INTERVIEW

ケンドリック・ラマー×マーベル「ブラックパンサー」 渡辺志保とDJ YANATAKEが語り尽くす2018年最大のコラボレーション!

VA『Black Panther: The Album』

ケンドリック・ラマー×マーベル「ブラックパンサー」 渡辺志保とDJ YANATAKEが語り尽くす2018年最大のコラボレーション!

アメリカ本国で公開されると、瞬く間に初日3日間の公開初週の興行収入が約150億円を数え、前代未聞とも言える記録を打ち立てつつある映画「ブラックパンサー」。同じマーベル作品としては「デッドプール」の成績を超え、「アベンジャーズ」に次ぐ歴代2位なった。さらに、アメリカでは公開2週目でボックス・オフィスの売り上げは約4億ドルを突破し、アメリカの映画史上4番目にランクインすることが決定に。若手黒人映画監督であるライアン・クーグラー監督がメガホンを取り、アフリカに位置する架空の国家、ワカンダ王国を舞台にした本作。チャドウィック・ボーズマンやマイケル・B・ジョーダンといった気鋭の黒人俳優や、ルピタ・ニョンゴ、アンジェラ・バセット、そしてフォレスト・ウィテカーら、ブラック・ムーヴィー界を支えてきた実力派俳優・女優陣も多数出演していることでも注目を集めている。

また、「ブラックパンサー」が大きく世間を騒がせているトピックのひとつに、その音楽があることを忘れてはならない。なぜなら、映画のテーマ曲は、現在のヒップホップ・シーン、いや、音楽シーンの〈キング〉とも呼ばれるケンドリック・ラマーが担当したものだからだ。そして、ケンドリックとその所属レーベルTDEのボス=アンソニー“トップ・ドッグ”ティフィスが映画「ブラックパンサー」にインスパイアされて制作したアルバム、その名も『Black Panther: The Album』を公開に合わせてリリース。本稿では、インターネット・ラジオのblock.fmにて、6年以上にわたってヒップホップ専門番組〈INSIDE OUT〉を放送しているディレクターのDJ YANATAKEと、番組のパーソナリティを務める音楽ライターの渡辺志保の2人が、映画「ブラックパンサー」と絡めつつ、『Black Panther: The Album』を解説する。

Black Panther: The Album Top Dawg/Aftermath/Interscope/ユニバーサル(2018)

 

ヒップホップ的にも語れる映画「ブラックパンサー」

渡辺志保「公開に先駆けて『ブラックパンサー』の試写会に伺ったんですけど、とにかくすごく引き込まれました。ワカンダ王国の持つプリミティヴさとフューチャリスティックさのバランスが、すごく高次元で組み合わさっていて。コスチュームも素敵だったし、もちろん音楽に関しては言うことなし、というか」

DJ YANATAKE「いままでマーベル作品に関してよく知らない人もすごく楽しめるし、ストーリーの軸となる善悪の部分も含めて楽しみやすいしね。本当にアメリカではいま、すごい反響を呼んでいて、アメリカの子供たちに与える影響もすごくデカいんだろうなと思ったな。子供たちが『ブラックパンサー』に連れて行ってもらえるってことで、踊りながら喜んでいる動画なんかもあったよね」

渡辺「そうですね。ブラックパンサーは有色人種のヒーローということで、今後、ハリウッドによるアジア人ヒーロー作品なんかも観られるのかなあ、と少し期待しちゃうかも」

YANATAKE「何より、ヒップホップ的にもいろいろ語れる内容になってるし、個人的には近年におけるベスト映画だな」

渡辺「劇中、“All The Stars”がすごく良いタイミングでかかって、最後にはケンドリック・ラマーの名前もコンポーザーとしてバーン!と出てくるじゃないですか。ライアン・クーグラー監督って、86年生まれとまだ若くて、アメリカ西海岸のオークランド出身なんですよね。ケンドリックも同じアメリカの西海岸出身で、年齢も監督とほとんど変わらないんですよ。そこで、本作のテーマ曲をケンドリックに委ねたということは、クーグラー監督にとってもひとつの達成感があったんじゃないかなと思いました」

