INTERVIEW

ニガミ17才 『ニガミ17才b』 地下の変態、地上へ降り立つ

岩下優介(ヴォーカル/ギター)、平沢あくび(キーボード)
 

独特の日本語センスとサイケなサウンド、奇想天外なパフォーマンスで局所的な人気を誇ったバンド、嘘つきバービーの解散より早5年。フロントマンでベース・ヴォーカルだった岩下優介がベースをギターに持ち替え、小銭喜剛(元・ミドリ、ドラムス)、イザキタツル(ベース)、平沢あくび(キーボード)と共に組んだニガミ17才が、初の全国流通盤となるセカンド・ミニ・アルバム『ニガミ17才b』を6月6日(水)にリリースする。

変態性を増した耳に残る歌詞、キーボードをフィーチャーしたことでよりポップになったサウンド、平沢のキュートなルックス、そして芸人のデッカチャンが水を飲んでは吹き出す謎だらけのPV“おいしい水”などが話題を呼び、同PVの再生回数は50万回を超え、同曲が収録された昨年リリースの前作『ニガミ17才a』は一般には未流通ながら、1600枚以上を売り上げる大ヒットを博した(※『b』のリリースに合わせて一般の流通も開始)。さらに、今年に入ってPVが公開された新曲“ただし、BGM”は、歌詞のテーマが前代未聞の〈ばばあ〉ながらも、より踊れる方向へとサウンドが進化。PVは前回以上の再生回数を記録し、多方面で賛否両論を巻き起こしている。

Mikikiでは今回、バンドの中心人物である岩下と、もともとは嘘つきバービーの大ファンで今はバンドの影のブレーンでもある平沢にインタヴューを敢行。彼らのインタヴューがWEBメディアへ掲載されるのは初ということで、嘘つきバービーの解散からニガミ17才の結成について、そして『b』の制作秘話までたっぷりと語っていただいた。

 

ニガミ17才 ニガミ17才b 苦味興行(2018)

あくび天然説

――(アイスコーヒーにミルクを3つも入れる平沢あくびを見て)あくびさんって天然ですか(笑)?

平沢あくび「いえ、けっこうしっかりしてますよ」

岩下優介「(笑)。めちゃめちゃ天然やん」

――Twitterを見ていると、どこまでが確信犯でどこからが天然なんだろうなって思うんです。拡大コピーをしてきてって言われたのにひとつもちゃんとコピーできなかったり数々の奇行を起こしていたり(笑)。

あくび「ありましたね(笑)。私算数がダメなんですよ。天然じゃなくてバカなんです」

岩下「キーボードの下に敷く板をホームセンターに買いに行って、店員さんに〈何メートルくらいの板ですか?〉って聞かれて〈100メートルですかね……〉って。〈100メートル!?〉〈いや、すみません間違えました! 100メーター・・・・でした!〉。いやいやそれ一緒やから」

あくび「〈100メートル×15センチの板が欲しいです!〉って言ったら〈何に使うんですか!? ウチには無いです!〉って言われて(笑)。しまむらで」

――島忠ですよね(笑)。絶対天然だ。

あくび「(笑)。岩さん(岩下)に指摘されるようになってわかってきましたよ。発言するのが怖いんで、言う前に合ってるかどうか一度相談したりしてます」

 

マイケル・ジャクソンと私

――じゃあ、ニガミ17才の結成前のことから伺っていいですか? まず、嘘つきバービーが解散したのが2013年9月で。

岩下「だいぶ昔だなあ……」

――で、2014年の6月に、岩さんが突然Twitter上で〈愉快なベーシストを募集します〉というツイートをして。そこに応募したうちの一人が僕なんですけど(笑)。

あくび「それめっちゃおもろいエピソードですよね(笑)」

――小銭さん、千布(寿也/元・嘘つきバービー)さんと4人でスタジオに入って、岩さんはキーボードを弾きながら血液型の歌を即興で作っていて。そのとき一番疑問だったのが、嘘つきバービーでベースを弾いていた人が、なぜベーシストを募集してるんだろう?と。

岩下「嘘つきで、ベースは一回終わったなっていうのがあって」

――やり尽くした?

