誰にも知られたくないはずの心の闇をえぐり出し、それを他人事のように傍観する17歳のニュー・ヒロイン。 私たちは彼女に何を求めているのだろうか? なぜその残酷な笑みから目を逸らせないのだろうか?

次世代のイット・ガール

 SNSを通じて誰もが自由に自分自身のことを世界へ発信できる時代。それらの投稿を眺めていると、やれ何を食べただとか、どこへ行っただとか、カラフルで充実した日常をアピールするものが目立つ。しかしその華やかさの奥には、周囲の目を気するあまり表に出すことのできない〈もうひとりの自分〉の複雑な感情が、多かれ少なかれ潜んでいるはず。本稿の主役である現在17歳のビリー・アイリッシュは、そんな沈殿している心象をティーンエイジャーの視点から赤裸々に表現し、同世代のリスナーを中心に熱狂的な支持を獲得しているシンガー・ソングライターだ。

 「幼い頃から両親の影響でビートルズをさんざん聴いて育った」と語る彼女は、8歳でロサンゼルス少年少女合唱団に入り、そのメンバーとして来日した経験も持つ。やがて10代になると、ダンス・レッスンをきっかけにヒップホップやR&Bからインスピレーションを得るようになり、ほどなくして兄のフィニアスと共に自宅のベッドルームで楽曲制作をスタート。2015年には初のオリジナル曲“Ocean Eyes”を完成させ、翌年にそれをSoundCloud上で公開する。制作当時はまだ13歳。ロウティーンとは思えないほどアンニュイなヴォーカルや、抑揚を抑えたダークなビートが評判を呼び、同年にはメジャー契約を果たすこととなるのだ。

 以降もネット配信ドラマ「13の理由」のサントラに起用された“Bored”など数々の話題曲を世に放ち、ご存知BBCの〈Sound Of 2018〉や、21歳以下の注目アーティストを紹介するビルボードの人気企画〈2018 21 Under 21〉に選出。さらに、ヒップホップやグランジ由来のストリート・ファッションにゴス風味を織り交ぜたヴィジュアル・センスでアパレル業界からも高い関心を集め、〈次世代のイット・ガール〉としてNylonやVogueを筆頭とする一流誌のグラビアも幾度となく飾ってきた。

 こうして2017年末あたりから急激に知名度を上げていった彼女は、ダメ押しでカリードとのコラボ曲“lovely”を発表し、第91回アカデミー賞において監督賞や外国語作品賞などを獲得したネット配信ドラマ「ROMA/ローマ」のインスパイアード盤『Music Inspired By The Film Roma』へも参加。娘に誘われてパフォーマンスを目撃したというフー・ファイターズのデイヴ・グロールが〈自分がニルヴァーナで初めてライヴをやった頃のことを思い出したよ。彼女は音楽の未来だ〉と絶賛しているほか、ビリーの才能はいまや世代を超えて認められるものとなっている。ここ日本においても昨年の〈サマソニ〉で堂々たるステージを披露し、多くの観衆を魅了していたことは記憶に新しい。そしてあれよあれよとInstagramのフォロワーが1500万人に迫る勢い、ライヴのチケットは軒並み入手困難で、YouTubeのMV総再生数も50億回を突破。日に日にその存在感を強めている様子がおわかりいただけるだろう。