※ケンドリック・ラマーは87年生まれ
 
『Black Panther: The Album』収録曲“All The Stars”
 

 

『Black Panther: The Album』とアフリカ

YANATAKE「『Black Panther: The Album』の楽曲も、それぞれ劇中で効果的に使われていたよね。『デッドプール』なんかはコメディ要素も強いから、ヒップホップの楽曲にしても、あえて古い、俺たちも〈プッ〉ってなっちゃうような楽曲を使っていたけど、今回はマジでガチというか。例えば、トレーラーでもヴィンス・ステイプルス&ユーゲン・ブラックロックの“Opps”が使われていたけど、本編でもすごくシーンにハマっていたのが印象的だった」

渡辺「ちなみに、その“Opps”を作ったのはルドウィグ・ゴランソンという人物で、彼は『ブラックパンサー』映画全体のスコアも手がけている人物なんですって。これまでのクーグラー監督の映画に加えて、チャイルディッシュ・ガンビーノの作品にも多く関わっていた人物みたいで。今回、『ブラックパンサー』のスコアを手掛けるにあたって、セネガル人の友達と一緒にアフリカへ視察旅行に行ったと報じられていました」

YANATAKE「なるほど。確かに『Black Panther: The Album』では、アフリカ出身のラッパーやシンガーもフィーチャーされているよね」

渡辺「かつ、自分たちのアフリカの言語を使ってラップしていたりね。そのあたりは“Redemption”が特に顕著だなと思いました。ケンドリック・ラマーの『DAMN.』にも起用されていたザカリも参加している曲です」

YANATAKE「俺が昔、80年代の終わりにヒップホップを好きになった頃、ヒップホップはアメリカの黒人たちが人種差別などの問題と戦う武器として使われていて。そこで〈彼らは何に対して怒っていて、何を言いたいんだろう?〉というところに魅せられて、ヒップホップを聴きはじめたんだよね。そこから、ヒップホップは商業的に成功するようになって、〈酒・女・ドラッグ・銃〉みたいな歌詞が主流になっていくとともに、最近は特にドラッグの描写がすごいことになっていて……。それはそれで面白いと思っているし、ヒップホップが進化した結果でもあるんだけど、いまのシーンでは、そのカウンターとしてケンドリック・ラマーの存在が際立っていると思っていて。〈本来、ヒップホップが持っているものを取り戻しに行こう〉みたいなアティテュードを感じる存在でもある。

『ブラックパンサー』ではアフリカがフィーチャーされているけど、90年代前半くらい、アメリカのヒップホップ・シーンでギャングスタ・ラップが流行り始めた時に、デ・ラ・ソウルやア・トライブ・コールド・クエスト、ジャングル・ブラザーズたちがネイティヴ・タンというクルーとして出て来たんだよね。当時、アフリカの大陸をかたどったような革のメダリオンを首からぶら下げて、〈俺たちのルーツを知れ! アフリカ回帰!〉ってことを訴えたりしていて。当時の俺は、〈なんで彼らはそういうことを言うんだろう?〉ってすごく考えたり調べたりしていたんだよね。

だから、『ブラックパンサー』を観て、ケンドリックの作品を聴くと、時代が一周して、その時の気持ちを思い出させてくれるように感じた。しかも、いまのヒップホップというか、世界的な音楽トレンドもアフリカってキーワードとして結構取り上げられるから、単純に昔に戻っているわけじゃなく、ちゃんとサウンド的に進化しながら、過去にも共通する主張をしているというところがすごいし、不思議な気分でもあるよね」

ネイティヴ・タンのメンバーが多数参加したデ・ラ・ソウルの89年の楽曲“Buddy(Native Tongue Decision)”。ジャングル・ブラザーズはメダリオンを首にかけている
 