岩下「やり尽くしてはないけど……嘘つきが解散したからベース・ヴォーカルは終わりってだけで」

――そのときに注文がひとつだけあって〈もっとマイケル・ジャクソンみたいなベースがいい〉って言っていたのがすごく印象的だったんです。で、今回『ニガミ17才b』を聴いてたら〈もしかしてマイケルの曲みたいなベースラインかも?〉っていうフレーズがいくつかあって、歌もそれっぽいところがあったりして。それって岩さんの中にずっとあったんですか?

岩下「いやまったく覚えてない(笑)。そんなこと言ってました?」

――はい(笑)。しかもそれっぽいのを弾いたら〈なんか違うな~〉って言われて。

岩下「うわ~嫌いやわ~、そういう人」

――『b』に繋がるエピソードかな、と思ったんですけど。

岩下「たしかに“化けるレコード”なんかはマイケル・ジャクソンぽい歌い方もやってますけどね(笑)」

 

バンド結成前夜1

――そこからニガミ17才はどうやって結成されるんですか? 初ライヴは2015年9月の〈YDO a.k.a ヤスエでんじゃらすおじさん生誕祭〉で、そこにシークレット・ゲストとして出ていますよね。

あくび「その時もまだ正式な始動の前ですね。ちゃんと始動したのは2016年入ってからで」

岩下「え、あのライヴが結成? 結成っていつのことを言うの?」

――それを教えてほしいんですよ(笑)。岩さんと小銭さんが前から一緒にバンドをやろうとしていたのはわかるんですけど、あくびさんと(イザキ)タツルさんはいつから参加してるんですか?

あくび「私が入ったときにはもうタツルボーイがいたから」

岩下「タツルボーイは、小銭がセッションで出会ったベーシストで、酒井さん(インタヴュアー)と同じですよ。一緒にスタジオに入って……でも僕はタツルボーイにその場で〈いいね、このバンドでベース弾いて〉って言った覚えはない。小っちゃん(小銭)はえらく気に入ってたけど」

――岩さん、小銭さん、タツルさんのバンドのとき、岩さんは何を弾いてたんですか? キーボード?

岩下「キーボードを弾いてて、千布もいて彼はギターを弾いてました。で、3~4か月間、4人で曲を作ってたんだけど、ある日、僕が〈この4人でやりたくねえわ〉〈売れる気がしねえ〉って思ってしまいまして」

――(笑)。じゃあもともと売れたいって思ってはいたんですね。

岩下「今も売れたいですよ(笑)。でも、あの当時、4人の塊からネズミ色のオーラが出ているように見えたと言うか。で、自分のやりたい方向性もわからんし、〈じゃあ僕抜けるわ〉って言って、その4人の塊から僕が抜けます。そこからしばらく地に落ちた生活を続けるんですが……」

――それが2014年の後半から2015年の頭あたり?

岩下「そうですね。音楽をやるのか、やめるのか、方向性も見えてこないし……っていう感じだったんですけど、その時期にURBANフェチの野田耕平とか、あくびとかが毎週ウチに呑みに来て、〈この音楽かっけえよ!〉とか言ってくれるようになって」

――頼まなくても、勝手にですか?

岩下「勝手に来て、勝手に音楽を置いていって。それこそSuchmosとかもそこで教えてもらって初めて聴いたんです」

あくび「今こんなの流行ってるんですよ~って」

岩下「ダフト・パンクとか、レッチリとかもそのとき初めてちゃんと聴いて。僕、嘘つきのときに全然音楽を聴いてこなかったんで、そういう曲がスッススッス入ってくるんですよ。〈かっけ~!〉って言いながら、まるでキッズのように喜んで。〈最近はシティー・ポップが流行ってるよ、聴いてみたら?〉〈おわ~! シティー・ポップかっけ~!〉って」

