世木トシユキの台南洋行

第2回:LOLAについて① 台湾グラミー受賞バンド・1976のメンバーらが経営する、僕の台南ベースを紹介

初めて台南を訪れ、その〈バイブス〉に瞬く間にハマってしまった僕はその後足繁く通うようになり、ついには台南を代表する大学のひとつである成功大学で短期の語学留学までしてしまった。3か月という短い期間ではあったものの、自己紹介くらいはできるようになったと思う(と思いたい……)。

成功大学を象徴する立派なガジュマルの木
 

しかしながら、人懐っこく英語も達者な台南人たちのおかげで、短期留学で身につけた付け焼き刃の中国語を披露して赤っ恥をかくような事もなく、音楽関係者はもちろんの事、デザイナーやフォトグラファー、ライター、レコード・ショップ・オーナーなど台南に住まう数多くの〈ヒップな〉人たちと交流を深めることができた。そのような台南における僕のネットワーク形成の起点となっている場所が、LOLAだ。

台南の繁華街といえば國華街三段と言えるだろうが、これは最近BRUTUSの台湾特集「100THINGS TO DO IN 台湾」の表紙になった事でも話題になった通りで、数多くの人気料理店が軒を連ねている。また、正興街との交差点周辺は小洒落たカフェやブティックが多く、週末は西門市場で古着やアクセサリー等を扱うフリーマーケットも開催されている事から台南の若者から絶大な人気を集め、まさしく〈台南の原宿〉とも呼べるエリアとなっている。

西門市場
 
正興街での路上ライヴ
 

LOLAは、そのような賑やかさとは少し距離を置き、静けさが漂う台南の古き良き裏通り、信義街にある。信義街にはリノベーション古民家系の店が幾つも立ち並び、人家も混在しているため、國華街などの繁華街とは打って変わってとても落ち着いた雰囲気が漂っている。東京のエリアに例えるのであれば神楽坂あたりが妥当だろうか(勝手な解釈だが……)。

信義街
 

LOLAを知ったのはまったくの偶然で、僕のGongdoraとしてのファースト・アルバム『Entrance』(2018年)に収録されている“Vendor Girl”という曲のミュージック・ビデオ撮影で街を練り歩いていたところ、あまりの暑さに僕も同行のカメラマン・タグチもすっかり疲弊してしまい、一息つける場所を探していた時だった。際立つ木製の重厚な店構えに僕らは興味を持ち、飲食店であるのかどうかもよくわからないまま入店した。

Gongdoraの2018年作『Entrance』収録曲“Vendor Girl”
 

LOLAの店内はおもしろいつくりをしている。入ってすぐ、視界に飛び込んでくるのは棚いっぱいのヴァイナルとCDだ。オーナーの趣味もあり、主に取り扱っているのは60’s、70’sのロック・クラシックのようだが、明らかに80年代のものやUSインディー系もちらほら入り混じっているのでそこまで厳密ではなさそうだ(大好きなダーティー・スリーのCDなんかもあった!)。これらはすべて販売されており、ラインナップも流動的なので足を運ぶたびにチェックしている。特に昔の台湾音楽に関してはまったく未知の領域なので、ジャケットをただ眺めているだけでもおもしろい。年代物の扇風機やソファー、テーブルなどの家具も備わり、アンティークのランプが部屋全体を暖かく照らし出している。そこには趣味の良い友人の家を訪ねているかのような親密さが漂っていて、いくらでも長居できてしまう。

いつまでたっても店員の姿が見えないことで〈なんだ、ここは店員不在のレコード屋か〉と早合点し、踵を返さないでほしい。このこぢんまりとした空間はLOLAのレセプションでしかない。奥の珠のれんをくぐるとそこには予想に反して開放的な空間が広がる。清朝時代とコロニアル・スタイルがテーマのようで、アンティークのペンダント・ライトや卓上ランプ、キャンドルが仄暗くもムーディーな雰囲気を演出し、あたかもウォン・カーウァイの映画の中に迷い込んだかのような気持ちにさせてくれる。塗装の剥げかけた煉瓦造りの壁や、伝統的な木彫りがあしらわれたバー・カウンター、遊び心の効いた吹き抜けの二階建て構造など、細部にまで行き届いたポスト・モダンなアプローチがLOLA独自の居心地の良さを生み出している。

LOLAは3人のスタッフが共同経営している。アービンとジンジン、そして台湾のグラミー賞ともいわれる〈金曲奨〉で最優秀バンド賞を受賞したバンド・1976で作詞作曲を担うヴォーカリスト、アーカイだ。その中でもアービンは店を一から作り上げた中心人物で、彼のアンティークへの確かな審美眼、そして大工の経験に裏打ちされた高度なリノベーション技術こそがLOLAの価値の源泉だと言えよう。 *次回、LOLA②に続く

〈サマソニ〉出演経験もある、96年結成の4人組ロック・バンド(オフィシャルページはこちら)。ちなみにThe 1975とは無関係のよう

(右から)アービン、ジンジン
 
アーカイ。〈re: public records〉を主催し、LOLAのほかにもライヴハウス&カフェ〈海邊的卡夫卡 Kafka by the Sea〉も経営している。店名の由来は言わずもがなである

 


~今回のオススメ台湾ミュージック~

1976 “方向感(Sense Of Direction)”

1976の2000年作『方向感(Sense Of Direction)』収録
 

1976の代表曲のひとつ(ジンジン談)。〈我並不想成為誰的指南針 也許妳該學習相信自己的方向感〉、日本語に訳すと〈僕は誰のコンパスにもなりたくない、君は自分の方向感覚を信じるべきだ〉という歌詞の一節は、ファンの間でも有名なパンチラインだそう。

 


Shop Information

LOLA 蘿拉冷飲店
住所:台南市西區信義街110號
電話番号:+886 6 222 8376
営業時間:
火〜木 18:00-25:00
金 18:00-26:00
土 18:00-26:00
日 18:00-25:00
月曜定休
★オフィシャルページはこちら

【プロフィール】
世木トシユキ

世木トシユキ (せきとしゆき)

東京在住のシンガー・ソングライター、プロデューサー。MIDI Creative所属。フォーク・シンガーとしては2016年に『西陽の影』をリリース。2018年には、ほぼすべての楽曲制作をDAW上で完結させたエキゾ〜エレクトロなアルバム『Entrance』をGongdora名義でリリースし、タワレコのバイヤーを中心に好評を博す。2016年より頻繁に台南を訪れるようになり、現地のミュージシャンやレコード・ショップ・オーナー、イヴェント・オーガナイザーなど、音楽関係者を中心に幅広いネットワークを築きあげる。そこでのリアルな交流を通して見えてきた、DEEPかつローカルな台湾をミュージシャンなりの視点で日本に伝えるべく、当ブログをスタート。

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