ラッパーUCDとtommy(ギター)、菅澤捷太郎(ドラムス)、Ecus Nuis a.k.a. Pam(ベース)、沼澤成毅(キーボード)の5人からなる若きヒップホップ・バンド、Bullsxxt。ミニ・アルバム『FIRST SHIT』(2016年)からメンバー・チェンジを経た彼らが、演奏の面でもラップ・スキルの面でも多彩さと鋭さ、そして一体感をグッと増したファースト・アルバム『BULLSXXT』を10月18日にリリースした。

SEALDsのコーラーとして名を馳せたUCDは、〈俺は学者になるつもりだが その前にRapperだからな 覚えとけ〉(“Fxxin'”)とラップする。大学院で哲学の研究に勤しみながらも、一方でラップの〈道〉を究めんとする異色のコンシャス・ラッパーだ。とはいえ『BULLSXXT』では、政治的なトピックに怒りを込めて言及するような楽曲は、意外にも少ない。UCDが語る主題は、個人的な〈喪失〉の経験や偉大なる先人たちの音楽へ捧げた愛など、多様で多くのリスナーに向けて開かれている。

そのUCDを擁するBullsxxtの演奏スタイルは、ここ日本では珍しくザ・ルーツを想起させるオーセンティックなもの。とりわけ耳を引くのはタフな、時折ヨレるリズムだ。ロバート・グラスパー・エクスペリメントの『Black Radio』以降を確実に感じさせる21世紀的なリズムへのアプローチが、バンドの礎であると同時に強みでもある。それは、口を揃えて「ありがちな〈ジャズ・ファンク・ラップ・バンド〉にはなりたくない」と語る彼らのアティテュードゆえだろう。そんなBullsxxtの本質に、メンバー5人全員が揃ったものとしては初となるインタヴューで迫った。

Bullsxxt BULLSXXT P-VINE(2017)

 

 

〈コンシャス〉とは〈自分のスタイルを持っていること〉

――アルバムを聴いて、仙人掌が参加した“In Blue”以外の曲は1MCなのに単調にならず、音楽的にもテーマ的にも多彩ですごく良い作品だと思いました。一方で、どの曲も派手なフックやわかりやすいコーラスがないのでストイックな作品だとも感じたのですが、そういった曲作りは意識してやっているんですか?

UCD「そうですね。90年代のヒップホップを聴いていると、スクラッチが入っていたりするだけでフックがない曲も多いんです。僕はそういうシブい曲がすごく好きで。フックを聴いてもらうというより、ヴァースが聴き手に引っ掛かるような曲を作りたい。それはバンドだとやりやすいんです。バンドの演奏でフックを作れるので」

――なるほど。UCDくんはSEALDsで政治運動していたことに注目が集まりがちですが、リリックの内容は団結や動員を呼びかける感じではないですよね。そこも派手なフックのないBullsxxtのスタイルに繋がっているように思えます。例えば、“Sick Nation”では〈一人ひとり孤独に思考し判断しろ〉とラップしている。そういったリリックも含め、全体的に個人主義的な思想を感じます。

UCD「SEALDsをやっているときから、みんなが同じ団体に所属して同じ意見だという状況は気持ち悪いと思っていました。だから、〈孤独に思考し判断しろ〉とラップしています。個として自立していないと、本当の意味での団結にはならない。ヒップホップと個人主義とは親和性がすごく高いと思います。

本来のヒップホップ的な〈コンシャス〉とはつまり、〈自分のスタイルを持っていること〉だと解釈しています。〈自分が自分であること〉の先に〈自分にしかわからない道〉っていうのが絶対にあると思うんです。勉強したり修行したりして、その〈道〉を洗練していくことが最終的に社会を変えることに繋がっていく……そういうメッセージですね」

――そうなんですね。話をフックに戻すと、アルバムのなかでもとりわけポップな“Stakes”では、フックの沼澤くんの歌が印象的ですね。

菅澤捷太郎「彼はいままで歌ったことがほとんどないんですよね」

沼澤成毅「そうなんです」

――そうなの!? 1人で歌ったり曲を作ったりはしていない?

沼澤「適当に打ち込みで曲を作ったりはしています。僕はもともとクラシックのオーケストラでオーボエとかの管楽器をやっていたんです。現代音楽やノイズ・ミュージックが好きだったんですが、大瀧詠一さんや山下達郎さんのような1人で多重録音しているコーラスやドゥーワップも大好きで」

Ecus Nuis a.k.a. Pam「最近、僕と沼澤の2人で〈odola〉というユニットをやっていて、そこでは沼澤が歌っています」

 

命懸けで未知の方へギャンブルをする

――“傷と出来事”という曲名はフランスの詩人、ジョー・ブスケの書名に由来していると思うのですが、この曲について教えてもらえますか?