――へえ~! 岩さんってそういうのを取り入れない人かと思ってました。

あくび「私も思ってました」

岩下「本当に音楽をやめようかって思ってたときだからこそ、そういうふうになったのかもしれないですね」

あくび「だってすごい顔してましたもん。地に落ちた……顔。なんかもう、オーラが黒いんですよ!」

――地に落ちた顔(笑)。二人は、人のオーラが色で見えるんですね(笑)。

あくび「(笑)。自信もなさそうだし、目は光ってないし。そのころは〈放送作家とか脚本家とか裏方を目指そうかな〉とか言うようになって。でも私は岩さんに音楽をやめてほしくなかったし、〈岩さんは絶対ステージに立った方がいい〉って思ってたから、少しは刺激になるかなと思ってライヴに連れて行ったりとか、そうやって音楽を紹介したりとか、試行錯誤していろんなものに関心を持たせようとしてました。そうこうしてるうちに、だんだんといろんな音楽を受け入れるようになってきて。でもそれは意外でしたね」

岩下「嘘つきのときは自分が表現する側だからこそ音楽に興味がなくて。それが嘘つきがなくなったときに初めてオーディエンス、ただの視聴者として音楽を聴けるようになって。だから、今の感性は若いですよ(笑)」

あくび「〈サカナクションかっけ~!〉とか(笑)」

 

バンド結成前夜2

――そこから、どうやってバンドになっていくんですか?

あくび「そのバンドを抜けた岩さんが、〈次は、歌える女の子か楽器ができる女の子を絶対入れる〉って言ってて、そこから考え始めて、そんな子を一緒に探したりもしてたんですけど。そしたらある日突然、私に〈やってみらん?〉って(笑)。〈あくび、やらん?〉って言ってきて。でも私は楽器を触ったこともほとんどないし、バンドもやったことないし、歌も下手でコンプレックスだし、カラオケも嫌いだし、そもそも私、役者やってたし。それなのに誘ってきたんで、〈え!?〉って思いましたけど、私が入って岩さんがちょっとでもバンドに対して前向きになれるならと思って、一度スタジオに入ったんです」

――え、ピアノを習ってたりしたわけじゃなんですね!

岩下「で、そこに小銭とタツルボーイを呼んで」

あくび「スタジオの前に、まず串カツ田中に行って(笑)」

岩下「4人で乾杯して、〈あ、乾杯したな。じゃあこの4人でバンドするから〉って言って」

――ほら! それが結成のタイミングですよ!

岩下「あ、それが結成なん? 乾杯した日?」

――それでしょ!

 

あくび、女優を辞める

――それがいつのことですか?

あくび「寒かった気がするから2015年の頭かなあ。そこからも長かったですしね。曲も出来ませんし(笑)」

岩下「そうこうしてたら、あくびがいきなり、当時役者として籍を置いていた事務所を辞めてきたんです」

――え!? バンドに入ったから仕事を辞めたんですか!?

あくび「やるんなら本気でやりたいんで、事務所に契約を解除しに行って(笑)。3才くらいから芸能の仕事しかやってこなかったんですけど、岩さんからお誘いを受けたとき、役者としての迷いや悩みもあった時期でもあって。

一方で岩さんは、ざっくり言うと突然死んじゃうかもしれない病気を持っているんです。過去にも心肺停止から蘇生したこともあって、それにも意味がある気がしちゃって。一応ICD(植込み型除細動器)がお腹に埋まってるんですけど、治る病気ではないというのもあって。

そういうのもあって、私は岩さんと音楽をやるなら命を賭ける、と言ったら大袈裟かもしれませんけど、人生賭けたいなって思ったんです。〈この人とやるなら中途半端は嫌だな〉って思って。いつ、どうなっても後悔したくないので。で、当時の所属事務所と話し合いを重ねて、多少時間はかかりましたけど、結局バンドを本格的に始める前に事務所を辞めました。楽器もろくに演奏したことないし、バンドでステージに立ったこともないし、ピアノも弾けないのに! 初めてだらけの世界に突っ込んでみました(笑)」

岩下「それをされたら、もうやるしかないでしょ(笑)?」

――ドラマチックな人生ですね……。それでバンドも形になって、岩さんは地に落ちた生活から脱出するんですね。

岩下「そう。それで曲を作っていくんですが、曲がまったくできない。セッションしたりみんなの好きな曲を聴いたり、いろいろ試しましたけど、結局方向性は見えないままで。でも初ライヴの日は近付いてきていて。そこで無理くり作ったのが“町の変態”“ラブレター”(『ニガミ17才b』収録)と“かわきもの”(『ニガミ17才a』収録)の3曲でした」

