天狗の面を着けてシーンにアタックし、人間味に溢れるラヴソングで一世を風靡して――この多才な男がいま見据えるのは、過去の栄光ではなく未来を照らす光だ!
昔はスゴかったんですよね?
昨年、約4年ぶりとなるアルバム『Mosi Moseamo?』とツアーで元気なところを見せたSEAMO。それからほぼ1年で、彼がまた新たなアルバムを発表する。その順調な制作ペースはいわば前作がもたらしたものだ。SEAMOはこのように説明する。
「昔はタイアップとか数字、そして周りのアーティストやトレンドに意識が行き過ぎてたのかもしれないし、それが自分を苦しめてたのかも。ただ、前作でそれが吹っ切れて長いトンネルを抜けた感じ。〈ああ、こんな感じでいいんだ〉と納得できました」。
ファースト・アルバムの頃に戻ったかのような懐かしさを覚えたともいう『Moshi Moseamo?』の後を受け、ここに完成を見たニュー・アルバムこそ『Glory』だ。前々作のタイトル『TO THE FUTURE』を持ち出すまでもなく、SEAMOの目はひとえに未来へと向かっている。『Glory』という今回のタイトルもそれを示しているという。
SEAMO Glory BACK GROUND PRODUCTION/OCTAVE(2019)
「最近、若い子たちに〈SEAMOさんたちって昔スゴかったんですよね?〉とか言われたりして。おい! 〈昔〉は余分だ(笑)みたいな。でも、そんなふうに思われてるんだなと。〈Glory〉は栄光という意味で、僕たちの栄光は過去のなんかじゃない、未来を照らす光なんだ!という気持ちを込めたタイトルです」。
シーモネーターからSEAMOへの改名以降、久しくトレードマークとなってきたラヴソングなど聴き手の心を温めるタイプの楽曲はMVも制作したリード曲“テノヒラ”などわずかにとどめ、アッパーなトラック群を中心に据えた内容は原点回帰的な勢いに満ちている。長年の相棒となるGrowthやカルテット.のAViAら馴染みのトラックメイカー/アレンジャーたちをメインとした制作陣もSEAMOの思いに応えてみせた。「バランスのいいアルバムというよりは、全部が飛び道具みたいな。そんな刺激的なアルバムになりました」と本人も胸を張る。
「リリック的には瞬間の衝動を大切にしました。思いついたテーマで〈イケる!〉と思ったものは片っ端から曲にしましたね 。今作では歌メロもシンガーばりにガンガン歌ってますし、ビート的には“COMPLEX”のニュー・ジャック・スウィング感、“思い込みが激しい男”のファンク感、“OH ! 嫉妬”のトラップ感、このへんは新しくチャレンジした感じですかね。特に前の2つは、そういう音をリアルタイムに通った世代がやるとどうなるか?というのを見せたくて」。
原点回帰のようで新しい
そんななかでも、シーモネーター時代からライヴではお馴染みの、股間につける天狗の面を歌詞のネタに、ド派手なパーティー・チューンをキメた“天狗を忘れるな”を冒頭に置いたあたりは、初心を忘れぬ気持ちの目に見える表れ。それと共に近作で恒例となったシーモネーター名義の楽曲も、ボーナス・トラックとしてアルバムの最後に収めている。もっとも、当の“天狗を忘れるな”はふとした事件をきっかけとする曲だとか。先ほど話にのぼった“思い込みが激しい男”にしても、日々のふとした思いつきから曲になったもののよう。
「大晦日のカウントダウン・ライヴにマネージャーが天狗の面を忘れてきて。その大失態をすかさずネタにして、この衝撃をパンチラインで連呼したら最高やん!というところから作ったのが“天狗を忘れるな”なんです。そこに歳を重ねても天狗精神は忘れるなという意味も込めてます。“思い込みが激しい男”は年明けにギリギリで完成した曲なんですが、新年早々パチンコや競馬に負けたり、おみくじが末吉だったり、なんか新年から良いことないぞ!と思って。ただ、いや待てよ、いまのうちに悪いことは出し切ろうと。もし節分明けても良いことなかったら……4月から新学期から。それでもダメなら……いや年号が変わるじゃないか!みたいに、〈良いことがあった時から新年なんだ!〉という都合のいい解釈をすればいいじゃないか! なんて思い込みの激しい男なんだ……というところから生まれました」。
アルバムではさらに、活動初期から互いを知るファミリーともいうべき、nobodyknows+のCrystal Boy、元HOME MADE家族のKUROの2人と、彼らやSEAMOの背中を追うように名古屋で活動を大きくしてきたSOCKSが、前作収録の“ON & 恩”シリーズに続いて揃って客演。彼らに加えて地元の名古屋から紅一点のMs. OOJAも花を添え、タイトル曲“Glory”が生まれた。
「“ON&恩”の制作も相当楽しかったんです。なのでポッセ曲作るならやはりこのメンツ、と今回も自然に召集しました。SOCKSは僕もKUROもCrystalも大ファンなんですよ。リリックの切り口が最高で、ワンフレーズで世界を180度変えてくれる。〈ラッパーってこういうもんだよな〉って思い出させてくれるし、リズムの刻み方は新世代なんですよね。このメンツが集まると自然とマニアックな方向に行きがちなところに、Ms.OOJAが入ってくれて一気に華やかになりましたね」。
数々のヒットと長きに渡るキャリアを以てアーティストとしてすでに祝福を受けたとも言えるSEAMOだが、その道がこれからも続くこと、続けていけることは何よりの〈栄光〉のはず。尽きせぬ音楽が今回もアルバムとして形になり、その〈栄光〉の道を照らす。彼の言葉にもまた清々しさが溢れている。
「前作よりもリリックがよりスリリングになったし、タイトルから期待が膨らむようなパンチラインを送り出せているのが今作だと思います。原点回帰のようで新しい、そんな自分を見せれたような気がします。これからも一生青春していきます」。
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