3月1日(木)から初の来日公演を東京と大阪でおこなうヘイゼル・イングリッシュ。2作のEPをカップリングした『Just Give In / Never Going Home』を昨年リリース、カジヒデキとHomecomingsの畳野彩加の対談でも名前が挙がった、2018年もっとも注目されだろうミュージシャンの1人だ。サポート・アクトにLuby Sparks、For Tracy Hyde、juvenile juvenileという、今年さらなる躍進が期待される気鋭のバンドを揃えた注目の同公演を前に、ノスタルジックだが現代的なドリーム・ポップを奏でる新たな才能の秘密に迫った。*Mikiki編集部

HAZEL ENGLISH Just Give In / Never Going Home Marathon Artists/Tugboat(2017)

いったい何十年前のファッション誌から飛び出してきたのかと、彼女を知らない人の目には映るだろう。けれど、このレトロ・ファッション・ガール=ヘイゼル・イングリッシュは90年生まれのまだ27歳。カリフォルニア州オークランドで活動するシンガー・ソングライターであり、コートニー・バーネット擁する英マラソン・アーティスツからの注目のニュー・カマーにして、〈SXSW 2018〉への出演も決定している逸材なのだ。2作のEPをコンパイルした『Just Give In / Never Going Home』をリリースしてはいるものの、まだフル・アルバムは出していない彼女が、早くも初来日を果たす。

ヘイゼル・イングリッシュの音楽の魅力は、なんと言ってもうっとりとするようなドリーミーなサウンド、そしてそのなかに包まれたノスタルジックなメロディーだ。そのメロディーを聴けばきっと誰しも、心の奥にある引き出しが開かれたような懐かしい気分に満たされるはず。そんな彼女のチャーミングな魅力やその音楽に宿った不思議なマジックには、彼女の出自や現在の境遇の複層性が大きく関係しているのではないだろうか。本稿では、そういった点からヘイゼルの魅力を紐解いてみたい。

『Just Give In / Never Going Home』収録曲“More Like You”
 

〈イングリッシュ〉という姓の彼女はイギリス人という訳ではなく、さらに言うと、アメリカ生まれでもない。ヘイゼルの出身はオーストラリアのシドニー。交換留学を機にサンフランシスコにやって来て、そのまま対岸のオークランドで暮らしはじめ、音楽活動を開始したのだという。とはいえ、アーティスト写真はもちろん、ミュージック・ビデオやジャケット写真に見られる彼女のヴィジュアルは、イームズ夫妻らによるミッドセンチュリーのモダンな工業デザインに象徴される〈アメリカらしいライフスタイル〉――それは、現在からすると〈古き良きアメリカ〉的なイメージだが――の時代をどうしたって思わせるものだし、そしてまた、その発信地であったカリフォルニア的なイメージを同時に連想させる。実際、MVにもカリフォルニアらしい高低差のある風景やチャイナ・タウンといったロケーションが印象的に登場する。つまりは、彼女は典型的な〈カリフォルニア的〉かつ〈アメリカ的〉なイメージをオーストラリア人である自分に投影しようとしていると言え、そこが彼女のチャーム・ポイントのひとつにもなっている。なので、今回のライヴでの衣装にもぜひ注目したいところだ。

 

Photo by @hennygarfunkel for @sfchronicle_style, link in bio for full feature. Shout out to @tonybravosf ✨

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ヘイゼル・イングリッシュのInstagramより。レトロなファッション・センスも彼女の魅力のひとつ
 
『Just Give In / Never Going Home』収録曲“Fix”
 

 

そんな彼女の音楽をプロデュースするのは、同じくオークランドで活動し、昨年のフジロックでレッドマーキーを沸かせたデイ・ウェーブことジャクソン・フィリップス。オークランドの書店で知り合ったというドラマティックなエピソードもある2人の協力関係は、前出のEP2作のリリース後にも連名でインターポールの“PDA”のカヴァーを発表するなど、現在進行形。デイ・ウェーブらしい、光に煌めく霧のようなきめ細やかなドリーミー・サウンドはヘイゼルの楽曲においても遺憾なく発揮されている。その恍惚感はライヴでも体験できるだろう。ただ、細かく爪弾かれるコーラスがかったギターが主役に据えられた彼女の楽曲は、シンセ・ポップ寄りのデイ・ウェーブの楽曲に比べるとネオアコに近い涼やかなポップさが前面に出ている。その瑞々しいサウンドは、ヘイゼルと同世代のニュージーランドの宅録女子、フェザーデイズのリスナーの心もくすぐるはずだ。