――でも“かわきもの”なんて、5拍子のけっこう複雑な曲ですよね。

岩下「“かわきもの”はパソコンで作った最初の曲かもしれないな。“町の変態”と“ラブレター”はセッションでアレンジしていったけど」

あくび「“かわきもの”のイントロなんて、まだ私が鍵盤弾けないから今とだいぶ違いましたもんね(笑)」

 

ニガミちゃんの頭の中

――ちなみに、バンド名はいつ決まったんですか?

あくび「岩さんが千布さんたちと最初に組んでたときに〈ニガミ17才〉か〈nani-nani〉っていうバンド名の候補が挙がっていたらしくて。岩さんがそこを脱退し、その後、今の4人で組むとなったときに〈しかしニガミ17才ってバンド名めっちゃ良くない?〉〈めちゃくちゃ良いですね!〉って岩さんと盛り上がって、後日、小っちゃんとタツルボーイに〈ニガミ17才に決まりました〉と報告したような感じです(笑)」

岩下「あの二人はね、そういうの何でもいいんです(笑)」

あくび「しかも、嘘つきバービーの曲で“アマミとニガミ”っていう曲があって、その〈ニガミ〉なのかな、とか。17才の思春期のときの〈甘酸っぱさ〉じゃなくて〈苦さ〉なのかな、とか。そういうセンスが岩さんらしいなと思ったんですよね」

――当初はバンドのコンセプトとして、アーティスト写真にもライヴにも、ニガミちゃんっていう女の子がいましたよね。ライヴではいつもステージ中央に女の子が座っていて、4人が彼女に向って演奏する。あの設定はどうなったんですか?

岩下「もともとは、ニガミちゃんっていう女の子がいて、彼女の頭の中にある細胞の4つがわれわれ……みたいなテーマだったんです」

あくび「だからニガミちゃんに向かってライヴをするのをコンセプトにしていて」

岩下「今は〈そのコンセプト、邪魔やなー〉ってことで」

あくびヴィレッジヴァンガード下北沢店の店長になったので、ステージを去りましたけど(笑)」

岩下「歌詞もね、最初はそういうコンセプトにのっとって書いてたけど、いろいろ制約も出てくるし(笑)」

――曲によっては、そのコンセプトもまだ生きてる?

岩下「今作で言うと“町の変態”や“ラブレター”“もつれ”……まあ“テクノロジーの鬼”とかも、ニガミちゃんが主人公と言っても成立する曲なのかもしれないですね」

 

『ニガミ17才a』売れる

――それで、ファースト・ミニ・アルバム『ニガミ17才a』をリリースする前に、2016年に東京と大阪のライヴ会場限定で2枚のシングル(『ニガミとやさしい怪人-◎族』『ニガミとやさしい怪人-△族』)をリリースして、同梱の怪人カードで歌詞作りや曲作りに参加できるという面白い試みもされていて(完成した楽曲は『ニガミ17才a』に収録)。

岩下「応募が200とかだったかな。だから〈こういうことは今しかできんな〉と思っていて。1000とか2000になると、なかなかそういうことってできないじゃないですか」

――じゃあゆくゆくは1000枚売るつもりではいたんですね。

岩下「変なとこ突くな~(笑)。いや、そうですね、たしかに」

――しかし結果的に『a』はヒットしているわけで。反響とかはありました?

岩下「全然感じないですよ(笑)。今でもYouTubeのコメントの8割が〈ヴォーカルがひょっこりはんに似てる〉だけだから、ネットの評判とかもあんまり見ないんですよね

あくび「私は、人生で一度もライヴをしたことがなかったから〈お客さんなんて最初は5人とかだよ〉って言われたのをずっと信じていて。でも実際は全然違ったし、気付けばお客さんもどんどん増えてはいますね。でも、実感があるのは周りの人に〈最近よく名前聞くよ〉とか言われるくらいかなあ」

『ニガミ17才a』収録曲“おいしい水”
 
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