INTERVIEW

THE NOVEMBERSの小林祐介とペール・ウェーヴスのヘザーが考える〈美しさ〉とは?

日英バンドのフロントが語り合う

ヘザー・バロン・グレイシー(ペール・ウェーヴス)、小林祐介(THE NOVEMBERS)
 

ゴスっぽいメイクと黒づくめの衣装に身を包んだ、英国出身のヘザー・バロン・グレイシー率いる4人組ロック・バンド、ペール・ウェーヴス。昨年9月にファースト・アルバム『My Mind Makes Noises』をリリースした彼らが、昨年の〈サマーソニック〉参加からわずか1年足らずで早くも再来日を果たし、東名阪でツアーを行った。

キュアーやマドンナ、プリンスといったアーティストたちによる、主に80年代の楽曲から影響を受けたサウンドとメロディー。シンプルかつパワフルなサウンドは健在で、決してカリスマティックとまではいかないヘザーのキュートで親しみやすいキャラクターに、会場からは終始大きな歓声が上がっていた。

いい意味で〈金太郎飴〉状態のメロディーは、ともすれば〈一本調子〉と揶揄されがちではあるが、プリミティヴスやラモーンズらその道の先駆者たちと同じく圧倒的にポップ&キャッチーで、一度聞いたら耳から離れないほどの中毒性を内包していたのだった。

一方、昨年の傑作EP『TODAY』からおよそ1年ぶり、Borisとのスプリット・シングル『unknown flowers』を経て最新アルバム『ANGELS』をリリースした、日本が誇るロック・バンドTHE NOVEMBERS。ポスト・パンクやゴス、サイケ、インダストリアルなど、さまざまなジャンルを越境しながら作り上げたその唯一無二のサウンドスケープは、もはやシューゲイザー、否、ギター・バンドというカテゴリーすら意味を成さぬほどの境地に辿り着いている。

そこで今回Mikikiでは、両者のフロントマンであるヘザー・バロン・グレイシーと小林祐介による対談を敢行。〈キュアー〉〈カヴァー・ソング〉〈ジェンダー〉〈美しさ〉という4つのキーワードをもとに、ざっくばらんに語り合ってもらった。普段のインタヴューでは話さないようなこと満載で、コアなファンにも楽しんでもらえると思う。

THE NOVEMBERS ANGELS MAGNIPH/HOSTESS(2019)

キュアーから受けた多大な影響

――まず、お2人の共通項であるキュアーへの思い入れについてお訊きしたいんですけど、初めて彼らを知ったのはどんなタイミングでした?

ヘザー・バロン・グレイシー(ペール・ウェーヴス)「うちは父親が80年代の音楽を好きで、家でずっと流して聴いていたの。そのなかにキュアーも混じっていたと思うから12歳くらいの頃かな。

バンドのドラマー、キアラ(・ドラン)は私よりもずっとキュアーにハマってて、それはなぜかというと、彼女のお母さんが80年代の音楽好きだったから(笑)。彼女と出会ってからは、さらに熱心に聴くようになっていったの」

小林祐介(THE NOVEMBERS)「僕は17歳、高校二年生の頃ですね。L'Arc〜en〜Cielという日本のバンドが大好きなんですけど、そのギタリスト(ken)がキュアーに影響を受けていたのを知って、それで最初に『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』(87年)を聴いたのがキッカケでした」

ヘザー「いい趣味! あなたの服装を見た瞬間にきっと気が合うと思ったわ(笑)。私は『Disintegration』(89年)が最初に聴いたアルバムだったと思う。キュアーのライヴは観たことある?」

小林「2013年のフジロックで観ました」

ヘザー「素敵。彼らはとにかくライヴが素晴らしいよね。私は2年前にマンチェスターで観た。最高だったわ、2時間半くらいやってたんじゃないかな。私たちがもし同じことやれって言われても、絶対ムリだな(笑)」

あと、昨年ロンドンのハイド・パークで彼らのサポート・アクトを務めたんだけど、終わってすぐ次のフェス会場に向けて出発しなきゃならなかったから、その日の彼らの演奏は聴けなかったし、メンバーにも会えずじまいなの。すごく残念(笑)! でも、自分たちのアイドルのサポートをやるなんて、夢を見ているような体験だったわ」

キュアーの89年作『Disintegration』収録曲“Pictures Of You”
 

――キュアーは自分たちの音楽性に、どんな影響をもたらしましたか?

