INTERVIEW

fhána『World Atlas』 旅に出る人の助けとなって、背中を押すための世界地図

fhána『World Atlas』 旅に出る人の助けとなって、背中を押すための世界地図

14の物語を繋ぐことで完成した〈世界地図〉。この2年のバンドのドキュメンタリーの如きその地図が示す場所には、あなたにとっての消えない何かが待ち受けている!

外の世界へ連れ出したい

 アニメのタイアップ・ソングでありつつ、ときと共に変わり続けるバンド自身の物語も反映させた5枚のシングルを経て、fhánaが3枚目のアルバム『World Atlas』を完成させた。既発のシングル曲と、新曲/初音源化のナンバーから成る全14曲が映し出すのは、言わば2作目『What a Wonderful World Line』(2016年)からの約2年に渡るバンドのドキュメンタリー。MVの再生回数が1,800万回を超える“青空のラプソディ”のヒット、towanaの声帯ポリープ手術からの復活といった多くの経験を経て、4人が辿り着いた現在地が如実に表れている。

fhana World Atlas ランティス(2018)

 「今回の〈世界地図〉っていうタイトルは、去年の春のツアーで発表した当初のイメージからだいぶ意味合いが変わりましたね。特に表題曲や最後の“It's a Popular Song”を作っていたときは、〈変わる〉ということを肯定的に捉えて、〈変われない〉〈今いる場所から動けない〉って思っている人がいるんだったら、そこから引っ張り出して外の世界へ連れていきたい、その背中を押す地図になればいいなっていうモードで。〈希望はあるよ、もっとキラキラした世界に行けるんだよ〉って。旅に出る人の助けとなって、背中を押すための〈地図〉。それが『World Atlas』です」(佐藤純一)。

 「祝祭感のあるアルバムですよね。マーチの曲があるわけじゃないですけど、聴いてくれる人を連れて練り歩くみたいな、そういう世界観の作品になったなと」(kevin mitsunaga)。

 「“What a Wonderful World Line”では〈祝祭の前夜〉って歌ってましたからね。前回は前夜祭で、今回は本祭。ホントにこの2年の足跡が見えるものになったし、ここからさらに先へと繋がっていくような、オープンな雰囲気だなっていう印象です」(yuxuki waga)。

 「fhánaはカッコイイ曲をいろんな方向で作れるバンドなんだなって改めて思ったし、さっき話に出た表題曲と“It's a Popular Song”は比較的最後に作った曲で、最近のfhánaの気分をすごく表してるなって」(towana)。

 その時々のバンドの〈気分〉はサウンド面にも投じられていて、今回初出のナンバーには現在のモードが。まずオープニングを担う表題曲は、フィリーなストリングスが晴れやかな幸福感を導くミッドテンポのソウル・ポップ。そこには続く“青空のラプソディ”と同様、小沢健二のあの作品のムードが注入されていて……。

 「はい、これは『LIFE』の雰囲気ですね(笑)。あのアルバムや、そのリファレンスになっているフィリー・ソウル系の曲とか。最初この曲は、全然違う4つ打ちだったんですけど、最終的にこのリズムに落ち着きました。これがいちばんポップでオープンかなって。メロディーもアレンジもオープンなものを作ろうって考えてたから。かつ、光だけじゃなく影の部分も表現するっていう。歌詞も実はそんなに明るいだけではないんですけど、音もそうで。歌も、ギターも、ストリングスも陽性の雰囲気ですけど、低音がずーっと敷かれていたり。最後のほうにはゴスペル感や、ビートルズ『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』っぽさも入れていて、ギターもストリングスもラストに向けてどんどん混沌としていく。箱庭的な世界じゃなくて、現実の世界で本当の冒険をするような感じです。箱庭は隅から隅まで見えるけど、〈ほんとう〉の世界は見えない影になっている部分もあるし、矛盾もたくさんあるし、混沌としていますよね。そういうことを曲にできたらなって。音楽的な面でもこの“World Atlas”と“ユーレカ”“青空のラプソディ”“It's a Popular Song”がなんとなくの軸で、この4曲があるからアルバムとしての統一感が出ているっていうのはありますね。アレンジとしては、最近出来た3曲には今の自分のモードが出ているかも。ニューオーリンズ系になっちゃった、みたいな(笑)」(佐藤)。

 

ポップスって何だろう?

