックという枠のなかでもイスラエルの音楽が取り上げられてきた。でも、バターリング・トリオやロウ・テープスの音楽は、そういう枠組みとは別のところから出てきた感じがするんですよね。自分たちのなかでも、何か違うことをやろうという意識はあるのでしょうか?」

ケレン「確かにそうね。今では多くの人たちが、そういう定義に拘らずに音楽とコネクトできるようになった。そういうことじゃないかな? 私はジャズもワールド・ミュージックも好きだけど、既存の枠に囚われることなく、もっとパーソナルな解釈で聴く人が増えてきたんだと思う」

リジョイサー「そもそも、僕らはトラディショナルな音楽をやっているわけではないしね。僕とケレンの両親はヒッピーでね。そういう環境で育ってきたから、自分がやりたくないことを無理にやらされることもなかった。だから今でも、特定のカテゴリーに収まるようなことはやりたくない。僕はイスラエル人やジャズ・ミュージシャンとかである前に、僕というひとりの人間なんだ。だから、これからも自分らしいことをやりたいと思う」

 

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