ヘザー「ロバート・スミスは最高のリリシストだし、キアラも私も、彼らの音楽だけでなくスタイルやファッションにも影響を受けている。何より素晴らしいのは、自分が持っているスタイルがブレないところだと思うの。

当時はまだ、ファッションやメイクに関して〈こうあるべき〉みたいな暗黙のルールがあったと思うんだけど、そんなこと彼らはまったく意に介さず自分を貫いているところにいちばん感銘を受けたと思う」

小林「僕もまったく同感で、音楽だけではなくファッション・センスにも影響を受けましたね。バンドを結成した頃は、ロバート・スミスみたいに髪の毛を伸ばしてボサボサにしていて、黒い服を着るようになったのも彼らの影響だし」

ヘザー「服は黒が一番よね(笑)!」

小林が持参したキュアーのTシャツ
 

――特に好きなアルバムは?

ヘザー「やっぱり『Disintegration』かな。他のアルバムも好きだけど、キアラが大好きな作品でもあるし、出会ったときに2人でずっとこのアルバムをリピートして聴いてたの。その〈親友と巡り合った瞬間〉を思い出せる、かけがえのないアルバムだわ」

小林「僕も、音楽的にいちばん好きなのは『Disintegration』か『Pornography』(82年)ですね。『Disintegration』は、シンセ・サウンドも全体を通して幻想的ですし、キュアーの作品のなかでも特に甘いところも好きです」

 

THE NOVERMBERSとペール・ウェーヴスのカヴァー・ソング

――ところで、2組ともいろんなバンドのカヴァーをやっていますよね。ペール・ウェーヴスはテイラー・スウィフトの“22”や、ワム!の“Last Christmas”、THE NOVEMBERSはビートルズの“Across The Universe”やスーサイドの“Ghost Rider”など。

ヘザーキュアーの“Friday I'm In Love”も、アコースティック・アレンジでカヴァーしたことあるわ。テイラー・スウィフトをカヴァーしたのは、ポップソングをバンド・アレンジにしたらどうなるかの実験だったの。すごく楽しかった」

――カヴァーする曲って、どうやって選んでます?

小林「僕らはニュー・アルバム『ANGELS』でスーサイドの“Ghost Rider”をカヴァーしたんですけど、あの曲はものすごくキャッチーでシンプルな魅力があるということを、同世代の人たちはあまりわかってない気がして。

難解な音楽と思われているものをポップに表現してみたかったり、あるいはポップだと思われている曲の深遠な部分を引き出したかったり、原曲とは真逆なことをやりたくなるのがカヴァーを選ぶ基準だったりしますね」

ヘザー「よくわかる。それにカヴァーをすると、その人の味が楽曲に加わるところもおもしろいよね」

――いま、やってみたいカヴァーってありますか?

ヘザー「そうだなあ……シェイクスピア・シスターの“Stay”かな。彼女たちってツイン・ヴォーカルだから、できればキアラにも一緒に歌ってほしい。きっとハマると思うしオーディエンスもめちゃ喜ぶと思うんだけど、彼女シャイだからやってくれないだろうな(笑)」

シェイクスピア・シスターの92年作『Hormonally Yours』収録曲“Stay”
 

