COLUMN

現代中国を代表する作曲家、譚盾のオーガニック三部作 《水の協奏曲》《紙の協奏曲》《大地の協奏曲》を、今東京で聴く

現代中国を代表する作曲家、譚盾のオーガニック三部作 《水の協奏曲》《紙の協奏曲》《大地の協奏曲》を、今東京で聴く

現代中国を代表する作曲家、譚盾のオーガニック三部作
《水の協奏曲》《紙の協奏曲》《大地の協奏曲》を、今東京で聴く

 ときどき、タン・ドゥンはどうしているんだろう、とおもう。ここしばらくタン・ドゥンの作品が東京のコンサートで演奏されたおぼえがないからだろう。インターネットが普及して、ちょっと調べれば、誰が何をやっているかはわかる。わかるはずだ。そうした情報で、何かがわかったような気になるのもいいけれど、それはそれ、その〈気〉になるだけ、自己満足、あるいは、どこからか拾ってどこかにまたながれてゆくことば、にすぎない。

 そんな折、タン・ドゥンの来日公演の報がはいった。三つの〈協奏曲〉が一挙に演奏されるコンサートが開かれる。たった1回、新日本フィルの定期演奏会で、だ。

 タン・ドゥンの音楽を手放しで肯定なんかしない。できない。正直、ちょっと、いや、けっこういかがわしいと感じるし、逆に、だからこそ大事だとおもっている。なかなかのアイディア・マンで、新作があれば、何かしら驚かせてくれる。ほぉ、こんなことをやるんだ、と。ヨーロッパ由来のオーケストラを、オペラを、どのように異化するか、あるかたちに固まってしまったものをどう揺るがすか、どう融かすか、が、この作曲家にはある。美術家でならツァイ・グオチャン蔡國強とちかいもの、か。そう、偶然にもこの美術家と音楽家は、おなじ1957年の生まれだ。

 プログラムされているのは《水の協奏曲》《紙の協奏曲》、そして本邦初演の《大地の協奏曲》。プレスリリースでは〈オーガニック三部作〉と呼ばれている。

 《水》は1999年にクルト・マズア指揮のニューヨーク・フィル、《紙》は2003年にエサ=ペッカ・サロネン指揮のロサンゼルス・フィル、《大地》は2009年に作曲者自身の指揮でウィーン・トーンキュンストラー響でそれぞれ初演されていて、2018年の時点で眺めてみると、20世紀の終わりから21世紀にかけて、タン・ドゥンがオペラやオーケストラをとおして思考=試行してきたものがみえてくる作品群ととらえることができるだろう。

 《水》と《紙》は、サントリーホールで初演されたホールオペラ《TEA》から派生したもので、音の素材に共通するものを多く持つ。

 水は、《TEA》のみならず、《新マタイ受難曲》――キリストが洗礼をうけたときの〈水〉を具体的に、モノとして、示す――など、1990年代の時期の作品でしばしば素材として、楽器・媒体として、扱っていた。水を奏者が叩いたり、特殊な器にいれた水を揺すったり、振ったりしてひびかせたり、と。ここには、少なからぬ人が、子どものころ、お風呂や池、川やプールで楽しんだ水の音、流体の不可思議が、魅力が〈音・音楽〉としてとらえかえされていた。この素材と可能性を前面にだしたのが《水の協奏曲》だった。

 タン・ドゥンは、また、シャーマンが扱う紙から《紙の協奏曲》を発想する。既存の紙のみならず、現在の多様な紙をつくるテクノロジーともかかわりながら、この素材による表現を導きだす。ときに唇にあてて吹かれ、鳥のように呼びかわし、丈夫で大きな紙を揺らして風をつくりだし、その背後にまわって奏者の影を映しだすスクリーンとなる。叩き、こすれ、ちぎれ、撫でられ、揺れる。これもまた、かつて遊んだ草笛やパラフィン紙の記憶をも喚起するだろう。

 こうした記憶の古層にあるものが、洋の東西、どこでもつうじるのか、あるいは、統御された水や紙のみにふれている現代の人たちに伝わるものがあるのか、それとも、ただおもしろい、珍奇だというだけなのか、はわからない。また、こうした〈オーガニック〉な素材の音を、〈音楽〉あるいは〈音楽作品〉に回収してしまうことがどうなのか、もわからない。ただ、ちょっといかがわしいし危険かもしれないけれども、こうした方向性が、可能性が音に、音楽に、あることを、タン・ドゥンは示していよう。

 そして今回の《大地の協奏曲》。タイトルからも連想できるように、マーラー生誕150年を記念して作品は手掛けられた。ハンス・ベートゲ訳による李白の詩を《大地の歌》が用いていることも、当然、意識している。ここでは99の陶器と石器がオーケストラと対置される。ここでの〈大地〉とは、マーラーよりもはるかに具体的だ。大地をつくっている素材、土でつくった陶器や石がつかわれるのだから。こうした水や紙、土は、ひとつの文化・文明のみならず、いくつもの古代の文化・文明で原初的なモノとみなされたものにほかならない。人と自然、音楽と自然との結びつきを、タン・ドゥンは近代化された西洋型オーケストラのなかに持ちこみ、生々しい音・音楽のかたちを提示する。

 どの楽曲も〈協奏曲〉なので、ソリストがいる。しかも複数。《水》と《紙》はともに3名、《大地》は4名。ベイベイ・ワンと藤井はるかを中心に、オーケストラ・メンバーも登場する予定。また、《大地》には中国の笙を吹くジャン・モウも加わる。通常の〈楽器〉に熟達するだけではない、水や紙や陶器・石で音を発する音楽家の身体に注目することで、このコンサートを体験すれば、自分が日々生活するなかでモノに、音に、どうかかわっているのかをおもいおこし、考える、そんな機会にもきっと、なる。

 


タン・ドゥン  Tan Dun
1957年中国湘南省生まれ。作曲家、指揮者。道教やシャーマニズム文化の色濃い祖母の故郷で幼少期を過ごす。文革を経て、京劇団に二胡奏者として入団。その後北京中央音楽院の作曲家に入学、ヘンツェらに師事。86年からコロンビア大学に留学。マルチメディアを活用したり、西洋と東洋の伝統を融合し、独創的でクラシック音楽の枠組みにとらわれない作風は、今日の音楽界で高い評価を得る。

 


LIVE INFORMATION

タン・ドゥン:オーガニック3部作
Tan Dun’s Organic Music Trilogy

○3/17(土) 14:00開演
会場:東京・サントリーホール
プログラム:
○水の協奏曲 ~ウォーター・パーカッションとオーケストラのための~*
Water Concerto for water percussion and orchestra*
○紙の協奏曲 ~ペーパー・パーカッションとオーケストラのための~*
Paper Concerto for paper percussion and orchestra*
【日本初演】
○大地の協奏曲 ~セラミック・パーカッションとオーケストラのための~*★ 
Earth Concerto for ceramic percussion and orchestra*★

指揮:タン・ドゥン Tan Dun, conductor
ソリスト:
ベイベイ・ワン* Beibei Wang, percussion
藤井はるか* Haruka Fujii, percussion
ジャン・モウ★ Zhang Meng

www.njp.or.jp

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