INTERVIEW

入野自由“FREEDOM” 向井太一が提供したシックかつエレガントなR&Bから滲む、自身の根底にある感情

入野自由“FREEDOM” 向井太一が提供したシックかつエレガントなR&Bから滲む、自身の根底にある感情

声優や舞台俳優の顔も持つ才能が、久々に歌手としての新作を発表! シックかつエレガントなR&Bで新味を引き出したのは、あのシンガー・ソングライターで……

 声優として劇場版アニメ「千と千尋の神隠し」「聲の形」ほか数々の作品でメイン・キャストを務め、舞台俳優としても活躍する入野自由が、ニュー・シングル“FREEDOM”を完成させた。歌手デビューから9年目を迎え、海外渡航によるブランクを挿んでの復帰第1弾となる本作は、シンガー・ソングライターの向井太一が全曲の作詞/作曲を担当(うち1曲はCELSIOR COUPEとの共作)。モノトーンで統一されたアートワークの雰囲気にも通じる、シックかつエレガントな新味を出したR&Bチューンで幕を開ける。

入野自由 FREEDOM Kiramune(2018)

 

ボーダレスな感覚

ーー今回のシングル“FREEDOM”は、カップリング曲を含め、現行のR&B/ソウルを意識したようなサウンドに仕上がってますね。

「僕の歌手活動は少し特殊で、作品を制作するタイミングで自分の好きな曲を歌うことがテーマになってるんです。なので、今回もR&Bをやろうと思ったわけではなくて、向井さんの曲がありきだったんですよ。前作の『DARE TO DREAM』(2016年)で“HIGH FIVE”という曲を書いてくれたシミズコウヘイさんから向井さんの話を聞いて、曲を聴いたら一瞬で聴き惚れてしまったんです。それで今回、楽曲提供を打診しました」

ーー向井さんの曲のどんな部分に魅力を感じました?

「彼にしか出せない味がありますし、いちばんは歌声が特徴的なところで、聴いてて気持ち良いんですよね。自分もこんなふうに歌ってみたいと思ったんですけど、彼の曲には無二のリズム感があるので、いざ自分で歌うとすごく難しくて。そういう意味で今回はシングル一枚を通して挑戦でした」

ーーちなみに、入野さんは普段からこういったタイプの曲を好んで聴かれるんですか?

「R&Bを聴くようになったのは最近ですね。ブルーノ・マーズが大好きなんですけど、ただ、R&Bと意識して聴く感覚はあまりなくて、好きな曲のなかのひとつがそうだったりする感じです」

ーー向井さんにはどんなリクエストをしたんですか?

「“FREEDOM”は〈ボーダレス〉や〈ノーボーダー〉というテーマでお願いしました。僕は去年、活動を一時休業して海外に行ってたんですけど、そこで男女とか人種を取っ払って、人と人として付き合っていくことの大切さや楽しさを改めて感じまして。それと自分自身の活動についても、その時々で声優や舞台役者、歌手という肩書きを名乗ってますけど、自分のなかではノンジャンルで大きく〈入野自由〉として捉えてるんです。向井さんのインタヴュー記事を読ませてもらったなかでも、彼の〈今の音楽シーンのトップで活躍する人たちは、音楽をジャンルで区切らず、ボーダーレスでいろんなものを採り入れてる〉という言葉に共感したので、そこをテーマに詞も全部お任せしました」

ーー確かに向井さんの音楽にはボーダレスな感覚が息づいてます。

「そうですよね。いろんなものを採り入れるし、いろんなアーティストとコラボしてて、芯はしっかりあるんだけど、すごくフレキシブルに活動されてるところを尊敬してます。彼の作品はワクワクするんですよね」

ーー“FREEDOM”という曲名は〈ボーダレス〉を象徴すると同時に、〈FREEDOM=自由〉ということで入野さん自身を表すタイトルになってますね。

「実はもともと違うタイトルだったんですけど、向井さんから〈“FREEDOM”はどうですか?〉と提案をいただいて。自分の名前のこともあるので普段なら選択肢にはないんですが、よく節目だと言われる30歳になって最初の作品ですし、お休みから開けての一発目でもあったので、特別な曲になりました」

ーー自分はこの曲の歌詞から、入野さんがご自身で作詞/作曲された“それでもなお”(2014年作『E=mc2』収録)を思い出しまして。

「意図的にそうしたわけではないんですけど、“それでもなお”は自分がそのとき苦しんでた心境がそのまま歌詞になってて、今振り返ってみると、実はそのときの感情が自分のベースにあるものらしくて。僕は作品を作っていくなかで、落ち込みそうになっても諦めない、〈それでもやっていく〉という感情があるんですね。たぶん向井さんにもそういうマインドがあるから、自然と近い歌詞になったんだと思います」

ーー“FREEDOM”の〈ここでは終われない まだ道は続く〉というラインと、“それでもなお”の結びのフレーズ〈ただ真っ直ぐに。道は続いていく。〉があまりにもバッチリとハマってるので、合わせたのかと思いました。

「自分から何か具体的なワードは提示してなくて、ある意味、雑談するなかで作った曲なんですよ。この曲の打ち合わせをした次の日に、シミズさんや向井さんと一緒にご飯を食べたんです。そこでお互いがどんなものを欲してるのかをさらに話すことができたので、そういう雰囲気も曲に入ったんでしょうね」

ーー歌の節回しもいままでのテイストと異なりますが、シンガーとしてこだわったところは?