小林「僕は、すごく好きなのにいままでやってこなかったニュー・オーダーの“Bizarre Love Triangle”をやってみたい」

ヘザー「いいね。私はニュー・オーダーについてそんなに詳しくないけど、キアラが大好きで、一緒にいるときによく流してるの。だから、きっとその曲も聴けばわかると思う」

ニュー・オーダーの86年作『Brotherhood』収録曲“Bizarre Love Triangle”

 

ジェンダーとアイデンティティー

――THE NOVEMBERSの新作『ANGELS』に収録されている“Zoning”は、国境や人種、ジェンダーなど、さまざまな〈境界線〉のことを歌っていると僕は解釈しているんですけど、お2人は昨今の〈ジェンダー問題〉についてどう思っているのでしょう。というのも、お2人の姿を見ていると、〈男らしい服装〉とか〈女らしい髪形〉とか、そういう価値観を超越した存在だなと感じるんです。

ヘザー「うん、あなたの言うとおり〈男らしさ〉や〈女らしさ〉という価値観からは、自由でいたいと思っている。昔はセクシュアリティ-やジェンダーに関してもっと厳格なルールや固定観念があったと思うんだけど、それは時を経て少しずつ良い方向に向かっているんじゃないかな」

小林「僕自身は日本の現状しかよくわからないけど、〈性別なんて関係ない〉〈国境なんて関係ない〉という最近の一部の風潮は、自分のルーツやアイデンティティーが〈無効化〉してしまうことすら肯定しているように感じるんです。でも、僕はそれはよくないことだなと思っていて。

というのも、人にはそれぞれルーツやアイデンティティーがちゃんとあって、それはものすごく大事なものであり、違いを認識したまま同じ場所に居られるかどうかが大切だと思うからなんです」

ヘザー「それ、すごくよくわかる。さまざまなアイデンティティーが存在しているということをすら理解していない人が、けっこういるということに驚かされることが多くて。それぞれがハッピーでいられるためにはどうしたらいいのか、考えることが大切なのかなと思うわ」

――〈社会的な役割〉としてのジェンダーに苦しめられるあまり、ジェンダーやセクシュアリティーそのものまで否定してしまうと、それもまた新たな息苦しさを生み出すんじゃないかと思いますね。

ヘザー「イギリスでもまだ〈男の仕事はこれ〉〈女の仕事はこれ〉という価値観は残っていて。例えば男性の看護師を見下す風潮っていまだにあると思う。自分が怪我したり病気になったりしたら、彼らの世話になるくせにね。

私たち若い世代はそういう偏見が、上の世代よりも少なくなってきているし、セクシュアリティーに関してもオープンにすることを心地よく感じられる環境が出来上がりつつあると思う。そのことに期待しているわ」

 

小林祐介とヘザー・バロン・グレイシーが考える〈美しさ〉

――THE NOVEMBERSの楽曲に“今日も生きたね”という曲があって。〈誰にも見つかる事のない離島で咲く花にも美がある〉というラインを含むこの曲は、小林さんの〈美(beauty)〉に対する哲学が込められているし、彼らの他の楽曲にも〈美〉を再定義するものが多いと思います。そこで、お2人は〈美〉をどう定義づけるかを改めて訊いてみたかったのですが。

ヘザー「美しさの定義って難しいし、そう簡単に決められないことだと思ってる。先日も誰かとこの話をしてたんだけど、〈美しさって何?〉というふうに訊くと、一般的には〈細くてブロンドで、明るい目をしていて……〉みたいな。キャットウォークを歩くような人たちっていうイメージなのかもしれないけど、でも美しい人や美しいものって、人によって全然違うじゃない? だから私は〈美〉を定義することなんてできないと思う。

小林「僕も〈美とはこうだ〉って語ることはできないけど、いまヘザーが話してくれたような表層としての美っていうのは、僕らが目を閉じた瞬間に消えてしまうものでしかないですよね」

ヘザー「うん、そうね」

小林「自分が歌っている〈美〉というのは〈到底手に負えないもの〉〈太刀打ちできないもの〉〈手に届くことがなく、誰の手によっても力を失わない眩しいもの〉なんです。ただそれが、道徳的だったり背徳的だったり、どちらも存在してしまうけど、僕はそれに胸を焦がすことを止めることができない、それが美だと思うんです。一言で言えば〈すげえもの〉という(笑)」

ヘザー「なるほどね(笑)。とても興味深い意見だと思う」

――最近、〈美しい〉と思った瞬間はありますか?

