DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECTから発表したデビュー作『EASTOKLAB』が話題を呼んでいる名古屋の新星ロック・バンド、EASTOKLAB。Mikikiのインタヴューにも力強い言葉で答えてくれたフロントの日置逸人(ヴォーカル/シンセサイザー/ギター)によるブログがスタートします。毎月一作、彼にとって思い入れのあるアルバムを独自の視点から紹介していただきます。記念すべき第1回目は、Smashing Pumpkinsの名盤『Siamese Dream』(93年)について。 *Mikiki編集部


 

高校入試で面接を受けた時「尊敬している人物は?」と聞かれて「Billy Corganです」と答えた。それくらいスマパンが好きで、毎日スマパンだけを延々と聴いていた頃があった。この記憶からして中三の時ってことだと思う。テレビで流れる音楽も、友達がカラオケで歌っている音楽も、何も耳に入ってこなかった。スマパンだけが正義だと本気で思っていた。そんなスマパンの最高のアルバム 『Siamese Dream』について。

せっかくこういう文章を書かせてもらうことになったので、まずは出会いから話そう。

中学に入った頃から僕は進んで洋楽を聴くようになった。初めはなんだったっけ? 多分The Vinesとか、Blood Red Shoesとか、夜中にやっていたBSの洋楽番組で知った音楽だったと思う。初めはよくわからなかった。でも父も兄も洋楽ばかり聴いているなかなかの音楽リスナーだったから、自分でも自分で見つけた好きなバンドっていうのが欲しかったんだと思う。

毎年、お年玉をもらったら父とレコードショップに行って、父はレコードを、僕はCDを買っていた。そして、そのレコードショップでスマパンを見つけた。これがなかったら僕は全然別の人生を今やっていたかもしれない。

SMASHING PUMPKINS Siamese Dream Virgin(1993)

「健康の為、ボリュームの上げ過ぎに注意して下さい。血管ブチ切れます。」これは『Siamese Dream』の帯に書いてある文章。中二病真っ只中の僕にはあまりにもクールな言葉だった。まだスマパンを知らなかった僕はこの言葉の正体が気になって仕方なくて、お年玉で買ったのをよく覚えている。

家に帰って“天使のロック”(邦題ダサすぎ)のイントロを聴いたとき、血管はブチ切れなかったけれど頭を殴られたような衝撃を受けた。〈テレビでミュージシャンが言ってたロックで殴られるみたいなのってこれだ!〉と、はしゃぎ回った。それから来る日も来る日もボリュームをめちゃくちゃにあげて聴いた。幸い血管がブチ切れることはなかったけれど、最終的には人生を狂わされてしまっているので同じレベルのことをされたと思っている。それによって僕は今もバンドをやっているのかもしれないから。

時は流れて先日Mikikiの取材があった。「影響を受けたアルバムを5枚選んで欲しい」とのこと。何だろうな?と少し考えて、ここ数年よく聴いているアルバムを5枚持って行こうと思った。そして、自分が今の音楽に辿り着くまでに必要不可欠だった音楽の1つとしてこの『Siamese Dream』を選んだ。そこでセレクトしたブロンド・レッドヘッドもカイトもディアハンターもコープランドも、心底大好きだし、今回のアルバムを作るにあたって多大な影響を受けたバンドだ。でも、このアルバムだけはちょっと違う。だってスマパンがいなかったら、このアルバムに出会わなかったら、きっとバンドなんてやってなかったから。影響というより、もはや人生の一部みたいな、そんな感じ。

あの頃、来る日も来る日も聴いていたこのアルバムは今聴いても最高だし、全てのパートを身体の全細胞が覚えてしまっていて、もはや聴かなくたって脳内再生が出来てしまう。

“天使のロック”で始まる高揚感から、説明不要の名曲“トゥデイ”へ向かう美しさ。そしてその後の“ロケット”“武装解除”(これも邦題ヤバい)に胸をギュっと掴まれ、これまた名曲“ソマ”でA面終了。そしてB面“奇人U.S.A.”(邦題については、もう触れません)に始まり超名曲“マヨネーズ”“宇宙少年”へ。この流れが本当に素晴らしく、全涙腺が崩壊せざるを得ない。この辺りでクライマックス感がかなりあるものの、ここで終わらず長尺の“シルヴァーファック”で感動的バーストをキメて“ルナ”で締め。激しさのなかに繊細な心を纏いながら、燃え尽きるように疾走し、大きく、高らかに、全てを優しさで包み込むような美しい終結を迎える。

僕は今でも、このアルバムを聴きながらよく歩いたり、よく寝たりする。「悲しみでいっぱいのポケットをかっぱらって/明日 僕と逃避行しよう」(“マヨネーズ”)。そして僕は、その言葉を心に刻んで、このアルバムと1時間の逃避行に出る。そこから帰ってくるとき、柔らかい毛布で包まれたように僕の心はとても穏やかだ。

このアルバムを聴くと、いつだってあの頃の自分に戻ることが出来る。キラキラした目で読み返していたブックレットはボロボロになってしまって、それは僕がこのアルバムと過ごしてきた歴史の1つになった。今日も僕はこのアルバムを聴きながら歩いている。そして、寝るかもしれない。「今日はいままでで最高の日/明日のためになんか生きていられない」(“トゥデイ”)。このアルバムが僕の今日を最高にしてくれる。「明日のためになんか生きてられないぜ」なんて思いながら、明日の予定を楽しみに、何てことのない毎日を過ごしている僕の今日を。

どうしてもスマパン愛について書きたかったので、取材で選んだ5枚のなかから書いてしまったけれど、来月からは別のセレクトしようと思ってるので。以上スマパン愛についてでした。

 


INFORMATION

EASTOKLAB EASTOKLAB DAIZAWA(2019)

恍惚に満ちたファルセットボイス
ダイナミックなアンサンブルで美しさを描く
退屈を撃ち抜く鮮やかなデビューアルバム完成!

EASTOKLAB
Debut Mini Album『EASTOKLAB』
2019.06.05(Wed)Release
UKDZ-0200 \1,700(w/o tax)
DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT inc.

1. Fireworks
2. In Boredom
3. Passage
4. Always
5. New Sunrise
6. Tumble

 

EASTOKLAB Release Tour 2019
2019年8月2日(金)愛知・名古屋 HUCK FINN
共演:polly/my young animal
開場/開演:18:30/19:00
前売り/当日:2,500円/3,000円(いずれもドリンク代別)
イープラス:
https://eplus.jp/sf/detail/2970020001-P0030001P021001
ローソンチケット:
https://l-tike.com/order/?gLcode=42815
チケットぴあ:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=1924058

2019年8月3日(土)京都 GROWLY
共演:ROTH BART BARON
オープニング・ゲスト:SIRMO STAD
開場/開演:18:30/19:00
前売り/当日:3,000円/3,500円(いずれもドリンク代別)
イープラス:
https://eplus.jp/sf/detail/2988740001

2019年8月6日(火)東京・下北沢 CLUB Que
共演:polly/STEPHENSMITH
開場/開演:18:30/19:00
前売り/当日:2,500円/3,000円(いずれもドリンク代別)
イープラス:
https://eplus.jp/sf/detail/2971260001-P0030001P021001
ローソンチケット:
https://l-tike.com/order/?gLcode=71641
LivePocket:
https://t.livepocket.jp/e/que20190806