渡辺「映画本編でも、90年代のヒップホップ――しかも、アフリカ回帰を唱えていた頃のヒップホップを連想させるシーンもあって、堪りませんでした。ちなみに、ヒップホップにおけるアフロ・サウンドのトレンドって、ちょうど1年くらい前にドレイクが『More Life』をリリースして、そこで『Black Panther: The Album』にも参加しているシンガーのジョージャ・スミスは"Get It Together"っていう曲を歌っていて。この曲は、南アフリカのDJであるブラック・コーヒーをフィーチャーして、アフロ・テイストに仕上げた曲なんですよ。なので、1年経ってジョージャがまたアフリカをテーマにした作品で歌っていることにびっくりしましたね」

YANATAKE「去年は、ディプロがコーチェラの出演オファーを蹴ってアフリカに取材に行ってDJをしたとも言われていたり、あと、フレンチ・モンタナが"Unforgettable"のミュージック・ビデオでアフリカに行っていたりということもあって。そういう一つ一つの物事が偶然じゃなく、必然で繋がっているような感じがしたし、それが映画のメッセージともリンクしていて……」

渡辺「そのシンクロ具合にびっくりしましたよね」

フレンチ・モンタナの2017年の楽曲“Unforgettable”。MVはウガンダでの撮影、『Black Panther: The Album』にも参加しているスウェイ・リーが客演
 

 

『DAMN.』の世界観とクロスオーヴァーする『Black Panther: The Album』

YANATAKE「『Black Panther: The Album』では、全曲にケンドリックのクレジットが入っているんだよね。どこまでケンドリック本人がディレクションしてるんだろう? 綿密に作り込まれているし、アーティストをフックアップしてディレクション能力にも長けてるってことを証明したよね」

渡辺「彼はご存知の通り、2017年4月にアルバム『DAMN.』を発表して。『Black Panther: The Album』には、彼のレーベルであるTDE作品ではおなじみのプロデューサー・チームのサウンウェーヴ、あとは『DAMN.』にも参加していたバッドバッドノットグッドらも参加していますよね。『DAMN.』のリリース以降、ケンドリックはずっとツアーをしていましたけど、いったいどのタイミングで『ブラックパンサー』用の楽曲を作ったんだろう?って思いながら聴いていました。

しかも『Black Panther: The Album』、ひいては『ブラックパンサー』という映画自体、『DAMN.』の世界観と似ているところもある。このアルバムでも、ケンドリックが主役のブラックパンサーになりきってラップしていたかと思えば、敵役のキルモンガーになってラップしているところもありますし。映画のなかでのブラックパンサーとキルモンガーの描かれ方も、人間の相反する二面性を描いているように感じて、ケンドリックのアルバムの世界観と合わさってすごく巧妙だなって。

“Big Shot”には『DAMN.』で出てきたフレーズなども出てくるし、ザ・ウィークエンドとの"Pray For Me”もそう。なので、ケンドリックが、『DAMN.』から本作まで、どういう経緯や心境の変化を経て制作にあたったのかなという点もすごく気になりますね。映画の本編にも『DAMN.』のリリックと同じようなセリフがあって、両者の世界観がクロスオーヴァーして興奮しちゃいました」

ライアン・クーグラーへのインタヴューでは、『DAMN.』をリリースした後にクーグラーからケンドリックへ楽曲制作のオファーをしたと語られている
 
『Black Panther: The Album』収録曲“Pray For Me”
 

 

『Black Panther: The Album』に参加した、2018年注目の若手アーティスト

YANATAKE「このアルバムも、リリース初週に15万ユニット以上を売り上げて、ビルボード一位になっていたし。参加している若手アーティストの面々も良かったよね。"Paramedic!"で参加しているSOB X RBEも去年からUSのヒップホップ・メディアは注目していたし、何かきっかけがあれば大ブレイクするだろうと思っていたけど、まさかこうしてケンドリックにフックアップされるとはね。彼らはオークランド出身で、いま、ニューヨークやアトランタの若手もアツいけど、ここではちゃんとウェストコースト出身の若手として彼らを紹介しているっていうのがいいですよね」