小林「僕には4歳の娘がいるんですけど……」

ヘザー「は? あなたいま、何歳?」

小林「33歳です」

ヘザー「オーマイガー! 私と同い年(23歳)くらいかと思ってた」

小林「(笑)。さっきのジェンダーの話にも繋がるんですけど、家で僕が『ムーンライト』(2016年)という映画を観てたんです。そのなかで、主人公の男の子と、親友の男の子がキスするシーンがあって、たまたま娘が居間を通りかかってそのシーンを目撃したんですね」

ヘザー「それって素敵なことよね。多くの親は、そういうシーンを子どもに見せないようにするじゃない? 特に同性同士のラヴシーンは。見せることを怖がっている親って多いと思う。でもいまの世の中、全員がヘテロじゃないのはわかりきっているし、そういう人たちが存在しているのをありのまま見せるのは、通りがかりだったにせよいい機会だったんじゃないかしら」

小林「で、そのとき僕は、子どもが不思議に思うかなと思ったんです。彼女はディズニープリンセスだから(笑)。それでぼくは、〈男の子どうしでチューしてるのって、ヘンかな?〉と訊いたら、〈このお兄ちゃんたちは好きどうしなの? 好きどうしならヘンじゃないよ〉って言ったんですよね」

ヘザー「そのとおりだわ! とっても素敵」

小林「そのときに僕は娘を素晴らしいと思ったのと同時に、僕が〈ヘンかな?〉と尋ねてしまったことによって、〈ヘンなのかもしれない〉という考えを少し植え付けてしまったかもしれないと思ったんです。こういう、何気ないところで偏見というものが生まれてしまうから、可愛い子どもたちをフラットに育てるのは、すごく大変なことだなと思ったし、子どもはすごく美しいなと思ったんですよね」

ヘザー「そのとおりね」

――では、ヘザーさんが〈美しい〉と感じることは?

ヘザー「やっぱり、音楽を作っている瞬間や、ライヴでオーディエンスと一つに繋がったと思えた瞬間かしら。知らない街へ行って、初めて会う人たちの前で演奏して、最初はぎこちなかった空気がだんだん一つになっていく時間というのは、美しいなと感じることは多いわ。

音楽というものがいかに人々を一つに繋げられるか――それは私にとって美しいことね。それはコミュニティーを作っているような感じだと思う。

例えば、あなたがライヴに行ったとして、会場にいるのはまったく知らない他人だよね。でも、そんな他人と同じものを好きだという共通項があることで、なぜか一体感や親近感を感じる――私はそういうことが大好きなの」

 


Live Information

■THE NOVEMBERS〈ANGELS ONEMAN TOUR 2019〉
3月16日(土)宮城・仙台 LIVE HOUSE enn2nd
3月17日(日)新潟 GOLDEN PIGS BLACK
3月20日(水)愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
3月22日(金)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
3月24日(日)岡山 IMAGE
3月26日(火)福岡 The Voodoo Lounge
3月31日(日)北海道・札幌 SPiCE(DUCE SAPPORO) 
4月6日(土)東京 マイナビBLITZ赤坂
※小学生以下の入場不可
企画:THE NOVEMBERS/MERZ
制作:SMASH CORPORATION
★詳細はこちら

■ペール・ウェーヴス〈SUMMER SONIC 2019〉
8月16日(金)東京 ZOZO マリンスタジアム&幕張メッセ
8月18日(日)大阪 舞洲 SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)

40周年プレイリスト
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