デイ・ウェーブとヘイゼル・イングリッシュによるインターポール“PDA”のカヴァー
 

そんなヘイゼルの一番のマジックは、彼女の書くノスタルジックなメロディーだろう。“Other Lives”や“Fix”で聴けるように、低音から高音までスムースに流れながら、どこか陰りのあるメロディー・ラインはカーペンターズの“I Need To Be In Love(青春の輝き)”(76年)を思い起こさずにはいられず、何度聴いても郷愁に襲われて、思わずキュンとしてしまう。それもそのはずで、彼女は両親の影響でカーペンターズと同時代のポップスであるアバやビー・ジーズを聴いて育ったと発言している。メロディー・ライティングにおいても、親世代のメインストリームのポップスへの敬愛をまったく隠していないというわけなのだ。

『Just Give In / Never Going Home』収録曲“Other Lives”
 

一方で、彼女はみずからの音楽を〈インディー・ポップだ〉と断言している。この発言は、ヘイゼル自身と過去のポップスとの距離感をよく表しているだろう。つまり、インディー・ポップ・アーティストとして活動する彼女は、過去の世代の、しかも王道で大衆向けとも言えるポップスは、世代もフィールドも自分とは異なっている、ということを彼女はよく理解しているのだ。でなければ、こんなに開き直った敬愛をメロディーに落とし込むことはできない。そう考えると、彼女があえて〈カリフォルニア・ガール〉を演じ切ろうとしていることの理由も見えてくるだろう。オークランドには、家賃の高いサンフランシスコを避けて多種多様な人種のアーティストが多く住んでいるそうだが、そこを拠点にする彼女がレトロなアメリカン・ファションに振り切れているというのは、自分が本来その土地の人間ではないことを十分自覚し、しっかりと客観的にその境遇を捉えていることの裏返しなのだろう。

『Just Give In / Never Going Home』収録曲“Never Going Home”
 

EPの表題曲“Never Going Home”では、曲名通り故郷には〈もう戻らない〉決意を不安に揺らぎながらも綴り、古き良きアメリカ西海岸のスタイルを選んだヘイゼル。そこに70年代的な王道ポップスのメロディー・センスが結びついるのだとすれば、彼女の才能が生み出す音楽は〈インディー・ポップ〉という狭いフィールドに留まらず、それこそカーペンターズのように、これからより多くの人の心を掴むポテンシャルを秘めているはず。そのとろけるような柔らかなサウンド、そしてソング・ライティングの絶妙さは、ぜひライヴで味わってみてほしい。

 


Live Information
〈Tugboat Records Presents “Hazel English Japan Tour 2018 in Tokyo”〉

2018年3月1日(木)CIRCUS TOKYO
オープニング・アクト:Luby Sparks
開場/開演 19:00/19:30
前売り 5,000円(ドリンク代別)
レーベル割価格(限定50枚)4,300円(ドリンク代別)
販売:Pコード 105596/Lコード7 1987/e+/PEATIX

2018年3月2日(金)東京 TSUTAYA O-Nest
オープニング・アクト:For Tracy Hyde
開場/開演 19:00/19:30
前売り 5,000円(ドリンク代別)
レーベル割価格(限定100枚)4,300円(ドリンク代別)
販売:Pコード 105794/Lコード 72869/e+/nest店頭

 

〈Tugboat Records Presents × Fastcut Records present “Hazel English Japan Tour 2018 in Osaka” 〉

2018年3月3日(土)CONPASS Osaka
オープニング・アクト:Luby Sparks/juvenile juvenile
開場/開演 18:30/19:00
前売り 4,000円(ドリンク代別)
販売:Pコード 106-176/Lコード 55291/e+

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