SOB X RBEの2017年の楽曲“Anti”。SOB X RBEは2018年2月23日にファースト・アルバム『Gangin』をリリースしたばかり
 

渡辺「同じ若手勢だと、"Seasons"のモジーも。彼もカリフォルニアのサクラメント出身なんですけど、ケンドリック・ラマーが今年のグラミー賞のスピーチでモジーのリリックを引用していたんですよ。で、なんでわざわざモジーなんだ……?とずっと疑問に思っていたんですが、もしかしたらこの『Black Panther: The Album』の制作が絡んでいたからなのかも、と腑に落ちました。あとは、フューチャーのようなヒット・チャートを賑わすラッパーから、ザ・ウィークエンドやアンダーソン・パークまでが集合しているという。

各アーティストの組み合わせもいいですよね。カリードとレイ・シュリマーのスウェイ・リーの"The Ways"はフックで〈僕にはパワー・ガールが必要なんだ〉と言っていて、劇中でも大きくフィーチャーされているルピタ・ニョンゴ演じるナキアら、女性キャラクターに向けたアンセムなのかなと思ったんです。『ブラックパンサー』の良いところって、女の子もバリバリ戦うんですよね。この楽曲には、本編のそうした面も反映されているんじゃないかと思います」

YANATAKE「あと、こういう作品にジェイムス・ブレイクみたいなアーティストが参加しているのもいいなと思ったし、アンダーソン・パークに関してはもはやTDEファミリーっていう感じもするしね」

 

音楽と映画の両方を楽しみたい「ブラックパンサー」

YANATAKE「『ブラックパンサー』が日本でどれくらいの規模でヒットするのか分からないけど、口コミなんかでも支持されて長くロングランするような作品になって欲しいよね。音楽面で指揮をとったケンドリック・ラマーは、オリジナル・アルバムの『DAMN.』もすごく評価されて、今年のグラミー賞でも5部門でトロフィーを獲得したし、こうして大きな映画作品に携わる作品でも結果を出した。しかも、今年はフジロックのヘッドライナーの1人だし、いよいよ、日本でももっとケンドリック・ラマーが評価されて、ラジオやテレビ番組とかでもケンドリックの音楽が掛かるようになって欲しいよね。日本のメディアの人たちも、もう無視できないっていうかね。

渡辺「『ブラックパンサー』がアメリカでここまでヒットしている理由って、いまの社会情勢に繋がる問題も描き出しているからじゃないかと思うんですよ。ケンドリック・ラマーは2016年にリリースした『To Pimp A Butterfly』、もしくはそれ以前の作品からそうした意識を高く持っていたラッパーだったし、『To Pimp A Butterfly』ではアフリカ回帰のことを歌って、アフリカのことを母なる大地と捉えて"Momma"という楽曲も収録していますし、映画本編とケンドリックのそうしたシンクロ具合も意識すると、よりディープに楽しめるのかもと思いますね」

YANATAKE「すでに発表されてるケンドリック・ラマーとSZAの"All The Stars"のMVもそのまま映画とリンクするような美しい映像だし、そっちも合わせて観てもらうといいかも。

あと、マーベルやアメコミ系の映画って、それぞれのキャラクターやサイドストーリーに詳しくないと楽しめないというか、それぞれのヒーローとの繋がりが分からない部分もあるし、何も知らないまま観ると楽しめるのかどうか不安になっちゃう人も少なくないと思うんですよ。〈どうせ分かんないし……〉みたいな。でも、『ブラックパンサー』はサイドストーリーが分からなくても十分楽しめるから、ぜひ一度、そういう思い込みを取り払って観て欲しい。もちろん、『ブラックパンサー』がフィーチャーされている『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』あたりを観てからでも楽しめるけど。俺も、いまから色々とマーベル作品に追いつかないと」

渡辺「あとは、90年代のヒップホップに触発されたリスナーの方も、リアルタイムでケンドリックからヒップホップを聴いているようなリスナーの方にも、音楽と映画の両方を味わって楽しんで欲しいなと思いますね」