「いままでは自分が役者をやってることもあって、曲の世界観含め、歌詞を伝えることを自然と意識してたんですけど、今回は曲のニュアンスに合わせて言葉をはっきりと発音しなかったり、より音楽に寄り添うような歌い方を意識しました。どこか不安なところもあったんですけど、向井さんからも〈良かった〉と言ってもらえて安心しました(笑)」

 

思いは同じでも表現は変わる

ーー続いてカップリングについてですが、2曲あるうち“IF YOU WANNA”は、先ほど名前の挙がったブルーノ・マーズを彷彿とさせる軽快なファンク曲です。

「この曲を編曲してくれた倉内(達矢)さんもブルーノが大好きで、ディレクターさんがそのへんを汲み取ってくれました。オーダー自体は〈みんなで踊れるような曲〉とお伝えして、〈恥ずかしがらずに楽しもう〉っていうことを伝えられる曲になったと思います。こういう華やかさのある少しポップスに寄った感じは、たぶん向井さんも自分の曲ではやらないようなアレンジだと思うし、すごくいいバランスになりました」

ーー前作の『DARE TO DREAM』では、それこそシミズさんの書かれた“HIGH FIVE”がポップなファンクでしたし、“トップランナー”ではMummy-D(RHYMESTER)さんの作詞でラップにも挑戦されてました。

「たぶんそういう音楽が好きなんでしょうね。僕は他の仕事でご一緒した方と、横の繋がりでどんどん協力してもらって作品を作ってる部分があって、最高のかたちで曲にしていただけてるんです」

ーーひょっとしたら海外に行かれたことで、音楽の趣味も変わってきたのではと思ったんですが。

「僕はイギリスのほうにいたんですけど、演劇を観て回るために、バックパッカーみたいな感じで1か月ぐらいヨーロッパを回ったりもして、向こうにいる間はいろんな曲を聴いてたんです。そういうところからの影響はどこかで受けてると思いますし、これまでいろんなアーティストの人たちとご一緒してきたからこそ、向井さんの曲に感じるものがあったのかもしれません」

ーーもう1曲の“NOT SPECIAL”は、メジャー・レイザー&DJスネイク“Lean On”以降のダンスホール・レゲエの要素を感じさせる、親密な雰囲気のラヴソングですね。

「この曲は向井さんの才能が爆発してますね……全曲そうなんですけど(笑)。僕は向井さんの曲の中でも“朝が来るまで”が好きで、ずっと一定のトーンを保ってるバラードなんですけど、聴いてると満たされて指の先までじんわりと気持ち良くなる不思議な曲なんです。僕もそんな曲を歌ってみたいと思って、歌詞もいままで自分が歌ってきた切ないバラードとは違う、ポジティヴな内容でお願いした曲です」

ーー〈特別じゃない関係でいられることの特別さ〉を書いた歌詞と、その気持ちを優しく伝えるセクシーな歌い口も素敵です。

「向井さんだからこその、シンプルだけど心にグッとくる歌詞ですよね。歌ってても気持ち良かったし、曲調が淡々とした感じなので、そのトーンに合わせてあまりクサくならないようにしつつ、言葉を紡いでいくという意味ではドラマティックにしたいジレンマがあって、難しいけど楽しかったですね」

ーー根底の部分ではこれまでの作品との一貫性を保ちつつ、新しいチャレンジを盛り込んだシングルになりましたね。

「毎回いろんな方の力を借りてやってるぶん、僕の思いは同じでも、曲を書いていただいた人によって表現の仕方が変わることがこの作品には出てると思いますし、そこが自分自身も活動してて楽しいところなんです。なかなかここまでいろんな人に頼みまくってる人もいないですよね(笑)。もっと自分で作ることもできたらと思いますけど、そうじゃないところも意外と強みで、今後もこうやって活動を続けていけたらと思います。いつも言ってるのは、アニメを通して僕のことを知って、歌を聴いてくれた人たちが、いろんな音楽と出会うきっかけになってくれたらと思うし、逆に参加してくれたアーティストのファンの方が僕の歌を聴いてくれたりして、僕の曲を架け橋に繋がりがどんどん広がってくれたら嬉しいです」 *北野 創

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