あるがままに、そして、なすがままに。そのスモーキーな歌声をグルーヴのなかで解き放つ神奈川県逗子市在住のシンガー・ソングライター、iriは、その楽曲の数々に自身のスタンスを映し出す。STUTSやDorian、Tokyo RecordingsのYaffleらがプロデュースを担った昨年10月のデビュー・アルバム『Groove it』から、水曜日のカンパネラでお馴染みのケンモチヒデフミがソウル・マナーのハウス・トラックを提供した今年3月のシングル“Watashi”を経て、その音楽世界は新作『Life ep』でさらなる広がりを見せている。

iri life ep Colourful(2017)

 「私は考えすぎたり、人の意見に左右されることで物事が前に進まなかったり、人の視線を気にしたり、媚びたりということが苦手で(笑)。無防備に生きていたいと常に思っているし、そういう私の無防備さがあちこちに表れている今回のEPは〈Life〉というタイトルがいいんじゃないかなって思っています」。

 前回のシングルに続き、ケンモチヒデフミがアレンジした都会的なダンス・チューン“For Life”を皮切りに、未知なる風景をめざして進んでいく本作は、5lackがプロデュースと客演を行ったスロウかつメロウな“Telephone”という驚きの共演曲をリスナーにもたらしてくれる。

 「5lackさんの音楽は大学時代から一人のファンとして好きで聴いていたんですけど、デビュー前から私の作品でイラストを書いてもらっているKYNEくんが5lackさんと繋がっていることもあって、彼を通じてオファーさせてもらいました。制作にあたっては、こちらの要望を伝えないほうがおもしろいと思ったので、5lackさんがイメージするものを好きに作ってもらったんですけど、ラップのヴァースと5lackさんが歌った私のパートの仮歌入りのトラックが送られてきたので、少し手直ししたり、サビを自分で書き足したりして完成させた感じです。私もラッパーをフィーチャーするのは初めてでしたし、5lackさんも女性アーティストとの共演が初めてだったみたいで、2人とも新鮮な気持ちで曲作りができたと思います」。

 さらには、Pistachio StudioのESME MORI、YOSA、mabanuaという腕利きのプロデューサーたちがトラックのアレンジを担当。ラップに触発された細かく刻むようなフロウから、滲むように感情を伝えるアプローチまで、彼女の表情豊かなヴォーカルを魅力的に引き立てている。

 「私は曲を作る時、意識して何かを盛り込むことはなくて。あくまで音ありき、自然に生まれるがままなので、グルーヴによって歌のフロウも自然と変わりますし、歌詞も伝えたいことを入れつつ、音に触発された言葉選びやその響きを常に意識していますね。私がやっている音楽は、どちらかというとアンダーグラウンドなサウンドだと思うんですけど、〈格好良い曲を作りたい〉という思いと共により多くの人に聴いてもらいたいという気持ちが強くあるので、その上手いバランスのなかで、良い曲を残していきたいですよね」。

 広がるiriの世界はどこに向かうのか。〈夢〉や〈未来〉といった言葉が歌詞に散りばめられた本作は、新しい風景へ積極的に飛び込んでいきたいという彼女の強い意志がグルーヴに乗り、聴き手へのメッセージとして届く。

 「私が影響を受けたアリシア・キーズには、女性らしい強さを感じるんです。彼女への憧れは、裏返すと〈普段、言いたいことが言えていない自分〉がいるからだと思いますし、そう思うからこそ、私は曲を通じて意思表示しているんだと思います。ただ、押し付けたり、押し付けられたりするのが好きではないので、私のメッセージも聴いている人に自然と入っていくものだと良いなと思ってますね」。

 


iri

94年生まれ、神奈川県逗子市在住のシンガー・ソングライター。2014年、雑誌NYLON JAPANとソニー・ミュージックが開催したオーディション〈JAM〉でグランプリを獲得し、留学を経験。2015年は2月に映画「テラスハウス クロージング・ドア」の劇中歌となった関口シンゴ“繋いだ未来”に作詞と歌唱で参加。同年は〈RISING SUN〉をはじめとするフェスや大型イヴェントにも出演する。2016年には7月にドノヴァン・フランケンレイターのオープニング・アクトを務め、8月には〈SUMMER SONIC〉に初出演。10月にはアルバム『Groove it』でメジャー・デビューを果たす。2017年3月のシングル“Watashi”に続き、このたびニューEP『life ep』(Colourful)をリリースしたばかり。