UCD「父が亡くなったときのことについての曲ですね。僕の両親は離婚していたので、戸籍上は孤児になってしまって病んでいた時期があったんです。そんなときにこの曲があったら良かったなと思って(笑)。でも、それだけじゃなくて〈喪失〉という経験そのものがテーマなんです。例えば、失恋は人が亡くなったときのようにショックを受ける……むしろ人が亡くなったときよりもショックを受けることもあるじゃないですか?

ケンドリック・ラマーもそうですけど、ヒップホップって自己救済の音楽だと思うんですね。無理にでも〈We gon’ be alright! 俺は大丈夫!〉って歌い続けることによって自分が救われる。そうやって自分が救済される場面を他人に見せることで、それを見た人たちにとっても自分自身を救済するヒントになる。そういうものが作れたらベストだと思っています」

――“Reality”の〈俺のRealは本のなかにある〉というリリックはラッパーらしからぬ意外性があって印象的です。頭でっかちにも感じる言葉ですが、Bullsxxtの演奏とUCDくんのラップにはそうならない身体性がある。そこは意識しているところですか?

UCD「そうですね。その点で影響を受けたのは5lackです。5lackは音で勝負している点にラッパーとしての真剣さを感じます。ラップがちゃんとビートに乗っていて、〈ラップって音楽なんだよな〉と考えさせられる。主張したいこと、言いたいことがたくさんあるがゆえにダサく聴こえたら意味がないんです。僕がスキルを磨いてきたのは、どうやってノるかっていうグルーヴの面でした」

――5lack以外で、理想的なスタイルを持ったラッパーはいますか?

UCD「強いて挙げれば……C.O.S.A.、仙人掌、ISSUGI、それとTHA BLUE HERBのBOSSですね」

――BOSSからの影響は感じます。“Fxxin'”では〈言葉の切れ味はILL-BOSSTINO〉とラップしていますし。でも、UCDくんのラップはBOSSより軽やかですよね。

UCD「〈日常性を忘れない〉というテーマがあって、〈地に足がついていること〉から出発することが重要なんです。本を読むことも僕のなかでは〈地に足がついていること〉で。

最近、ずっと考えているテーマがあって、それは〈自分に似ている存在に向けてアウトプットする〉ということです。例えば、思想家の本を読んでいても〈それ、わかるよ! 僕たち友達じゃん!〉って感じることがあるんです。それはラップを聴いていても同じです。〈こいつと出会ったら絶対に親友になれる!〉っていうやつが過去にも未来にもいるはず。そういう人たちに向けてアウトプットをしたいんです」

 ―― “In Blue”にもそういったテーマを感じます。

UCD「確かにそうですね。〈未来に種を蒔く〉ことや〈未来の人を迎え入れる〉ことをラップしています。僕がケンドリック・ラマーやチャンス・ザ・ラッパーになれなくても、日本のケンドリックやチャンスを生むための土壌を作ることはできるかもしれない……そういう内容です」

――“Fxxin’”の最後で〈Big up 路上に立つ人間〉とラップしていますが、〈路上〉はさまざまな意味を読み込める場所ですよね。ヒップホップ的なストリートでもあるし、SEALDsが活動していた場所でもある。UCDくんは〈路上〉という場所についてはどのように考えていますか?

UCD「あのリリックを書いたときに考えていたのは、〈ヒップホップ的なストリートって本当にあるのかな?〉っていうことです。もちろん日本にはドラッグ・ディーラーもいますが、僕にとっての〈路上〉は(SEALDsがデモをしていた)国会前でした。日本のラッパーで(国会前という)〈路上〉に来る人ってあまりいないので、(“Fxxin’”は)他のラッパーに対するディスでもありますね。

〈路上〉には学者も有名人もいる一方で、主婦やサラリーマンもいる。さまざまな人がいて、一緒に声を上げているんだけど、それぞれが完全に個である……その空気って異様で、そこからの影響はすごくあります。〈路上〉で声を上げる人たちって、自分たちの〈幸福〉を考えるのであれば、本当はそんなことしなくてもいいはずなんです。アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のGotchさんだって、あえて政治的なことを言わなくてもいいはずで」

――むしろ、バッシングも受けていますよね。リスクを引き受けてまで発言をされている。

UCD「そうなんですよ。それでもなお、〈路上〉に立って、未来のために行動するっていうのはカッコいいし、美しいと思います。〈ああいう人たちみたいになりたい〉って思う。〈路上〉に立って主張をすることがどういう結果をもたらすかは、後になってみないとわからないし危険もある。それでもなお行動するということに惹かれます。

それは、実はアーティストとして表現することにも通じています。もしかしたら、僕たちのアルバムのせいで死ぬ人がいるかもしれないし(笑)、あるいは救われる人がいるかもしれない。でも、行動せずに他人をクサしているだけじゃ何も前に進まない。だから、命懸けで未知の方へギャンブルをすることが僕にとって常にテーマになっています」

 

よくいる〈ジャズ・ファンク・ラップ・バンド〉にはなりたくない

――全体的にベースやバス・ドラムの質感がすごく良いなと思うのですが、プロダクションやミックスにはどんな姿勢で臨んだんですか?

