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ゴーゴー・ペンギンはすべてのピアノ・インストのファンにヒットできる

――取材前にゴーゴー・ペンギンの音楽に対する印象をみなさんにお伺いしたところ、mabanuaさんは〈toeに近い要素も感じた〉とおっしゃっていましたよね。それは僕も、特に今作では感じていました。

mabanua「ポスト・ロック感はすごく感じますね。USとUKやヨーロッパの音楽を比べた時に、緻密さが違うと思っているんです。別の言葉で置き換えると〈端正〉。例えば、ヨーロピアン・ジャズ・トリオは聴きやすいUKジャズの走りじゃないですか。あれは端正の極みですよね。ジャック・ガラットもイギリス人ですが、彼も緻密ですごく洗練されたカッコいい音楽を作る。あるいは、ホーカス・ポーカスやFKJを聴いていると〈フランス人だな〉って思う緻密さがありますよね。

USだと、例えば、アンダーソン・パークは結構やんちゃっていうか、ある意味、雑なところがありますよね。そこがUKとUSの違いで、好みが分かれるところかなと思います。ア・トライブ・コールド・クエストやルーツみたいなノれる音楽の方が良いっていう人もいれば、UKの洗練された気持ち良さが好きな人もいる。

ゴーゴー・ペンギンはドラムとか下の方で複雑なことをやっているんですが、その上で流れているものはシンプルで洗練とすごく感じるんですよね。だから、良い意味で聴きやすい。例えば、歌モノをずっと聴いていて、〈インストはちょっと……〉〈ロバート・グラスパーもよくわからない〉と思っていた人でも、ゴーゴー・ペンギンから入ると〈インストを聴いてみようかな〉っていう気になってくれるのかなと思います」

関口「いま、日本でピアノ・インストってちょっとしたブームで、多種多様なバンドが出てきていますよね。ゴーゴー・ペンギンはそのすべてのファンにヒットができると思います。ピアノ・トリオっていまはジャズに限らずジャンルを超えているので、インストのピアノ・トリオが好きな人でも聴けると思います。日本人でもヒットする人がいっぱいいると思いますね」

 

メンバーの出自が違うという点で、Ovallとゴーゴー・ペンギンは似ている

――Suzukiさんにお伺いしたいのですが、ゴーゴー・ペンギンのベーシスト、ニック・ブラッカの演奏についてはどう思いますか? 僕が印象的だったのは、3人で同時に音を出している時はあまりウッド・ベースだという感じがしないのですが、演奏がベースだけになるとウッドの質感がいきなり出てきて、〈ジャズを聴いていたんだ〉と気付く場面が多かったことです。

Suzuki「彼は本当に巧い人だと思います。演奏を聴いて、ジャズ・ベーシストだということはわかりました。ひとつひとつの音の粒が粘っこく前に出てきていて、アコースティックな音をそのまま録っているというこだわりはジャズ・ベーシストらしいと思います。ウッド・ベースってしっかりと音を出すことは生半可ではできないものなんですよね。表面的ではなく、楽器自体をちゃんと鳴らしているという演奏者としての凄みは音を聴いただけで感じました」

――スクエアのドラムに対して、エレキだと錯覚するくらい4分や8分音符で普通に弾いていますよね。あれはウッド・ベースだと難しいことなんですか?

Suzuki「そうですね。ウッドで音色を変えていくということ自体が、鍛錬しないとできないことです。もしかしたら後でミックスで音色を変えているところもあるのかもしれませんが、元になる演奏はやっぱり生楽器ですので。駒寄りを弾いたり、ネック寄りを弾いたり、鳴らし方ひとつで倍音の出方ももちろん違うので、その辺も関係します。あと、4本ある弦のどれを弾くかによっても音の出方が全く違うので、その辺は意図的にやっているとしか思えないですね」

ゴーゴー・ペンギンの2014年作『V2.0』収録曲“Hopopono”
 

