2ピース・ツインヴォーカル・バンドの奮酉(ふるとり)が、初の全国流通盤となるファーストEP『はじめのセンセーション』を完成させた。バンド自体は2012年に高校の同級生である高田蒔(通称まってぃ/ヴォーカル、ギター、シンセサイザー)、河西愛紗(通称あいしゃ/ヴォーカル、ドラムス、シンセサイザー)の2人で結成。2016年には〈RO69JACK〉で入賞、そして17年に〈出れんの?サマソニ!?〉のファイナリストに残り、〈SUMMER SONIC 2017〉に出演を果たすなど、徐々に注目を浴びる。また、彼女たち自身も活動に伴い、2ピース形態に対するこだわりが芽生えてきた。その2ピース覚醒の引き金を作ったのは男性2人組のインディー/ポストロック・バンド、メンテナンス13(既に解散)だ。彼らのライヴを観た時に強い衝撃を受け、2ピースだからこそできる自由度の高い音楽性を志すようになった。

今作を聴くと、シンプルな演奏の中に無限の可能性を秘めたポップ・サウンドが大草原のように広がっている。音の行間や余白を意識した演奏なのに、聴き心地はとてもカラフル。足し算ではなく、引き算の美学により構築した楽曲の数々は聴き手のイマジネーションを刺激して止まない。歌詞やアレンジも曲によって万華鏡のごとくコロコロと表情を変えるのだから、実に楽しい。

奮酉の音楽性を語る上で、ツインヴォーカルの存在も重要な位置を占めている。ヴォーカル/ハーモニー/ラップまで操り、歌のアプローチも多彩さを極めている。〈これ本当に2ピースでやってるバンドなの!?〉と驚きを禁じ得ない。

冒頭曲“TOKYO”は序盤からツイン・ヴォーカルの個性を見せつけ、どこかノスタルジックな空気を漂わせる名曲だ。それ以降の残り6曲も聴き応え十分で、最後まで一気に聴けてしまう。しりとり風の遊び心に長けた歌詞をラップで聴かせる“ccc”、美声ハーモニーとシンセをループさせた幻想的な“5:40”、男気(?)が垣間見えるノリのいい“Bon-no!”など、全7曲に渡って彼女たちの非凡な才能が爆発している。実際のライヴを観ると、2ピースで完全に世界観が出来上がっていて、既成概念にとらわれないフレキシブルなパフォーマンスにも度肝を抜かれた。これを機に、斜め上を行くポップ・センスで2ピースの新たな地平を切り拓いた奮酉の音楽に是非触れてほしい。