 その3曲の中で最後に制作されたのが、ロマンティックにスウィングするミディアム“It's a Popular Song”。ギターと鍵盤のドラマティックなソロや深みのあるストリングスも麗しいこの曲が、聴き手にジェントルな余韻をもたらしてくれる。

 「これは最初からアルバムの最後に入れることを想定して作った曲で。演奏者はツアーのメンバーで、ライヴではお客さんもサビを合唱できるような、そういう意味での〈みんなの曲〉を作りたいなと思っていたんですけど、それと同時に、大衆曲――ポップスって何だろう?って考えたんです。fhánaのファースト・アルバムのブックレットは〈僕たちはそんなに変わらない〉っていう一文から始まっていて、けれどもバラバラになってしまった……ってアルバムが始まるんですけど、この曲のメッセージは、綺麗事じゃなく〈みんな同じ部分を持ってるよね〉ってことで。このテーマは数年前から温め続けていて、今回曲として形にしたんですけど、タイトルに〈Popular Song〉って付けたのは、勝手にですけど星野源さんの“Family Song”へのアンサーっていうのもありますね(笑)。あの曲は日の当たる方向からこのテーマに挑んでて、丁寧に、誰も取りこぼすことなくファミリーとして包摂していく曲ですごいポップスだなと思ったんですけど、そういう〈包み込んでいく〉というのとは別な方向からみんなの歌を作りたかったんです。大上段に構えたものではなく、個人的な、小さい視点の話から〈でもそれってみんながそうだよね〉って」(佐藤)。

 「この曲は佐藤さんの欲しいグルーヴ感を自分に馴染ませていく作業がおもしろかったです。バッキングのパターンが普通じゃないシャッフルで、めちゃくちゃ弾きにくい。“World Atlas”はもっと苦戦したんですけどね(苦笑)。すごく微妙に、絶妙に跳ねていて。fhánaの曲はもともとそうなんですけど、“World Atlas”は特にスウィート・スポットが狭くて、〈ここに音を当てはめていかなきゃ全部外れる〉みたいな感じがあって」(yuxuki)。

  「この曲は歌も間違いなくいちばん苦戦……というか、歌っていてどうしても納得いかないところがあって、もう泣いちゃって(笑)。じんましん出しながら歌ったり、録り直したりっていうのは初めての経験で、ひとつ成長できたのかな。だから、私の気持ちとしては必死だったんですけど、最後の曲として余裕を持って聴いてもらいたいと思いながら歌ったので、そうなってたらいいなと願うばかりです」(towana)。

 

日常と非日常の狭間へ

 さらにはスマホアプリ「バトル オブ ブレイド」の主題歌“Do you realize?”と、yuxuki製の“star chart”も今回が初音源化。前者はfhána史上もっともロッキンなダイナミズムで迫る一曲だ。

 「“Do you realize?”は“アネモネの花”(2016年のシングル“calling”収録)と同時期に作った曲で。“アネモネの花”はアコースティック調ですけど、僕は聴きながらthe HIATUSを思い出していて、急にエモい曲を作りたくなったんですよね(笑)。ドラムは秋山隆彦さん(downy)、ベースは中尾憲太郎さんで、秋山さんのドラム・パターンはほんとに謎なんですけど、でもカッコ良く成立してるっていう(笑)」(佐藤)。

 一方、鍵盤を中心にファンタジックな音世界を立ち上げる“star chart”は、切ない歌詞も技ありの仕上がりに。

 「この曲は最初、ピアノの綺麗な、ミッドテンポのロックっぽい曲をイメージしてたんですけど、これを作ってたのは去年の夏だから……エド・シーランの“Shape Of You”きっかけだ。シンセプラック(弦を弾いたようなアタック感のある音)をAメロに入れたら曲の質感が変わっておもしろいなと思って、ギリギリまでシンセ・サウンドでいって、サビでガラッとアコースティックめに変えて。あと、歌詞がめっちゃ良いんです。地上にいる君を星座が見てる、そういう内容で」(yuxuki)。

 「〈僕は変わらないけど君は変わって、最後はいなくなってしまう〉みたいなテーマを、地上から星座を見上げるんじゃなくて、オリオン座が主人公で、星座視点で地上を見てるっていう構図にしたらすごく切ない世界になって」(佐藤)。

 そんな14曲が散りばめられた〈地図〉を手に、5月からはツアーもスタート。全曲を通して聴く/ライヴを体験するという行為は、聴き手が日常の外へ足を踏み出すきっかけをくれることだろう。

 「サブスクリプションでシャッフル的に聴いたり、おすすめのプレイリストやランキングを順に聴くっていうのは日常、生活寄りの聴き方のように思うんですけど、10数曲のまとまった音源を作った人が考えた順番で聴くっていう体験は、非日常的なことだと思うんですね。ツアーやライヴが人工的に作り出した完全な非日常の時空間だとしたら、〈アルバムをアルバムとして聴くこと〉って非日常と日常の間ぐらいのもの。日常に寄り添った聴き方も全然自由だし、それも良いけど、作り手としてはやっぱり聴いてくれる人に特別な何かを感じてもらいたいんです。5月からツアーもありますけど、そこに足を運んでくれる人も偶然その非日常に遭遇したわけじゃなくて、みずからの意思で、照明の光とか影とか、音とか感情とかが飛び交う謎の裂け目に入っていくわけなんで、2時間半とか経って日常の世界に戻ってきたとき、やっぱり消えない何かを残せたらなって。そういうツアーにしたいと思ってますね」(佐藤)。

fhánaの作品を紹介。

 

関連盤を紹介。

 

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