――なるほど。音符的にはそれほど複雑なことをやっていないプレイヤーなのかなと思っていたのですが、テクニック的にはかなり細かいことをやっているんですね。

Suzuki「そうですね。楽曲の方向性としてストイックにやるところはたぶん、プログラミングで初めに作っていると思うんですね。それを生演奏化していく過程でああなったということだと思います。だから、テクニカルなこともできると思うんですよ。けど、それは楽曲として必要じゃないからあえて弾かないという余裕があると言いますか」

――ありがとうございます。ドラムについてもmabanuaさんにお伺いしたいのですが、もし今作のドラムをコピーするとしたら難しいですか?

mabanua「グリッド上にあるので、どうやったらああいう演奏ができるかということはわかりやすいんです。クリス・デイヴみたいな〈ハネ度○%〉みたいなドラムではないので」

――ポスト・ロックみたいなラインを叩いて、最後のフィルインの1拍か2拍だけレガートのハイアットでジャズのニュアンスを入れる、というようなパターンはあまり聴いたことがありませんでした。こういうパターンは思い付きにくいものですか?

mabanua「それはベースにいろいろな音楽の素養がないとできないと思います。身体が反応して、そのジャンルを無意識のうちに演奏してしまうことって多々あると思うんですよ。例えば、ドラマーのマーク・ジュリアナはジャズもできるんですが、やっぱりエレクトリックな部分をすごく感じる――レガートをやったと思ったら、〈チッチッチッ〉と刻むような叩き方をしますし。ディアントニ・パークスのドラムはロックな音なんだけど、プログレのような演奏をやったりもします。

ロー・ピッチなものって音が安定しないので、ロック・ドラムのチューニングでプログレっぽいことをやるのって難しいんです。ジャズのドラムのヘッドってパンパンに張っていますよね。そうすると、タッチが多少ブレても音が均一になるんです。ある意味、ああいうチューニングにした方が楽なんですよ。でも、ディアントニ・パークスはロックが根にあって、ジャズのアプローチも知っているから、ジャズ・ドラマーが叩きにくいセットでもできるんです。ゴーゴー・ペンギンのドラマーのチューニングも面白いと思います。いろいろなジャンルがベーシックにあるから、ああいったアプローチができるんだと思いますね」

関口「他のジャンルを1回通っているか、通っていないかっていうのはすごく大きいですよね。ジャズとロックを両方通過して、ジャンルを問わず何か面白いことをしたいなっていう人ができることなのかなって」

ゴーゴー・ペンギンの2015年のライヴ映像。演奏曲は『V2.0』収録曲“One Percent”
 

――ゴーゴー・ペンギンの3人はそれぞれ出自が違うようですね。ピアニストのクリス・アイリングワースがクラシック、ベーシストはジャズ、ドラマーは音楽学校出身ながらインディー・ロック・バンドでの演奏経験もある。Ovallのみなさんはご自身の認識として出自となるジャンルってありますか?

mabanua「……居酒屋のBGMで流れているジャズが誰の演奏なのかイントロ・クイズをやるんですけど、俺は全然参加できないんですよね。なんでわかるの!?みたいな(笑)。俺はShazamして正解を知って、2人が答えるのを待っているんですよ」

関口「でも、それがヒップホップになるとここ(Suzukiとmabanua)が強いんです」

――面白いですね(笑)。

Suzuki「僕たちがゴーゴー・ペンギンと共通している、似ているなって思ったのは、それこそメンバーの出自の違いなんですよね。Ovallもそんな感じで、ブラック・ミュージックは共通しているけど、それぞれの得意分野として持っているものが違うからこそ、3人でやっていることが面白いんです」

『A Humdrum Star』のアルバム・ティーザー
 

 


Photo by Linda Bujoli
 

Live Information
〈GOGO PENGUIN〉

2018年2月19日 (月)、20日(火)、21日(水) ブルーノート東京
開場/開演:〈1st〉 17:30/18:30 〈2nd〉20:20/21:00
前売り:7,800円
★詳細はこちら

2018年2月22日(木) 名古屋ブルーノート
開場/開演:〈1st〉 17:30/18:30pm 〈2nd〉20:30/21:15
前売り:7,800円
★詳細はこちら