菅澤「やっぱり低音を気にしていましたね。音作りの参考にしたのはディアンジェロの『Voodoo』とユセフ・カマールの『Black Focus』です」

――その2つというのは面白いですね。

UCD「よくいる〈ジャズ・ファンク・ラップ・バンド〉にならないようにしました(笑)」

菅澤「ああいうバンドは低音が気持ち良くないからノれないんですよ。〈ノれる、ノりやすい〉っていうところはすごく意識して作っています。〈ジャズ・ファンク・ラップ・バンド〉はそこを意識していないんじゃないかな……○○とか××とかは(笑)」

一同「(爆笑)」

菅澤「まあ、でも、低音っすよね」

UCD「〈低音っすよね〉じゃないでしょ! 適当すぎるよ、そのまとめ方(笑)!」

菅澤「ははは(笑)。あとは〈クラブ鳴り〉ですね。ユセフ・カマールはディープ・ハウスのプロデューサー、ヘンリー・ウーがやっているバンドで、明らかにクラブ鳴りを意識しているので参考音源にしました。“Stakes”をかけてくれた友達のDJが〈鳴りがすごく良い〉って言ってくれたんです。それは嬉しかったですね」

――アルバムに歌詞カードを付けなかった理由はなんでしょうか?

菅澤「自分の耳で聴き取ってほしいという理由もあるよね?」

UCD「それもある。他にもいろいろな理由があるんですが……。僕が好きなラッパーのアルバムってリリックが付いていないんです」

――5lackとかはそうですよね。

UCD「そうですね。それ以外にも消極的な理由として、リリックが〈ちょっと青いな〉と思っていて。3~4年前に書いた詞が多いので、いまだったらもうちょっと違う言い方をする。でも、〈ラップにすれば立つ〉っていうか。ヒップホップのリリックって、読んでみるとけっこう陳腐なことを言っているものが多いんですよね。でも、偉大な詩人……例えば、パウル・ツェランや金子光晴の詩を読むと、言葉だけでそのリズムに圧倒されるじゃないですか。ヒップホップのリリックにはそれがあまりない。

その代わり、ヒップホップの詩は特定のフロウでラップすれば立体的になります。音が加えられて詩が立ち上がってくることによって、詩の意味と音がやっとうまく構成されて聴こえてくる。だから、ヒップホップって歌詞を読みながら聴くものじゃないと思っています。ただ、C.O.S.A.のインタヴューを読んで……」

――C.O.S.A.は必ずリリックを付けるって言っていましたね

UCD「そうです。負けたなあと思って(笑)」

菅澤「強いよね」

UCD「強い。C.O.S.A.はそのまま読んでも通用するレベルの詩を書こうとしている」

Pam「牛(UCD)くんもそれを目指さなきゃダメでしょ」

UCD「マジでそう!」

――だからこそ、今回はあえてリリックを付けなかった?

UCD「そうです! 次のアルバムからは付けようと思っています。次は縦書きにして、詩として読んで〈これは!〉と思ってもらえるようなものにしたい」

 

〈5lackと鈴木茂〉

――10月5日に7th FLOORで2マンをやった吉田ヨウヘイgroupの吉田さんは、〈Bullsxxtに共感している〉とMCで言っていましたが、Bullsxxtとして共感できるバンドは日本にいますか?

UCD「もちろん吉田ヨウヘイgroupには共感します。あと、Okada Takuroさんとか。バンドでは少ないかもしれません。共感できるラッパーは多いですね」

――ラッパーとの交流はありますか?

UCD「ラッパーの知り合いは少ないんです」

Pam「僕は他のラッパーとの交流もありますね。CHICO CARLITOもいるKuragaly(クラガリ)っていうクルーに所属しているんです」

――Pamくんはビートメイカーでもあるんですよね。

Pam「そうです。今日も作っていました」

UCD「ストイックだよね」

Pam「作り続けないと鈍っちゃうんですよね。みんなも寝たり飯食ったりしますよね? それと一緒なんです」

一同「(笑)」

菅澤「生活の一部?」

Pam「うん。だから、改善点や課題を全部書き出して、潰していっています」

沼澤「ノートにメチャクチャ書き込んでいるもんね」

UCD「生活から音楽がなくなったらどうなるの?」

Pam「何にもないと思う」

一同「(爆笑)」

――Pamくんのビートメイカーとしてのスキルはバンドにも活かされている?

