INTERVIEW

フランチェスコ・トリスターノ インタヴュー―リモデル/リワークの試みから生まれたオマージュ作品『グレン・グールド・ギャザリング』

写真:高木将也

グレン・グールド生誕85周年記念イヴェントの記録
リモデル/リワークの試みから生まれたオマージュ作品

 「帰国後、自宅であの体験を思い返した。すると、凄いことをしたなという感慨が沸々と湧きあがったんだ──」

 デリック・メイやカール・クレイグなど、デトロイト・テクノの第一人者と対等に渡り合う一方、その経験を糧にクラシックピアノの演奏自体も更新してきた、フランチェスコ・トリスターノ。そんな彼が語っているのはGLENN GOULD GATHERING、坂本龍一のキュレーションの元、昨年草月会館にて開かれたグレン・グールド(1932-1982)生誕85周年の記念イベントだ。グールド関連の写真展、映画の上映、愛した日本文化の紹介、さらに第一人者的研究者の宮澤淳一を中心としたトークセッションなど、天才ピアニストを多角的に捉える試みだったが、音楽面における〈リモデル/リワーク〉はまさにそのイヴェントの中心にあった。

ALVA NOTO,NILO,CHRISTIAN FENNESZ,FRANCESCO TRISTANO,坂本龍一 GLENN GOULD GATHERING SONY CLASSICAL(2018)

 音楽とテクノロジーの関係性を追求したグールドに適うように、坂本の呼びかけたメンバーには、長年の音楽的パートナーであるカールステン・ニコライことAlva Noto + Nilo、クリスチャン・フェネスなどが名を連ねたが、そこへ年の離れたトリスターノも初めて参加することになった。きっかけはトリスターノのアルバム『Surface Tension』の《戦場のメリークリスマス》のダブテクノ的リミックスが坂本をうならせた、とのことで、さらに高谷史郎ら映像のメンバーが集まれば、既に一つのクオリティーは保証されているように見えた。

 しかし、ピアニストとしてグールドを踏襲する無意味さには注意しなければならない。グールドの特質を知り尽くしているに違いないトリスターノはこう語る──「ピアニストとして真似すると安っぽい偽物になってしまう。例えばホロヴィッツの模倣は、今日のコンサート形式も彼自身も19世紀の美学の中にあるから可能だろう。しかしグールドは、西洋音楽史を完全に、いわばタブラ・ラサ(白紙状態)にした存在で、追随できる対象じゃない。正当にグールドを評価するなら、単なる模倣は有りえない──」

 かくしてトリスターノは、3つの手法でグールドのオマージュに挑んだ。まず、グールドが生前に敬愛していた、オーランド・ギボンズ(1583-1625)やスウェーリンク(1562-1621)など、バッハ以前の作曲家作品を演奏し、非常にクラシカルな方法でグールドの鍵盤楽器史における対位法の関心を観衆に露わにしたのだった。

 次に、本来作曲家志望の天才の音楽的思考を炙り出すため《Two Pieces for Piano (1951) 》を取り上げた。こう解説した。「シェーンベルクに影響を受けたものの、まだ未完成な10代の頃の作品。けれど深く琴線に触れる所があり、その魅力をなんとか再現しようと、サウンドエンジニアzAkのリアルタイムエレクトロニクスと、今までにない視点で演奏したんです」

 最後に、坂本に依頼された自作曲《Coda For Glenn》では、年長の演奏者たちとのコラボレーションの中で、新たな音楽的実験を試みた。ここでは「《Two Pieces for Piano》のソプラノの旋律やサカモトと自分の既存の曲のコードをつなぎ合わせて、3人の音楽家が対話しているようなスコアを書き、その上にAlva Notoとフェネスの電子的要素と即興演奏の要素を絡ませた」とのことだ。即興演奏を含むピアノとシンセも担当をした本人曰く、「Alva Notoのビート作りは誰よりも鮮烈でした」とのことだが、躍動感に溢れ美しいタッチで演奏される彼のピアノもまた、このコラボレーションに大きく華を添えている 。

 曲間において美学的なコンセプトも統一されている。「DJのリミックスのような感覚で素早く移行していくことによって、古いものと新しいものを一瞬分からなくさせつつも、1つの大きな物語を紡ぎたかったから」だと言う。そのアーティスティックなコラボレーションは、ヨーロッパ各地の芸術的舞台で活躍する彼をしても、「アート的、クラシック的、ヴィジュアルの要素、前衛的な要素。全てを含んだ貴重なショーでした」とのことだ。、そして最後にこう締めくくった──「皆さんの努力もあり、多くの人の心と耳を開いたグールドに対する最高のオマージュになったのではと思いますし、関われたことを誇りに思います」

 前例のない刺激的なイヴェントとしても、トリスターノというアーティストの大きな1ページとしても楽しめる、貴重な記録になったと言えるだろう。

 


フランチェスコ・トリスターノ (Francesco Tristano)
1981年9月16日生まれ。ルクセンブルク出身。ピアニスト。ルクセンブルク音楽院などを経て、1998年にジュリアード音楽院へ入学。クラシックを学びつつ、テクノ音楽も吸収。2000年、ミハイル・プレトニョフ指揮によるロシア・ナショナル管弦楽団と共演しデビュー。2004年、20世紀音楽国際ピアノコンクールで優勝。

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