菅澤「そうですね。アレンジで〈ここを抜こう〉とか指示を出してくれるのがPamくんなんです。Bullsxxtは、MPC由来の不自然さや気持ち悪さがあるトラックをバンドでどう再現するかということに悩んできたバンドで。それが、Pamくんの加入によって形になりました。もちろん、ブラック・ミュージックやヒップホップに理解があるメンバーが揃ったからできたことでもあるのですが。そういえば、牛くんがtommyと出会ったとき、5lackと鈴木茂について話したんだよね?」

UCD「そうそう」

菅澤「象徴的なエピソードだよね」

――〈5lackと鈴木茂〉がBullsxxtの音楽性を象徴している?

菅澤「そう思いますね。tommyと牛くんがBullsxxtの初期メンバーなんです」

UCD「そうそう。昔、大学のジャズ研究会で〈スタンダード・ジャズ〉ってバンドをやっていたんです。〈モダン・ジャズばっかりやるジャズ研、ウザいな〉って思って、そんなバンド名でヒップホップばっかりやっていた(笑)」

菅澤「やっぱりBullsxxtは何かしらへのカウンターからはじまっているんだね」

 

〈ヤバさ〉が大事

――tommyくんはOvallやKan Sanoが所属しているorigami PRODUCTIONSで働いていると聞きましたが、差し支えなければその経緯について教えてもらえますか?

tommy「Ovallが近所の武蔵大学でライヴをやったことがあったんですね。ライヴの前にOvallのファースト(『DON’T CARE WHO KNOWS THAT』)を兄に聴かせてもらったんですけど、1曲目から何がなんだかわからなかったんです。あまりにも衝撃的で、〈もうここで働くしかない〉と決めたんです。そこからすぐに動きはじめて、大学1年生の頃にorigamiとコンタクトを取りました」

UCD「tommyは音楽ビジネスを良くしようと考えているんです。本当に良い音楽が売れるようなシーンを作っていきたいという意志がある」

tommy「(origamiという)レーベルとしてもそうですけど、究極的には未来の音楽市場を考えています。origamiの音楽ってメジャーのJ-Popとはかけ離れた位置にあると思うんです。でも、メジャーのシーンでもああいった音楽を作っている人たちがたくさんいて、活躍している〈音楽社会〉になったら面白いなと思います」

Pam「でも、そういう社会が出来つつあるんじゃないの?」

tommy「うん。最近はそういったミュージシャンがメジャーで仕事をすることが増えてきたと思うし、少しずつ浸透して馴染んでいっている気がします。いろいろな音楽の良さがある〈音楽社会〉は不可能ではないと思っています」

――UCDくんが言っていた〈未来に種を蒔く〉ということにも繋がる。

UCD「完全にそうですね」

――Bullsxxtのメンバーはみんなスキルフルなプレイヤーだけど、こうやって話を聞いていると、かなりリスナー気質ですよね。

tommy「そうですね。イメージですけど、気質としてプレイヤーとリスナーが一緒になっている人って、そんなに多くない気がします」

菅澤「〈制作期間だけは音楽を聴かない〉っていうのはわかるんです。影響を受けて軸がブレちゃう人もいますし」

UCD「僕はわかんないな(笑)。BOSSのラップを聴いて詩を書くこともあるし」

一同「(笑)」

菅澤「教則ビデオでメソッドを研究するんだけど、リスナーとしてはあまり聴いていない人がジャズ研には多いんです」

Pam「俺、高校の頃、ポール・チェンバースの4ビートのベース・プレイをずっと楽譜に書いていたよ」

UCD「ヤバいやつじゃん(笑)」

tommy「ハンパないな(笑)」

菅澤「ジャズ研には独特のジャズ研ノリがあるんですよ。ムラ社会みたいな」

UCD「〈下手なやつはしゃべるな〉という空気がある」

tommy「巧いけど、演奏を聴いていてもつまんないときってあるよね。〈ヤバさ〉がないというか」

UCD「そうそう。それが良さでもあるけど」

tommy「〈ヤバさ〉が大事。個人的には本当にそう思います。そこに尽きる。巧さはなくてもヤバさは感じる人をたまに見かけますが、僕はそういう人が好きです」

UCD「ちょっとスタジオに入りたくなってきたな。頑張ってやっていこう(笑)」

 


Live Information
〈BULLSXXT RELEASE PARTY〉

2017年12月10日(日) 東京・恵比寿BATICA
開場/開演 17:00
共演:仙人掌、入江陽、odola(O.A.)
DJ:高橋アフィ(TAMTAM)、tommy (from Bullsxxt)、オークダーキ、Death mix
チケット:前売 2,000円(+2ドリンク)
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